■Hollies Sing Dylan (Parlophone)
リーダー格のグラハム・ナッシュが抜けてから初めて出されたホリーズのアルバムです。
内容はタイトルどおり、ボブ・ディラン作品集という企画物!?!
A-1 When The Ship Comes In / 船が入ってくるとき
A-2 I'll Be Your Baby Tonight
A-3 I Want You
A-4 Wheels On Fire / 火の車
A-5 I Shall Be Released
A-6 Blowin' In The Wind / 風に吹かれて
B-1 Quit Your Low Down Ways
B-2 Just Like A Woman / 女の如く
B-3 The Time They Are A'Changin' / 時代は変わる
B-4 All I Really Want To Do
B-5 My Back Pages
B-6 Mighty Quinn
発売されたのは1969年ですが、ここへ至るには例えばアルバム「バタフライ」やシングル「キング・マイダス」等々、グラハム・ナッシュが主導していたサイケデリック路線の惨めな失敗が要因だったと言われています。確かに今日では、それらの諸作は再認識されていますが、明快なコーラスワークとメリハリの効いたギターサウンドをウリにしていた所謂ホリーズスタイルに馴染んでいたファンにとっては、違和感がたっぷりだったという推察は容易です。
リアルタイムのサイケおやじにしても、やっぱり「Bus Stop」を何時も求めてしまっていた気持を否定出来るものではありませんでした。
そして昭和43(1968)年の来日公演後から、グループ内のゴタゴタの末にグラハム・ナッシュは脱退というニュースが洋楽マスコミで伝えられ、それでも翌年春にはポップス王道路線の「ごめんねスザンヌ / Sorry Suzanne」という、まさに起死回生の傑作曲を出しながら、ホリーズは時代遅れに……。
で、そういう流れを決定的にしたのが、本日ご紹介のアルバムでした。
既に述べたようにサイケデリック路線の不発を反省したホリーズは、1968年秋に「ベストで行こう / Do The Best You Can」という素敵なフォークロックのシングル曲を出したのですが、本国イギリス以外では、ほとんど無視状態……。
しかし結局、この方向性に確信を抱いていたレコード会社とバンドは、次にボブ・ディランの楽曲をホリーズスタイルでカパーする企画を立案するのですが、これに断固反対していたのがグラハム・ナッシュだったというわけです。
なにしろ、そういうものは既にザ・バーズ等々がやりつくしたものでしたし、同じボブ・ディランのカパーなら、ザ・バンドのような力強くてファンキーなロックでやるのが当時の流行になっていましたから、企画そのもの云々よりも、ホリーズというグループの特性を勘案すれば、グラハム・ナッシュの危惧も……。
また何よりも、自分達独自の主張を盛り込んだ歌をやりたかったのかもしれません。
こうしてグラハム・ナッシュはホリーズを辞め、渡米してスティーヴン・スティルスやデヴィッド・クロスビーとの交流からCS&Nを結成するわけですが、ご存じのとおり、デヴィッド・クロスビーはボブ・ディランの楽曲をフォークロックでカパーする元祖だったザ・バーズのメンバーでしたから、なんという因縁でしょう。
というか、既にそうしたスタイルが古くなっていた現実を誰よりも察知していたのが、件のふたりだったのかもしれません。
しかし、このアルバムはなかなか素敵な仕上がりなんですよねぇ~♪
録音は1968年の秋からスタートしたそうですが、既にグラハム・ナッシュは脱退を表明しながら、数曲では演奏&コーラスパートに参加しているという説もあります。しかし完成したアルバムのジャケットには当然ながらグラハム・ナッシュの姿と名前が消えており、代わりにテリー・シルヴェスター(g,vo) を加えての当時のメンバーはアラン・クラーク(vo,hmc)、トニー・ヒックス(vo,g,etc)、バーナード・カルバート(b,g,key)、ボビー・エリオット(ds,per) が新生ホリーズでした。
まずA面初っ端の「船が入ってくるとき」は、バンジョーを大きく前面に出した軽快なアレンジと十八番の爽やかコーラスがジャストミートの名演なんですねぇ~♪ それも決してカントリーロックではなく、明らかにホリーズだけのスタイルを守り貫いているのが本当に潔いです。
また些かベタなハーモニカが逆に心地良い「I'll Be Your Baby Tonight」や気抜けのビールみたいな「I Want You」でも、きっちりとやっています。しかし、それが裏目に出たとしか言えないのが、ザ・バンドの演奏で定番化している「火の車」や「I Shall Be Released」でしょう。
なんか、気恥ずかしくて……。
そうした二律背反は、しかしホリーズの特徴が、ここぞとばかりに発揮された証明でもあって、力強さとか、スワンプとか、そういう粘液質なものとは相容れないスマートさがホリーズだけの魅力なのです。
その意味でオーケストラをバックにした「風に吹かれて」は、完全に時代に逆行しているとしか言えませんが、当時の現実は決してロックがバリバリの流行ではなく、こうした中道ポップスも大いに売れていたのですから、あながち間違った方針ではなかったと思います。
ただし、それが後世まで名演名唱として残っていくかと言えば……。
ですからB面に収録された「All I Really Want To Do」や「My Back Pages」といった、既にザ・バーズの素晴らしいフォークロックで大ヒットした有名曲は、本音で苦しいです。どうしても、そのイメージで聴いてしまいますから……。
しかし強烈なR&Rビートとコーラスワークが冴えまくった「Quit Your Low Down Ways」は、本当にホリーズでなければ成しえなかった秀逸な仕上がり♪♪~♪ もしかしたらビートルズがディランをやったら、こうなる!? という感じさえするんですよねぇ~♪
そして「女の如く」が、これまた白人ゴスペル風味とモータウン系ポップスのアレンジが見事に融合した隠れ名演で、ストリングスやオーケストラの使い方もイヤミになっていません。
さらに中期キンクス風アレンジがニクイばかりの「時代は変わる」、英国トラッドとカントリーロックをゴッタ煮として、ブラスまでも導入した「Mighty Quinn」の娯楽感♪♪~♪
もう、このあたりを聴いていると、これは立派なポップスアルバムの秀作!
そうです、ホリーズはポップスグループの王者だと思います。
そして、その認識が目覚めた後のサイケおやじは、このアルバムが愛おしい♪♪~♪
ボブ・ディランのポップス的な解釈としては、モダンフォーク寄りのピーター・ポール&マリーを筆頭に、星の数ほどのカパーが残されてきましたが、ここまでブリティッシュビートに拘ったスタイルは、まさに温故知新でしょう。
ただし既に述べたように、ここらあたりを境にして、ホリーズはロックバンドからポップスグループへと定着していったように思います。一方。グラハム・ナッシュはCS&Nとして大ブレイクし、新しいロックを牽引していったのも、なかなか味わい深い別れ道なのでした。