猛暑も一段落したと思えば、またまた各地で地震が頻発!
全く落ち着かない夏ですねぇ。
こんな時は、せめて自分の体調管理にだけでも気をつけないと……。
と自戒しつつ、本日は――
■Soulmates / Ben Webster & Joe Zawinul (Riverside)
う~ん、このアルバムを知った時の衝撃は、今も鮮烈です。なにしろベン・ウェブスターはスイング派のテナーサックス奏者として歴史に名を残す巨匠ですし、ジョー・ザビヌルはフュージョン最前線のバンドだったウェザー・リポートのリーダーですから!
それは1977年の夏の終り頃、某ジャズ喫茶へ入店した時に鳴っていたのが、このアルバムでした。当時はクロスオーバー&フュージョンの全盛期で、多くのジャズ喫茶が4ビート以外のアルバムも鳴らしていたんですが、まさかジョー・ザビヌルがこんなアルバムを作っていたとは、驚愕でした。
もちろん中身は正統派モダンジャズ! タイトルの「ソウルメイツ」は、このアルバム製作当時、2人が同じアパートに住んでいた事から命名されたと、原盤ジャケット裏解説に記してあります。
その頃の2人の立場は、ちょっと対照的で、ベン・ウェブスターは巨匠でありながらアメリカでの仕事が減少し、結果的に渡欧する直前であり、一方のジョー・ザビヌルはキャノンボール・アダレイ(as) のバンドではレギュラーのピアニストであり、また有能な作編曲家として注目を集めていた時期でした。
そこで作られたアルバムですから、ジャケットには堂々とした貫禄を見せつけるベン・ウェブスターと後方で柔らかな自信を漂わせるジョー・ザビヌルの佇まいが、なかなかに印象的です。
録音は1963年9月と10月、メンバーはベン・ウェブスター(ts)、ジョー・ザビヌル(p)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ds) を中心に9月のセッションではリチャード・デイビス(b) を入れたカルテット編成、また10月のセッションはサド・ジョーンズ(cor) とサム・ジョーンズ(b) を入れた2管クインテットで正統派の演奏が展開されています――
A-1 Too Late Now (1963年9月20日録音 / Quartet)
大勢のポピュラー系歌手が演目にしている、比較的新しいスタンダード曲で、スローな展開の中に抑えた「泣き」のメロディが印象的ですから、ベン・ウェブスターは俺に任せろ! ジンワリとしたテーマの解釈とサブトーンを駆使した吹奏は、膨らみと余韻がたっぷりで、尚且つ、繊細な表現にも長けた世界が堪能出来ます。
ややエコーが効いた様なテナーサックスの録音の仕方も素晴らしいと思います。
そしてジョー・ザビヌルはセンスの良いイントロから正統派の伴奏、さらに新鮮な響きを感じるアドリブまで、その完全無欠のサポートには、本当に好感が持てますねぇ。
独り聴いていると、高級クラブに居るような錯覚に落ちてしまいます。もちろん横には、静かに寄り添う美女がいるような……♪
A-2 Soulmates (1963年10月14日録音 / Quintet)
アルバムタイトル曲はベン・ウェブスターのオリジナルで、これがファンキーなハードバップのブルース大会! フィリー・ジョーのシンバルとジョー・ザビヌルのイントロからイカシた世界ですが、ミディアムテンポのタメを最大限に活かした2管のテーマ吹奏が、これまた、たまりません。
アドリブ先発はサド・ジョーンズは思わせぶりに撤しすぎて、やや調子が出ていない雰囲気ですが、ベン・ウェブスターは自身の古いスタイルを逆利用した余韻と力みのバランスが流石の貫禄です。
またジョー・ザビヌルのアドリブはウイントン・ケリー丸出しで、目隠しテストでは誤答が頻発するのでは? 実にファンキーですよっ♪
ちょっとクセになりそうなラストテーマの合奏も、味わい深いところだと思います。
A-3 Come Sunday (1963年9月20日録音 / Quartet)
デューク・エリントンが書いた荘厳な名曲ですから、同楽団の花形だったペン・ウェブスターにとっては十八番! ここでもサプトーンを活かしきった吹奏に、その全てが表現されています。
リチャード・デイビスの弓弾き伴奏も素晴らしく、ですからリズム隊の新しい感覚が上手くミスマッチの面白さを醸し出していて、これぞ名演になったと思います。
ここでのジョー・ザビヌルがビル・エバンスになりそうなところも要注意でしょうか♪
またジョン・コルトレーン(ts) やファラオ・サンダース(ts) あたりのスピリッチャルな演奏のルーツを感じるのは、私だけでしょうか?
A-4 The Governor (1963年10月14日録音 / Quintet)
再びクインテットで演奏されるのは、ベン・ウェブスターが書いた楽しいモダンジャズ曲です。ちなみにタイトルはデューク・エリントンのニックネームのひとつだとか! その所為か、ジョー・ザビヌルは要所でエリントン風のピアノスタイルを聞かせてくれます♪
そしてベン・ウェブスターが力みのグイノリで熱演すれば、サド・ジョーンズは中間派的なノリで快演を披露しているのです。
さらにリズム隊の快適なグルーヴも素晴らしく、ジョー・ザビヌルは、またまたウイントン・ケリーになってしまいましたねっ♪
B-1 Flog Legs (1963年10月14日録音 / Quintet)
今度はベン・ウェブスターのニックネームにちなんだジョー・ザビヌルのオリジナル曲で、とても新主流派の色合が強いテーマメロディが印象的です。
う~ん、こういう先進的な曲をスイング派のベン・ウェブスターが違和感無く吹奏してしまう恐ろしさ! というか本物のジャズはスタイルやジャンルの垣根なんか関係無い! という真実を聞かせてくれます。
実際、ここでのブリブリにノリまくったベン・ウェブスターを聞いていると、そういう思いにしかなりません。
またサド・ジョーンズの大らかなノリも素晴らしいですねぇ。それとハードバッブ真っ只中のリズム隊が、やっぱり強力です♪
B-2 Trav'lin' Light (1963年9月20日録音 / Quartet)
またまたベン・ウェブスターのバラード世界が堪能出来る演奏です。しっとりとした情感溢れる吹奏は、テナーサックスの魅力がたっぷり♪ やや軽い雰囲気の音色とテーマの解釈は、もはや人間国宝と言ってよいかもしれません。
それとジョー・ザビヌルが歌物に上手さを発揮した代表的な名演になっていると思います。こういうセンスの良さが、当時、各方面から注目されていた実力の証明でしょうか。
ラストテーマに繋げていくベン・ウェブスターは、唯我独尊の輝きです♪
B-3 Like Someone In Love (1963年9月20日録音 / Quartet)
これは良く知られたテーマメロディですから、ベン・ウェブスターの和みの演奏に浸りきって安心の世界が展開されます。
快適なリズム隊を従えて悠々自適に吹奏するベテランの味わいと、実は自己主張が強いリズム隊のコントラストが、楽しい快演になりました。
B-4 Evol Deklaw Ni (1963年10月14日録音 / Quintet)
オーラスはサド・ジョーンズのオリジナル曲で、ジャズ業界特有の逆さ読みで「In Walked Love」になる、楽しく小粋な名曲・名演です。
バラけているようで、実は弾みまくったリズム隊の快適さ♪ ベン・ウェブスターは自分が一番信じているような中間派っぽいスタイルで押しまくり、サド・ジョーンズはモダンスイングをオトボケで解釈したような楽しいアドリブで、場を盛り上げていくのでした。
ということで、決して熱気溢れる大名演集ではありませんが、余裕と和み、新鋭とベテランの信頼関係が上手く機能した好盤だと思います。もちろん共演者には、ベン・ウェブスターに対する敬意のようなものがあったはずですから、かなり緊張感が漂った部分も感じられますが、それが良い方向に作用したのかもしれません。
既に述べたように、欧州から渡米してきたジョー・ザビヌルは、この後に大ブレイクし、また逆に欧州での活動を選択したベン・ウェブスターは最後の一花を異国で咲かせるわけです。その分岐的に位置したセッションとしても忘れられない1枚だと思います。