OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ロックジャズはフリーロックか?

2008-04-17 17:01:11 | Weblog

今日も仕事はロクな方向に行きません。

というか思惑外れが甚だしく、時間に縛られ、自分のM性に目覚めたら恐いなぁ……、という1日でした。

ということで、本日はモヤモヤをブッ飛ばし、混濁したエネルギーに身を任せたという――

Emergency! / The Tonny Williams Lifetime (Polydor)

今や伝説のライフタイム! 18歳でマイルス・デイビスのバンドに入り、天才的なパルスドラミングで世界を圧倒したトニー・ウィリアムスが独立して結成したバンドのデビュー盤が、これです。

しかしどんな世界にも嫌われ者が居るように、我国のジャズ喫茶では困り者の存在がこのアルバムでした。

なにしろモロにロックビートでギンギンのギター、プログレのような脱力ボーカル、そして煮え切らなさ……。ちなみに発売された1969年当時はジョン・コルトレーンの「至上の愛(impules!)」や「アセンション(impules!)」が聖典であり、アルバート・アイラーの「スピリッチャル・ユニティ(ESP)」やオーネット・コールマンの「ゴールデンサークル(Blue Note)」、あるいはアート・アンサンブル・オブ・シカゴの諸作が先端の人気盤でありましたからねぇ……。

ところがロックファンからすれば、ビートの芯が感じられないドラミング、意味不明のギターとオルガン、黒人っぽくないボーカル等々、これまた忌み嫌われる要素がたっぷりという……。

つまりリアルタイムでは、どっちつかずの仕上がりでしたから、商業的な成功はもちろんのこと、評論家の先生方からもケチョンケチョンだったのです。

それでも私は当時、このアルバムが聞きたくて仕方がありませんでした。2枚組で値段も高くて直ぐには買えませんでしたし、そこにあるニューロックの香りとモダンジャズの背伸びした雰囲気に惹きつけられていたのです。

もちろんメンツの魅力も絶大でしたから、別に私だけじゃなく、ジャズ喫茶ではリクエストの機会もあったはずですが、実際は露骨に嫌な顔をされたり、置いていません! という店が主流だったということです。

録音は1969年5月26&28日、メンバーはジョン・マクラフリン(g)、ラリー・ヤング(org)、トニー・ウィリアムス(ds,vo) という、今でも震えがくるほどの過激なトリオ! ちなみにトニー・ウィリアムスはマイルス・デイビスのバンドメンバーとして渡英した時にジョン・マクラフリンのライブに接して仰天し、いっしょにバンドを組むことを前提として独立を考えていたとか!?

そしてアメリカにやって来たジョン・マクラフリンは当然の流れからマイルス・デイビスのバンドにも参加することになり、そうして製作されたのが「イン・ナ・サイレントウェイ(Columbia)」や「ビッチズ・ブリュー(Columbia)」等々というわけですが――

A-1 Emergency
 いきなりドカドカうるさいロックバンドのノリで、トニー・ウィリアムスのドラミングは明らかにマイルス・デイビスのバンドで4ビートを叩いていた頃とは変質しています。もちろんエレキがギンギンギン!
 しかし直ぐに高速4ビートに転換し、あの爽快至極なシンバルワークに煽られてジョン・マクラフリンが完全無欠に眩暈のアドリブ! チョーキングも使いながら、しかし音色は余計なエフェクターを用いませんから、充分にジャズっぽいはずです。トニー・ウィリアムスのオカズの入れ方はシャープですし、バスドラやスネアの過激さも天下一品!
 演奏は中盤からテンポを落として、ちょっとアブナイ方向へ走り出しますが、ここも充分にジャズっぽく、ラリー・ヤングのオルガンが宇宙的な広がりを感じさせてくれます。
 そして再び前半の雰囲気に戻りつつ、今度はグッとロックっぽく盛り上がり、行きつく先はフリーな領域へ! ラリー・ヤングのオルガンが地獄を彷徨すれば、トニー・ウィリアムスは十八番のリックを敲きまくり、ジョン・マクラフリンも好き放題に弾きながら、トリオは散会しては再び纏まるという繰り返しが山場となっています。
 ですから決して4ビートが蔑ろにされていません! むしろジャズそのものと言って間違いない演奏のはずなんですが……。当時はこんなの、ジャズじゃねぇっ! と怒りの発言が飛び交ったのでした。
 
A-2 Beyond Games
 これまたモヤモヤした中から過激な演奏が浮かび上がり、トニー・ウィリアムスの語りが始って、あとは地獄のジャズロック! というよりもロックジャズと言うべきでしょうか……?
 演奏そのものは変幻自在のプログレですから、これはこれで凄いはずなんですが、トニー・ウィリアムスの語りにどうしても共感出来ないというリスナーが、私も含めて多いと思われます。
 しかしこれって、中期のキングクリムゾンですよねっ♪ 後半にかけてのバンドが一丸となったグイノリではトニー・ウィリアムスの重くてシャープなドラミングも冴えています。

B-1 Where
 単調な中に宇宙的な広がりを求めたジョン・マクラフリンのオリジナルですが、ここでもトニー・ウィリアムスの脱力ボーカルが完全に???
 ところがそこを通過すると、なかなか素敵なロックジャズがスタート♪ ジョン・マクラフリンの透き通った音色のギターが熱くて幽玄なアドリブを展開すれば、トニー・ウィリアムスは4ビートからフリーなリズムまで幅広く敲き出してバンドを導いていきます。
 このあたりはマイルス・デイビスのバンドでは絶対に出来なかった展開でしょう。特に4ビートのパートではラリー・ヤングも正統派の実力を発揮していますが、むしろ混濁したロックビートのパートの方がイキイキとしている感じが濃厚♪
 あぁ、それにしてもジョン・マクラフリンは熱くなっていますねっ♪ これでトニー・ウィリアムスのボーカルが無ければなぁ……。

B-2 Vashkar
 前曲からのエンディングがそのまんま使われたイントロから、これまた熱いロックジャズが演奏されています。ジョン・マクラフリンの熱さは、そのまんまの勢いですし、トニー・ウィリアムスのドラミングが炸裂すれば、ラリー・ヤングのオルガンは痙攣しまくっていますねぇ~♪
 短い演奏なのが、勿体無いです。
 
C-1 Via The Spectrum Road
 出だしはブルースロックの響きながら、またまたトニー・ウィリアムスが大ボケのボーカルが大減点! しかしジョン・マクラフリンのギターは多重録音も使ってテンションが高く、アドリブパートに入っては熱血の早弾きに激情のチョーキング、さらにはカウンターのリフ攻撃と大暴れです。う~ん、なんかトニー君のボーカルに怒りを覚えている感じ!?
 まあ、演奏そのものはトニー・ウィリアムスのハイハットとバスドラも冴えまくりですし、ラリー・ヤングのオルガンも上手く調子を合わせる名人芸でしょう。

C-2 Spectrum
 このアルバムの中では一番ジャズっぽい演奏です。
 つまり最初っからアップテンポの4ビートで押し切って痛快至極! ジョン・マクラフリンの凄すぎるアドリブ、トニー・ウィリアムスの豪快なドラミング、ラリー・ヤングの突撃オルガンが存分に楽しめますから、これにはイノセントなジャズファンも安心でしょう。
 最終盤のロックなノリもご愛嬌で嬉しくなります。

D-1 Sangria For Three
 烈しくプログレした烈しい演奏で、それはラリー・ヤングのオルガンが色合を決定した感があります。これまたなんとなくキングクリムゾナンらしいような……。
 しかしジョン・マクラフリンはアドリブパートに入ると猛烈な4ビートでドライヴしまくりです♪ トニー・ウィリアムスのドラミングはラテンビートも織り交ぜた素晴らしさですし、ラリー・ヤングのオルガンも極めて正統派ですから、たまりません。
 そして中盤からは、このトリオが得意技というスペーシーな展開へ突入し、ここからはソフトマシーンとかアイソトープのような英国産ジャズロックの響き♪ それが力強い、ドカドカのロックに化学変化し、再び4ビートが基本の演奏に戻っていくあたりが、快感でしょうか。 
 あぁ、フリーロック、万歳!!!

D-2 Something Special
 ほとんどマイルス・デイビスのバンドのような、なかなかストレートに熱い演奏です。メロディ展開の中にはサンタナのようなメロウに雰囲気も若干ありますし、グイグイと突っ込んでいくところはハードロックも顔負けでしょう。
 いゃ~、何時、マイルスのトランペットが出ても不思議ではなく、明確なアドリブパートが無い分だけ、それが強く感じられるのでした。

ということで、個人的には大好きなアルバムなんですが、フュージョンブームの時でさえ、これは快楽性が薄いとして駄盤扱いでしたし、トニー・ウィリアムスのドラミングなんか、局地的にはイモ呼ばわりされていました。まあ、その気持ちは分かりますが……。

結局、この演奏にシンパシーを感じるかは相性の問題が強く、ジャズ史的な名盤論争とかロックやフュージョンの人気盤とは成りえない宿命があるのかもしれません。

あえて言わせてもらえば、トニー・ウィリアムスの脱力ボーカルが、その要因でしょうか……? 演奏そのものは過激でド迫力、凄いテンションが漲っていますから、聴かず嫌いは勿体無いと思います。

ところで今のジャズ喫茶では、このアルバムは鳴っているのでしょうか?

コメント
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