■Comin' On / Dizzy Reece (Blue Note = CD)
1999年に世に出た未発表演奏集ですが、数多い名演オクラ入りが発掘されたブルーノートの中でも、個人的には最も感涙した中のひとつです。とにかく内容が吃驚するほどに素晴らしいんですよっ! とてもオクラ入りしていたとは思えません。
それは1960年に行われた2つのセッションが収められています。
☆1960年4月3日録音
メンバーはディジー・リース(tp,per)、スタンリー・タレンタイン(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、アート・ブレイキー(ds) という疑似メッセンジャーズ!
ちなみにディジー・リースは、ジャマイカから英国経由でアメリカに進出してきた名手で、ブルーノートには3枚のリーダーアルバムと脇役で活躍した幾つかのセッションを残していますが、結論から言えば、この日も絶好調! あの名盤「Star Bright (Blue Note)」に勝るとも劣らない快演を聞かせてくれます。
01 Ye Olde Blues
いきなり快適なテンポでブルースを吹きまくるスタンリー・タレンタインというスタートから、カッコ良すぎる繋ぎのリフ、痛烈にドライヴして止まらないリズム隊が一丸となった、実にノリノリのハードバップです。
もちろんディジー・リースは引き締まったスタイルで溌剌としたトランペットを完全披露!
あぁ、これがブルーノート王道のサウンドでしょうねぇ~~♪ 最高に痛快ですよ。
それは強烈な存在感を示すリズム隊だけのパートに受け継がれ、剛直大胆なジミー・メリットのベースワークに大技小技のアート・ブレイキー、さらに小気味よくスイングするボビー・ティモンズが、もはや天国行きの直行便! あぁ、何度聴いても興奮します。
演奏はクライマックスでアート・ブレイキーを要にしたソロチェンジがあり、フロンドの2人も意地を聞かせてくれますが、演奏全体の熱血は唯一無二です。
02 The Case Of The Frightened Lover
これもディジー・リースのオリジナルという、実に痛快なハードバップです。まずはテーマ合奏からして雰囲気最高! そのまんま、流れるようにアドリブに入っていく作者のトランペットも好調だと思いますし、リズム隊も怖いほどにサポートが冴えています。
まあ、正直言えば部分的には、ちょっと中だるみも感じられるのですが、それを救うのがスタンリー・タレンタインが直球勝負という大ブロー! そのストレートな感性と骨太な音色は素晴らしい魅力に満ちています。
ラストテーマのアンサンブルも実に素敵ですよっ♪♪~♪
03 Tenderly
これは有名スタンダード曲のハードバップ的解釈というか、スローテンポでテーマを吹奏するディジー・リースは、明らかにクリフォード・ブラウンを意識せずにはいられないところでしょう。録音では息継ぎの緊迫感も良い感じです。
そしてリズム隊を呼び込んでからのアドリブパートでは、自然にグイノリの4ビートが心地良いグルーヴを生み出しますから、ディジー・リースも余裕でモダンスイングっぽいフレーズを積み重ね、絶妙の和みを提供してくれます。
また続くスタンリー・タレンタインはタフテナー王道の響きが、これまた気持ち良いほどです。この、たっぷりした歌心は本当に素敵ですねぇ~♪ 重量感溢れるリズム隊の存在があるにしろ、けっこうアドリブが止まらなくなった感じでしょうか、これは名演だと思います。
そしてボビー・ティモンズが、これまた素晴らしく、抑えたゴスペルフィーリングとファンキーな節回し、硬質なスイング感が融合した名人芸です。それを支えるジミー・メリットの太いペース、強いバックピートを叩き出すアート・プレイキーも大好きです。
04 Achmet
アート・ブレイキーが十八番のアフリカンビート、それに共謀するディジー・リースのコンガが強烈な味わいを作り出すイントロの長いパートから、これまた痛快なテーマのユニゾンが飛びだすあたりは、完全にジャズメッセンジャーズと化しています。
そしてスタンリー・タレンタインの爽快なアドリブの素晴らしさ! それはスピード溢れるリズム隊の強烈さでもありますが、続くディジー・リースが危うくバランスを失うところまでもが、結果オーライに繋がるのです。
またボビー・ティモンズが、メッセンジャーズでは散々やりまくった十八番のリックを完全披露! もちろんそれは、このリズム隊なればこそ許されるものでしょうねぇ~♪ 当然ながら、クライマックスはアート・ブレイキーの爆裂ドラムソロ! これしか無いでしょう。
05 The Story Of Love
これまたラテンビートにエキゾチックなメロディがジャストミートした、キャバレーモードのハードバップ♪♪~♪ テーマアンサンブルの雰囲気の良さ、特に枯れたディジー・リースとムード満点のスタンリー・タレンタインが絶妙のコンビネーションですよ♪♪~♪
そしてディジー・リースのアドリブが、これまた非常に味わい深く、シブイ歌心とせつないフレーズの妙が冴えまくり♪♪~♪ 本当に落涙寸前に追いこまれますよ。
するとスタンリー・タレンタインがダークな音色でソフトな情感を歌いあげるという、これまたハードボイルドな男気を披露するのですから、あぁ、これがジャズを聴く喜びです!
ちなみにリズム隊では意想外の小技を披露するアート・ブレイキーが流石ですし、地道な4ビートウォーキングが心地良いジミー・メリット、そして思わせぶりなスイング感が憎めないボビー・ティモンズという名演が、スバリとモダンジャズ黄金期を証明したと思います。
以上の5曲はジャズメッセンジャーズの作品と言って、全く不思議の無い仕上がりですし、実に充実したセッションだと思います。これがリアルタイムでアルバム化されていたら、間違いなく人気盤になったんでしょうが……。
☆1960年7月17日録音
メンバーはディジー・リース(tp)、スタンリー・タレンタイン(ts)、Musa Kaleem(ts.fl)、デューク・ジョーダン(p)、サム・ジョーンズ(b)、アル・ヘアウッド(ds) という、こちらも非常に魅力的な面々ですが、中でも Musa Kaleem はアート・ブレイキーが駆け出し時代のリーダー盤としてブルーノートへ吹き込んだ1947年12月のセッションに参加していた隠れ名手です。
06 Sands
ディジー・リースのオリジナルで、なんとも独特のファンキーな節が素敵な裏名曲だと思います。デューク・ジョーダンの参加ゆえでしょうか、強いビートの中にも心地良い浮遊感が漂う、真正ジャズのリズムが良いですねぇ~♪
そしてアドリブパートは力感溢れるスタンリー・タレンタイン、ちょいとブッカー・リトルしているディジー・リース、正統派に真っ黒な Musa Kaleem と好演が続き、ついに登場するデューク・ジョーダンがイブシ銀のロンリー節ですよっ♪
全体的には不思議系のハードバップというところでしょうか……。
07 Comin'
サム・ジョーンズがギスギスしたペースソロでリードする、実にファンキーなハードバップのブルース大会♪♪~♪ ほとんどテーマのアンサンブルだけでシビレますが、そこへ被ってくるのが Musa Kaleem のブリブリテナーサックスですから、たまりません。
ミディアムテンポでヘヴィなジャズピートも素晴らしく、続くスタンリー・タレンタインが負けじと任侠精神丸出しの音色を聞かせてくれるとなれば、デューク・ジョーダンが内気な片思いのブルースも、ジンワリと忍び寄ってきますよ。
そしてディジー・リースの内に秘めた炎が青白く燃えるトランペット♪♪~♪ 決して派手なところはありませんが、そのじっくり構えて味わい深い音色とフレーズの素晴らしさは、アルバムタイトル曲に認定されるのもムベなるかなでしょうね。
08 Coose Dance
今度はアル・ヘアウッドがブラシで素晴らしいジャズビートを叩き出すという、抜群のイントロからしぶといテーマのアンサンブル、続いてアップテンポの快演となるハードバップです。Musa Kaleem のフルートも良い感じ♪♪~♪
そしてディジー・リースの正統派トランペット、Musa Kaleem の元祖ベニー・ゴルソンっぽいテナーサックス、スタンリー・タレンタンイの熱血ブロー、さらに十八番の美メロを出しまくるデューク・ジョーダンの泣き節アドリブ♪♪~♪
これも地味ながら、何度でも聴きたくなる名演じゃないでしょうか。
09 The Things We Did Last Summer
そしてオーラスは、私の大好きなスタンダード曲♪♪~♪
せつなくもキラキラしたデューク・ジョーダンのイントロに導かれ、ディジー・リースが、あの夏の思い出という胸キュンメロディを吹いてくれますよ。あぁ、本当に泣けますねぇ~~、このジンワリとした雰囲気とメロディフェイクの上手さは絶品です!
そしてデューク・ジョーダンが、これまた気分はロンリーの決定的な名演を披露♪♪~♪ まさに私の大好きなフルコースが、せつなく展開されるのでした。
ということで、以上の4曲も素晴らしすぎる名演ばかりですが、惜しむらくはアナログ盤LPの1枚分には時間的に不足しています。おそらくはそのあたりが、未発表の要因だったのでしょうか……。
しかし、それにしても、この2つのセッションはハードバップ愛好者を狂喜乱舞させるでしょう。と言うよりも、全てのモダンジャズファンは聴いて納得の隠れ名演集だと思います。
ブルーノート、恐るべし!
まだまだ倉庫には、お宝が眠っているんじゃないでしょうか? じっくり発掘作業とか、してみたいですねぇ。