5月20日(日):
229ページ 所要時間3:30 ブックオフ108円
著者76歳(1932生まれ)。千葉県生まれ。東京女子大学文学部卒業、東京大学大学院教育心理学専攻博士課程修了。教育学博士。現在、東京女子大学名誉教授。専攻は発達心理学、家族心理学
良識的で進歩的な内容の本である。その道の大家である著者が大きく風呂敷を広げて総合的に論じた印象を受け、新しい視点からの論も多くあった。部分的に
是枝裕和や重松清のドラマのような味わいのあるページもあり、実際、本書中で
山田太一「親にできるのは「ほんの少しばかり」のこと」(1995)が紹介がされていた。
本来であれば、感想5になるべきところだが、感想4に止めたのは、「言いたいことは十分に分かるが、それを我がことに置き換えた場合に、著者の考え方を全面的に信じて託せるかと問われれば、やはり託せない部分が残る」ことを否めないからである。
著者が善悪を決めつけてすらすらと述べている論に無批判に乗っかるのは容易いが、「本当にそうか?」と違和感を覚えるところも結構たくさんあった。「本来そうあるべきだろうが、実際はそうなってないだろう」という感じである。例えば、著者は赤ん坊は積極的観察学習者であるとしてゼロ歳児の保育園預けをプラス評価して見せる。つまり、乳幼児自身の学習能力を高く評価するのだ。
一方で、本書には全く触れられていないが、ノーベル経済学賞学者のヘックマンによる世界の貧困格差の是正において就学前教育の重要性を説く提議とは相容れない気がするのだ。環境を等しく整えたうえで、保育園などでの就学前教育を充実したグループと、手をかけなかったグループでは明らかに20代、30代など成人後の経済力・主体性などに格差が生じている。前者の方が自己肯定感も高いし、経済力もあるのだ。
著者の言うように、赤ん坊の学習能力の高さを侮ってはいけません、というだけでは「本当にそれだけでいいんですか?」という思いになり、とても任せきれない気分になるのだ。
著者の立ち位置は、わかるけど「ちょっとね…」って感じである。本書は決して読みにくい本ではないので、もう一度読み直すことがあれば、ひょっとすると感想5もあるかもしれない。感想4より下がることはまずない。
【目次】
第1章 育児不安の心理(日本に顕著な育児不安ー「母の手で」規範の陰に/「子育てだけ」が招く社会的孤立/父親の育児不在という問題)/
第2章 「先回り育児」の加速がもたらすものー少子化時代の子どもの「育ち」(変わる子どもの価値ー子どもを「つくる」時代の親の心理/「少子良育戦略」と子どもの「育ち」/「よい子の反乱」が意味するものー顕在化する親子の葛藤)/
第3章 子育て、親子を取巻く家族の変化(「便利さ」は家族をどう変えたのか/変貌する結婚と家族/高まる家族内ケアの重要性)/
第4章 子どもが育つ条件とはー“人間の発達”の原則からみる(“人間の発達”の原則と子育て/「子育て支援」から「子育ち支援」へ/子育てを社会化する意義)/
第5章 子どもも育つ、親も育つー“生涯発達”の視点(子どもの育ちと親の育ち/急がれるワーク・ライフ・バランスの確立)
【内容情報】
自己肯定感の低下、コミュニケーション不全の高まりなど、子どもの「育ち」をめぐって、様々な“異変”が起きている。一方、子育てのストレスから、虐待や育児放棄に走る親も目立つ。こうした問題の要因を、家族関係の変化や、親と子の心理の変化に注目して読み解き、親と子ども双方が育ちあえる社会の有り様を考える。