【蹴球日本を考える】川崎はなぜ勝てない? 鹿島戦にあったその答
熊崎敬
2015年08月31日
石井監督は敵について語り、風間監督は自分たちについて語った。
首位・鹿島との大一番に1-3と敗れ、3連敗。川崎が優勝から大きく遠ざかった。
川崎といえば優勝候補の一角であり、私も第1ステージ序盤の戦いぶりを見て、彼らの攻撃を抑え込むのは容易ではないと考えていた。だが、可能性の塊に見えたチームに停滞感が漂っている。
川崎はなぜ勝てないのか。その答が鹿島戦に表われていた。
試合後の記者会見で、鹿島の石井監督はゲームの狙いが川崎の攻撃を外へ外へと追いやることだったと述べた。
「川崎は中央を攻めてからサイドチェンジをして、また中央に攻めてくるという特徴がある。だから我々は外に追い込む守備をした。川崎がいつもと違う形で試合を進めている、という手応えを感じながら試合を見ていた」
一方、川崎の風間監督は「ゴール前に攻め込みながらも完全に崩せなかった。その回数もいつもより少なかったので、変化をつけなければならない」とコメントした。
石井監督は敵について語り、風間監督は自分たちについて語った。このふたつの言葉に、鹿島と川崎の哲学の違いが見て取れる。
つまり、鹿島が敵の出方を見ながら試合を運ぶのに対して、川崎は自分たちの論理で試合を進めようとする。実際に、その違いがゲームで浮き彫りになった。
鹿島は川崎の長所を出させないところから試合を始め、その結果、ゲームを掌握した。中盤をきっちり締め、小笠原が要注意人物の中村をゲームから消し去る(彼はどこにいても、絶えず首を振って中村の位置を確認していた)。これで川崎の攻めから、ゴールへの匂いがなくなった。
ゴールに直結する縦へのルートを厳しく遮断され、あっさりと迂回する。こうした川崎の試合運びに「そっちがそう来るなら、こっちはこれだ」という駆け引きの精神はない。
縦へのせめぎ合いはサッカーの醍醐味であり、それをしなければゲームは面白くなくなり、鹿島の思う壺になってしまう。
川崎は13分にカイオのミスから速攻のチャンスを得たが、このときも中盤でスピードを緩め、パス回しに転じた。こういうプレーが、どれだけ敵を利するかわかっていない。ミスと接触プレーを恐れているようにも見える。
川崎のパスは横へ、横へと淡々と回ったが、それは悪いときの日本代表を見るかのようだった。
これは上手いチームが陥る落とし穴でもある。タレント揃いの川崎は技術が高いゆえにつなぐことに終始し、プレーから意外性が消えてしまう。際の際を突く鋭さや大胆さも失われる。
2点差がついてから反発したが、それも尻すぼみに…。
先制点を挙げたカイオは、左サイドから川崎を困難に陥れた。 (C) SOCCER DIGEST
サッカーは丁寧にプレーすると、ときとして怖さがなくなっていく。だが、この課題とは無縁のチームがある。鹿島だ。彼らはポゼッションに縛られず、つねに敵の嫌なことをやるという姿勢が貫かれている。
例えばカイオ。面倒なヤツが集まった鹿島の中でも、彼は飛び切り面倒なヤツだった。
51分に鮮やかなミドルを突き刺した彼は、その4分後、鹿島らしいプレーを見せた。
左サイドから果敢に仕掛け、並走するA・マイアを振り切る。だが、クロスを上げられる状況になってもクロスを上げない。彼はニアポストに向かってサイドを深く深くえぐっていき、最後にA・マイアに倒された。鹿島は好位置でFKを獲得、A・マイアにイエローカードが提示された。
たぶんカイオは簡単にクロスを上げるより、深くえぐるほうが敵にダメージを与えられると考えたはずだ。深くえぐればゴールの確率は高まり、もしかするとPKを獲得できるかもしれない――。
鹿島の試合運びは、こうした駆け引きに満ちている。駆け引きで敵を揺さぶり、一気呵成にゴールを奪う。川崎の頭脳と身体を揺さぶり、敵が棒立ちになったところで2点目、3点目を決めた。
つまり技術で上回る川崎は駆け引きで負け、肝心の技術で勝負できないまま敗れ去った。
川崎の風間監督は、技術と戦術ですべてを解決できると考えているようだ。だが、サッカーは敵がいるスポーツであり、つねに自分たちの思い通りに事を運べるわけではない。
それでも自分たちの論理でゲームを運ぼうとするなら、敵に指ひとつ触れさせないくらいの完璧なプレーをするしかない。それは至難の業だ。なぜなら敵もまたプロ集団であり、厳しい練習を積んでいる。
川崎は激しい凌ぎ合いをしないまま、鹿島に勝点3を献上した。気になるのは、ホームのお客さんたちが、この敗北に納得したかということだ。
勝負事だから負けることはある。こういうときに問われるのは負け方だ。
「あれだけやったのだから、今日はもう仕方ない」
そう思わせるものを見せられたかどうか。
残念ながら、この敗戦に納得できるものはなかった。
2点差がついてから反発したが、それも大きな炎にはならず、尻すぼみになった。駆け引きをしない、怖さがないということよりも、この冷めたところが何よりも残念だった。
取材・文:熊崎敬
川崎との試合について記すサッカーダイジェストの熊崎氏である。
川崎が勝てぬ要因についてはさほど興味はないが、鹿島に対しての記述が面白い。
「鹿島が敵の出方を見ながら試合を運ぶ」
「鹿島は川崎の長所を出させないところから試合を始め、その結果、ゲームを掌握した」
と述べる。
石井監督となり連勝が続いておる。
その答えは、スカウティングを徹底し、相手のイヤなところを突いていくことにあることがわかる。
これが外からは鹿島らしいと評されるのは嬉しいこと。
勝つための手立ては全て使う。
これからも勝利を積み重ねて行きたい。
期待しておる。