9月22日(木):
副題「江戸期日本の危機管理に学ぶ」
236ページ 所要時間3:15 ブックオフ200円
著者43歳(1970生まれ)。
著者の雑誌掲載文一冊にまとめた評論集。体調がいまいちで、文章が頭に入りづらく内容を楽しめなかったので感想4だった。歴史家として著者の感性は極めて真っ当であり、納得がいく。若手歴史家としては、やや別格の存在である。
通説的常識も、学者の立場から見れば、単なる思い込みであって「真相はこうだった」と示されると多少慌ててしまうが、それでこそ読書する意味があるというものである。古文書原点に基づく学者の議論は安心してついていくことができる。
付箋でヤマアラシのようになった本を眺め、目次を振り返りながら、「ここに書いてあることを味わい覚える元気と時間があったらなあ…、素敵なのになあ」と思った。
またの機会に、付箋をたよりに読み直せたらいいなあ、と思う。著者の著作は読んでいて楽しいだけでなく、学者としての正確な知識はもちろんだが、何よりも歴史と向き合う著者の心根の良さに信頼感を持てるのだ。
【目次】
江戸の武士生活から考える :会社も国家も家族の延長/
濃尾平野で生まれた江戸的な武士団/中世的家臣団の限界/
長州藩奇兵隊の「散兵」戦術/
「坂の上の雲」の裏にあるもの/永代雇用を約束した藩組織が鉄壁の軍隊をつくった/追いつめられた日本人はどんな変革ものみこみ
甲賀忍者の真実 :忍者と分限帳/甲賀者と幕藩社会/忍者の任務とは?/忍者の定義/
甲賀のリテラシーは高かった /三河武士の鑑・鳥居元忠の真実 /関ヶ原の戦いと甲賀忍者の活躍/
甲賀者と伊賀者の待遇のちがい/忍者の危険度と死亡率/「甲賀未来記」の予言/「大忍の大事」こそ忍者の真髄/
人間を知るための極意「四知の伝」
江戸の治安文化 :いつから日本は人命にやさしい国になったのか/
江戸は意外にも銃が蔓延した社会だった/日本の犯罪発生率の低さは綱吉時代に始まる/
治安は町や村の自警力によって維持/日本は国際的に最も犯罪の少ない国家/「人を殺さない日本人」はなぜ生まれたか
長州という熱源 :「幕府追討はいかがでございますか」/
長州藩のGDPを計算する/長州藩のリテラシーの高さ/
独特な御前会議と士官学校の設立/国を想うがゆえの危うさ
幕末薩摩の「郷中(ごじゅう)教育」に学ぶ :危機に備えのない現代日本/柳田國男が求めた「判断力の教育」/会津藩は身分ごとに道徳律を定めた/大隈重信は佐賀の詰め込み教育に怒った/薩摩では「俸禄知行」が売買できた/
きわめて実践的だった薩摩の「郷中教育」 /いかにして想定外をなくすか/良いと思った価値を次世代に伝える努力
歴史に学ぶ地震と津波 :明応の南海トラフ大津波の凄まじさ/「日本丸」はレーダーが弱い/
揺れを克明に記した江戸の地震計「天水桶」/江戸時代人も「世界の終わり」を意識した/
後世へ、「各々油断致さるるな」/津波被害の厳しい想定を
司馬文学を解剖する :今や絶滅寸前の日本の史伝文学/司馬作品「関ヶ原」をテキストに読み解く/歴史小説家・司馬遼太郎の本領発揮 /
史実と創作のはざまで/徳富蘇峰「近世日本国民史」の影響 /平成の史伝文学の可能性
【内容】
幕末日本で唯一GDPを計算していた長州藩のリテラシーの高さ、幕末各藩の藩士教育を比較検討し、「いかに想定外をなくすか」―極めて実践的な「郷中教育」に育まれた危機管理の必要性を説く薩摩藩。先達の叡智から日本の未来を切り開く。「歴史に学ぶ地震と津波」では大災害にいかに備えるか。司馬遼太郎の歴史文学の神髄に迫る「司馬文学を解剖する」など。