5月25日(月): 副題「一人一人の性のあり様を大切にするために」
294ページ 所要時間 2:40 図書館
野宮 亜紀(著), 針間 克己(著), 大島 俊之(著), 原科 孝雄(著), 虎井 まさ衛(著), 内島 豊(著)
MTF1、FTM1、弁護士1、医師3。この問題に取り組む第一線の当事者たちが祈りを込めて書くことで、行き届いた内容の本になっている。本書のおかげで、MTFの友人の思いにほんの少しだけ近づけた気がする。
LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)という言葉をよく耳にするようになったが、その意味するところを分かっていない自分にいら立って図書館で借りた本である。結論から言えば、LGBTと総称されているが、各々が違う概念・存在である。
性同一性障害に当たるのはトランスジェンダーであり、「障害」という言葉の不当性を和らげるための言いかえに使われる言葉である。心が女性のMTFと心が男性のFTMについて、彼女、彼らの実体とこの社会の居心地の悪さの切実さ、本来の性である心の性に身体を合わせることの意味と手続き、それだけでは解決にならない現実などが当事者の言葉で丁寧に書かれている。
性同一性障害者は、同性愛者とひと括りにされやすいが、別の存在として捉えるべきである。この問題は世界で現在進行形で進められており、日本もやや遅れてはいるが、
状況は日々刻々変わっている。本書が出た2011年から既に4年が経つ。実際、この4年でLGBTという言葉が人口に膾炙するようになったことを思えば、本書の内容自体やや古くなっているものと考えるべきだろう。
マイノリティの人権を考える時には、人間の尊厳を前提に、多様性を尊重し、面白がるくらいの寛容さを持たねばならない点は、すべてに通底する。しかし、一方でそれを強調し過ぎて各々の当事者が持つ固有の問題やしんどさ、居心地の悪さをとばしてしまうと、日本共産党が歴史的に犯してきたマイノリティ団体に対する上から目線の無謬性強調・指導(してやる)の過誤におちいる。
俺は共産党の講座派ではなく、労農派だ。当事者を見下ろすのではなく、寄り添いたいし、それしかできない。あまり分かる分かると強調するよりも、心を寄せながらも当事者にしか背負えない哀しみ、居心地悪さが残ることを銘記して、その部分は他者には理解し切れないと謙虚になるべきだろうと考える。
ちなみにMTFが3万人に1人,FTMが10万人に1人という統計(42ページ)には、少し驚いた。最近30人に1人ぐらいいるので1クラスに1人位はいるという話はトランスジェンダーではなく、LGBT全体ということなのか? ちょっと分からなくなった。
ウィキペディア:
LGBTにクィア(Queer)のQを加えたLGBTQという表現も一般的に使われている。一方、Intersex(インターセックス、男性と女性の両者の性的な特徴と器官がある人)はLGBTにIを加えたLGBTIという表現の使用を提案しており、この表現も様々な活動において用いられている。 このような人々が自分たちの性を認め、公表できるかどうかは、彼らが住む地域にLGBTとして生きる権利が認められているかどうかに依ると言える。
紹介文:
※戸籍上の性を変更することが認められる特例法が二〇〇四年から施行され、日本でも性同一性障害が社会的に認知されるようになった。しかし、いまだ誤解や偏見もあり、当事者を取り巻く環境は厳しい。本書は性同一性障害とは何かを理解し、治療や性別変更の手順、また、現実社会で生活していくために、当事者やまわりはどうすればよいか、をQ&A形式でやさしく解説。発売以来五刷りを重ねた入門書として定評の高いロングセラーに最新情報をプラスした改訂版。(2011.2)
※あなたの悩みに答え、みんなの誤解と偏見をなくす!
戸籍上の性を変更することが認められる特例法が今国会で可決された。性同一性障害は、海外では広く認知されるようになったが、日本はまだまだ偏見が強く認められることは難しい。性同一性障害とは何かを理解し、それぞれの生き方を大切にするための入門書。医学、法律を含め専門家が分担をして執筆。
性同一性障害って何?からはじまり、具体的な治療について、生活や学校・職場の問題、法律や性別変更の仕方まで、49の質問を一つ一つわかりやすく解説する。
■内容構成: 性同一性障害って何?/ 性同一性障害の治療/ 性同一性障害と生活・仕事/ 性同一性障害と法律・社会/ 終わりに
資料1 性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第三版)
資料2 性同一性障害のための医療機関等リスト
資料3 性同一性障害/トランスセクシュアル/トランスジェンダーの自助支援グループ
[Qの例]
性同一性障害は病気なのですか?/ だれに相談すればいいのですか?/ ホルモン療法ってどういうものなのですか?/ 性別適合手術ってどうゆうものなのですか?/ 職場に性同一性障害をもつ人がいたら、どう扱うべきでしょうか?/ どのような手続きで性別を変更するのですか?
【著者紹介】
野宮亜紀 : 東京生まれ。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業。1998年より、性同一性障害/トランスセクシュアル/トランスジェンダーの自助・支援グループ「Trans‐Net Japan:TSとTGを支える人々の会」運営メンバー。和光大学非常勤講師
針間克己監修 : 東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部大学院博士課程修了。医学博士。日本性科学学会幹事長。性同一性障害研究会理事。日本精神神経学会「性同一性障害に関する委員会」委員。The World Professional Association for Transgender Health(WPATH)会員。専門:精神医学、性心理障害。2008年4月、千代田区神田小川町にて、はりまメンタルクリニック開院
大島俊之 : 弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同、大阪弁護士会)。大阪大学法学部卒。法学博士。大阪府立大学の専任講師、助教授、神戸学院大学の法学部教授、法科大学院教授、九州国際大学大学院法学研究科長を経て、現職。カナダ首相出版賞受賞(1999年)。尾中郁夫・家族法学術賞受賞(2003年)。GID(性同一性障害)学会前理事長
原科孝雄 : 1939年生まれ。1965年慶応義塾大学医学部卒業。形成外科学教室入室。1973年マイクロサージャリーの研究のため米国留学。1984年同助教授。1987年埼玉医科大学総合医療センター教授(川越市)。1995年性別適合手術を同大学倫理委員会へ申請。1998年わが国で始めての公けの性別適合手術を行なった。日本形成外科学会、日本マイクロサージャリー学会、性同一性障害研究会の会長、また、性同一性障害研究会理事長、日本性科学会会長を歴任
虎井まさ衛 : 1963年東京生まれ。作家。「オフィス然nature」作家。「FTM日本」主宰。著述、講演、東京都人権啓発ビデオ(東映製作)への出演、「3年B組金八先生」第6シリーズへの協力、企画講演の実施など、性同一性障害に関する啓発活動を精力的に続けて20年以上になる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)