若手成長のために。鹿島、セレーゾ監督のある試み
2014.03.31
浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio
前節終了時点でともに3勝1敗の勝ち点9。わずかな得失点差で首位に立つ鹿島アントラーズと3位の横浜F・マリノスが対戦した、J1第5節注目の首位攻防戦は、鹿島が3-1で勝利を収めた。
勢いに勝る若いチームは、百戦錬磨のベテラン軍団さえも飲みこんでしまった。
21歳の柴崎岳ら若手が先発し、選手の平均年齢が下がった今季の鹿島
この日の先発11人の平均年齢が29.64歳で、うち6人が30代の横浜FMに対し、平均年齢は26.18歳、うち5人が23歳以下という鹿島。対照的な選手構成ゆえ経験値には大きな差がある。しかも前半に横浜FMが得意のセットプレイ(コーナーキック)から効率よく先制点を奪ったとあって、試合の流れは横浜FMに大きく傾くかに思われた。
ところが後半、21歳のFW土居聖真(しょうま)のゴールで同点に追いつくと、さらに野沢拓也と柴崎岳の2ゴールを加えて逆転。若い鹿島はいとも容易(たやす)く、試合をひっくり返してしまった。
「前半は自分たちから試合を放棄しているようだった」と鹿島のトニーニョ・セレーゾ監督。自らハーフタイムに喝を入れ、「積極的に自分たちのサッカーをやってほしいと伝えた。ときにリスクを負わなければいけない。ボールを失うことを怖がってはいけない。それだけは要求した」と言う。
目を覚ました選手たちは、運動量の落ちた横浜FMを圧倒。指揮官は「ビハインドから同点に追いつき、逆転できたことは率直にうれしい」と、若手がまたひとつ成長したことに目を細めた。
今季の鹿島は、エースストライカーの大迫勇也がドイツ(1860ミュンヘン)へ移籍し、戦力ダウン。そんななかで急速に若返りが図られた。常勝軍団であり続けるためには必要なステップではある。とはいえ、今季はあくまで改革途上。すぐに成績に結びつけるのは難しいだろうと見られていた。
ところが、新たなシーズンが始まってみれば開幕3連勝。前節セレッソ大阪に初黒星を喫したものの、敗戦を引きずることなく、この日は鮮やかな逆転勝利である。ここまでの鹿島は、怖いくらいにうまく若返りと成績を両立させている。
とはいえ、その裏には相応の苦労や我慢もあるようだ。トニーニョ・セレーゾ監督は「昨季よりかなり平均年齢が下がった。そこではリーダーシップが非常に重要になる」と言い、こう続ける。
「急にこの選手をリーダーに育てようと思っても難しい。それは選手としての成熟とともにできるようになること。だから、全員がリーダーシップを取れるようになればいいと思っている。敬意を持った言い合いは必要なことであり、選手同士で何がいいか悪いかを言えるようにならなければいけない。それができないうちは未熟なチームということだ」
そして逆転勝利に舌も滑らかなは指揮官は、こんな裏話も披露した。
「(新人の)高校生や大学生が入ってきても、彼らは何もしゃべらない。だから彼らが少しでも慣れる環境を作るため、僕は今、若手のロッカーを一緒に使って、彼らにちょっかいを出して周りとコミュニケーションを取りやすくしている」
今季も鹿島を率いるトニーニョ・セレーゾ監督 photo by Takahashi Manabu
ブラジル代表をはじめ、選手としても数々の大舞台で活躍してきたトニーニョ・セレーゾ監督は、「僕が18、19歳のときにはブラジル選手権を戦っていた。プロとしてどうしなければいけないのかを身につけていた」と彼我の差を嘆きつつも、若手が力を出せる環境を作るために手を尽くしているというわけだ。
そんな親心を知ってか知らずか、若い選手たちはピッチ上でハツラツとした動きを見せている。
同点ゴールを決めた土居は、日本代表経験も豊富な横浜FMのセンターバック(中澤佑二、栗原勇蔵)と対峙しても、「リスペクトしすぎてもいけないので、思い切りやった」。また、同じ21歳のセンターバック、昌子源も「課題は多いけど、いつまでも先輩に頼っていてはダメ。自分たちが成長しなければいけない」と前向きな姿勢を見せる。台頭する若手と、これまで常勝軍団を支えてきたベテランとがうまくかみ合い、鹿島は見事なスタートダッシュに成功した。
もちろん、まだまだ盤石の戦いぶりには程遠い。若い選手が多く、1試合のなかでさえ出来不出来の波が大きい。ナビスコカップでは、リーグ戦と変わらぬメンバーで臨みながら、FC東京に1-3の完敗を喫している。
それでもトニーニョ・セレーゾ監督は、「うちはまだ若く、チーム作りをしているところ。こういうふうにうまくいかないこともある」と鷹揚に構える。そうした姿勢もまた、若手がのびのびとプレイできる要因なのだろう。
“若い鹿島”の象徴的存在である、21歳のMF柴崎岳は言う。
「若手が成長することが、今年だけでなく、来年、再来年とアントラーズが強くあり続けることにつながる」
首位・鹿島が横浜FMを下した上位対決。それは同時に、若い選手たちが確かな成長の手応えをつかんだ一戦でもあった。
土曜日のFマリノス戦を元に鹿島の状況を記したSportivaの浅田氏である。
若きチームを指揮官がどのように捉え、どのようにマネージメントしておるのかが伝わってくる。
やはり素晴らしい監督である。
今季、このチームにてタイトル争いをし、制することが叶えば、鹿島は更に「新化」しよう。
楽しみにしておる。
2014.03.31
浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio
前節終了時点でともに3勝1敗の勝ち点9。わずかな得失点差で首位に立つ鹿島アントラーズと3位の横浜F・マリノスが対戦した、J1第5節注目の首位攻防戦は、鹿島が3-1で勝利を収めた。
勢いに勝る若いチームは、百戦錬磨のベテラン軍団さえも飲みこんでしまった。
21歳の柴崎岳ら若手が先発し、選手の平均年齢が下がった今季の鹿島
この日の先発11人の平均年齢が29.64歳で、うち6人が30代の横浜FMに対し、平均年齢は26.18歳、うち5人が23歳以下という鹿島。対照的な選手構成ゆえ経験値には大きな差がある。しかも前半に横浜FMが得意のセットプレイ(コーナーキック)から効率よく先制点を奪ったとあって、試合の流れは横浜FMに大きく傾くかに思われた。
ところが後半、21歳のFW土居聖真(しょうま)のゴールで同点に追いつくと、さらに野沢拓也と柴崎岳の2ゴールを加えて逆転。若い鹿島はいとも容易(たやす)く、試合をひっくり返してしまった。
「前半は自分たちから試合を放棄しているようだった」と鹿島のトニーニョ・セレーゾ監督。自らハーフタイムに喝を入れ、「積極的に自分たちのサッカーをやってほしいと伝えた。ときにリスクを負わなければいけない。ボールを失うことを怖がってはいけない。それだけは要求した」と言う。
目を覚ました選手たちは、運動量の落ちた横浜FMを圧倒。指揮官は「ビハインドから同点に追いつき、逆転できたことは率直にうれしい」と、若手がまたひとつ成長したことに目を細めた。
今季の鹿島は、エースストライカーの大迫勇也がドイツ(1860ミュンヘン)へ移籍し、戦力ダウン。そんななかで急速に若返りが図られた。常勝軍団であり続けるためには必要なステップではある。とはいえ、今季はあくまで改革途上。すぐに成績に結びつけるのは難しいだろうと見られていた。
ところが、新たなシーズンが始まってみれば開幕3連勝。前節セレッソ大阪に初黒星を喫したものの、敗戦を引きずることなく、この日は鮮やかな逆転勝利である。ここまでの鹿島は、怖いくらいにうまく若返りと成績を両立させている。
とはいえ、その裏には相応の苦労や我慢もあるようだ。トニーニョ・セレーゾ監督は「昨季よりかなり平均年齢が下がった。そこではリーダーシップが非常に重要になる」と言い、こう続ける。
「急にこの選手をリーダーに育てようと思っても難しい。それは選手としての成熟とともにできるようになること。だから、全員がリーダーシップを取れるようになればいいと思っている。敬意を持った言い合いは必要なことであり、選手同士で何がいいか悪いかを言えるようにならなければいけない。それができないうちは未熟なチームということだ」
そして逆転勝利に舌も滑らかなは指揮官は、こんな裏話も披露した。
「(新人の)高校生や大学生が入ってきても、彼らは何もしゃべらない。だから彼らが少しでも慣れる環境を作るため、僕は今、若手のロッカーを一緒に使って、彼らにちょっかいを出して周りとコミュニケーションを取りやすくしている」
今季も鹿島を率いるトニーニョ・セレーゾ監督 photo by Takahashi Manabu
ブラジル代表をはじめ、選手としても数々の大舞台で活躍してきたトニーニョ・セレーゾ監督は、「僕が18、19歳のときにはブラジル選手権を戦っていた。プロとしてどうしなければいけないのかを身につけていた」と彼我の差を嘆きつつも、若手が力を出せる環境を作るために手を尽くしているというわけだ。
そんな親心を知ってか知らずか、若い選手たちはピッチ上でハツラツとした動きを見せている。
同点ゴールを決めた土居は、日本代表経験も豊富な横浜FMのセンターバック(中澤佑二、栗原勇蔵)と対峙しても、「リスペクトしすぎてもいけないので、思い切りやった」。また、同じ21歳のセンターバック、昌子源も「課題は多いけど、いつまでも先輩に頼っていてはダメ。自分たちが成長しなければいけない」と前向きな姿勢を見せる。台頭する若手と、これまで常勝軍団を支えてきたベテランとがうまくかみ合い、鹿島は見事なスタートダッシュに成功した。
もちろん、まだまだ盤石の戦いぶりには程遠い。若い選手が多く、1試合のなかでさえ出来不出来の波が大きい。ナビスコカップでは、リーグ戦と変わらぬメンバーで臨みながら、FC東京に1-3の完敗を喫している。
それでもトニーニョ・セレーゾ監督は、「うちはまだ若く、チーム作りをしているところ。こういうふうにうまくいかないこともある」と鷹揚に構える。そうした姿勢もまた、若手がのびのびとプレイできる要因なのだろう。
“若い鹿島”の象徴的存在である、21歳のMF柴崎岳は言う。
「若手が成長することが、今年だけでなく、来年、再来年とアントラーズが強くあり続けることにつながる」
首位・鹿島が横浜FMを下した上位対決。それは同時に、若い選手たちが確かな成長の手応えをつかんだ一戦でもあった。
土曜日のFマリノス戦を元に鹿島の状況を記したSportivaの浅田氏である。
若きチームを指揮官がどのように捉え、どのようにマネージメントしておるのかが伝わってくる。
やはり素晴らしい監督である。
今季、このチームにてタイトル争いをし、制することが叶えば、鹿島は更に「新化」しよう。
楽しみにしておる。
キミらは鹿島の希望。キッカを受継ぎ、微かな胎動を継続させよ熊谷。10年、いや100年先を見据え、そして未来へ繋ごう。
こんな春の良き日に何をか想ふ
我らが鹿島アントラーズは未来永劫輝き続ける。そう確信している。