アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

ベートーヴェン「トリプル協奏曲」~新日本フィル定演

2021-03-28 19:00:00 | 音楽/芸術

年度末にあたる3月最後の週末、新日本フィルによるルビー定演を聴いてきた。

今回のプログラムは、ベートーヴェンの2曲が演奏されたが、アントンKにとって生演奏がお初となる三重協奏曲を鑑賞することができた。この楽曲自体、ベートーヴェンとはいえアントンKには、今まで無縁の楽曲となってしまい、旧いCD以外で鑑賞するに留まっていたのだが、今回、いつもパワーを享受頂いているソロ・コンマスの崔文洙氏をはじめ、兄上崔仁洙氏のピアノ、そしてチェロのトップとして新日本フィルではいつもご活躍のチェリスト長谷川彰子氏3名によるソリストを揃えての演奏となり、スケジュール発表時から楽しみにしていた演奏会だったのだ。この三重協奏曲という楽曲は、ヴァイオリン、チェロにピアノが加わり、ピアノ三重奏曲のような味わいを持つ楽曲で、そんな編成からか演奏されることは稀だと聞いていた。しかしベートーヴェンの中期とされる時代の楽曲だそうで、ピアノソナタの「ワルトシュタイン」「テンペスト」あたりと、交響曲では第3「エロイカ」の時期と近似しているという。なるほど一度耳にすれば、とても聴きやすくて、すぐに馴染んでしまったことは幸いだった。

今回は、とても一度では聴き込めないことから、2日間とも出向いてきたが、演奏は総じて同様な傾向ではあるが、2日目の方がより自由で演奏の喜びを噛み締めるような響きとなり、また即興性もより増したように感じ、生演奏ならではの新たなトキメキや発見が多々散見できたのである。アントンK自身、一番期待していたポイントがまさにこの部分であり、スイッチの入ったソロ・コンマス崔氏のパフォーマンスと、それに刺激されたチェロやピアノの受け答えの妙が聴きたかったのだ。こんな聴き方も、生演奏ならではの愉しみで、レコードで聴く演奏は、記録に残すという観点からか、オーソドックスになってしまい、こんな教科書通りの演奏を何度も聴いても、アントンKには心響かなくなった。そういった点でも、ソロ・コンマス崔氏の演奏は期待を裏切らないし、いつもアントンKの気持ちを高揚させてくれるのだ。

1mov.では、ソリストそれぞれの対話が楽しく、3名の音色がオケの響きと合わさり、鑑賞していて心が熱くなってくるのが解る。2mov.のラルゴの出の部分、気持ちのこもり切ったチェロの音色に遠い日が蘇ったが、続く崔氏のヴァイオリンの音色が、慰めの響きとしてアントンKに染みわたり、改めてベートーヴェンの深さを思い知ったのである。そして続く3mov.の圧倒的なパフォーマンスにアントンKは、完全にこの楽曲の虜となったのだ。兄崔仁洙氏の冴えわたるピアノの有機的な合いの手も絶妙だったが、中間部のポロネーズ調になってからの音楽の色合いの凄まじいこと!この部分、頭のヴァイオリンの溜めの利いた崔氏の演奏解釈は最高で、今まで聴いたことが無い世界が開けたのであった。ソリスト同士が、楽譜1小節ごとに勝負をかける様は、ホール全体が音楽に飲み込まれ、崔氏の演奏時の立ち姿のパフォーマンスも加わって釘付けにされているのが解った。

ここまで振り返ると、もし今回の指揮者がバロック指揮者のマエストロ鈴木秀美氏ではなかったら、どんな演奏になったのかという妄想が膨らんでしまう。ソロ・コンマスの崔氏が、かつて同じベートーヴェンでもVn協奏曲で演奏したように指揮をとり、演奏したのなら、さらに濃厚で感情ほとばしるベートーヴェンが聴けたのでは?と考えながらわくわくしてしまうのである。

最後の音がホールに響き消え去った瞬間、マスクごしに大声で叫びそうになった。何とかギリギリ踏みとどまったのだが、彼等の本物の音楽、本気のベートーヴェンに対して、何か示したい気持ちになっていた。アントンKも年甲斐もなく、それだけ心が動き高揚したのだろう。とても充実した2日間だった。プログラム後半の交響曲については、稿を分けて記載しておきたい。

新日本フィルハーモニー交響楽団 ルビー定期演奏会

ベートーヴェン  Vn,Vc,Pfのための三重協奏曲ハ長調 OP56

ベートーヴェン  交響曲第5番ハ短調  OP67  「運命」

アンコール

ベートーヴェン ピアノ三重奏曲第4番~2mov.

ベートーヴェン 12のメヌエット Wo07~NO.11

指揮   鈴木 秀美

Vn              崔 文洙

Vc    長谷川 彰子

Pf             崔 仁洙

コンマス 西江 辰郎

2021年3月26日~3月27日 

すみだトリフォニーホール