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山の神にお供して歩きつづける、ある山のぼら~の記録。ネイチャー、冒険の本もとりあげるよ。

縄文時代以前は火山の爆発が続いた日本『火山で読み解く古事記の謎』

2017-04-22 | 山・ネイチャー・冒険・探検の本

『火山で読み解く古事記の謎』蒲池明弘(文春新書)

古事記といえば、日本最古の歴史書。この本では、古事記に登場する神々は、縄文時代やもっと前に日本列島で活発に活動していた火山をモチーフにしているというユニークな論を展開している。なぜかという解説を読んでいるとたしかにそんな気がしてくる。人々を苦しめるヤマタノオロチは、まさに火砕流が火口から流れ出てくる様子をこの化け物に仮託しているととれる。古事記の描写では、黒々とした体にマグマのような赤い筋がちろちろと見えているとしている。シンゴジラみたいなもんだ。天岩戸(あまのいわと)伝説は、噴火による噴煙が上空何万メートルかを漂い太陽の光を遮ったことをアマテラスが岩戸に隠れたとしたのか。それがにぎやかな祭祀中に、たまたま噴煙が流れ、晴れ間が覗いてきたのか。また日本の神話は、九州と出雲を舞台にしているが、九州といえば、阿蘇、霧島連峰、桜島近辺の姶良カルデラといった火山群があるし、出雲には三瓶山がある。いずれも縄文時代以前に大噴火を起こしている。出雲にいたっては、雲が出づるという名前で、これは噴煙による雲を指しているとも考えられる。

この本を読んで、真っ先に思い出したのが、いま私の机上に100ページくらい読んで止まっている『1万年の旅路 ネイティブ・アメリカンの口承史』。この本は、驚くべきことに、ベーリング海峡がかろうじてまだ地続きだった頃に、アジア側から北米大陸へ徒歩で渡りきったある部族の口承による記録だ。口承であるのに、かなり詳細に一族の長い旅の状況が伝わっている。それは、一族のなかでもっとも優れた記憶力をもつ者、ただ一人が、一族の重要な歴史、すべてのエピソードや指導者の言葉などを暗唱し、次世代に伝える義務があったからだ。

一方で日本の口承伝はどうだろうか。何かを正確無比に口頭で伝えようということはあったろうか。おそらくないだろう。であれば、縄文時代以前に火山噴火によってもたらされた災害は、口から口へと経るごとに、さまざまなものに置き換わったり、内容も尾ひれがついて改変され、世代を超えて伝えられたに違いない。そう考えていくうちに、蒲池氏の説はまんざら荒唐無稽とは言えないし、むしろ真実に近いのではないかと思った。

そんなことをつらつら考えているうちに、日本の縄文時代が長いのは、そして国家の成立が遅かったのは、活発な火山活動で被災することが多かったせいではないかと思い至った。ちょっと飛躍か。でも総じて示唆に富み、古代の日本列島がどんな状況で、人々の暮らしがどうだったのかと想像が膨らむ面白い本だった。

火山で読み解く古事記の謎 (文春新書)
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文藝春秋
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