OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

食欲の名盤

2006-01-30 18:10:40 | Weblog

何だか今日は、異常に食欲がありました。昼メシの弁当食べた後に、頂き物のバナナを4本、フライドチキン2切れ、お茶の時間に大福食って、今またコロッケパンを手にして、これを書いています。

この後に晩メシ食う気でいるんですから、自分でも吃驚というか、ストレスがたまっているんでしょうか……。

でも若い頃は、これぐらは平気で食えましたがね、そんな当時に流行っていたのが、このアルバムです――

Weather Report (Sony)

昨日ご紹介したウェイン・ショーターといえば、やはりウェザー・リポートですね。う~ん、懐かしい。もちろん賛否両論ありましょうが、1970年代のジャズ界を大いに面白くしたのが彼等でした。これはそのデビュー盤です。

ウェザー・リポートが画期的だったのは、ロックバンドのように最初からグループとしてデビューしたことで、これは当時のジャズ界では珍しいことでした。そしてジャケット裏にクレジットされたメンバーは、ウェイン・ショーター(ts,ss)、ジョー・ザビヌル(key)、ミロスラフ・ヴィトウス(b)、アル・ムザーン(ds,vo)、アイアート・モレイラ(per) とされていますが、実際の録音にはバーバラ・バートン(ds) が加わっているようです。

ちなみにこのセッションは1971年の2月、発売は同年9月頃だったと思いますが、忽ち「新しいジャズ」として、もてはやされました。実際、1972年頃のジャズ喫茶では、このアルバムが頻繁に鳴っており、年頭には来日公演も行われたほどです。

しかし実際の現場でのジャズファンが皆、これを素直に認めていたかといえば、もちろん、否です。初めて聴くと、完全に「なんじゃ、これっ!」という松田優作状態だと思います。

なにしろA面1曲目の「Milky Way」が、完全にプログレの世界です。ホワンホワンと蠢くザビヌルのキーボードに対し、時折、フェッフェッと合の手を入れるショーターのサックスだけで、後は得体の知れないノイズというかテープ・ヒスというか、ちゃんとした音のしていない時間が虚しく流れるだけの曲です。

もちろん聴いているこちらは、前述した「なんじゃ、これっ!」です。しかしその2分30秒が過ぎた次の瞬間、ビシバシのドラムスと怒涛のファンク・ベースが炸裂して、2曲目の「Unbrellas」がスタート! これが快感です♪ ここだけを求めて、初っ端からの苦行を耐えると言っても過言ではありません。

ただし演奏そのものにきちんとしたテーマは存在しません。フリーなジャズロックという雰囲気が濃厚ですが、強力なヴィトウスのエレキベースを核とした展開は、リズムパターンを変化させつつ進んでいきます。

そして続く「Seventh Arrow」では、それが暗黙の了解的な4ビートに落ち着き、イノセントなジャズファンは一安心ですが、演奏自体は過激です。特にアル・ムザーンのドラムスは容赦なくビートの嵐を巻き起こしますし、そこに切り込むショーターも無駄口を叩かずに要点だけ言い放つ小気味良さが流石! スパッとした終り方もジャズらしくありませんが、逆に新鮮です。

それを受け継ぐ形で始まる「Orange Lady」は幻想的なザビヌルのエレピに支配されながら、ショーターのソプラノとヴィトウスのベースが連れ添って穏やかなテーマを繰返すという発端から、アイアートの色彩豊かな打楽器が加わって徐々にビートが強くなり、ショーターの一音入魂ともいうべきアドリブが鮮やかです。もちろんそれに絡むメンバーの強かさも魅力的ですが、最後まで権力を失わないザビヌルが一番凄いかもしれません。

B面はその続篇的な「Morning Lake」でスタートしますが、こちらは最初からアドリブ色が濃く、リズムパターンもしっかりしていますので安らぎます。何となく白人ゴスペルの匂いまで漂ってくるのです。

それは次の「Waterfall」でも同様で、メンバー全員が暗黙の了解で爽やかに絡み合いつつ演奏は進みますが、ビートの芯がはっきりしているので疲れません。逆に、醸し出される緊張感が心地良いほどです。ただしそれは、恐らくロックに馴染んでからジャズを聴きだした私のような者に限ってのことかもしれません。個人的にはヴィトウスのリード・ベースに耳を奪われます♪

そしてここまで来ると、次に控える「tears」が過激なスタートになるのは、もう、お約束です。ドスンッと来てビシバシと展開される重たいビートに煽られた暗い演奏、そこに絡んでくる爽やかなコーラスと色彩豊かな打楽器群の響き……。これはもう、ジャズを飛越えてプログレの香りがしてきます。しかもその中で、作者であるショーターが暴れ、ヴィトウスが弾け、アル・ムザーンとアイアートが嵐を巻き起こすのです。おまけにそこで、ひとり冷静なザビヌルが一番輝いてしまうというオチが強烈です。

こうして向かえる大団円の「Eurydice」は、もう皆様ご推察のように、大4ビート大会♪ とにかく全てはこの演奏に収束するためにあったという筋書きが、たっぷり楽しめます。ヴィトウスの強靭なベースランニングと鋭く切り込むアル・ムザーン、そしてギラギラしたザビヌルのコード弾きの妙に煽られて、ショーターも本領発揮というか、唯我独尊のアドリブを全開させます! もちろんザビヌルもエレピで応戦していますが、意外と隠し味で引き立つのがアイアートの打楽器という、これは決定的な名演です♪

というわけで、完全に出来すぎの名盤♪ 実際、かなり作りこまれた演奏ばかりです。そしてそのあたりが、ガチガチのジャズファンからは敬遠されていくのですが、さりとて、このアルバムの価値が下がるとは思えません。

現代の耳では、やや時代遅れの部分も確かにありますが、それが懐かしさに繋がっているところも否定出来ず、私は時たま取り出しては愛聴しています。

ちなみにウェザー・リポートは、もちろん世界中でブレイクしたわけですが、我国に限って言えば、この後の作品はそれほど大きな評判になっておらず、むしろあえて敬遠していたジャズ喫茶さえありました。メンバー・チェンジが頻繁にあったのもマイナスだったようです。そしてついに万人に認められたのが1976年、つまりジャコ・パストリアス(b) が参加した「ブラック・マーケット(Sony)」の発売まで待たねばならなかったのです。

その意味で、このデビュー盤は最高の出来を示しているわけですが、聴いてるうちにマイルス・デイビスのトランペットが欲しくなる瞬間が、確かにあります。それはメンバーのほとんどがマイルスのバンドに雇われていた履歴があるためですが、逆に言えば、マイルスがショーターやザビヌルの才能を頼りにしていた証でもあるわけで、このアルバムのルーツともいえる「インナ・サイレントウェイ / マイルス・デイビス(Sony)」も合わせて聴けば尚一層、楽しみが深くなると思います。

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