もみさんの一日一冊遊書録( 2011年9月1日 スタート!: メメント・モリ ) ~たゆたえど沈まず~

年とともに人生はクロノロジー(年代記)からパースペクティブ(遠近法)になり、最後は一枚のピクチュア(絵)になる

150215 衆参両院の「テロ非難決議」を非難する!「テロの本質」を真面目に語る政治家はいないのか!

 真面目に「テロの本質」を考えれば、その原因が、決して宗教の違いにあるのではなく、世界的に広がる富の偏在、極端な格差拡大、差別構造の継承、及びパレスチナ問題、それらによる<若者たちの絶望>にあることは、実は誰もがわかっていることだろう! それを「世界には凶悪なテロリストが大勢いて、こいつらを叩き潰せばテロが無くなる」なんて話に無理やりすり替えている。誰も、「テロの本質が、日本・世界の社会構造が抱える富の偏在・格差の拡大及びパレスチナ問題の<野放し状態>にこそある」という本質を語らないし、見させようとしない。そして、凶悪なテロリストへの恐怖ばかりを煽りたてている。これはまさにオーウェルの「一九八四年」の世界と同じだ。今回の国会の「テロ非難決議」に社民党・共産党まで加わっていたのには、あきれ果てた。「誰も本質を見ようとしない。」「武力で世界中の<絶望した若者たち>を封じ込めるべきではないし、不可能だ!」

秋原葉月さん「Afternoon Cafe」ブログから

※(1)「もちろん、普通の人間は戦争を望まない。しかし、国民を戦争に参加させるのは、つねに簡単なことだ。とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ」byヘルマン・ゲーリング ※(2)いつの時代も大衆をファシズムに煽動する手口は同じ。なのに同じ手口に何度も騙されるのは過去に学んでいないから。格差を広げ、セイフティネットを破壊し、冷徹な自己責任論が横行する社会を継続させるのは簡単だ。今よりもっと格差を広げ、セイフティネットを破壊する政策をとればよい。そうすれば人々に自己責任論がもっと浸透し、草の根から勝手に右傾化してくれる。

辺見庸さんのブログから

・権力をあまりに人格的にとらえるのはどうかとおもう。口にするのもおぞましいドブの目をしたあの男を、ヒステリックに名指しでののしれば、反権力的そぶりになるとかんがえるのは、ドブの目をしたあの男とあまり変わらない、低い知性のあらわれである。権力の空間は、じつのところ、非人格的なのだ。だからてごわい。中心はドブの目をしたあの男=安倍晋三であるかにみえて、そうではない。ドブの目をしたあの男はひとつの(倒錯的な)社会心理学的な表象ではありえても、それを斃せば事態が革命的に変化するようなシロモノではない。権力には固定的な中心はなく、かくじつに「われわれ」をふくむ周縁があるだけだ。ドブの目をしたあの男は、陋劣な知性とふるまいで「われわれ」をいらだたせ、怒らせるとともに、「われわれ」をして社会心理学的に(かれを)蔑視せしめ、またそのことにより、「われわれ」が「われわれ」であることに無意識に満足もさせているのかもしれない。ところで、「われわれ」の内面には、濃淡の差こそあれ、ドブの目をしたあの男の貧寒とした影が棲んでいるのだ。戦争は、むろん、そう遠くない。そう切実にかんじられるかどうか。いざ戦争がはじまったら、反戦運動が愛国運動化する公算が大である。そう切実に予感できるかどうか。研ぎすまされた感性がいる。せむしの侏儒との「ふるいつきあい」がベンヤミンのなにかを決定した。そう直観できたアレントほどするどくはなくても、研ぎすまされた感性がいる。けふコビトがきた。ミスドにいった。(2015/11/11)

160629 一年前:4 101 柏木ハルコ「健康で文化的な最低限度の生活(1)、(2)」(小学館:2014、2015)4+

2016年06月29日 23時28分48秒 | 一年前
6月29日(水):
4 101 柏木ハルコ「健康で文化的な最低限度の生活 (1)、(2)」(小学館:2014、2015) 感想4→4+
6月28日(日)夜  ※お風呂でまったりと再読。所要時間 3:00    一読目は、すいすいページを進められるが、読み直してみると、ワンシーン、ワンシーンが生活受給者の様子や、福祉事...


160627 71万PV超:

2016年06月28日 21時54分35秒 | 閲覧数 記録
6月27日(月):  記録ですm(_ _)m。ブログの開設から1724日。 

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160620 一年前:150618 藤原帰一の卓説。時事小言「新安保法制 同盟強化より外交力を」(朝日夕刊)

2016年06月21日 00時33分30秒 | 一年前
6月20日(月):
150618 藤原帰一の卓説。時事小言「新安保法制 同盟強化より外交力を」(朝日新聞夕刊)

6月18日(木):卓説なので紹介する。でも考えてみれば当たり前のことを分かりやすく説いているに過ぎないとも言える。昨夜紹介した自民党・村上誠一郎議員もYouTubeの発言で、「<安全...


160620 一年前:150619 最近のイライラの訳 絶対的原則を無視した「量だけの中立性」の欺瞞

2016年06月21日 00時00分28秒 | 時々刻々 考える資料
6月20日(月):
150619 最近のイライラの訳 絶対的原則を無視した「量だけの中立性」の欺瞞と本質の相対化・希薄化
6月19日(金):最近のTVニュースや、新聞報道に対する不信感・いら立ちの中心にあるのは、安保法制の問題にしても、派遣法改悪にしても何でも、政府による憲法違反や人権・常識として論外な...

160620 一年前:4 097 山本おさむ「今日もいい天気 原発事故編」(双葉社:2013) 感想4+

2016年06月21日 00時00分13秒 | 一年前
6月20日(月):
4 097 山本おさむ「今日もいい天気 原発事故編」(双葉社:2013) 感想4+ 
6月19日(金):  305ページ   所要時間 3:05    図書館著者59歳(1954生まれ)。漫画家。 本書は新聞「赤旗」日曜版の連載1年分をまとめたもの。著者は、埼玉...


160618 朝日デジタル:(考論 長谷部×杉田)参院選を前に、見つめ直す

2016年06月18日 21時35分53秒 | 時々刻々 考える資料
6月18日(土):

朝日デジタル(考論 長谷部×杉田)参院選を前に、見つめ直す  2016年6月18日05時00分
  写真・図版 改憲3分の2ラインとは/有権者が「重視する政策」は

  消費増税の再延期をめぐり、参院選で「新しい判断の信を問う」とした安倍晋三首相。長谷部恭男・早稲田大教授(憲法)と杉田敦・法政大教授(政治理論)の連続対談は今回、22日の公示を前に、この選挙で問われる日本政治のありようを見つめ直す。

 ■過去を消す政権、人々は慣れたのか 長谷部/与党、白紙委任しろと言うのに近い 杉田
  長谷部恭男・早稲田大教授 安倍晋三首相は6月1日に記者会見し、消費増税の再延期について「参院選で国民の信を問いたい」と述べました。でも第1次政権の時、参院選に政権の信任はかかっていないから、負けても首相は辞めなくていいと言われていたはずです。私はその理屈はあり得ると思いましたが、なぜ今回、参院選で信を問う気になったのか。これも「新しい判断」でしょうか。
  杉田敦・法政大教授 「アベノミクス」の果実が目に見えないのは、まだ「アベノミクス」が足りないからだ――。これが首相の論法です。しかし、これは、ギャンブルに勝てるまで賭け金を積み続ければいいという論理に似ている。期限を区切って、「こういう数字を出す」と具体的に約束するのでなければ、国民としては評価のしようがありません。
  長谷部 ただ安倍さんは、前回総選挙の時も、消費増税を再び延期することはない、増税できる経済状況に持って行く、断言すると言っていました。それを「新しい判断」と言ってチャラにしたのに、人々はさほど怒っていない。ペンキを塗り重ねて過去をなかったことにしてしまう、政権の行動様式に慣れてしまったのでしょうか。
  杉田 集団的自衛権の行使容認は事実上の解釈改憲でしたが、政府は「新しい解釈」で押し通しました。今回の「新しい判断」と構造が似ていますね。
  長谷部 日本をとりまく国際環境が変化したから、集団的自衛権の行使を認めるのだと言いつつ、どこがどう変わったか明確な説明はなかった。消費増税の再延期をめぐる「リーマン・ショック級」という理屈はさすがに通用しないのでひっこめましたが、理由がないという点で同じです。
  杉田 安倍さんは昨年、集団的自衛権の行使は限定的だと国会で何度も断言していましたが、「新しい判断」が通用するなら、これだって覆せる。
  長谷部 民主党政権に対して、マニフェスト違反だ、嘘(うそ)をついたと怒っていた人たちはどこに行ったのでしょうか。
  杉田 もともと、人々はなぜか保守の嘘には寛容で、リベラルの嘘は許さないという政治的非対称性がありますが、それにしても行き過ぎの感があります。
  長谷部 今回の参院選は、争点がよくわからない。世論調査では、社会保障や景気・雇用を参院選で重視するという有権者が多いようですが、与党は民進党の政策を次々と採りいれているので、与野党の違いがはっきりしない。それで争点になるんですか。
  杉田 ならないでしょうね。与党は、要は自分たちに白紙委任しろと言っているのに近い。それに対抗する野党が争点化すべきは、首相が消費増税について2年前の約束をほごにした政治責任。もうひとつは、「アベノミクス」が失敗したのではないかという点です。この2点については有権者の関心も高く、はっきりと検証できますから。

 ■「改憲」埋没している 杉田/立憲主義あってこそ 長谷部
  長谷部 自民党はいま、憲法改正について発言を抑えています。しかし改憲に必要な「3分の2」の議席に届いたら、「改憲する」と言い始めるのは目に見えています。有権者はそのことも頭に置いた方がいい。
  杉田 その通りです。ただ、「改憲こそ隠れた争点だ」というのは違うのではないか。朝日新聞の6月の世論調査では、投票の際に憲法問題を重視するとした人は10%と低い。隠れているのでなく埋没している。国民は、改憲を争点と認めていません。
  長谷部 選挙では争点になるはずのない争点。でも選挙が終わると、「あれが争点だった」と言われる。
  杉田 もし安倍政権が選挙後の改憲を考えているのなら、選挙公約の先頭に掲げなければおかしい。国会の憲法審査会も開かず、どこをどう変えるかも示さずに、選挙で改憲が認められたなどと主張できるはずがありません。
  長谷部 そもそも、自民党の改憲論の基本的な精神は、「ここをこう変える」ではなく、「憲法なんかなくてもいい」というものなので、国政選挙で信を問うのに適さないと思います。
  江戸時代の思想家、本居宣長(もとおりのりなが)が、王朝が次々に代わる中国では義とか徳とか理屈を持ち出して統治のための規範をこしらえなければならなかったが、日本は違うと。天皇の御代(みよ)が続く日本ではそんなものはなくてもみんな平和で仲良くしていると言っていますが、そういう「日本は違う」式の考え方がかなり、自民党憲法改正草案の基本精神に受け継がれています。
  杉田 それに対して、まさに憲法学はこの70年間、立憲主義の浸透に取り組んできたのではないですか。
  長谷部 戦後日本の憲法学は、立憲主義より人民主権、つまり民主主義を強調してきました。その方がわかりやすいからですが、私は控えた方がいいと言ってきた。自民党憲法改正推進本部副本部長の礒崎陽輔さんは、立憲主義について「学生時代の憲法講義では聴いたことがありません」と言いつつ、一方で最後に決めるのは国民ですと言っている。戦後憲法学の主張がハイジャックされているのです。
  杉田 安倍さんも、大阪市長だった橋下徹さんも、一種の「人民主権論者」ですからね。国民が多数決で決めたことは絶対だと。
  長谷部 立憲主義は、ものの考え方や生き方は人それぞれで、多数決であっても「こうしろ」と踏み込んではいけないというものです。自分の生き方や考え方が守られるからこそ、人はその社会に貢献しようと思うわけで、その意味でも、立憲主義は大事です。

 ■政治にブレーキかけるか否か 長谷部/問われぬことは委任されない 杉田
  杉田 安保法制の議論を通じて明らかになったのは安倍政権による憲法軽視と、それと表裏一体の、行政権力の全面化です。彼らは、憲法のしばりなどなくて、政府の政策や判断だけで国を運営する方がうまく行くと思っているようですね。
  長谷部 いざとなれば緊急事態条項で政府が全部決めてしまえばいいんだ、憲法なんかいらないんだと。そうなると今回の参院選は、現在のような政治のありようにブレーキをかけるか否かが問われるのでは。
  杉田 民進党も「まず、3分の2をとらせないこと」と言っていますね。ただ、いま生活が苦しくて、出口を求めている人に、「ブレーキが必要だ」という議論が届きにくい面もある。「とにかくエンジンをふかす」という話の方が耳に入りやすいかもしれません。
  長谷部 それでは国の借金が積み上がり、次世代にツケを回すことになる。
  杉田 後世に負担を残すという面では原発なども同様ですが、地方の経済が疲弊する中で、景気が良くなればいいといった短期的な成果に目が向きがちです。残念なことですが。
  長谷部 それでは、有権者ではあっても主権者とは言えない。主権者は、国全体の利益や国の将来について考えねばなりません。
  杉田 「3分の2」について言うと、改憲の内容をつめる前から、政党ごとに改憲勢力、護憲勢力が決まっているというのも妙な話です。日本は党議拘束が強く、党首脳部の指令通りに、議員が一糸乱れぬ投票行動をとりますが、改憲のような問題についてもそれでいいのかどうか。
  長谷部 問題によっては、党議拘束をはずすべきものもあると思います。政治家としての信条にかかわるものとか。
  杉田 それに、改憲の中身によっては与党勢力の間でも割れる可能性がある。
  長谷部 そうですね。公明党は、自民党右派のような、憲法はいらないという立場ではありません。
  杉田 現政権による非立憲的な政治に反対する側も、「3分の2」をとらせないためには、選挙がすべてだという発想になりがちです。しかし、安保法制をめぐる議論の中で定着したのは「選挙で勝てば何でもできる」わけではない、という認識でした。選挙には限界がある。問われなかったことは委任されない。選挙前に確認すべきは、このことではないでしょうか。 =敬称略 (構成・高橋純子)

160617 一年前:4 096 干刈あがた「黄色い髪」(朝日文庫:1987) 感想5+

2016年06月18日 01時17分43秒 | 一年前
6月17日(金):
4 096 干刈あがた「黄色い髪」(朝日文庫:1987) 感想5+

6月16日(火):367ページ   所要時間 5:00    ブックオフ108円著者44歳(1943~92:49歳)。東京都出身。全共闘世代の女性の青春と、結婚、離婚、子育てなど...


160616 一年前:4 095「のだめカンタービレ 」(講談社:2001~2010)第12~16巻

2016年06月17日 00時08分50秒 | 一年前
4 095 二ノ宮知子「のだめカンタービレ 全25巻全133話」(講談社:2001~2010)第12~16巻計5冊 感想5
6月14日(日):第12巻~第16巻   所要時間 5:00    蔵書著者俺は、コミック「のだめカンタービレ 全25巻」(二ノ宮知子)を所有している。また、リアルタイムでア...


160616一年前:150615野中広務先生:ポツダム宣言「つまびらかに読んでない」首相は軽く危うい

2016年06月16日 23時56分38秒 | 一年前
150615 野中広務先生:ポツダム宣言を「つまびらかに読んでいない」首相の言動はあまりに軽く、危うい。
6月15日(月): 現代ビジネス:あの戦争を知る政治家の思い~安倍首相の言動はあまりに軽く、危うい~ 魚住昭の誌上デモ「わき道をゆく」連載第129回  2015年06月14日(......


160611 70万PV超:原点確認再掲 鳩山由紀夫総理大臣「施政方針演説」(2010年1月29日)

2016年06月12日 11時05分55秒 | 閲覧数 記録
6月11日(土):  記録ですm(_ _)m。ブログの開設から1708日。 

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「120929② 懐かしき鳩山総理大臣「施政方針演説」(2010年1月29日)」
                             2012年09月30日 00時00分27秒 | 考える資料
9月29日(土):

民主党の原点を振り返りたくなり、ネットで2010年1月29日の鳩山総理大臣による施政方針演説を検索してみた。俺はこの演説の様子をすべて録画して持っている。この演説を聴いて、当時どれほど感動したことだろう。ルーピーなどと馬鹿にされているが、俺は鳩山総理大臣の民主党に投票したと思っている。俺も所詮ルーピーなのかもしれないが、それで結構だ! 俺は、このような内容のリベラル政党を求めているのだ! 今の民主党は、<詐欺師集団>である。速く消えて、新たなリベラル勢力の結集が進むことを願っている。

鳩山首相の施政方針演説の全文を公開!
 鳩山首相は29日午後の衆院本会議で就任後初の施政方針演説を行った。「いのちを、守りたい。いのちを守りたいと、願うのです」というフレーズからはじまったスピーチは、「いのち」という言葉が計24回盛り込まれたことをはじめ、「新しい公共」を提唱するなど、理念型の演説となった。首相官邸ホームページに公開された演説の全文は下記の通り。
────────────────
一 はじめに
 いのちを、守りたい。
 いのちを守りたいと、願うのです。
 生まれくるいのち、そして、育ちゆくいのちを守りたい。
 若い夫婦が、経済的な負担を不安に思い、子どもを持つことをあきらめてしまう、そんな社会を変えていきたい。未来を担う子どもたちが、自らの無限の可能性を自由に追求していける、そんな社会を築いていかなければなりません。
 働くいのちを守りたい。
 雇用の確保は、緊急の課題です。しかし、それに加えて、職を失った方々や、様々な理由で求職活動を続けている方々が、人との接点を失わず、共同体の一員として活動していける社会をつくっていきたい。経済活動はもとより、文化、スポーツ、ボランティア活動などを通じて、すべての人が社会との接点を持っている、そんな居場所と出番のある、新しい共同体のあり方を考えていきたいと願います。
 いつ、いかなるときも、人間を孤立させてはなりません。
 一人暮らしのお年寄りが、誰にも看取られず孤独な死を迎える、そんな事件をなくしていかなければなりません。誰もが、地域で孤立することなく暮らしていける社会をつくっていかなければなりません。
 世界のいのちを守りたい。
 これから生まれくる子どもたちが成人になったとき、核の脅威が歴史の教科書の中で過去の教訓と化している、そんな未来をつくりたいと願います。
 世界中の子どもたちが、飢餓や感染症、紛争や地雷によっていのちを奪われることのない社会をつくっていこうではありませんか。誰もが衛生的な水を飲むことができ、差別や偏見とは無縁に、人権が守られ基礎的な教育が受けられる、そんな暮らしを、国際社会の責任として、すべての子どもたちに保障していかなければなりません。
 今回のハイチ地震のような被害の拡大を国際的な協力で最小限に食い止め、新たな感染症の大流行を可能な限り抑え込むため、いのちを守るネットワークを、アジア、そして世界全体に張り巡らせていきたいと思います。
 地球のいのちを守りたい。
 この宇宙が生成して百三十七億年、地球が誕生して四十六億年。その長い時間軸から見れば、人類が生まれ、そして文明生活をおくれるようになった、いわゆる「人間圏」ができたこの一万年は、ごく短い時間に過ぎません。しかし、この「短時間」の中で、私たちは、地球の時間を驚くべき速度で早送りして、資源を浪費し、地球環境を大きく破壊し、生態系にかつてない激変を加えています。約三千万とも言われる地球上の生物種のうち、現在年間約四万の種が絶滅していると推測されています。現代の産業活動や生活スタイルは、豊かさをもたらす一方で、確実に、人類が現在のような文明生活をおくることができる「残り時間」を短くしていることに、私たち自身が気づかなければなりません。
 私たちの叡智を総動員し、地球というシステムと調和した「人間圏」はいかにあるべきか、具体策を講じていくことが必要です。少しでも地球の「残り時間」の減少を緩やかにするよう、社会を挙げて取り組むこと。それが、今を生きる私たちの未来への責任です。本年、わが国は生物多様性条約締約国会議の議長国を務めます。かけがえのない地球を子どもや孫たちの世代に引き継ぐために、国境を越えて力を合わせなければなりません。
 私は、このような思いから、平成二十二年度予算を「いのちを守る予算」と名付け、これを日本の新しいあり方への第一歩として、国会議員の皆さん、そして、すべての国民の皆さまに提示し、活発なご議論をいただきたいと願っています。

二 目指すべき日本のあり方
 私は、昨年末、インドを訪問した際、希望して、尊敬するマハトマ・ガンジー師の慰霊碑に献花させていただきました。慰霊碑には、ガンジー師が、八十数年前に記した「七つの社会的大罪」が刻まれています。
 「理念なき政治」
 「労働なき富」
 「良心なき快楽」
 「人格なき教育」
 「道徳なき商業」
 「人間性なき科学」、そして
 「犠牲なき宗教」です。
 まさに、今の日本と世界が抱える諸問題を、鋭く言い当てているのではないでしょうか。
 二十世紀の物質的な豊かさを支えてきた経済が、本当の意味で人を豊かにし、幸せをもたらしてきたのか。資本主義社会を維持しつつ、行き過ぎた「道徳なき商業」、「労働なき富」を、どのように制御していくべきなのか。人間が人間らしく幸福に生きていくために、どのような経済が、政治が、社会が、教育が望ましいのか。今、その理念が、哲学が問われています。
 さらに、日本は、アジアの中で、世界の中で、国際社会の一員として、どのような国として歩んでいくべきなのか。
 政権交代を果たし、民主党、社会民主党、国民新党による連立内閣として初めての予算を提出するこの国会であるからこそ、あえて、私の政治理念を、国会議員の皆さんと、国民の皆さまに提起することから、この演説を始めたいと、ガンジー廟を前に私は決意いたしました。
(人間のための経済、再び)
 経済のグローバル化や情報通信の高度化とともに、私たちの生活は日々便利になり、物質的には驚くほど豊かになりました。一方、一昨年の金融危機で直面したように、私たちが自らつくり出した経済システムを制御できない事態が発生しています。
 経済のしもべとして人間が存在するのではなく、人間の幸福を実現するための経済をつくり上げるのがこの内閣の使命です。
 かつて、日本の企業風土には、社会への貢献を重視する伝統が色濃くありました。働く人々、得意先や取引先、地域との長期的な信頼関係に支えられ、百年以上の歴史を誇る「長寿企業」が約二万社を数えるのは、日本の企業が社会の中の「共同体」として確固たる地位を占めてきたことの証しです。今こそ、国際競争を生き抜きつつも、社会的存在として地域社会にも貢献する日本型企業モデルを提案していかなければなりません。ガンジー師の言葉を借りれば、「商業の道徳」を育み、「労働をともなう富」を取り戻すための挑戦です。
(「新しい公共」によって支えられる日本)
 人の幸福や地域の豊かさは、企業による社会的な貢献や政治の力だけで実現できるものではありません。
 今、市民やNPOが、教育や子育て、街づくり、介護や福祉など身近な課題を解決するために活躍しています。昨年の所信表明演説でご紹介したチョーク工場の事例が多くの方々の共感を呼んだように、人を支えること、人の役に立つことは、それ自体が歓びとなり、生きがいともなります。こうした人々の力を、私たちは「新しい公共」と呼び、この力を支援することによって、自立と共生を基本とする人間らしい社会を築き、地域の絆を再生するとともに、肥大化した「官」をスリムにすることにつなげていきたいと考えます。
 一昨日、「新しい公共」円卓会議の初会合を開催しました。この会合を通じて、「新しい公共」の考え方をより多くの方と共有するための対話を深めます。こうした活動を担う組織のあり方や活動を支援するための寄付税制の拡充を含め、これまで「官」が独占してきた領域を「公(おおやけ)」に開き、「新しい公共」の担い手を拡大する社会制度のあり方について、五月を目途に具体的な提案をまとめてまいります。
(文化立国としての日本)
 「新しい公共」によって、いかなる国をつくろうとしているのか。
 私は、日本を世界に誇る文化の国にしていきたいと考えます。ここで言う文化とは、狭く芸術その他の文化活動だけを指すのではなく、国民の生活・行動様式や経済のあり方、さらには価値観を含む概念です。
 厳しい環境・エネルギー・食料制約、人類史上例のない少子高齢化などの問題に直面する中で、様々な文化の架け橋として、また、唯一の被爆国として、さらには、伝統文化と現代文明の融和を最も進めている国のひとつとして、日本は、世界に対して、この困難な課題が山積する時代に適合した、独自の生活・行動様式や経済制度を提示していくべきだと考えます。
 多くの国の人々が、一度でよいから日本を訪ねたい、できることなら暮らしたいと憧れる、愛され、輝きのある国となること。異なる文化を理解し、尊重することを大切にしながら、国際社会から信頼され、国民が日本に生まれたことに誇りを感ずるような文化を育んでいきたいのです。
(人材と知恵で世界に貢献する日本)
 新しい未来を切り拓くとき、基本となるのは、人を育てる教育であり、人間の可能性を創造する科学です。
 文化の国、人間のための経済にとって必要なのは、単に数字で評価される「人格なき教育」や、結果的に人類の生存を脅かすような「人間性なき科学」ではありません。一人ひとりが地域という共同体、日本という国家、地球という生命体の一員として、より大きなものに貢献する、そんな「人格」を養う教育を目指すべきなのです。
 科学もまた、人間の叡智を結集し、人類の生存にかかわる深刻な問題の解決や、人間のための経済に大きく貢献する、そんな「人間性」ある科学でなければなりません。疾病、環境・エネルギー、食料、水といった分野では、かつての産業革命にも匹敵する、しかし全く位相の異なる革新的な技術が必要です。その母となるのが科学です。
 こうした教育や科学の役割をしっかりと見据え、真の教育者、科学者をさらに増やし、また社会全体として教育と科学に大きな資源を振り向けてまいります。それこそが、私が申し上げ続けてきた「コンクリートから人へ」という言葉の意味するところです。

三 人のいのちを守るために
 私は、来年度予算を「いのちを守る予算」に転換しました。公共事業予算を十八・三パーセント削減すると同時に、社会保障費は九・八パーセント増、文教科学費は五・二パーセント増と大きくメリハリをつけた予算編成ができたことは、国民の皆さまが選択された政権交代の成果です。
(子どものいのちを守る)
 所得制限を設けず、月額一万三千円の子ども手当を創設します。
 子育てを社会全体で応援するための大きな第一歩です。また、すべての意志ある若者が教育を受けられるよう、高校の実質無償化を開始します。国際人権規約における高等教育の段階的な無償化条項についても、その留保撤回を具体的な目標とし、教育の格差をなくすための検討を進めます。さらに、「子ども・子育てビジョン」に基づき、新たな目標のもと、待機児童の解消や幼保一体化による保育サービスの充実、放課後児童対策の拡充など、子どもの成長を担うご家族の負担を、社会全体で分かち合う環境づくりに取り組みます。
(いのちを守る医療と年金の再生)
 社会保障費の抑制や地域の医療現場の軽視によって、国民医療は崩壊寸前です。
 これを立て直し、健康な暮らしを支える医療へと再生するため、医師養成数を増やし、診療報酬を十年ぶりにプラス改定します。乳幼児からお年寄りまで、誰もが安心して医療を受けられるよう、その配分も大胆に見直し、救急・産科・小児科などの充実を図ります。患者の皆さんのご負担が重い肝炎治療については、助成対象を拡大し、自己負担限度額を引き下げます。健康寿命を伸ばすとの観点から、統合医療の積極的な推進について検討を進めます。
 お年寄りが、ご自身の歩まれた人生を振り返りながら、やすらぎの時間を過ごせる環境を整備することも重要です。年金をより確かなものとするため、来年度から二年間を集中対応期間として、紙台帳とコンピューター記録との突き合わせを開始するなど、年金記録問題に「国家プロジェクト」として取り組みます。
(働くいのちを守り、人間を孤立させない)
 働く人々のいのちを守り、人間を孤立させないために、まずは雇用を守ることが必要です。雇用調整助成金の支給要件を大幅に緩和し、雇用の維持に努力している企業への支援を強化しました。また、非正規雇用の方々のセーフティネットを強化するため、雇用保険の対象を抜本的に拡充します。
 労働をコストや効率で、あるいは生産過程の歯車としか捉えず、日本の高い技術力の伝承をも損ないかねない派遣労働を抜本的に見直し、いわゆる登録型派遣や製造業への派遣を原則禁止します。さらに、働く意欲のある方々が、新規産業にも活かせる新たな技術や能力を身につけることを応援するため、生活費支援を含む恒久的な求職者支援制度を平成二十三年度に創設すべく準備を進めます。
 若者、女性、高齢者、チャレンジドの方々など、すべての人が、孤立することなく、能力を活かし、生きがいや誇りを持って社会に参加できる環境を整えるため、就業の実態を丁寧に把握し、妨げとなっている制度や慣行の是正に取り組みます。社会のあらゆる面で男女共同参画を推進し、チャレンジドの方々が、共同体の一員として生き生きと暮らせるよう、障害者自立支援法の廃止や障害者権利条約の批准などに向けた、改革の基本方針を策定します。
 また、いのちを守る社会の基盤として、自殺対策を強化するとともに、消防と医療の連携などにより、救急救命体制を充実させます。住民の皆さまと一緒に、犯罪が起こりにくい社会をつくり、犯罪捜査の高度化にも取り組んでいきます。

四 危機を好機に  ─フロンティアを切り拓く─
(いのちのための成長を担う新産業の創造)
 ピンチをチャンスと捉えるということがよく言われます。では、私たちが今直面している危機の本質は何であり、それをどう変革していけばよいのでしょうか。
 昨年末、私たちは、新たな成長戦略の基本方針を発表いたしました。
 鳩山内閣における「成長」は、従来型の規模の成長だけを意味しません。
 人間は、成人して身体の成長が止まっても、様々な苦難や逆境を乗り越えながら、人格的に成長を遂げていきます。私たちが目指す新たな「成長」も、日本経済の質的脱皮による、人間のための、いのちのための成長でなくてはなりません。この成長を誘発する原動力が、環境・エネルギー分野と医療・介護・健康分野における「危機」なのです。
 私は、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提として、二〇二〇年に、温室効果ガスを一九九〇年比で二十五パーセント削減するとの目標を掲げました。大胆すぎる目標だというご指摘もあります。しかし、この変革こそが、必ずや日本の経済の体質を変え、新しい需要を生み出すチャンスとなるのです。日本の誇る世界最高水準の環境技術を最大限に活用した「グリーン・イノベーション」を推進します。地球温暖化対策基本法を策定し、環境・エネルギー関連規制の改革と新制度の導入を加速するとともに、「チャレンジ25」によって、低炭素型社会の実現に向けたあらゆる政策を総動員します。
 医療・介護・健康産業の質的充実は、いのちを守る社会をつくる一方、新たな雇用も創造します。医療・介護技術の研究開発や事業創造を「ライフ・イノベーション」として促進し、利用者が求める多様なサービスを提供するなど、健康長寿社会の実現に貢献します。
(成長のフロンティアとしてのアジア)
 今後の世界経済におけるわが国の活動の場として、さらに切り拓いていくべきフロンティアはアジアです。環境問題、都市化、少子高齢化など、日本と共通の深刻な課題を抱えるアジア諸国と、日本の知識や経験を共有し、ともに成長することを目指します。
 アジアを単なる製品の輸出先と捉えるのではありません。環境を守り、安全を担保しつつ、高度な技術やサービスをパッケージにした新たなシステム、例えば、スマートグリッドや大量輸送、高度情報通信システムを共有し、地域全体で繁栄を分かち合います。それが、この地域に新たな需要を創出し、自律的な経済成長に貢献するのです。
 アジアの方々を中心に、もっと多くの外国人の皆さんに日本を訪問していただくことは、経済成長のみならず、幅広い文化交流や友好関係の土台を築くためにも重要です。日本の魅力を磨き上げ、訪日外国人を二〇二〇年までに二千五百万人、さらに三千万人まで増やすことを目標に、総合的な観光政策を推進します。
 アジア、さらには世界との交流の拠点となる空港、港湾、道路など、真に必要なインフラ整備については、厳しい財政事情を踏まえ、民間の知恵と資金も活用し、戦略的に進めてまいります。
(地域経済を成長の源に)
 もうひとつの成長の新たな地平は、国内それぞれの地域です。
 その潜在力にもかかわらず、長年にわたる地域の切り捨て、さらに最近の不況の直撃にさらされた地域経済の疲弊は極限に達しています。まずは景気対策に万全を期し、今後の経済の変化にも臨機応変に対応できるよう、十一年ぶりに地方交付税を一・一兆円増と大幅に増額するほか、地域経済の活性化や雇用機会の創出などを目的とした二兆円規模の景気対策枠を新たに設けます。
 その上で、地域における成長のフロンティア拡大に向けた支援を行います。
 わが国の農林水産業を、生産から加工、流通まで一体的に捉え、新たな価値を創出する「六次産業化」を進めることにより再生します。農家の方々、新たに農業に参入する方々には、戸別所得補償制度をひとつの飛躍のバネとして、農業の再生に果敢に挑戦していただきたい。世界に冠たる日本の食文化と高度な農林水産技術を組み合わせ、森林や農山漁村の魅力を活かした新たな観光資源・産業資源をつくり出すのです。政府としてそれをしっかりと応援しながら、食料自給率の五十パーセントまでの引上げを目指します。
 地域経済を支える中小企業は日本経済の活力の源です。その資金繰り対策に万全を期するほか、「中小企業憲章」を策定し、意欲ある中小企業が日本経済の成長を支える展望を切り拓いてまいります。
 さらに、地域間の活発な交流に向け、高速道路の無料化については、来年度から社会実験を実施し、その影響を確認しながら段階的に進めてまいります。
 地域の住民の生活を支える郵便局の基本的なサービスが、地域を問わず一体的に利用できるようユニバーサルサービスを法的に担保するとともに、現在の持株会社・四分社化体制の経営形態を再編するなど、郵政事業の抜本的な見直しを行ってまいります。
(地域主権の確立)
 地域のことは、その地域に住む住民が責任をもって決める。この地域主権の実現は、単なる制度の改革ではありません。
 今日の中央集権的な体質は、明治の富国強兵の国是のもとに導入され、戦時体制の中で盤石に強化され、戦後の復興と高度成長期において因習化されたものです。地域主権の実現は、この中央政府と関連公的法人のピラミッド体系を、自律的でフラットな地域主権型の構造に変革する、国のかたちの一大改革であり、鳩山内閣の改革の一丁目一番地です。
 今後、地域主権戦略の工程表に従い、政治主導で集中的かつ迅速に改革を進めます。その第一弾として、地方に対する不必要な義務付けや枠付けを、地方分権改革推進計画に沿って一切廃止するとともに、道路や河川等の維持管理費に係る直轄事業負担金制度を廃止します。また、国と地方の関係を、上下関係ではなく対等なものとするため、国と地方との協議の場を新たな法律によって設置します。地域主権を支える財源についても、今後、ひも付き補助金の一括交付金化、出先機関の抜本的な改革などを含めた地域主権戦略大綱を策定します。
 あわせて、「緑の分権改革」を推進するとともに、情報通信技術の徹底的な利活用による「コンクリートの道」から「光の道」への発想転換を図り、新しい時代にふさわしい地域の絆の再生や成長の基盤づくりに取り組みます。本年を地域主権革命元年とすべく、内閣の総力を挙げて改革を断行してまいります。
(責任ある経済財政運営)
 当面の経済財政運営の最大の課題は、日本経済を確かな回復軌道に乗せることです。決して景気の二番底には陥らせないとの決意のもと、この度成立した、事業規模で約二十四兆円となる第二次補正予算とともに、当初予算としては過去最大規模となる平成二十二年度予算を編成いたしました。この二つの予算により、切れ目ない景気対策を実行するとともに、特にデフレの克服に向け、日本銀行と一体となって、より強力かつ総合的な経済政策を進めてまいります。
 財政の規律も政治が果たすべき重要な責任です。今回の予算においては、目標としていた新規国債発行額約四十四兆円以下という水準を概ね達成することができました。政権政策を実行するために必要な約三兆円の財源も、事業仕分けを反映した既存予算の削減や公益法人の基金返納などにより捻出できました。さらに将来を見据え、本年前半には、複数年度を視野に入れた中期財政フレームを策定するとともに、中長期的な財政規律のあり方を含む財政運営戦略を策定し、財政健全化に向けた長く大きな道筋をお示しします。

五 課題解決に向けた責任ある政治
 以上のような政策を実行するのが政治であり、行政です。政府が旧態依然たる分配型の政治を行う限り、ガンジー師のいう「理念なき政治」のままです。新たな国づくりに向け、「責任ある政治」を実践していかなければなりません。
(「戦後行政の大掃除」の本格実施)
 事業仕分けや子育て支援のあり方については、ご家庭や職場でも大きな話題となり、様々な議論がなされたことと思います。私たちは、これまで財務省主計局の一室で官僚たちの手によって行われてきた予算編成過程の議論を、民間の第一線の専門家の参加を得て、事業仕分けという公開の場で行いました。上から目線の発想で、つい身内をかばいがちだった従来型の予算編成を、国民の主体的参加と監視のもとで抜本的に変更できたのも、ひとえに政権交代のたまものです。
 「戦後行政の大掃除」は、しかし、まだ始まったばかりです。
 今後も、様々な規制や制度のあり方を抜本的に見直し、独立行政法人や公益法人が本当に必要なのか、「中抜き」の構造で無駄遣いの温床となっていないか、監視が行き届かないまま垂れ流されてきた特別会計の整理統合も含め、事業仕分け第二弾を実施します。これらすべてを、聖域なく、国民目線で検証し、一般会計と特別会計を合わせた総予算を全面的に組み替えていきます。行政刷新会議は法定化し、より強固な権限と組織によって改革を断行していきます。
(政治主導による行政体制の見直し)
 同時に、行政組織や国家公務員のあり方を見直し、その意識を変えていくことも不可欠です。
 省庁の縦割りを排し、国家的な視点から予算や税制の骨格などを編成する国家戦略局を設置するほか、幹部人事の内閣一元管理を実現するために内閣人事局を設置し、官邸主導で適材適所の人材を登用します。
 こうした改革を断行するため、政府と与党が密接な連携と役割分担のもと、政府部内における国会議員の占める職を充実強化するための関連法案を今国会に提案いたします。
 さらに、今後、国民の視点に立って、いかなる府省編成が望ましいのか、その設置のあり方も含め、本年夏以降、私自身が主導して、抜本的な見直しに着手します。
 税金の無駄遣いの最大の要因である天下りあっせんを根絶することはもちろん、「裏下り」と揶揄される事実上の天下りあっせん慣行にも監視の目を光らせて国民の疑念を解消します。同時に、国家公務員の労働基本権のあり方や、定年まで勤務できる環境の整備、給与体系を含めた人件費の見直しなど、新たな国家公務員制度改革にも速やかに着手します。
(政治家自ら襟を正す)
 こうした改革を行う上で、まず国会議員が自ら範を垂れる必要があります。国会における議員定数や歳費のあり方について、会派を超えて積極的な見直しの議論が行われることを強く期待します。
 政治資金の問題については、私自身の問題に関して、国民の皆さまに多大のご迷惑とご心配をおかけしたことをあらためてお詫び申し上げます。ご批判を真摯に受け止め、今後、政治資金のあり方が、国民の皆さまから見て、より透明で信頼できるものとなるよう、企業・団体献金の取扱いを含め、開かれた議論を行ってまいります。

六 世界に新たな価値を発信する日本
(文化融合の国、日本)

 日本は四方を豊かな実りの海に囲まれた海洋国家です。
 古来より、日本は、大陸や朝鮮半島からこの海を渡った人々を通じて多様な文化や技術を吸収し、独自の文化と融合させて豊かな文化を育んできました。漢字と仮名、公家と武家、神道と仏教、あるいは江戸と上方、東国の金貨制と西国の銀貨制というように、複合的な伝統と慣習、経済社会制度を併存させてきたことは日本の文化の一つの特長です。近現代の日本も和魂洋才という言葉のとおり、東洋と西洋の文化を融合させ、欧米先進諸国へのキャッチアップを実現しました。こうした文化の共存と融合こそが、新たな価値を生み出す源泉であり、それを可能にする柔軟性こそが日本の強さです。自然環境との共生の思想や、木石にも魂が宿るといった伝統的な価値観は大切にしつつも、新たな文化交流、その根幹となる人的交流に積極的に取り組み、架け橋としての日本、新しい価値や文化を生み出し、世界に発信する日本を目指していこうではありませんか。
(東アジア共同体のあり方)
 昨年の所信表明演説で、私は、東アジア共同体構想を提唱いたしました。アジアにおいて、数千年にわたる文化交流の歴史を発展させ、いのちを守るための協力を深化させる、「いのちと文化」の共同体を築き上げたい。そのような思いで提案したものです。
 この構想の実現のためには、様々な分野で国と国との信頼関係を積み重ねていくことが必要です。断じて、一部の国だけが集まった排他的な共同体や、他の地域と対抗するための経済圏にしてはなりません。その意味で、揺るぎない日米同盟は、その重要性に変わりがないどころか、東アジア共同体の形成の前提条件として欠くことができないものです。北米や欧州との、そして域内の自由な貿易を拡大して急速な発展を遂げてきた東アジア地域です。多角的な自由貿易体制の強化が第一の利益であることを確認しつつ地域の経済協力を進める必要があります。初代常任議長を選出し、ますます統合を深化させる欧州連合とは、開かれた共同体のあり方を、ともに追求していきたいと思います。
(いのちと文化の共同体)
 東アジア共同体の実現に向けての具体策として、特に強調したいのは、いのちを守るための協力、そして、文化面での交流の強化です。
 地震、台風、津波などの自然災害は、アジアの人々が直面している最大の脅威のひとつです。過去の教訓を正しく伝え、次の災害に備える防災文化を日本は培ってきました。これをアジア全域に普及させるため、日本の経験や知識を活用した人材育成に力を入れてまいります。
 感染症や疾病からいのちを守るためには、機敏な対応と協力が鍵となります。新型インフルエンザをはじめとする様々な情報を各国が共有し、協力しながら対応できる体制を構築していきます。また、人道支援のため米国が中心となって実施している「パシフィック・パートナーシップ」に、今年から海上自衛隊の輸送艦を派遣し、太平洋・東南アジア地域における医療支援や人材交流に貢献してまいります。
(人的交流の飛躍的充実)
 昨年の十二月、私はインドネシアとインドを訪問いたしました。
 いずれの国でも、国民間での文化交流事業を活性化させ、特に次世代を担う若者が、国境を越えて、教育・文化、ボランティアなどの面で交流を深めることに極めて大きな期待がありました。この期待に応えるために、今後五年間で、アジア各国を中心に十万人を超える青少年を日本に招くなど、アジアにおける人的交流を大幅に拡充するとともに、域内の各国言語・文化の専門家を、相互に飛躍的に増加させることにより、東アジア共同体の中核を担える人材を育成してまいります。
 APECの枠組みも、今年の議長として、充実強化に努めてまいります。経済発展を基盤として、文化・社会の面でもお互いを尊重できる関係を築いていくため、新たな成長戦略の策定に向けて積極的な議論を導きます。
(日米同盟の深化)
 今年、日米安保条約の改定から五十年の節目を迎えました。この間、世界は、冷戦による東西の対立とその終焉、テロや地域紛争といった新たな脅威の顕在化など大きく変化しました。激動の半世紀にあって、日米安全保障体制は、質的には変化を遂げつつも、わが国の国防のみならず、アジア、そして世界の平和と繁栄にとって欠くことのできない存在でありました。今後もその重要性が変わることはありません。
 私とオバマ大統領は、日米安保条約改定五十周年を機に、日米同盟を二十一世紀にふさわしい形で深化させることを表明しました。今後、これまでの日米同盟の成果や課題を率直に語り合うとともに、幅広い協力を進め、重層的な同盟関係へと深化・発展させていきたいと思います。
 わが国が提出し、昨年十二月の国連総会において採択された「核兵器の全面的廃絶に向けた新たな決意」には、米国が初めて共同提案国として名を連ねました。本年は、核セキュリティ・サミットや核拡散防止条約運用検討会議が相次いで開催されます。「核のない世界」の実現に向け、日米が協調して取り組む意義は極めて大きいと考えます。
 普天間基地移設問題については、米国との同盟関係を基軸として、わが国、そしてアジアの平和を確保しながら、沖縄に暮らす方々の長年にわたる大変なご負担を少しでも軽くしていくためにどのような解決策が最善か、沖縄基地問題検討委員会で精力的に議論し、政府として本年五月末までに具体的な移設先を決定することといたします。
 気候変動の問題については、地球環境問題とエネルギー安全保障とを一体的に解決するための技術協力や共同実証実験、研究者交流を日米で行うことを合意しています。活動の成果は、当然世界に及びます。この分野の同盟を、そして日米同盟全体を、両国のみならずアジア太平洋地域、さらには世界の平和と繁栄に資するものとしてさらに発展させてまいります。
(アジア太平洋地域における二国間関係)
 アジア太平洋地域における信頼関係の輪を広げるため、日中間の戦略的互恵関係をより充実させてまいります。
 日韓関係の、世紀をまたいだ大きな節目の今年、過去の負の歴史に目を背けることなく、これからの百年を見据え、真に未来志向の友好関係を強化してまいります。ロシアとは、北方領土問題を解決すべく取り組むとともに、アジア太平洋地域におけるパートナーとして協力を強化します。
 北朝鮮の拉致、核、ミサイルといった諸問題を包括的に解決した上で、不幸な過去を清算し、日朝国交正常化を実現する。これは、アジア太平洋地域の平和と安定のためにも重要な課題です。具体的な行動を北朝鮮から引き出すべく、六者会合をはじめ関係国と一層緊密に連携してまいります。拉致問題については、新たに設置した拉致問題対策本部のもと、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく、政府の総力を挙げて最大限の努力を尽くしてまいります。
(貧困や紛争、災害からいのちを救う支援)
 アフリカをはじめとする発展途上国で飢餓や貧困にあえぐ人々。イラクやアフガニスタンで故郷に戻れない生活を余儀なくされる難民の人々。国際的テロで犠牲になった人々。自然災害で住む家を失った人々。こうした人々のいのちを救うために、日本に何ができるのか、そして何が求められているのか。今回のハイチ地震の惨禍に対し、わが国は、国連ハイチ安定化ミッションへの自衛隊の派遣と約七千万ドルにのぼる緊急・復興支援を表明しました。国際社会の声なき声にも耳を澄まし、国連をはじめとする国際機関や主要国と密接に連携し、困難の克服と復興を支援してまいります。

七 むすび
 いのちを守りたい。
 私の友愛政治の中核をなす理念として、政権を担ってから、かたときも忘れることなく思い、益々強くしている決意です。
 今月十七日、私は、阪神・淡路大震災の追悼式典に参列いたしました。十五年前の同じ日にこの地域を襲った地震は、尊いいのち、平穏な暮らし、美しい街並みを一瞬のうちに奪いました。
 式典で、十六歳の息子さんを亡くされたお父様のお話を伺いました。
 地震で、家が倒壊し、二階に寝ていた息子が瓦礫の下敷きになった。
 積み重なった瓦礫の下から、息子の足だけが見えていて、助けてくれというように、ベッドの横板を
 とん、とん、とんと叩く音がする。
 何度も何度も助け出そうと両足を引っ張るが、瓦礫の重さに動かせない。やがて、三十分ほどすると、音が聞こえなくなり、次第に足も冷たく なっていくわが子をどうすることもできなかった。
 「ごめんな。助けてやれなかったな。痛かったやろ、苦しかったやろな。ほんまにごめんな。」
 これが現実なのか、夢なのか、時間が止まりました。身体中の涙を全部流すかのように、毎日涙し、どこにも持って行きようのない怒りに、まるで胃液が身体を溶かしていくかのような、苦しい毎日が続きました。
 息子さんが目の前で息絶えていくのを、ただ見ていることしかできない無念さや悲しみ。人の親なら、いや、人間なら、誰でも分かります。災害列島といわれる日本の安全を確保する責任を負う者として、防災、そして少しでも被害を減らしていく「減災」に万全を期さねばならないとあらためて痛感しました。
 今、神戸の街には、あの悲しみ、苦しみを懸命に乗り越えて取り戻した活気が溢れています。大惨事を克服するための活動は地震の直後から始められました。警察、消防、自衛隊による救助・救援活動に加え、家族や隣人と励ましあい、困難な避難生活を送りながら復興に取り組む住民の姿がありました。全国から多くのボランティアがリュックサックを背負って駆け付けました。復旧に向けた機材や義捐金が寄せられました。慈善のための文化活動が人々を勇気づけました。混乱した状況にあっても、略奪行為といったものは殆どなかったと伺います。みんなで力を合わせ、人のため、社会のために努力したのです。
 あの十五年前の、不幸な震災が、しかし、日本の「新しい公共」の出発点だったのかもしれません。
 今、災害の中心地であった長田の街の一画には、地域のNPO法人の尽力で建てられた「鉄人28号」のモニュメントが、その勇姿を見せ、観光名所、集客の拠点にさえなっています。
 いのちを守るための「新しい公共」は、この国だからこそ、世界に向けて、誇りを持って発信できる。私はそう確信しています。
 人のいのちを守る政治、この理念を実行に移すときです。子どもたちに幸福な社会を、未来にかけがえのない地球を引き継いでいかねばなりません。
 国民の皆さま、議員の皆さん、輝く日本を取り戻すため、ともに努力してまいりましょう。
 この平成二十二年を、日本の再出発の年にしていこうではありませんか。
投稿者: 《THE JOURNAL》編集部 日時: 2010年1月29日 15:05
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無恥で野卑な嘘つき安倍晋三自公政権との誠実さ・真摯さ・知的レベルの差にただただ驚くのみです。良かったら、「120929① 安倍政権というパンドラの箱を開いた責任は誰にあるのか?」も読んでみて下さい。(もみ:160612)

5 057 「池上彰の教養のススメ」(東京工業大学リベラルアーツセンター篇:2014)感想3+

2016年06月11日 12時38分12秒 | 一日一冊読書開始
6月11日(土):  

381ページ(うち283ページ)  所要時間 2:00   図書館

アマゾンの内容紹介:

☆なぜ今、教養?
21世紀の日本にいちばん足りないのが「教養」だから。
1990年代、文部省が大学のカリキュラムを実学一辺倒にして、大学で教養の地位が低下した。企業も、英語やITスキルや各種資格を重視して、人材を採るようになった。結果、日本からは、クリエイティブな商品、新しいサービス、美しいデザインが生まれなくなった。「すぐに役には立たない」教養こそが、「一生使えるクリエイティブな道具である」。いま、企業でも、大学でも、求められているもの、それが「教養」なのです。

☆なぜ池上彰が教養を?
日本には教養が足りない! でも、誰に教わればいい?
最強の「先生」が、大学の教壇に。
ジャーナリストの池上彰が、2012年4月から、東京工業大学に設置された教養コース、リベラルアーツセンターの教授として、 現代史などの「教養」を東工大の理系学生に教え始めた。本書は、2年間の授業を通じて、日本人に必須の「教養」について、わかりやすく解説。
勉強に、ビジネスに、人生に、趣味に、人間関係に、「教養」の重要性を、池上節で伝える内容。

≪内容≫:教養は、思わぬところで役に立つ。あっと驚く視点を提供してくれる。
本書では、東工大の同僚の先生に池上さんが聞きながら、「教養の実践例」を紹介。
その1) 哲学の桑子敏雄先生は、「哲学」を使って、ダム建設など公共事業の住民問題を解決!
その2) 文化人類学の上田紀行先生は、「宗教学」を使って、無宗教国ニッポンの問題を解明!
その3) 生物学の本川達雄先生は「ナマコの生物学」を使って、人間とは何かを明らかに!
その4) ハーバード、MIT、ウェルズリー女子大を取材! アメリカ大学4年間は教養まみれだった!

内容(「BOOK」データベースより):教養を身につけるとは、歴史や文学や哲学や心理学や芸術や生物学や数学や物理学やさまざまな分野の基礎的な知の体系を学ぶことで、世界を知り、自然を知り、人を知ることです。世界を知り、自然を知り、人を知る。すると、世の理が見えてきます。そうなってはじめて、たとえばビジネスの専門分野―それはITかもしれませんし、金融かもしれませんし、メディアかもしれませんし、製造業かもしれませんし、サービス業かもしれません―で、これまでにない新しい何かを生み出すことが可能となる。なにより、そのひとの人生そのものが豊かになる。学ぶことそれ自体が楽しくなる。教養は、一生かけて身につけ続けて、絶対に損のないものです。しかも、いつからだって学ぶことができる。教養がいかに「使える」ものなのか、教養がいかに「人を知る」ために不可欠なものなのか、教養がいかに「面白くてたまらない」ものなのか。私の仲間の先生たちと一緒に、考えていきましょう。

150329 タガ外せば歯止め失う 長谷部恭男・早稲田大学教授/「未来志向」は現実逃避 杉田敦・法政大学教授

 杉田 先日ドイツのメルケル首相が来日しました。戦後ドイツも様々な問題を抱えていますが、過去への反省と謝罪という「建前」を大切にし続けることで、国際的に発言力を強めてきた経緯がある。「建前」がソフトパワーにつながることを安倍さんたちは理解しているのでしょうか。  / /長谷部 そもそも談話が扱っているのは、学問的な歴史の問題ではなく、人々の情念が絡まる記憶の問題です。記念碑や記念館、映画に結実するもので、証拠の有無や正確性をいくら詰めても、決着はつかない。厳密な歴史のレベルで、仮に日本側が中国や韓国の主張に反証できたとしても、問題はむしろこじれる。相手を論破して済む話ではないから、お互いがなんとか折り合いのつく範囲内に収めようと政治的な判断をした。それが河野談話です。  / /杉田 談話の方向性や近隣との外交について「未来志向」という言い方がよくされますが、意図はどうあれ、それが過去の軽視という「見かけ」をもってしまえば、負の効果は計り知れない。安倍さんたちは、未来を向いて過去を振り払えば、政治的な自由度が高まると思っているのかもしれません。しかし政治の存在意義は様々な制約を踏まえつつ、何とか解を見いだしていくところにあります。政治的な閉塞(へいそく)感が強まる中で、自らに課せられているタガを外そうという動きが出てくる。しかし、それで万事うまくいくというのは、一種の現実逃避では。  / /長谷部 合理的な自己拘束という概念が吹っ飛んでしまっている印象です。縛られることによってより力を発揮できることがある。俳句は5・7・5と型が決まっているからこそ発想力が鍛えられる。しかし安倍さんたちは選挙に勝った自分たちは何にも縛られない、「建前」も法律も憲法解釈もすべて操作できると考えているようです。  / /杉田 俳句は好きな字数でよめばいいのだと。  / /長谷部 あらゆるタガをはずせば、短期的には楽になるかもしれません。しかし、次に政権が交代したとき、自分たちが時の政府を踏みとどまらせる歯止めもなくなる。外国の要求を、憲法の拘束があるからと断ることもできない。最後の最後、ここぞという時のよりどころが失われてしまう。その怖さを、安倍さんたちは自覚すべきです。 =敬称略(構成・高橋純子)朝日新聞『考論』

0015 オルテガ「大衆の反逆 (桑名一博訳;久野収解説)」(白水社イデー選書;1930)評価5

以下は、オルテガ所論の久野収による抜粋の抜粋である:///  オルテガによれば、政治のなかで「共存」への意志を最強力に表明し、実行していく政治スタイルこそ、自由主義的デモクラシーである。共存は、強い多数者が弱い少数者に喜んで提供する自己主張、他者説得の権利である。敵、それも最も弱い敵とさえ、積極的に共存するという、ゆるがない決意である。/その意味で、人類の自然的傾向に逆行する深いパラドックス(逆説)であるから、共存を決意した人類が、困難に面してこの決意を投げ出すほうへ後退したとしても、それは大きな悲劇ではあっても、大きな不思議とするには当たらない。/「敵と共存し、反対者と共に政治をおこなう」という意志と制度に背を向ける国家と国民が、ますます多くなっていく1930年代、オルテガは、「均質」化された「大衆」人間の直接行動こそが、あらゆる支配権力をして、反対派を圧迫させ、消滅させていく動力になるのだという。なぜなら、「大衆」人間は、自分たちと異類の非大衆人間との共存を全然望んでいないからである。略。///  「大衆」人間は、自分たちの生存の容易さ、豊かさ,無限界さを疑わない実感をもち、自己肯定と自己満足の結果として、他人に耳を貸さず、自分の意見を疑わず、自閉的となって、他人の存在そのものを考慮しなくなってしまう。そして彼と彼の同類しかいないかのように振舞ってしまう。/彼らは、配慮も、内省も、手続きも、遠慮もなしに、「直接行動」の方式に従って、自分たちの低俗な画一的意見をだれかれの区別なく、押しつけて、しかも押しつけの自覚さえもっていない。/彼らは、未開人―未開人は宗教、タブー、伝統、習慣といった社会的法廷の従順な信者である―ではなく、まさに文明の洗礼を受けた野蛮人である。文明の生み出した余裕、すなわち、贅沢、快適、安全、便益の側面だけの継承者であり、正常な生存の様式から見れば、奇形としかいいようのないライフスタイルを営んでいる新人類である。略。///  「自分がしたいことをするためにこの世に生まれあわせて来た」とする傾向、だから「したいことは何でもできる」とする信仰は、自由主義の自由の裏面、義務と責任を免除してもらう自由にほかならない。/われわれは自由主義の生みだした、この「大衆」人間的自由、自己中心的自由に対し、他者と共存する義務と責任をもった自由を保全しなければならないが、一筋縄でいかないのは、この仕事である。(160626:イギリスEU離脱について思うところ=もみ=)