最初っから全てが分かっているわけではない、それでも、分かったフリをしなければならない時があります。
私の場合、どうもそのあたりが苦手で、だから何時も軽く見られてしまうんですが……。実際、軽いんだから、どうしようもありませんね、ははは……。
ということで、今日のBGMは――
■Music From Big Pink / The Band (Capitol)
名盤! 出た瞬間から名盤だと言われていました。
クラプトンがとても気に入っているとか、ディランのバック・バンドだったとか、とにかくこのアルバムが出たのは1968年、つまり昭和43年頃でしたが、ラジオで音楽系のDJとしてはマニアックな業界話が面白かった福田一郎あたりが凄い、凄いと言うのです。でも当時の私には、放送された彼等の歌と演奏を聴いても、全然、ピンっときませんでした。変な曲ばっかりだと???
おまけに彼等の写真を見ると、全員が全くロックしていないというか、どこのおやじだ? っていう前世紀の田舎者スタイルでした。
分からなかったのですよ、彼等のやっていることが。
彼等のやっていることは、ジャズもブルースもゴスペルも民間伝承歌も、そしてユダヤ人モードでつくられたアメリカン・ポップスも、さらにカントリーやR&B、ロックンロールも全て聴いた後でないと、分からないように出来ていたんです。
ですから後年、そういうアメリカ音楽を一通り聴いた後に、このアルバムを聴いて、仰天させられました。一番驚愕したのは、アメリカ音楽からユダヤ人モードを極力、排除しようとしていたことです。
当時の私が洋楽として聴いていたのはユダヤ人モードで作られた曲、つまり普通のポップス系ロックでしたから、ザ・バンドの歌う曲が変に聴こえたのは当たり前だったんです。
もちろん当時の流行だったギターの弾きまくりも無いし、さらに歌詞が親子断絶だとか、神様に見捨てられたとか、人間不信だとか、そんな人生の機微を歌っているんですから、当時中学生の私には理解の範疇を超えていたんですね。
ということで、これは中高年向けに作られたロック・アルバムだったんじゃ……?
すると元祖AORは、これってことになるんですね、ははは……。
あと、グループ内にはリチャード・マニエル、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルムという優れたボーカリストが3人いますが、彼等はそれぞれ、自分なりにレイ・チャールズを目指していたことに、最近、気がつきました。
演奏力の凄さは言わずもがな、これを理解するためには、まずアメリカ音楽全般を聴いてみましょう。経験の浅い中学生がこれを聴いて、凄いってわかったら、その人の感性は天才だと、私は思います。
ちなみに今の私は、これ無しには生きられないという名盤症候群です。