新しいスタイルに挑戦中?若手主体で好調維持の鹿島アントラーズ
Text by 後藤 健生
すっかり若返った鹿島アントラーズが横浜F・マリノスに見事に逆転勝ちし、単独首位に立った。試合後のトニーニョ・セレーゾ監督はすっかりご機嫌で、記者会見は30分近くの独演会となってしまった。試合展開から若手育成についてなど話すだけ話し、相手チームのエース中村俊輔に賛辞を送り、そして最後は「横浜の監督に怒られるから」と言いながら、足取りも軽く風のように立ち去って行った。
前半の終了間際に中村のCKから栗原勇蔵に豪快なヘディングシュートを決められて1点リードされたものの、後半は鹿島の強さが目立つ展開になった。すると54分、土居聖真が栗原と中澤佑二の間を強引に突破するドリブルで一気に抜け出して同点とし、さらに終盤には途中投入されたベテランの野沢拓也と若手のホープ柴崎岳の連続ゴールで逆転したのだ。野沢のゴールは小さなスペースを狙った柴崎の浮き球のパスを野沢が引っかけた見事なもの。そして、柴崎のゴールは相手DFラインと駆け引きしながら裏に抜け出した柴崎にカイオからのパスが入ったもの。1ゴール、1アシストと柴崎が輝いた。今シーズンの鹿島は、大迫勇也がドイツに渡り、若手が目立つ布陣で不安の方が大きかったが、蓋を開けてみればその若手が活躍。一気に注目度が上がっている。
ところで、僕がこの横浜との試合を見ていて感じたのは、これまでの鹿島にはない縦へのスピード感だった。鹿島アントラーズというと、伝統的にボールをしっかり保持して、丁寧につなぐサッカーだった。スピードは犠牲にしても、ボールを持つことでリズムを作り、相手の守備に穴が生じたところを衝いてくる。そういうスタイルのサッカーが安定感をもたらすと同時に、迫力あるいは躍動感には欠ける印象もあった。ところが、今シーズンの鹿島は、あるいはこの横浜戦の鹿島は、ボールを持ったらまず前にボールを付けるという意識が強く、また、パス1本1本のスピードが速かった。
後半開始とともに記者席に配布される「ハーフタイム・コメント」にも、トニーニョ・セレーゾ監督の発言欄に「ボールスピードを上げていくこと」というコメントが載っていた。後半、「もっと積極的に」というトニーニョ・セレーゾ監督の指示もあって、鹿島にはさらに「前へ」あるいは「速く」という意識が強くなっていった。年齢的、世代的に若返ったのとともに、鹿島アントラーズのサッカー自体が新しいサイクルに入ったのではないだろうか。今後、若手選手たちが経験を積み、一つのチームとしてまとまった時には、かつての鹿島とはかなりイメージが違うチームが完成するのかもしれない。「スピードアップというのは時代の要請。鹿島もそうした時流に乗っただけなのだ」という考え方もできるだろう。
だが、今のJリーグのサッカーは、必ずしもスピード一点張りではない。Jリーグが開幕した1990年代の日本では「パススピード」が強調されていた。それが「世界との差」と捉えられ、育成段階で選手たちにパススピードの意識が植え付けられた。こうして、日本のサッカーは世界に一歩、二歩と近づいて行ったのだ。だが、最近のJリーグではスピードを強調しないチームが好調である。たとえば、Jリーグを連覇したサンフレッチェ広島。独特のスリーバックで、ボールを奪っても決して攻め急がない。後方でしっかりとボールをキープして、ボールをピッチの幅いっぱいを使って動かし、相手の守備陣に穴を見つけるまで辛抱強くパスを回し続ける。そして、穴を見つけると、そこに後方の選手も加わって攻め切ってしまう。それが、広島のスタイルだ。また、風間八宏監督が就任してからの川崎フロンターレも決して速さを強調しない。もちろん中村憲剛の長いパス1本で裏を取るプレーをすることもあるが、攻め手がなければ、迷わずに後方に戻して組み立て直す。
こうした、「スピードよりもキープ」というやり方をしている(そして、それをうまく生かしている)チームを見ていると、小柄でそれほどスピードはないが、テクニックと丁寧なプレーを特徴とする日本人選手にとっては、そういうポゼッション・サッカーが向いているのではないか。それこそ、日本サッカーが今後進んでいくべき方向のようにも思えるのだ。フィジカルの強さを生かして、強引に前に前にとボールを送り込むようなサッカーとは違った日本独特のサッカー・スタイルとは、そんなものなのではないだろうか……。
今シーズン好調の(ただし、詰めの甘さで勝点を失って、首位争いには加われない)川崎とか、AFCチャンピオンズリーグのホームゲームでFCソウルに完勝した広島の試合を見ていて、そんな印象を強く受けていたのだ。ところが、かつてはボール・ポゼッション重視のサッカーをしていた鹿島アントラーズがスピードを強調したサッカーを目指している。Jリーグのサッカーは、このところ停滞感が目立っているような印象も強かったが、今、さまざまな新しいスタイルの模索が行われているのだ。
横浜戦で際立った鹿島のスピード・サッカー。それが、この試合で横浜の速いパス回しに対応するためだけのものだったのか、それとも、もっと意図的に長期的視野に立って新しいスタイルを模索しているのか……。ぜひトニーニョ・セレーゾ監督に質問してみたかったのだが、独演会を終えたトニーニョ・セレーゾ監督はさっさと会場を去って行ってしまった。
トニーニョ・セレーゾ監督への質問機会を逸した後藤氏のコラムである。
鹿島好調の理由は縦への速さであると分析したとのこと。
鹿島といえば、伝統的にボールをしっかり保持して、丁寧につなぐサッカーと後藤氏の個人的な印象にて断定しておる。
確かにカウンターに徹したチームに比べれば、ポゼッションから崩すという戦術を取ることが多かった。
しかしながら、これは鹿島を相手にしたチームが自陣に引きこもり前に出てこないために採っておった戦術に過ぎぬ。
鹿島が先制した際には電光石火のカウンターにて仕留めることも、しばしば目に留まったはず。
それを見逃してこのような記事を書いてしまうところに後藤氏の鹿島への情報不足を感じされられる。
とはいえ、後藤氏が「スピードを強調したサッカーを目指している」と見解するには理由があろう。
プロの目にそのように映るスピードを拝みにスタジアムへ向かいたい。
鹿島の
新化が楽しみである。