4月13日水曜日、ジョニー・ウィンター「奇跡の」初来日公演初日に行ってまいりました。
あの来日中止から21年。諸事情により来日は不可能と言われて21年。そのうえ、近年伝わってくる彼自身の体調不良もあってほとんど諦めかけていたところに届いた「初来日決定」の一報にバイユー近辺も大いに盛り上がったものでしたが…。
3月11日の震災発生、そして続く原発危機以来「ライヴは本当に開催されるのか」と不安視される事態となっていたのでした。
しかし!多くのミュージシャンの来日公演が中止となる中、ジョニーは遂に日本にやって来てくれました。
立って演奏することはない、と事前にわかっていたために少しでも前の方で観ようと珍しく開場時間前に着いたのですが、平日だというのに既に会場前はオヤジの渦、人波に溢れていました。静かに暑苦しい熱気。場内に入って真ん中前方に陣取って、開演1時間前だというのにかなりの入りの周囲を見渡すと、とにかくオヤジだ。平均年齢45歳は確実。そのオヤジ達が静かな熱気を放出して100万ドルのギタリストの登場を待っている。街で電車の中ですっかり慣れてしまった最近の重苦しい空気は勿論ここまで引きずってきているのだけれど、その中に少年のようにヒーローの登場を待つ情熱が小さく沸き立っている。
ジョニーはもう昔のジョニーではない。座ってしか演奏しないし、早弾きもしない。指がもつれるのでアップテンポのロッキンブルースも出来ない。ほとんどファイヤバードは持たない。演っても1時間くらい。もうほとんど目は見えてないのでは?…そんな情報が当然のように語られていた近年。そう、ここに集まっている観客はみんな「それでもジョニーに会いたい」オヤジ達なのだ。ジョニー・ウィンターの魅力はあのトゥーマッチすれすれのギタープレイと怒鳴るようでありながら繊細なブルースボイスだ。僕は個人的には音数多く弾きまくるギタリストは好みじゃないのだけれどジョニーだけは別格。トゥーマッチすれすれと言ったけれど、実際は本当にヤリ過ぎな時も多々有る音で埋め尽くすギタープレイ。たただそこに彼の場合は真実があるように感じるのです。弾かずにはおれない「辛抱たまらん感」が強烈で、ただ自分に酔って手癖でギターを弾きまくっている連中からは絶対に伝わってこない切迫感や人間性、そして悦びや哀しみがあるのだ。ローランド・カークが辛抱たまらん~と唸り、叫ぶときくらいに。
だけどどうやら、今のジョニーにはその辛抱たまらん感を表現することができなさそうだ。枯れた味で聴かせるスタイルじゃないだけに厳しい。youtubeで危ういプレイを聴かせる近年の姿を観ることができたため。ますます過度な期待は抱かなくなってきていたのでした。実際、開演前に周囲からは「早く終わったら今日はどこで飲んでく?」という、とにかく姿を観られれば良いという空気さえ感じられたものでした。
会場にはずっとブルースが流れ、シンプルなステージ上にはあの『CAPTURED LIVE』を思い出させるJOHNNY WINTERの文字が掲げられ「期待していない」といいながらも興奮は高まる。すっかり満員。ZEPPって大きいんですね。
定刻をほんの少し過ぎて開演。バンドが登場して短いインストを披露するとすぐにジョニーを呼び込む。あっさりしてるなーと思ったら、ひょこひょこっとステージ右手から100万ドルのギタリスト、ジョニー・ウインターが登場!いきなり興奮の坩堝と化すオヤジで満杯の場内。僕も大興奮。おお本物のジョニーだ!!!
愛用のヘッドレス、レーザーギターを取り出しておもむろに弾きだす。驚いた!僕と同じ驚きが周囲に広がっているのがわかる。ジョニー大丈夫やん!弾ける。バッチリ!!明らかにみんな驚いている。もちろん往年のプレイではないのだけれど寂しくなるようなところはなく間違いなくジョニー・ウィンター!感激が客席に広がってゆくのがわかる。アップテンポの曲もいける!切れ味あるやん!期待していなかったからこその嬉しい驚き。そして興奮。やっぱり初日に来て正解でした!
なんといってもバンドの貢献度が高い。サイドギターがクリアーでないラウドなギターをかき鳴らすこのサウンドには賛否あるのだろうけれど、この音ゆえに今のジョニー・ウィンターをカッコよく聴くことができたのだと思う。潰れ気味のバックのトーンはジョニーの衰え、アラをそつなく覆い隠していたし、もともと暴走気味のジョニーのビートをカヴァーし、アップテンポの曲での危うさも、潰れたトーンと高音キツめのリードギターの絡みはバンドの上で暴走気味という範疇にとどめていたと思う。遅れ気味になった一瞬にバンドが拍を若干ズラして合わしたり(ドラムもベースも愛あるプレイでした)、即席バックバンドではあり得ないカバーリングで主役をもり立てていた。ジョニー・ウィンターの良い面をしっかりと聴かせる、よいサポートぶりだったと思う。ファンとしてはジョニーのギターをもっとクリアーなトーンでビシっと、もっと言えばサイドギターなんていらなかったのかもしれないけれど、僕はこの日のサウンドを支持します。
MCはほとんどなく短い曲間でカウントを入れどんどん演っていく。ベンド(チョーキング)をほとんどやらず、長い指をボディ方向に斜めに倒すように寝かし向け指板を滑らせてプレイするジョニー。もちろん火の出るような早弾きもなし。
バンドの音作りやテイストはどちらかというとロック寄り、だけどなんともブルースを感じさせる。これぞジョニー・ウィンター。「マディ・ウォーターズの曲を」と演奏された『Got My Mojo Working』。高校生の頃ジョニーよりマディを先に聴いてしまっていた僕は、当時出回っていた『マディ“ミシシッピ”ウォーターズLIVE』(ギターがジョニー)の印象が強い。晩年のマディの側に寄り添っていた彼の奏でるマディ・ナンバー。生マディに出会えなかった者として感慨深いなんてものではありません。胸が熱くなり次第に目頭が…(笑)続いて『Johnny B. Goode』。モジョワーキンにジョニーBグッド、こんなベタな曲でサビを一緒に歌うことがあるなんて思いもしませんでした。ええ、大きな声を出してしまいましたとも。
そして後半に演奏された長尺のスローブルース、これが衝撃的でした。別に特別なことをしたわけじゃない、彼がずっと演ってきたブルース表現なのでしょう。自分は本来、長いギターソロで聴かせるスローブルースをあまり好まないのですが…正直、どうにもこうにも沁みました。超絶ギタープレイがあったわけではないですし、凄い歌声というわけでもない。歌詞も聞き取れない。しかし紛れも無い、個の匂いプンプンのオリジナルなブルース。平時を装いながら全く平時ではない今の東京、外国人も寄り付かなくなりつつある今の日本という特殊な状況だったからでしょうか?会場の外はすぐに海。つい先日、多くの命を飲み込んだばかりの海。近い将来への漠然とした不安を抱えたまま集まった聴衆に染み込んでくるようなブルースでした。
かつて「ブルースは黒人にしかできない」というニュアンスの発言をしたことがあるというマディが、かつて自分の側にいた真っ白な男(ジョニーはアルビノです)の奏でるこのリアルなブルースを聴いてどんな気持ちになることだろう。そんなことを思ってしまいました。
ライヴはいよいよ佳境、期待していなかった曲が飛び出した。『Bony Moronie』高校生の頃『CAPTURED LIVE』に興奮しこの曲をバンドで演っていた僕としては(といってもジョン・レノン風だったけど。バイユーの忘年会でも演りました)なんとも興奮する選曲。「ああいうアップテンポのロックンロールはもう演らない(れない)んだろうなーと思っていたもので。ええ、一緒に歌いましたよ。
同じく同アルバムに収録されていた『It's All Over Now』で本編終了。
熱烈な拍手声援を受けてかすぐにアンコールに応えるジョニー。出て来たその手にはファイアバードが!!大歓声、客席はこの日一番の盛り上がりを見せる。そして左手小指には銀色に輝くスライドバーが、どよめく場内。バーを勢い良く滑らせて鋭い金属音をひとつ鳴らすと絶叫するオヤジ達。息つく暇も無く次々に演奏していた為、まだスライドを聴いてないことにこの時になるまで気づきませんでした。そうコレが聴きたかったのよ~。どよめきとざわめきを切り裂いて『Dust My Broom』。なんと奇をてらわぬ選曲。
痺れました。恍惚としましたね。これで終わりか?と思ったら最後の最後にもう1曲!必殺の『Highway 61 Revisited』。悲鳴のような歓声が上がる。怒鳴るように歌うジョニー。繊細な男です。スライドギターが胸に突き刺さりました。
1時間半のショーはこれにて終演。事前にM社の人から「ジョニー本人は1時間半演るって言ってます」と聞いてはいたけど「ほんまかぁ~?」と思っていましたゴメンナサイ!ほとんど曲間なしの濃密な1時間半のグレイトショーでした(後で見たセットリストにはHave a great showと書いてありました。)。
終演後のお客さんの高揚した様を見て、自分も興奮冷めやらぬ熱気を放出しているオヤジであることに気づきました。ほんと来て良かったと思いました。そしてこんな時期の日本に来てくれたジョニーに感謝です。
全体の印象としてはブルースロックスタイルのライヴでしたが、どうしようもなくブルースを感じました。
ブルースが好きでずっと聴いて来た自分とって、忘れられないブルース体験となりました。
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