バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

ブルース、ソウルにニューオーリンズ!ソウルフルな音楽溢れる東京武蔵野の音楽呑み屋バイユーゲイトにまつわる日々のつれづれを

塔本シスコ展、とてもとても楽しかった!

2021-11-10 | アート・文化
11月5日、天気の良い秋の日。頑張って時間を作って(暇なことが多いくせに)世田谷美術館まで塔本シスコ展を見に行ってきた。7日日曜日で終了なのにやはりどうしても見たくなって無理して行ってきた(いつもは暇なくせに)。
50代半ばから91歳まで日常を描き続けた熊本の主婦、おばあちゃん、塔本シスコさん。養父がサンフランシスコ行きに憧れていたから付けられたというシスコという本名も凄いけれど作品はもっと凄い。
日常を記憶に(実物にではない)忠実に思いのままに、絵画的セオリーに捉われず(小学4年までしか学校に行けず、もちろん絵画教育も受けていない)大胆に描く作風は見るものを激しく惹きつける。
「描きたい」という情熱が爆発する彼女の絵は色使いも構図もとにかく自由だ。

僕はNHKの『日曜美術館』で初めて知り、それからしばらくして新聞で取り上げられているのを読んで再び興奮。
翌日からテレビや新聞で目にした作品が日に日に頭をよぎり
「やっぱりナマで体験したい!」という思いが強くなったのでした。

『シスコ・パラダイス』と題された展覧会。
行ってよかった。心から。
実は事前に自分の期待していたものとは違う種類の感激を手に入れたのだけれど、それがまた良かった。素晴らしかった。
この気持ちを一言で表すなら
「楽しかった」。それに尽きる。
僕が絵を見に行くのは当たり前だけど「ナマ」、LIVEで体験したいから。実際の作品を前にして感じる空気感は特別で生演奏に通じるものがある。
でも、美術や絵画に造詣が深くはない自分は若い頃音楽に対してそうだったように兎角刺激を求める傾向がある。
禍々しいほどの思いを込めた作品の前に立ち、漂う情念の渦、眺める自分の立つ場所に画家が狂気さえ孕んだ目で絵筆を持つ姿を感じ、恐怖感に近い刺激的な時間を過ごす。そんな体験を求めることが多いように思う。
塔本さんの絵も初めて見た時、圧倒的に独創的で熱のあるタッチに色使い、見るものに挑んでくるかのような作品に「ナマで見たらさぞや凄い迫力なんだろう」と想像し、期待して足を運んだ。
果たして、確かにナマで見る塔本シスコの絵は強い印象を持って迫ってきた。が、圧倒的な自我や個の表現が挑みかかってくる彼女の作品の前に立ったのに息苦しいような情念や狂気、怖さは全く感じなかった。
あるのはワクワクするような愉快な気持ち。
彼女は「描かずにいられない」「(実際と違うと指摘されても)私にはこがん見えるったい」という強烈な自我、創作意欲がありつつも根底に「描くのが楽しくてたまらない」という思いがあり、そんな気持ちが作品群から滲み出している。
圧倒的な「創作に向かう喜びの渦」。
彼女が「画家」ではなく市井に生きる、描くことが(とんでもなく)好きな一個人だったからこそのこうした空気感なのだとは思うけれど。
それにしても熱量が尋常ではない。
50代半ばから91歳まで。「私はもっと大きい絵ば描きたか」と大きなキャンバス残した大作の数々。段ボールの切れ端、板切れ、封筒の裏、着物にしゃもじ、空瓶に描いたさまざまなスタイルの作品。
粘土で仏像も作り、日本人形も自作する。
もちろん才能がすごいけれど情熱温度が強力だ。
そんな圧倒されるかのようないわば「押しの強い」作品群なのに、全体に漂うのは作者の「描くのが楽しい」という眩しいばかりの思い。
身内を亡くした時も描くことによって持ち直したと伝え聞く、そして晩年認知症を発症後も描き続けたいうシスコさん。
彼女の作品に包まれていると楽しさが伝染してきたように感じた。
「元気が出る」とか「勇気をもらうとか」そんなんじゃないんだ!!
ただなんとなく愉快な気持ちになってきたのを感じました。
なんとなく愉快。そんなのってなかなかないよ。

この日の展覧会は入り口で「作品を管理されているご遺族の意向でスマホなどでの写真撮影は自由です。再入場も可能です。」と伝えられた。
「禁止です」の聞き間違いかと思った。そしてご丁寧にシャッター音を軽減するために音の出る場所に貼るクラフトテープさえ用意されていた。











※写真じゃ伝わらないような気もしますが。
でもめったにない機会なので、撮るか迷ったけれど撮ってみました。
既に(東京では)終わってしまった展覧会の紹介でごめんなさい。

普段は自宅で嵩張るのでめったに図録の類は購入しないのだけれど

もう一度ゆっくりと作品に触れたくて珍しく購入することにした。
芸術、美術、絵画、としての評価がどうなのかはわからないけど素敵な絵をたくさん見ることができてとても良い気持ちでした。

楽しかった。

サマー・オブ・ソウル!

2021-11-10 | 映画
すっかり時間が経ってしまいましたが10月20日、映画『サマーオブソウル』を観てみりました。
50年以上埋もれていた幻の黒人のためのブラックミュージックフェスティバル映像。
しかも周りに音楽ファンや関係者がこれだけいながら噂すら聞いたことのなかった夏の記録。
このフェスでの映像が(ニナシモン!)数年前から動画サイトにそれとはわからずあがっていたのに気づいたのは映画に関する報道に触れて初めてという次第。
この情報過多の時代にこんなことがあるとは、一部の熱烈な音楽愛好家の中では現代のおとぎ話的騒ぎとなっていました。
「感動した!」の声が周囲に溢れる中、務めて冷静に劇場に足を運びました。



まさかほんとに涙浮かぶ映画鑑賞になるとは…。それも2度3度と。
自分で自分に驚いてる。
確かにスティービーワンダーのドラムが終わると同時にタイトルが現れた瞬間、思わず胸の前で拳を作ってしまったあたりからガードが甘くなっていたような気がする。
とにかく撃ち抜かれました。
もし最後がain't got no.I've got lifeだったら恥ずかしい状態になったかもしれないなぁ。

知らないことがたくさんあった。

ドキュメンタリー映画ゆえ、演奏が完奏することは少なく貴重なライブ映像にインタビュー映像やナレーションが重なるこの作品。
そこに不満を漏らす方もいるようですが
僕はライブはあくまで「ナマ」現場で体験することを重視していて、映画、特に2時間などの劇場用作品でライブ映像をそのまま見るということを重視していません。
1969年夏のハーレムを映し出す作品としてみたので「完奏しないこと」に不満は感じませんでした。
素晴らしかった。

この熱。機会があるならなんとかして、万難を排して、劇場の暗闇で見てほしいと思います。