昨夜は友人&お世話になった先輩の訃報、身内の病気、仕事での難問発生と、矢継ぎ早にあって、ケイタイは一晩中フル稼働でした。正直、しんどいです。
虚しさとやるせなさ、ヘヴィな日常生活が重なって、全く我が道を行くことが出来ませんね。
それで本日の1枚はこれを――
■Introducing Wayne Shorter (Vee Jay)
タイトルどおり、ウェイン・ショーター(ts) の初リーダー盤ですが、愕くなかれ、これが資料的には公式で2度目のレコーディングとなっており、それでも完全に自己の世界を表現してしまったという! 本当に絶句です。そして、この我が道を行く潔さは羨ましい限り!
もちろん、当時すでにジャズ・メッセンジャーズに加入していたショーターは、バリバリの看板だったわけですが、そのバンドでの録音に先駆けてデビュー盤を出している事実にも、ご注目♪
録音は1959年11月で、メンバーはジャズ・メッセンジャーズの同僚であるリー・モーガン(tp) が相方、迎え撃つリズム隊はウィントン・ケリー(p)、ポール・チェンバース(b)、ジミー・コプ(ds) という、これまた当時のマイルス・デイビスが雇っていた黄金のトリオですから、当に時代の最先端を行く演奏が残されたのも自然の流れです。
というか、それを目論んで、このメンバーを召集したとも言えるのですが、演目は1曲を除いて全てショーターのオリジナルで固めているという意欲作になっています。しかも妥協がありません。
まずA面1曲目の「Blues A La Carte」からして、通常のブルース進行では無く、中間にモード構成のパートを入れた変則パターンが、逆に聴き手の心を刺激してきます。もちろんテーマ・メロディもスピード感があってカッコ良く、アドリブ・パートではショーターが何時の間にかそこへ滑り込んでいるという鮮やかさが最高です♪ しかも演じられるアドリブ・メロディが従来のモダンジャズのお約束のフレーズから完全に逸脱したものになっているのです♪
それは続くリー・モーガンやウィントン・ケリーのアドリブを聴くと分かります。ショーターのアドリブがあまりにも奇々怪々なので、そこに入ってホッとしてしまうのです。これは現在の耳で聴いてそうなのですから、当時は驚異的に新鮮だったと思われます。
そのあたりは2曲の「Harry's Last Stand」でも顕著で、前曲同様のテンポで聴き手を突き放すような演奏に終始します。ただしこちらは通常のブルース進行なので、ファンキー味のテーマで若干の和みも漂います。
しかし先発のアドリブを披露するショーターが、そんなお約束をぶっ飛ばす過激な因数分解的フレーズばかりを吹くのですから、続くリー・モーガンやウィントン・ケリーがいくら十八番のリックを繰り出しても、時、既に遅しという演奏に終始してしまうのでした。
しかも3曲目の「Down In The Depths」では、その傾向が尚更に強まっていき、景気の良いイケイケのテーマと全くショーターだけの独自なフレージングが完全に活きた物凄い演奏が完遂しています。それはコルトレーンの影響を含みつつ、音の跳躍とかリズムへのアプローチ、そしてショーターの元々の感性が従来のモダンジャズとは異なっている証明だと思います。
はっきり言うと、以上のA面の3曲を聴きとおして、楽しいという気分にはなれません。しかし、ジャズの持っているスリルとサスペンス、クールな情熱という部分は超満点です♪ この聴き手を突き放すようなカッコ良さこそ、モダンジャズが次なるステップに駆け上がる大切な要素だったと、今では分かりますが、当時はどうだったのでしょう……?
それはB面に入っても変わることのないペースで進み、「Pug Nose」では、後にショーターの特徴と言われる「黒魔術」趣味がほんのりと出ているようなテーマが魅力的です。それは独特のクールさが表出している曲調を情熱的にアドリブしていくメンバー全員の意思統一に繋がり、全く聴き手に媚びることの無い演奏になっています。
続く「Black Diamond」は、スピード感溢れるハードバップ調ということで、このアルバムではやや異色ではありますが、ショーター初期の名曲として人気が高く、もちろん素晴らしい快演になっています。とは言っても、ショーターのアドリブは相変わらずモダンジャズのお約束のフレーズを出してきません。ウネウネ・モクモクと変態モード一本やりになっています。しかしそれが快感♪ この鮮烈さがショーターの、今日まで変わらぬ魅力だと思います。もちろんリー・モーガンも熱く燃えていますし、リズム隊のシャープさは言わずもがな!
こうして過激な演奏が続いた大団円には、人気スタンダードの「Mack The Knife」が用意されていますが、これが楽しくて、やがて悲しきなんとやら……♪ ショーターの容赦ないアドリブ攻撃で魅惑のテーマが徹底的に変形されていきます。しかしそれを救うのがリー・モーガンのジャズ魂というか、楽しくやって何故悪いという居直りがウィントン・ケリーにも伝播して、白熱の演奏と化していくのでした♪
ということで、このアルバムは従来のジャズとは決別している部分が大部分を占めていると思いますが、けっして破天荒な作品ではなく、とてもカッコイイ演奏集です。ただし、聴き手を徹頭徹尾、突っぱねているような態度があるのです。
ですから正直、聴いていて疲れます。しかしそれがまた、快感でもあるのです。つまりショーター節にシビレている者にとっては、かけがえの無い演奏ばかりというわけです。その感覚はコルトレーンでもソニー・ロリンズでもない、ましてやハンク・モブレーやスタン・ゲッツでもない、ショーター独自のテナーサックスの美学! やはりジャズの歴史上では確固たるスタイルをそのデビュー当時から持っていた、偉大なるスタイリストだということです。
と、本日も断言しておきますが、全体に鋭く完璧なリズム隊の存在なくして、このセッションの成功は無かったと思います。特にジミー・コブのクールで重いビート、小気味良いオカズと合の手の入れ方は最高です! そこに集中して聴くと、また別の感動が押し寄せてくるという、言わば一粒で二度美味しいグリコ盤なのでした。力、つきますよ♪ ちなみに現行CDはボーナストラックのおまけが付いています。
そんな折に時間をかけて書いたでしょう、
このブログ。
脱帽です。