咲とその夫

 定年退職後、「咲」と共に第二の人生を謳歌しながら、趣味のグラウンド・ゴルフに没頭。
 週末にちょこっと競馬も。
 

さむらい劇場・・・

2012-03-01 22:19:44 | レビュー
 「男というものは、それぞれの身分と暮しに応じ、物を食べ、眠り、かぐわしくもやわらかな女体を抱き・・・・こうしたことが、とどこおりなく享受できうれば、それでよい。いかにあがいてみても人は・・・・つまるところ男の一生は、それ以上のものではない。人にとって、まこと大切なるは天下の大事ではのうて、わが家の小事なのじゃ」

 これは、主人公・榎平八郎が慕っていた良栄和尚が、臨終間際に平八郎に申し伝えてくれと、小坊主に話した最後の言葉であった。無外流の剣の師匠である山本忠介が、良栄和尚の臨終の様子を小坊主づてに聞いたことを平八郎に話したものである・・・。
 無頼漢で通していた平八郎も最後は落ち着くところに落ち着いたことで、“男の生きざま”について良栄和尚がどうしても平八郎に言い残しておきたかったのであろう。

 この小説を読み終えると、著者がもっとも言いたかったことが、この言葉にすべて凝縮されていると分かる・・・大事な部分である。
 先般、政治家・小沢一郎元民主党代表が4億円疑惑問題で「自分は秘書にすべて任せており、常日頃から天下国家のことしか考えていない」との発言。ご本人にこの良栄和尚の臨終間際の言葉を送りたい。

 いつものように池波小説を買い求め、面白くて時間を作っては読み耽(ふけ)り、今再び読み返している。

 この小説の時代背景は、八代将軍徳川吉宗が将軍位について二十余年後が舞台となっている。既に読み終えた赤穂義士である「堀部安兵衛」は、五代将軍綱吉の時代、「男の秘図」の主人公・徳山五兵衛は、五代将軍から八代将軍の時代が舞台。
 その五兵衛が幼少の頃、徳山家とも関わりのあった堀部(中山)安兵衛が、高田の馬場での仇討を五兵衛は徳山家用人親娘に連れられて行って見ている。後年、安兵衛が討ち入り前に五兵衛と言葉を交わす場面がある。

 その徳山五兵衛が、実は榎平八郎の叔父との設定で、「さむらい劇場」の後段に現れて、平八郎に深く関わっていく。つまり、これら三つの小説群は、「堀部安兵衛」、「男の秘図」、「さむらい劇場」の順になっている時代背景にあり、それぞれの主人公が、随時次の主人公と関わりを持つといった設定。だから、読んでいて面白くなってきた。

 そのような構成になっているとも知らず、不思議にも連続して購入し読み漁ったものだから、全ての本を二度以上読み返す始末

 「男の秘図」の主人公・徳山五兵衛も妾腹の子、八代将軍徳川吉宗も妾腹の子、そして今回の「さむらい劇場」の主人公・榎平八郎も妾腹の子・・・。妾腹の子というハンデを背負った武士を主人公にした小説が多いように思える。

 榎家当主の軍兵衛が「御先手・鉄砲頭(おさきて・てっぽうがしら)」という役目につき、同時に長男・彦十郎が「新御番」入りとなったことで、お祝いの席が設けられた。三男である妾腹の平八郎と母は、離れた小部屋に据えられ、父・軍兵衛たちに黙殺されていた。

 酒席も華やいだころ、軍兵衛が平素から疎ましいと思っている平八郎を懲らしめるため、庭先で彦十郎と立ち合わせることとした。ところが、立ち合わせたところ彦十郎は、思いも及ばず平八郎に後れをとって敗れてしまった。そのまま、平八郎は夜陰に乗じて家を出て行く・・・。

 その後、軍兵衛が二人の家来と密議をして、赤大黒という闇の始末屋を使って平八郎を亡き者にしようと画策する。ある夜、平八郎は三人の浪人に襲われるが、これを助けたのが浜嶋友五郎という男である・・・。
 そして、主人公・平八郎は、紀州藩から将軍位についた八代将軍吉宗とその将軍に敵対する尾張藩・尾張中納言宗春との怒涛の渦中に巻き込まれていくのである。

 七百石の旗本の三男にありながら、将軍家に敵対する尾張藩に身を置く形となる平八郎の波瀾万丈の生きざまを垣間見ることとなる・・・実に面白い。

 この長編小説を読み終えると、まさに冒頭に掲げた良栄和尚の言葉に感銘を覚えざるを得ない。まさに池波文学の境地であり、いつもながら「人の生き死に」が克明に描かれており、人生勉強にもなるものと感心している。(夫)

[追 記]~あらすじ~
 酒と女に溺れ家中の鼻つまみものである榎平八郎は二十一歳。七百石の旗本の三男に生まれながら妾腹の子ゆえ家来にまで蔑まれている。ある夜女を抱いた帰途、何者かに襲われる。やがて、それは彼を疎む父親の命であることが判明する。
 徳川吉宗が将軍位について二十余年、いきいきとした時代を背景に、青年ざむらいが意地と度胸で、己の道を切りひらいていく姿を描く長編時代小説。
(出典:池波正太郎著「さむらい劇場」)

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