愛知学院大学青木ゼミのブログ

愛知学院大学商学部青木ゼミの活動を報告するためのブログです。

分かり切ったこと

2024年06月27日 | Weblog
以下の記事において,注目論文を出した研究者の多くが研究の目的としたのは「自らの知的好奇心に応えること」だった。(中略)日本の科学研究力を高めるには、研究者の知的好奇心に基づく研究を後押しする取り組みが必要だと書いてあります。この内容は,大学に所属している研究者にとって本来「当たり前」「分かり切ったこと」でしょう。

しかし,過去20年間の「競争的」「選択と集中」という文部科学行政によって,知的好奇心に応えることは日本の研究者にとって当たり前ではなくなってしまいました。研究資金獲得の競争を強いる行政によって,研究者たちは目先の資金獲得のための研究に注力せざるを得なくなりました。資金が得られる研究が研究者にとって面白い研究とは限りません。知的好奇心に応えるどころではないのです。競争によって日本の研究力を底上げするという目論見でしたが,研究者たちは疲弊しています。このことは過去20年間の日本の研究力弱体化につながっています。

ところで,「自らの知的好奇心に応える」というのは,学生指導においても重要であると感じます。うちのゼミでは,卒業論文の指導において,こちらからテーマを与えることはしません。テーマを学生個々に案出してもらいます。学生の中には,「書きやすい」テーマを探しだして,それを自らの卒業論文テーマとする者がいます。これまでの学生の状況を見ていると,そういう卒業論文はあまり出来がよくなく,円滑に調査や執筆が進まない印象です。

自らが面白いと感じたテーマを選んだ学生は,こちらがいくらダメ出しをしても,簡単にあきらめずに,繰り返し調査や思考を繰り返します。なぜダメ出しされたのか,自分なりに受けとめて探索します。そして,安易に結論を導こうとしません。その結果,学部内で優秀賞をとった例がいくつもあります。

第一線の研究者にとっても,学部学生にとっても,知的好奇心に応えるというのは大学という高等教育機関において最重要の運営軸なのだと思います。

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研究者が注目度の高い論文を生み出すには何が必要か。文部科学省の研究所が3000人規模の大規模な調査を実施したところ、理工農分野では好奇心を重視して研究できる環境を整えることが重要だった。

科学技術・学術政策研究所は2020年度から大学の研究室などの環境や論文に代表されるアウトプットの情報を収集している。このほど自然科学に携わる大学の教員3000人以上を対象に研究の目的などについてアンケート調査し、約6割の回答を得た。

ほかの研究者の論文で引用された回数が上位10%に入る論文を注目度の高い論文と定義し、注目度の高くない論文を書いた一般的な研究者らの回答と比較した。

注目論文を出した研究者の多くが研究の目的としたのは「自らの知的好奇心に応えること」だった。理学・工学・農学分野では85%が当てはまると答えた。一般的な研究者の73%より12ポイント高かった。「挑戦的な課題に取り組む」も注目論文を出す研究者が答えた割合のほうが高かった。

一方で、研究の目的を「現実の問題を解決すること」と答えた一般的な研究者の割合は40%と、注目論文を出す研究者の34%を上回った。日本の科学研究力を高めるには、研究者の知的好奇心に基づく研究を後押しする取り組みが必要だ。

(日経新聞 2024年4月21日)

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2次募集

2024年06月18日 | 募集
本日,商学部ゼミ1次募集の合格発表が行われます。そして明日から2次募集が始まります。人気ゼミではないこのゼミでは2次募集からが本格的なゼミ生募集期間です。昨年度は,なぜかこのゼミが人気になってしまい,見学者・1次志願者殺到だったのですが,今年度は,見学者はごく少数,1次志願者は定員よりはるか少ないという元の状態に戻りました。例年通りなので,これまでのノウハウを生かしてこれから選抜を行うことができます。

2次募集では他のゼミを落ちた学生が当然うちのゼミを検討します。意外にも2次募集で応募してくる学生は「できない」学生とはいえません。優秀な学生から1次募集の網に引っかかり,優秀でないものが残され,2次に回るという単純な図式ではないようです。

2次応募の学生に中には,私の目から見て,「優秀だな」と感じる学生は過去何人も存在しました。2次応募学生から1次で不合格になった状況を説明してもらい,「こんなできる学生をなぜ落としてしまうのか」と驚くこともありました。「できる学生」の基準がうちのゼミと他のゼミでは違うのでしょう。

このゼミでは優秀さの基準を,日本語の読み書き能力に置いています。選考では,長い文章を書いてもらい,論理的,具体的に自分の考えを表現できるのかを確認します。主語と述語の対応を意識しているか,指示語,句読点を使いこなしているかなどを見ていきます。

ゼミによっては成績(GPA)を判断材料にしているようですが,うちのゼミではGPAは全く見ていません。なぜならば,GPAが低くても論理的思考力に優れた学生を過去何人も見てきたからです。さらに,そもそも私自身学部時代成績が大変悪かったという事実があります。授業以外の活動に重きを置いていたためですが,その経験が今に活きているので,GPA至上主義に陥ることに抵抗感をもちます。

また面接における対話を重視するゼミがありますが,このゼミではそれも重視しません。面接の対話に重きをおいてしまうと,見た目の良い(容姿だけでなく服装や態度も含む)学生や社交的な学生が選ばれがちだからです。社交的でない学生の中に,地味な作業をいとわず,粘り強く思考し続ける学生が含まれています。そういう学生にゼミに所属して欲しいのです。

教員からテーマを与えられて,従順にその指示に従う学生はこのゼミではあまり評価されません。自発的に研究テーマを持つことができる学生,簡単に答えが出ないことを面白がる学生に門を叩いてもらいたいと考えています。
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合同研究発表会

2024年06月09日 | 運営
6月8日,本学経営学部の藤原ゼミとうちのゼミとで合同の研究発表会を名城公園キャンパスにて開催しました。4月から始まった調査研究について,現段階で考え出した研究目的と,現状分析を何とか話してもらうという発表会です。

不動産事故物件のコミュニケーション,爬虫類の気持ち悪さの源泉,クロックスのマーケティング,インターネット通販の衝動買いなど,色々なテーマが取り上げられていました。ゼミの毛色が出ていて,藤原ゼミの各学生は,共分散構造分析をツールとして使いこなすことを主眼としたテーマ設定を行っています。基本的に計量分析必須です。うちのゼミの学生は,小売業・飲食業を中心に企業の戦略分析を取り上げる傾向にあります。両ゼミとも,指導教員の研究に影響を受けています。研究を教育の中核に置く大学教育として好ましいことだと思います。

学生の研究発表後,教員による講評において,私は「既存研究を読み,それを踏まえて仮説を導き出すという作業では,手堅い論理展開になるが,ありきたりの結論を導き出しがちなので,現実に起きていることをきちんと拾い上げて,それをもとに悩んで欲しい。学生らしく,既存研究にはとらわれない結論を導き出して欲しい」という話をしました。この言葉の背景には,学生たちには,様々な情報を色々な角度で収集し,複数の理論や視座で論理展開を試みて欲しいという思いがあります。

つまりは,簡単に結論を出すなということです。テーマを二転三転させながら,混乱する揺れ動きの過程で,思考力を鍛えて欲しいのです。

研究発表会後は懇親会となりました。最初は,誕生月ごとに着座したため,両ゼミの初対面の学生同士が顔を合わせて,ぎこちない場面が続きました。しかし,時間が進むにつれ,座が乱れ,学生らしい,がやがやした楽しい雰囲気になりました。商学部と経営学部は同じキャンパスにあるビジネス系学部ながら,学部間の学生交流はあまりありません。これを機会に,両ゼミの学生が交流を深めてくれれば良いと思います。
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おすすめの書

2024年05月13日 | Weblog
今回おすすめは,杉本貴司『ユニクロ』日本経済新聞出版です。最近話題のビジネス書です。タイトルの通り,ユニクロを取り上げた著書です。経営者柳井正さんの学生時代から,最近までのユニクロ発展に関するドキュメンタリーです。450ページを超える大作です。

学者が書く経営史と違い,事実の客観的記述にはとらわれず,筆者の思いや評価をあちこちに盛り込んだ記述になっています。ただし,ジャーナリスト(日経新聞編集委員)らしく,徹底した取材に基づいて,詳細な物語を書き上げています。これには,成功あり,失敗あり,逆転あり,衝突あり,和解あり,別離あり,様々な人間模様が含まれているので,小説のような面白みがあります。平板な経営史やドキュメンタリーには仕上がらず,躍動感いっぱいの物語なのです。大作にもかかわらず2日ほどで読了しました。

私は本書を自分の専門である流通論のケースブックと捉え,流通システムを革新する先駆的小売業者の足跡として読み始めました。しかし,読み進めるにつれ,地方の個人商店が日本を代表する世界的大企業へと脱皮する過程として,捉えることができると気づきました。つまり組織論のケースブックです。山口県の地方都市にあった社長の個人商店が,東京に進出し,原宿で店舗を構え,フリースブームで飛躍する。ブーム後業績は落ち込んで危機を迎えるが,新しい商品・事業で再浮上のきっかけをつかむ。さらには海外進出を遂げて,世界的存在感を示していく。その過程で,柳井さんと彼を取り巻く幹部たちの衝突が起きる。そして,古参の幹部が脱落したり,新世代の幹部が育ったり,組織編成が変わったりする。

実際,組織が大きくなるにつれ,仕組みが整えられるのはどこも同じで,その過程で様々な混乱が起きます。ユニクロ(ファーストリテーリング)のような急成長企業は,経営者の役割や組織編制の変化,幹部の交代に伴うきしみを捉えるための好例なのでしょう。本書はその好例に切り込んでいます。

ただし,柳井個人商店であった当社が,個人商店を止めて,システマティックでしかも起業家精神あふれる大企業に脱皮したのかどうか,本書はまだ十分描き切っていないと感じました。柳井さんが現役中はそれは難しいのかもしれません。続編を期待します。ともかく,あっという間に読める面白さ。しかも,流通論や組織論の学びにつながる良書です。
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インターネット情報を信じがちな人

2024年04月10日 | Weblog
デジタル空間の情報との向き合い方を調べるため、読売新聞が日米韓3か国を対象にアンケート調査を実施した結果、米韓に比べ、日本は情報の事実確認をしない人が多く、ネットの仕組みに関する知識も乏しいことがわかった。日本人が偽情報にだまされやすい傾向にある実態が浮かんだ。 

調査は昨年12月、国際大の山口真一准教授(経済学)とともに3か国の計3000人(15~69歳)を対象に共同で実施した。情報に接した際、「1次ソース(情報源)を調べる」と回答した人は米国73%、韓国57%に対し、日本は41%だった。「情報がいつ発信されたかを確認する」と答えた人も米国74%、韓国73%だったが、日本は54%にとどまった。

回答者のメディア利用状況なども聞いた結果、偽情報にだまされる傾向が表れたのは「SNSを信頼している人」「ニュースを受動的に受け取る人」だった。一方、だまされにくかったのは「新聞を読む人」「複数メディアから多様な情報を取得している人」だった。新聞を読む人はそうでない人と比べ、偽情報に気付く確率が5%高かった。

(読売新聞オンライン,2024年3月26日)
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日本は情報のソース確認をしない人が多いという指摘は,学生の行動を見ていると納得できます。私の周囲では,安易なインターネット検索で情報収集を済ませ,それを研究発表や卒業論文に引用する学生が後を絶ちません。卒論の引用文献がすべてURLというのも珍しくありません。しかも,その引用元が政府の白書,企業のIR情報など確度の高いものならば問題ないのですが,だれが書いたか分からない個人の発信情報や企業のプロモーション関連情報について,1次ソースを確かめもせず使います。

うちの学生がよくやるのが,専門書(論文もあり)に書かれているはずの理論を,インターネット上の解説を読みそこから引用することです。インターネット上の解説は,個人,企業,協会が掲載しています。そして,元の専門書は読もうとはしないばかりか,図書館OPACの検索すらしません。

このネット上の解説を参考程度に読むのであれば問題ありません。しかし,専門書までたどって,その解説の真偽を確かめ,引用はその専門書から行わなければなりません。なぜならば,それが1次ソースだからです。1次ソースでないと,情報が歪曲されている,あるいは虚偽情報をまぎれているかもしれないのです。

以前,マーケティングのコトラー理論やポーター理論を使うといって,ゼミ生がインターネット上のそれらの解説記事を読み,研究発表に引用しようとしました。私はその内容に大きな違和感を持ったので,ゼミ生にコトラーやポーターの著書を読むように指示するとともに,自分で学生が引用している解説記事を読みました。果たして,解説記事にはコトラーやポータの著書からの引用表示がない上に,そもそも内容が間違っていました。

例えば,コトラー理論を解説するといいながら,コトラーのどの著書の内容を解説しているのか表記がなく,しかもコトラーではなく別の日本人学者の理論をコトラー説として解説しています。おそらくその解説記事を書いた本人はコトラーの著書を読んでいないでしょう。何かの資料の孫引き(ひ孫引きかもしれない)したのでしょう。

真偽を確かめないでインターネット情報に影響を受ける人は,インターネットの奴隷と化してしまうかもしれません。健全な状態ではありません。大学教育を受ける以上,ゼミ生には疑いの目をもってメディア,特にインターネットに接する姿勢を身に着けてほしいと思います。
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