12月30日(水):
白井聡フェイスブック 12月29日 9:29
http://ajwrc.org/jp/modules/bulletin/index.php…
本件に関し、私は精通しているわけではないのですが、それでも少々言っておきたいと思います。
まず、多くの方々指摘していることですが、
「最終的、不可逆的解決」を語れるのは、政府ではなく被害者の方々のみです(この論理を否定する立場は、自覚の有無にかかわらず国家主義であると私は思う)。それでは、被害者の方々は、何を基準に「解決とみなせる」と言っているのか。リンク先の声明によれば、「事実の認定、謝罪、賠償、真相究明、歴史教育、追慕事業、責任者処罰」です。
今回の政府間「合意」は、後半四つの項目(真相究明、歴史教育、追慕事業、責任者処罰)に関し、何一つ言及がありません。この点で、今回の「合意」は致命的欠陥に冒されていると私は考えます。
ゆえに、残念ながら、日韓関係の棘であり続けてきたこの問題は、長期的にはまたもやさらにこじれることになるでしょう。合意内容によれば、今後の日本政府の義務は、10億円を払えばそれで終わりになります。例えば、教科書検定等を通じて歴史教育を放棄(より正確にいえば「禁圧」である)しても、文句をつけられるいわれはない、ということになった。他方韓国政府側は、「もう二度と蒸し返さない」ことを義務づけられた。特に難問は、ソウルの日本大使館前の慰安婦像の移動・撤去でしょう。支援者らがこれに抵抗すれば、強権的にやらざるを得なくなります。
両国政府の負った義務の不均衡は明らかだと思います。
なお、「元慰安婦支援団体は韓国における極右的団体であり、彼らは〈反日のための反日〉を事としている」という見方があります。私の経験上、支援勢力の一部にそうした傾向があるということは、信頼できる(と私が思う)筋から聞いたことがあります。しかし、当たり前ですが、すべての支援団体がそのような勢力であるわけがありません。
思うに、日本における北朝鮮拉致被害事件をめぐる状況から推量が可能だと思います。同事件が表面化したとき、「救う会」は「北朝鮮政府を糾弾し、日本政府の不作為に抗議する」というそれ自体は真っ当な主張を展開しました。しかしながら、「救う会」が喧伝し始めたイデオロギーを見ると、「真っ当な主張」の動機が真っ当でなかったことが、明らかになりました。
彼らの多くが、本当のところ被害者やその関係者の救済を望んでいるのではなく、一方的な被害者の立場を利用して思う存分ナショナリズム感情を満喫したいという動機に駆られているにすぎなかった。このことについては、蓮池透氏が様々な機会で告発しています。どの国でも、同胞が他国による著しく不正な行為の犠牲となったとき、こういうタイプの「愛国者」が必ず発生します。この現象を以って、「元慰安婦支援団体はみんないかがわしい」とする見方は、およそ公正ではありえないでしょう。
最後に、今回の合意に関してポジティブなことがあるとすれば、次のことでしょう。まず、
安倍晋三氏は、「国家の関与は証明されていない」といった類の妄言を二度と口にできないであろう、ということ。このことは、この世の中から不快なことをほんの少しだけ取り除いてくれる。それからもう一つは、
今回の「合意」形成の経緯から、「日本の歴史修正主義者が歴史を修正できる範囲は、アメリカが決める」という構図があらためて周知されたことかもしれません。
自国の歴史もアメリカ様から与えてもらう「愛国者」! この惨めな現状がさらされたことは、一つの前進かもしれません。