■(turnitover) / The Tony Williams Lifete (Polydor)
分かってはいるけれど、ど~しても否定しなければならないものとして、ジャズの世界ではトニー・ウィリアムスがやっていたライフタイムというバンドが、そのひとつでしょう。
なにしろ栄光のマイルス・デイビス・クインテットを辞めてまで始めたのが、ギンギンのハードロックとフリージャズを融合させたようなサイケデリックな演奏でしたから、ガチガチの評論家の先生方からは、それがジャズであれ、ロックであれ、どちらからも拒絶され、さらにファンも戸惑うしかなかったのが、デビュー作となった「Emergency!」でした。
しかし好きな人にも、これほど狂熱させられるバンドも他に無く、おそらくは実際のライプステージに接した幸せなファンも日々、増大していたと思います。
そしてそうした前向きにジコチュウな思惑が最大限に発揮された傑作盤が、本日ご紹介のセカンドアルバムでしょう。
録音は1970年、メンバーはトニー・ウィリアムス(ds,vo)、ジョン・マクリフリン(g)、ラリー・ヤング(org)、そして元クリームのジャック・ブルース(b,vo) が部分的に参加したというのが、ロックサイドからの注目でもありました。
A-1 To Whom It May Concern - Them
A-2 To Whom It May Concern - Us
クレジットにはチック・コリア作とありますが、この録音時期までに作者本人のバージョンがあったかは、勉強不足で確認出来ていません。しかし、ここでは完全なるライフタイムの音楽として、その激しい演奏が成立しています。
そのミソはもちろん強烈なディストーションに満ちたジョン・マクラフリンのギターであり、ヤケッパチなポリリズムのロックビートを叩きまくるトニー・ウィリアムス、さらにクールに浮遊しつつ、実は相当にエグイ事をやらかしているラリー・ヤングのオルガンが曲者です。
ちなみにジャック・ブルースは、このパートには参加している形跡が感じられませんし、演奏そのものも、ふたつのパートは双子のような関係ということでしょうか、どこが切れ目か、ほとんど不明という連続したものになっています。
まあ、このあたりはテープ編集が使われているのかもしれませんが、それにしても特に後半のプチキレは痛快!
A-3 This Night Song
これが全く、当時から散々に悪く言われた演奏で、フヌケたトニー・ウィリアムスの御経のようなボーカルが噴飯物!? どろ~ん、としたインストパートのダレきったムードも、今でこそ意味深に聴けますが、正直に言えば、イライラとモヤモヤが……。
絶対、ドタマにきますよっ!
A-4 Big Nick
しかし一転、これが物凄い演奏ですっ!
曲はご存じ、ジョン・コルトレーンのオリジナルですから、ここでもアップテンポの豪快な4ビートに徹するバンドの勢いは最高潮! なにしろ前曲が酷かったですからねぇ~~。
アグレッシヴなラリー・ヤングのアドリブから、ジャック・ブルースの4ビートウォーキングを土台にメチャ弾けたトニー・ウィリアムスのドラミングが熱いです。
う~ん、これを聴いていると、「This Night Song」が実は周到に用意された仕掛けの妙だと勘繰りたくなりますよ。
A-5 Right On
こうして迎えるA面ラストが、これまた激ヤバのアップテンポ演奏で、歪みまくったジョン・マクラフリンのギターがブッ飛ばせば、トニー・ウィリアムスがドタバタのドラムスで背後から煽るという構図が確立し、好き勝手なラリー・ヤングと必死で正統派ジャズに拘るジャック・ブルースという、なんとも倒錯した展開が!?!
いゃ~、2分に満たない演奏時間の短いさが惜しいという感じですが、しかし、こんなのを長く聴いていたら、発狂は間違いないところでしょうか……。
B-1 Once I Loved
有名なカルロス・ジョビンの曲ということになっていますが、その演奏実態は所謂スペーシーなサイケデリックがそんまんま!?! オリジナルの美メロを期待すると、完全に怒りますよ。しかもトニー・ウィリアムスかジャック・ブルースの気抜けのボーカルがトドメのイライラ!?!
確かにイノセントなジャズファンや評論家の先生方からダメの烙印を押されるのも当然が必然でしょうね。
しかし、これも深淵な企み……?
B-2 Vuelta Abajo
前曲で我慢の時間を過ごした後に炸裂するのが、この激しいロックジャズの決定版!
もうハナからケツまでグイノリと過激なビートが全開ですから、トニー・ウィリアムスのドカドカ煩いドラミングが堪能出来ますし、クリームしまくったジャック・ブルースのベースはもちろんのこと、ジョン・マクラフリンの唯我独尊が痛快至極!
本当に溜飲が下がりますねぇ~~♪
B-3 A Famous Blues
これまた意味不明のボーカルパートが不気味な変質者の囁きという感じですし、演奏そのものも煮え切らないスタートですが、中盤から突如としてテンションが高くなり、ラリー・ヤングの暴走オルガンとトニー・ウィリアムスの千変万化のパワフルドラミングが良い感じ♪♪~♪ また終盤のボーカルに重なってくるリムショットやハイハットの使い方が、往年のマイルス・デイビスのバンドで聞かせてくれた名演を強く想起させてくれるのも嬉しいですよ。
B-4 Allah Be Praided
そしてオーラスが、このアルバムの中では一番にキャッチーというか、浮かれたようにハードロックなリフを使ったテーマからアップテンポの4ビートがメインのアドリブパートへと流れる展開が痛快至極!
ラリー・ヤングとジョン・マクラフリンのアドリブソロの応酬、如何にもモダンジャズなトニー・ウィリアムスとジャック・ブルースの4ビートグルーヴには安心感さえ表出していますが、いえいえ、そんな生易しい安逸なんて、ここではお呼びじゃないでしょうね。
ということで、あくまでも怖さに徹した演奏がぎっしり収められています。しかも特筆すべきは意図的に置かれたと思しき歌がメインの演奏で、それがあるからこそ、インスト主体の過激なロックジャズが尚更に刺激的!
このあたりは現代のCD鑑賞では、好きなトラックだけ選んで楽しむ実態には当てはまりませんが、アナログ盤LPレコードという片面単位のプログラムでは、必須の美しき流れが楽しめますよ。
しかもそうやって何度も聴いているうちに、バカみたいにフヌケたトニー・ウィリアムスのボーカルが無ければ物足りない雰囲気になってくるのが、これまた怖いです。
極言すれば、特にA面の「This Night Song」から「Big Nick」に続く流れを聴きたくて、じっと我慢を決め込むという、些かM的な自分に呆れるほどなんですが、しかし実際、煮え切らなさが頂点に達した後にスタートする「Big Nick」の最初の一撃だけで、思いっきりスカッとした気分に!!!
もちろん当然というか、ジャズ喫茶全盛期だった1970年代の前半に、このアルバムが店内で鳴らされていたという記憶が私にはありません。むしろトニー・ウィリアムスのライフタイムは禁句であり、忌み嫌われていたといって過言ではないでしょう。
ですから、このあたりを聴くためには、まず危険を冒して買うという行為しかなく、それでハズレと思ってしまえば、リスナーとしての資格が無かったということかもしれません。幸いにしてサイケおやじの感性にはジャストミートだったことに、今は感謝するだけです。
そして裏ジャケットの原盤ライナーには「Play It Loud」、さらに「Play It Very Very Loud」とそ強調して書いてあるのが、全くそのとおり! ガンガン聴けば、気分は爽快♪♪~♪
こんな上から下までミチョウチキリンな事になっている現代でこそ、真価を発揮出来るアルバムかもしれませんね。
毎度、コメント感謝です。
世間に認められた当初、ジャズは悪魔の音楽でした。それが、ねぇ……。
やっぱり本音で行動したトニー、本来がフリー派の証として、さらにロックビートをやっちまったのが、またまた悪魔の所業ということで(苦笑)。