20回目のファイナルを彩った若者たち
ナビスコカップ決勝 清水エスパルス1-2鹿島アントラーズ
2012年11月4日(日)
■20回目を迎えるナビスコカップの重みについて
鹿島が延長戦で清水を破り、連覇を達成。ジョルジーニョ監督や選手たちは喜びを爆発させた【写真:築田純/アフロスポーツ】
そういえば沢口靖子は、いつからリッツのCMに出演しているのであろうか? ヤマザキナビスコカップが今年で20周年を迎えたことを知り、ふとそんなことを考えてしまった。ヤマザキナビスコ株式会社は、1970年設立という、食品会社としては比較的新しい企業であるが、継続性というものを重んじる社風があるのかもしれない。もちろん、リッツのCMで同じタレントを起用し続けることよりも、ナビスコカップという大会を20年にわたりサポートし続けてきたという事実の方が、はるかに重いわけだが。
決勝戦の直前、Jリーグがナビスコカップについて「同一スポンサーによる最長のカップ戦」としてギネスブックに申請し、受理されたことがアナウンスされた。今後は審議の結果を待つことになるが、もし記録が認められることになれば、ナビスコカップは日本が世界に誇るリーグカップとして、国外にも広く知られることになるだろう。
一例を挙げよう。フットボールの母国イングランドで、リーグカップがスタートしたのは1960年。スポンサー名が付いたのは82年からで、当初は「ミルクカップ」として4シーズン続いた。以後、「リトルウッズ・カップ」「ランブロウズ・カップ」「コカ・コーラ・カップ」「ワージントン・カップ」「カーリング・カップ」と名称を変えている。最も長く続いたのがカーリング・カップで、これが9シーズン。てっきり今もそう呼ばれていると思っていたら、今季からは「キャピタル・ワン・カップ」となっていた。こうして見ると、ナビスコ社が20年間にわたって日本のリーグカップを支えてきたことが、どれだけ偉大なことであったのか、容易に理解することができよう。
Jリーグ開幕に先立つこと1年前の92年、10チームによってスタートしたナビスコカップ。この日のファイナルの舞台に立つ清水エスパルスと鹿島アントラーズの選手たちの多くが、当時は就学前の幼児だったことを思うと実に感慨深い(ニューヒーロー賞を獲得した清水の石毛秀樹は、まだ生まれてもいなかった)。余談ながら、今年はナビスコカップ20周年であり、なおかつ20回目の大会である。数が合わないのは、95年だけ日程の問題で開催されなかったからだ。そうした危機も乗り越えて、今日この日を迎えたのは、これまた感慨深いことである。
■先発の平均年齢23歳の清水、ベンチが豪華な鹿島
現時点でのリーグ戦の順位では、清水が4位、鹿島が13位。今季の対戦は3回あって、清水の2勝1敗となっている。とはいえカップ戦のファイナルは一発勝負。これらの数字が、どれだけ参考になるかは分からない。取り急ぎ、両チームの現状について確認しておこう。
まずは16年ぶりのナビスコ優勝と、10年ぶりのタイトル獲得に燃える清水。こちらの懸念事項は、ダブルボランチの一角である杉山浩太が、準決勝で通算2枚目のイエローをもらい、累積で出場停止となってしまったことだ。その結果、村松大輔をアンカーに置く4-3-3の布陣を組んできた。攻撃陣では、右の大前元紀、左の高木俊幸による両サイドに注目。とりわけ大前は、今季12ゴールと好調を維持、ナビスコでもFC東京との準決勝第2戦でハットトリックを決めている。
清水について、もうひとつ特筆すべきことは選手の年齢構成が若いことだ。スタメンの平均年齢は、ジャスト23歳。最年長はカルフィン・ヨン・ア・ピンと平岡康裕の26歳である。アフシン・ゴトビ監督が指揮を執って2年目。今季途中で小野伸二とアレックスが国外のクラブに移籍し、高原直泰も定位置を失うなど(この試合ではベンチにも入っていなかった)、チームの若返りの速度は尋常でない。その若さが、果たして吉と出るだろうか。
一方、連覇と通算タイトル16冠を目指す鹿島はどうか。こちらは中盤でタクトを振るレナトがけがで欠場。ドゥトラとジュニーニョもベンチスタートとなり、ピッチ上はオール日本人となった。中盤の構成にも手が加えられ、このところ左サイドで起用されている興梠慎三が中央に、ボランチが定位置の柴崎岳が左サイドに、そして小笠原満男のパートナーには本田拓也が選ばれた。だが、それ以上に意外だったのが、左サイドバックが新井場徹ではなく、センターバックが本職の昌子源が起用されたことである。この起用は(鹿島から見て)左サイドで対面する大前を意識したものと見て間違いなさそうだ。
スタメン以上に目を引くのが、ベンチの豪華さである。ブラジル人2名に加えて、中田浩二、増田誓志、本山雅志といった日本代表経験者がずらりと居並ぶ。戦前の予想を覆すスタメンの陣容と、豪華すぎるベンチの顔ぶれ。それらから導き出されるのは、ジョルジーニョ監督がゴトビ率いる清水を相当にリスペクトしているということであり、同時に、心からタイトルを渇望しているということである。
実際、前半は攻める清水、それをはね返す鹿島という展開が続いた。清水は若さを担保とした旺盛な運動量で、序盤から激しいプレッシングとチェイシングで相手を圧倒し続ける。しかしシュート数は高木の2本のみ。それだけ鹿島守備陣のブロックは強固であった。今にして思えば、前半は清水に攻めさせておいて、相手の体力消耗を見計らってカウンターを仕掛けるというのが、鹿島のプランだったのかもしれない。前半はこれといったトピックスもなく、0-0で終了する。
■試合を決めたのは、意外にも柴崎の2ゴール
柴崎(白)は2得点を挙げる活躍でチームを優勝に導いた【写真は共同】
後半に入ると鹿島のベンチは、次々と反撃への布石を打ってくる。ハーフタイムで興梠に代えてドゥトラを投入。さらに後半25分には、本田を下げて増田が左サイドに入り、柴崎は小笠原とコンビを組むことになった。
この交代の効果は直後に現れた。カウンターから遠藤がドリブルで抜け出し、ドゥトラへパス。右サイドを駆け上がっていたドゥトラが中へ折り返し、これを受けた柴崎がペナルティーエリア内で倒されてPKを得る。てっきり小笠原が蹴るかと思ったが「相手に研究されている」(ジョルジーニョ監督)という理由で、キッカーには柴崎が選ばれた。この重要な局面で、高卒2年目の20歳にPKを託す。相当な重圧だったにもかかわらず、柴崎は冷静にGK林彰洋の逆を突いた。後半28分、鹿島先制。
しかし鹿島のリードは4分しか続かなかった。今度は清水にPKが与えられたのである。コーナーキックの場面から、平岡が顔面を押さえて倒れ、青木剛にイエローカードが提示されるが、PKの理由がどうにも釈然としない。ともあれ、このチャンスを大前がきっちり決めて、すぐさま清水が同点に追いつく。その後、再びリードすべく鹿島が攻撃的な新井場を送り出すと(昌子と交代)、清水もアディショナルタイムに石毛を投入(八反田康平と交代)。結局スコアは動かず、3年連続の延長戦となった。
そして延長前半3分、いきなり鹿島に決勝ゴールが生まれる。左サイドでスローインを受けた増田が逆サイドに大きく展開。これに西大伍が長い距離を走って追いつき、縦にボールを送ると、これを受けた柴崎がドリブルで一気に加速する。シュート直前、カルフィン・ヨン・ア・ピンが激しいプレッシャーをかけるが、今度は倒れることなく、柴崎は冷静にゴールに流し込んでみせた。今季1ゴールの柴崎が、ナビスコ決勝の大舞台で2ゴール。戦前は、大前と大迫勇也の対決ばかりに注目が集まっていたが、ふたを開けてみれば柴崎の独断場であった。
やがて国立のスタンドは、勝利を確信した鹿島サポーターの歌声で埋め尽くされた。再び1点を追うことになった清水は、アンカーの村松をベンチに下げてFWの瀬沼優司を送り出し、前線に4人を並べて必死の反撃を見せる。だが、ここからが鹿島の真骨頂である。相手の猛攻を、ある時はがっちり受け止め、ある時は軽くいなし、刻一刻と残り時間を消化させてゆく。アディショナルタイム2分を経て、タイムアップ。鹿島がナビスコカップ連覇と16冠を達成し、ジョルジーニョ監督は97年の現役時代に続き、指揮官としてもトロフィーを掲げる快挙を成し遂げた。
■例年以上に若さの輝きが印象的なファイナル
「覚えておいてほしいのは、われわれの選手の多くは新人、1年目だ。こういった試合で、国立の4万5000人の観客の前でプレーするのは簡単なことではない」
「このトロフィーへの旅路が、さらにわれわれを強くしてくれると思う。この先、また決勝に進みたいし、その時には何も手にせずに帰りたくないと思う」
試合後のゴトビ監督の印象的なコメントを並べてみた。経験の乏しい若いメンバーながら決勝まで勝ち上がり、前回チャンピオンである鹿島をここまでリスペクトさせたことについては、十分に誇ってよいだろう。ただし現状の清水は、今はまだ成長過程のチームであり、ファイナルの一発勝負という条件においては、鹿島の試合巧者ぶりのほうが際立っていたのも事実である。
一方の鹿島は、相手のキーマンである大前を昌子に徹底マークさせ、強固な守備ブロックで対抗した上で、切れ味鋭いカウンターを繰り出すという戦術を徹底させていた。特に昌子については「大前に何もさせないのが、お前の仕事。相手が水を飲んでいたら一緒に水を飲め。何なら同じ水を飲んでもいいぞ。それくらいの気持ちでやるように」と指揮官は直接指示したそうである。結果として鹿島は、PK以外での失点を相手に許すことなく、リーグ戦の不調を忘れさせるような戦いぶりで、今季最初のタイトルを手にした。
かくして今年のナビスコカップは、鹿島の優勝で幕を閉じることとなった。しかし、平均年齢23歳の清水が見せた可能性もまた素晴らしく、例年以上に若さの輝きが印象的なファイナルであった。そして大会MVPに、20歳の柴崎が選ばれたのも実に象徴的であった(20回目の大会で、背番号20を付けた20歳の若者がMVPとなる。まるで狙ったかのような「20尽くし」ではないか!)。ナビスコカップが始まった92年に誕生した若者が、20周年となる今大会で目覚ましい活躍を見せたことに、あらためてこの大会が積み重ねてきた重みを実感する。と同時に、わが国のリーグカップが息の長いスポンサードの下、さらなる進化と発展を遂げることを願わずにはいられない。
<了>
宇都宮徹壱氏のコラムである。
試合の流れを良く評しておる。
そして、
「コーナーキックの場面から、平岡が顔面を押さえて倒れ、青木剛にイエローカードが提示されるが、PKの理由がどうにも釈然としない。」
と、明らかな誤審について明言しており好感が持てる。
個人的にはこのシーンだけでなく、コロコロと倒れ試合の流れを切ってファールを貰うプレイを続ける清水の選手に対してコメントして欲しかった。
しかしながら、敗者の敗因がここでは無い以上、ここについてコメントしても仕方の無いところであろう。
とはいえ、彼等がこういうプレイを続け、それが容認されるようでは、Jリーグの発展は閉ざされる。
宇都宮氏を含めたサッカーメディア関係者は、こういう部分から日本サッカー界が改善されるよう力を注いで欲しいと願う。
ナビスコカップ決勝 清水エスパルス1-2鹿島アントラーズ
2012年11月4日(日)
■20回目を迎えるナビスコカップの重みについて
鹿島が延長戦で清水を破り、連覇を達成。ジョルジーニョ監督や選手たちは喜びを爆発させた【写真:築田純/アフロスポーツ】
そういえば沢口靖子は、いつからリッツのCMに出演しているのであろうか? ヤマザキナビスコカップが今年で20周年を迎えたことを知り、ふとそんなことを考えてしまった。ヤマザキナビスコ株式会社は、1970年設立という、食品会社としては比較的新しい企業であるが、継続性というものを重んじる社風があるのかもしれない。もちろん、リッツのCMで同じタレントを起用し続けることよりも、ナビスコカップという大会を20年にわたりサポートし続けてきたという事実の方が、はるかに重いわけだが。
決勝戦の直前、Jリーグがナビスコカップについて「同一スポンサーによる最長のカップ戦」としてギネスブックに申請し、受理されたことがアナウンスされた。今後は審議の結果を待つことになるが、もし記録が認められることになれば、ナビスコカップは日本が世界に誇るリーグカップとして、国外にも広く知られることになるだろう。
一例を挙げよう。フットボールの母国イングランドで、リーグカップがスタートしたのは1960年。スポンサー名が付いたのは82年からで、当初は「ミルクカップ」として4シーズン続いた。以後、「リトルウッズ・カップ」「ランブロウズ・カップ」「コカ・コーラ・カップ」「ワージントン・カップ」「カーリング・カップ」と名称を変えている。最も長く続いたのがカーリング・カップで、これが9シーズン。てっきり今もそう呼ばれていると思っていたら、今季からは「キャピタル・ワン・カップ」となっていた。こうして見ると、ナビスコ社が20年間にわたって日本のリーグカップを支えてきたことが、どれだけ偉大なことであったのか、容易に理解することができよう。
Jリーグ開幕に先立つこと1年前の92年、10チームによってスタートしたナビスコカップ。この日のファイナルの舞台に立つ清水エスパルスと鹿島アントラーズの選手たちの多くが、当時は就学前の幼児だったことを思うと実に感慨深い(ニューヒーロー賞を獲得した清水の石毛秀樹は、まだ生まれてもいなかった)。余談ながら、今年はナビスコカップ20周年であり、なおかつ20回目の大会である。数が合わないのは、95年だけ日程の問題で開催されなかったからだ。そうした危機も乗り越えて、今日この日を迎えたのは、これまた感慨深いことである。
■先発の平均年齢23歳の清水、ベンチが豪華な鹿島
現時点でのリーグ戦の順位では、清水が4位、鹿島が13位。今季の対戦は3回あって、清水の2勝1敗となっている。とはいえカップ戦のファイナルは一発勝負。これらの数字が、どれだけ参考になるかは分からない。取り急ぎ、両チームの現状について確認しておこう。
まずは16年ぶりのナビスコ優勝と、10年ぶりのタイトル獲得に燃える清水。こちらの懸念事項は、ダブルボランチの一角である杉山浩太が、準決勝で通算2枚目のイエローをもらい、累積で出場停止となってしまったことだ。その結果、村松大輔をアンカーに置く4-3-3の布陣を組んできた。攻撃陣では、右の大前元紀、左の高木俊幸による両サイドに注目。とりわけ大前は、今季12ゴールと好調を維持、ナビスコでもFC東京との準決勝第2戦でハットトリックを決めている。
清水について、もうひとつ特筆すべきことは選手の年齢構成が若いことだ。スタメンの平均年齢は、ジャスト23歳。最年長はカルフィン・ヨン・ア・ピンと平岡康裕の26歳である。アフシン・ゴトビ監督が指揮を執って2年目。今季途中で小野伸二とアレックスが国外のクラブに移籍し、高原直泰も定位置を失うなど(この試合ではベンチにも入っていなかった)、チームの若返りの速度は尋常でない。その若さが、果たして吉と出るだろうか。
一方、連覇と通算タイトル16冠を目指す鹿島はどうか。こちらは中盤でタクトを振るレナトがけがで欠場。ドゥトラとジュニーニョもベンチスタートとなり、ピッチ上はオール日本人となった。中盤の構成にも手が加えられ、このところ左サイドで起用されている興梠慎三が中央に、ボランチが定位置の柴崎岳が左サイドに、そして小笠原満男のパートナーには本田拓也が選ばれた。だが、それ以上に意外だったのが、左サイドバックが新井場徹ではなく、センターバックが本職の昌子源が起用されたことである。この起用は(鹿島から見て)左サイドで対面する大前を意識したものと見て間違いなさそうだ。
スタメン以上に目を引くのが、ベンチの豪華さである。ブラジル人2名に加えて、中田浩二、増田誓志、本山雅志といった日本代表経験者がずらりと居並ぶ。戦前の予想を覆すスタメンの陣容と、豪華すぎるベンチの顔ぶれ。それらから導き出されるのは、ジョルジーニョ監督がゴトビ率いる清水を相当にリスペクトしているということであり、同時に、心からタイトルを渇望しているということである。
実際、前半は攻める清水、それをはね返す鹿島という展開が続いた。清水は若さを担保とした旺盛な運動量で、序盤から激しいプレッシングとチェイシングで相手を圧倒し続ける。しかしシュート数は高木の2本のみ。それだけ鹿島守備陣のブロックは強固であった。今にして思えば、前半は清水に攻めさせておいて、相手の体力消耗を見計らってカウンターを仕掛けるというのが、鹿島のプランだったのかもしれない。前半はこれといったトピックスもなく、0-0で終了する。
■試合を決めたのは、意外にも柴崎の2ゴール
柴崎(白)は2得点を挙げる活躍でチームを優勝に導いた【写真は共同】
後半に入ると鹿島のベンチは、次々と反撃への布石を打ってくる。ハーフタイムで興梠に代えてドゥトラを投入。さらに後半25分には、本田を下げて増田が左サイドに入り、柴崎は小笠原とコンビを組むことになった。
この交代の効果は直後に現れた。カウンターから遠藤がドリブルで抜け出し、ドゥトラへパス。右サイドを駆け上がっていたドゥトラが中へ折り返し、これを受けた柴崎がペナルティーエリア内で倒されてPKを得る。てっきり小笠原が蹴るかと思ったが「相手に研究されている」(ジョルジーニョ監督)という理由で、キッカーには柴崎が選ばれた。この重要な局面で、高卒2年目の20歳にPKを託す。相当な重圧だったにもかかわらず、柴崎は冷静にGK林彰洋の逆を突いた。後半28分、鹿島先制。
しかし鹿島のリードは4分しか続かなかった。今度は清水にPKが与えられたのである。コーナーキックの場面から、平岡が顔面を押さえて倒れ、青木剛にイエローカードが提示されるが、PKの理由がどうにも釈然としない。ともあれ、このチャンスを大前がきっちり決めて、すぐさま清水が同点に追いつく。その後、再びリードすべく鹿島が攻撃的な新井場を送り出すと(昌子と交代)、清水もアディショナルタイムに石毛を投入(八反田康平と交代)。結局スコアは動かず、3年連続の延長戦となった。
そして延長前半3分、いきなり鹿島に決勝ゴールが生まれる。左サイドでスローインを受けた増田が逆サイドに大きく展開。これに西大伍が長い距離を走って追いつき、縦にボールを送ると、これを受けた柴崎がドリブルで一気に加速する。シュート直前、カルフィン・ヨン・ア・ピンが激しいプレッシャーをかけるが、今度は倒れることなく、柴崎は冷静にゴールに流し込んでみせた。今季1ゴールの柴崎が、ナビスコ決勝の大舞台で2ゴール。戦前は、大前と大迫勇也の対決ばかりに注目が集まっていたが、ふたを開けてみれば柴崎の独断場であった。
やがて国立のスタンドは、勝利を確信した鹿島サポーターの歌声で埋め尽くされた。再び1点を追うことになった清水は、アンカーの村松をベンチに下げてFWの瀬沼優司を送り出し、前線に4人を並べて必死の反撃を見せる。だが、ここからが鹿島の真骨頂である。相手の猛攻を、ある時はがっちり受け止め、ある時は軽くいなし、刻一刻と残り時間を消化させてゆく。アディショナルタイム2分を経て、タイムアップ。鹿島がナビスコカップ連覇と16冠を達成し、ジョルジーニョ監督は97年の現役時代に続き、指揮官としてもトロフィーを掲げる快挙を成し遂げた。
■例年以上に若さの輝きが印象的なファイナル
「覚えておいてほしいのは、われわれの選手の多くは新人、1年目だ。こういった試合で、国立の4万5000人の観客の前でプレーするのは簡単なことではない」
「このトロフィーへの旅路が、さらにわれわれを強くしてくれると思う。この先、また決勝に進みたいし、その時には何も手にせずに帰りたくないと思う」
試合後のゴトビ監督の印象的なコメントを並べてみた。経験の乏しい若いメンバーながら決勝まで勝ち上がり、前回チャンピオンである鹿島をここまでリスペクトさせたことについては、十分に誇ってよいだろう。ただし現状の清水は、今はまだ成長過程のチームであり、ファイナルの一発勝負という条件においては、鹿島の試合巧者ぶりのほうが際立っていたのも事実である。
一方の鹿島は、相手のキーマンである大前を昌子に徹底マークさせ、強固な守備ブロックで対抗した上で、切れ味鋭いカウンターを繰り出すという戦術を徹底させていた。特に昌子については「大前に何もさせないのが、お前の仕事。相手が水を飲んでいたら一緒に水を飲め。何なら同じ水を飲んでもいいぞ。それくらいの気持ちでやるように」と指揮官は直接指示したそうである。結果として鹿島は、PK以外での失点を相手に許すことなく、リーグ戦の不調を忘れさせるような戦いぶりで、今季最初のタイトルを手にした。
かくして今年のナビスコカップは、鹿島の優勝で幕を閉じることとなった。しかし、平均年齢23歳の清水が見せた可能性もまた素晴らしく、例年以上に若さの輝きが印象的なファイナルであった。そして大会MVPに、20歳の柴崎が選ばれたのも実に象徴的であった(20回目の大会で、背番号20を付けた20歳の若者がMVPとなる。まるで狙ったかのような「20尽くし」ではないか!)。ナビスコカップが始まった92年に誕生した若者が、20周年となる今大会で目覚ましい活躍を見せたことに、あらためてこの大会が積み重ねてきた重みを実感する。と同時に、わが国のリーグカップが息の長いスポンサードの下、さらなる進化と発展を遂げることを願わずにはいられない。
<了>
宇都宮徹壱氏のコラムである。
試合の流れを良く評しておる。
そして、
「コーナーキックの場面から、平岡が顔面を押さえて倒れ、青木剛にイエローカードが提示されるが、PKの理由がどうにも釈然としない。」
と、明らかな誤審について明言しており好感が持てる。
個人的にはこのシーンだけでなく、コロコロと倒れ試合の流れを切ってファールを貰うプレイを続ける清水の選手に対してコメントして欲しかった。
しかしながら、敗者の敗因がここでは無い以上、ここについてコメントしても仕方の無いところであろう。
とはいえ、彼等がこういうプレイを続け、それが容認されるようでは、Jリーグの発展は閉ざされる。
宇都宮氏を含めたサッカーメディア関係者は、こういう部分から日本サッカー界が改善されるよう力を注いで欲しいと願う。