バイユー ゲイト 不定期日刊『南風』

ブルース、ソウルにニューオーリンズ!ソウルフルな音楽溢れる東京武蔵野の音楽呑み屋バイユーゲイトにまつわる日々のつれづれを

I AM THE BLUES

2021-07-16 | 映画
今頃!?と言われそうな気もしますが映画『I AM THE BLUES』を観ました(2018年公開)。

公開当時、ポスターを横目で見て思ったのは「地味そうな映画だなぁ」というもの。

アメリカ南部のブルースドキュメンタリーなのだが、出演者がいかにも渋すぎる。
出演者の中でそれなりに知られているのはボビーラッシュとバーバラリン、レイジーレスターくらいであろうか。
それ故「時間のある時に観ればいいかな」とすっかり忘れかけていたけれど…。

これが、素晴らしい作品でした!

もちろん、予想通り地味ではあったのだけど。アメリカの黒人音楽、特にブルースミュージックに強い思入れのある人間なら絶対に見て損はない映像が次々に現れるなかなかの逸品でした。
特段劇的な場面があったり、圧倒的なパフォーマンスが見られるわけではないので物足りないという人もいるのかもしれないけれどそんなことは少しも問題じゃない。
現地に行ってもなかなか見ることのできない、地域文化としてのブルースの真の姿を見ることができる貴重な作品です。
特にルイジアナ、バイユーという言葉に憧れのある人なら思わず息を飲む様な映像の数々。
生活の中の、南部黒人の人生の中に根付いたブルース。レコードや来日公演では伝わってくることのないブルースミュージックのリアルな姿を見ることができました。

この映画に出てくるのは70代80代の老人ばかり、彼ら、彼女たちの音楽を拠り所に生きてきた人生の終盤が淡々と描かれる。
キャロルフランとレイジーレスターのやり取りを眺めつつ「自分たちの周りだってあと20年経てばこんな光景が…」などと思わされたりもしたものでした。

本編中、最も頻繁に登場するのはボビーラッシュ。
彼の来日公演は体験したし、彼の南部ツアーを描いた映画『ロードトゥメンフィス』も見ているけれど、この映画での彼を見てこれまでとは随分違う印象を受けました。
ステージを離れ、他者と対峙する時の優しげな佇まい。黙って会話を聞いている時、相槌を打っている時のボビーラッシュの表情、眼差しの持つ包容力の様なものには自分がこれまで気付いていなかった魅力がたっぷり。
チタリンサーキット(南部の黒人相手の場所を回るツアー)叩き上げの大物ブルースマン、ボビーラッシュ。
メジャーヒーローには成れなかったけれどブルースフィールドに確固たる地位を築いた彼の、うわべだけだったり薄っぺらでないリアルな立ち姿。「もう1度ライブが観たい!」と強く思ったのでした。

なんというかブルースへの愛情がしっかり伝わってくる、素敵な作品でした。ブルースが好き、もっと知りたい、という方なら是非。