最終回(第52回「ジャッジQ&A」
【J1第26節 鹿島対横浜FM】
<読者からの質問>
「後半ロスタイム、ジュニーニョ選手のゴールは明らかにオフサイドでは? 大迫選手がシュート打った段階で間違いなくオフサイドポジションにいたと思います。副審がフラッグを上げない理由が理解できません」
<松崎前委員長からの回答>
「横浜FMが2-0とリードして迎えた後半アディショナルタイム、鹿島は後方からの浮き球のパスをペナルティーエリア内の大迫勇也選手が頭で落とし、興梠慎三選手が左足でボレーシュート。シュートはクロスバーを叩き、跳ね返りをジュニーニョ選手が右足で押し込みました。
興梠選手がシュートを打った瞬間、ジュニーニョ選手は、ゴールラインから見て2人目の守備側選手(GKを含む)より1mほど前に出ており、明らかにオフサイドポジションにいます。そして、オフサイポジションにいたことによって、跳ね返ってきたボールをプレーできたのです。
競技規則は、オフサイドポジションにいる選手が『その位置(オフサイドポジション)にいることによって利益を得』た場合、オフサイドの反則になると規定しています。オフサイドの反則が犯されていたので、横浜FMに間接FKが与えられるべきだったと思います。
小椋剛副審の視野にジュニーニョ選手は入っていたはずです。しかし、ジュニーニョ選手を見るべきものとして認識していなかったのではないでしょうか。もしそうであると、対象者を視認できていないことになります。
大迫選手や興侶選手のプレーのときに横浜FMの選手とのコンタクトの可能性もあったので、そこに注視していたのかもしれません。その後、ボールの行方もしっかりと追う必要があり、ボールがクロスバーから戻ってきてジュニーニョ選手を初めて認識することになります。
興侶選手がシュートを放ったときのジュニーニョ選手の位置は分からないので、それをあとから推測することになりますが、その前に認識していたジュニーニョ選手の位置とそのときの位置とを頭の中で計算して、判断した。そんなことが起きたのだと思います。
2010年6月27日に行われたW杯南アフリカ大会決勝トーナメント1回戦、アルゼンチン対メキシコ戦の前半26分。イタリアのアイロルディ副審は、アルゼンチンのテベス選手とGKの接触に気を取られ、メッシ選手がシュートした瞬間のテベス選手の位置を認識できず、結果オフサイドとすることができませんでした。ジュニーニョ選手のケースと似ています。
勝敗を決するようなミスであったら、とても大変なことになっていたと思います。後半アディショナルタイムに0-2から1-2となる得点であったので、試合結果を左右することには至らなかったものの、とても残念に思いました」
【J1第26節 名古屋対広島】
<読者からの質問>
「前半42分、名古屋のダニエルが広島・高萩の喉元に手をかけて(ラリアットのように)倒したけれど、ノーファウルとされた場面について。主審からは見えなかったとは思いますが、副審からも見えないものでしょうか。もし見えていたとしたら、どのようなジャッジとなるでしょうか(テレビ解説では「見えていたら一発レッド」とのことでしたが)」
<松崎前委員長からの回答>
「広島は前半42分、左サイドのタッチラインぎりぎりのボールを佐藤寿人選手が中に戻し、ボールは高萩洋次郎選手に渡ります。しかし、佐藤選手が触れる前にボールはすでにタッチラインを割っていたので、大川直也副審は旗を上げて名古屋のスローインを示します。ぎりぎりの判断だったので、プレーを止めるべく、高山啓義主審が笛を吹きました。
すでにドリブルの体勢に入っていた高萩選手は急にプレーを止められず、対峙したダニエル選手を横から抜いていこうとします。するとダニエル選手が右腕を伸ばし、高萩選手の胸のあたりを押さえ、進行をストップ。高萩選手がのけぞるように転倒したことで、ダニエル選手の腕は高萩選手の首にかかり、あたかもラリアットのような形となってしまいます。
すでにボールがタッチラインを割り、主審がスローインの判定を下したあとに起きた行為であり、ボールがアウトオブプレー中にダニエル選手が相手をブロックするという反則を犯したことになります。
ファウルとは、ボールがインプレー中にフィールドの中で競技者が犯すものを指し、ファウルが犯されたならば、競技罰として相手チームにFKが与えられます。しかし、このケース、反則ではあるものの、ファウルになっていないので、競技罰(FK)は与えられません。
例えば、CKのキッカーがボールを蹴る前にペナルティーエリア内のポジション取りで反則があり、イエローカードが示されることがありますが、その場合、CKからプレーは再開されます。これと同様、この場面も名古屋のスローインからプレーは再開されることになります。
ボールがアウトオブプレー中の反則にFKなどの競技罰は与えられませんが、警告、退場といった懲戒罰を与えることはできます。映像を見る限り、ダニエル選手のブロッキングは無謀であり、反スポーツ的です。
腕を強く振って相手を傷つけたり、最初から首を狙ってラリアットしたりしていれば一発退場とすべきでしょうが、ダニエル選手は高萩選手の胸のあたりを押さえようと腕を伸ばしたら、勢い余って高萩選手の首に入ったように見えます。
レッドカードは厳しいと思いますが、反スポーツ的な危険なプレーに変わりはなく、ここで手を出す必要はまったくありません。イエローカードは必要だったと思います。
ボールがタッチラインを越えたかどうかが微妙だったため、ベンチ前で広島の森保一監督がタッチライン際まで出てきて抗議しました。大川直也副審も第4の審判員も、森保監督に対応しようとしたため、ダニエル選手の行為は見ていなかったようです。
であれば、高山主審がしっかりダニエル選手の対応を見ていなければならなかった。笛が鳴っても高萩選手はプレーを続けようとしていたので、ダニエル選手と接触する可能性があります。そのことを“気付いておくべきポイント”に入れておけば、ダニエル選手の行為についても正しく見極めることができていたと思います」
※2010年3月に始まった本コラムは、松崎康弘氏の審判委員長退任に伴い、今回で最終回となります。最後に松崎氏からゲキサカ読者の皆様へメッセージをいただきました。長い間、ご愛読いただき、ありがとうございました。(ゲキサカ編集部)
もっとサッカーの審判のことを、もっとサッカーの競技規則のことを知ってもらいたい。そんな思いでスタートし、約2年半。さまざまな判定に関する質問を受ける中、審判の間違いもあれば、ファンの方々がミスだろうと思ったけれど、実は正しかったというものもありました。
ミスはミスとして書き、審判が正しければ正しかったと、ニュートラルな立場に立って書いてきたつもりです。
サッカーの審判は、基本的に主審と副審2人、そしてそれを援助する第4の審判員の4人で行いますが、欧州チャンピオンズリーグではゴールの横に2人の追加副審を置く「追加副審」が導入され、FIFAはボールがゴールに入ったかどうかを機械で判断する「ゴールライン・テクノロジー」の導入を決めました。現代のサッカーが進化し、ボールのスピードも上がる。これまでの審判方式ではどうしても見えないところもある。であれば得点かどうかの判断にテクノロジーを導入し、そこをカバーしようという考え方は理解できます。
しかし、テクノロジーが導入されても審判のミスがなくなることはありません。基本、サッカーは人がプレーし、人が審判するもの。人がプレーすれば、そこには人のさまざまな意図、意識がプレーとなって表に出てきます。人でなければ、22人のプレーの意図を感じ取って判定することはできません。また、人がジャッジするとなれば、選手がミスすると同じく、審判にもミスが生じます。審判のミスもサッカーの一部です。さまざまなミスがサッカーを面白くさせるという側面もあります。
“審判は絶対”ではなく、“神様”でもありません。“選手のミスはしょうがないが、審判のミスは許せない”という考え方は正しいとは思えません。逆に、審判をあまりに加護するのも正しいとは思えません。サッカーのフィールド上、周辺で起きていることを評価、分析し、素晴らしい判定は評価し、ミスは問題だとし、議論の俎上に載せることが良いのではないでしょうか。
ミスには必ず理由があります。なぜミスが起きたのか。どうすればミスを減らせるのか。より良いレフェリングとはどんなものか。そのことを2年半、書いてきたつもりです。
また、一般のファンの方はなかなか競技規則を読む機会もないと思います。競技規則ではこうなっている。そのあたりも少しは解説できたのではないかと思っています。
本コラムで審判のことを知り、多少なりとも理解していただけた方には、今後もレフェリーの目線を持ってサッカーの試合を見続けていってほしいと願っています。
Jクラブのサポーターの方々は、きっと審判のミスにイライラしたことでしょう。可能であれば、審判のミスだけでなく、良いところも見ていただき、今以上にサッカーを楽しんでいただければと思います。
また、審判をしている方、審判を目指している方は、トップのレフェリングの良さ、失敗を、その理由とともにご自分のレフェリングアップにつなげていただければと思います。
自分自身、質問に答える際、競技規則を読み返したり、なぜそのような規則になったのか、メンタルを含め、審判の機微について、勉強させていただきました。自分でも気づかないこともあり、目から鱗が落ちることも多々ありました。
決してサッカーの審判から離れることではないので、これからもJリーグなどの試合で審判も見ていきたいと思います。そして、また何かサッカーの競技規則の原点、サッカー文化という観点から、お話しできる機会があればと思います。
長い間、本当にありがとうございました。
松崎康弘
ジュニーニョのオフサイドが見逃されたことに対する松崎氏の回答である。
単純に副審の見誤りとするだけで良いところを、「ジュニーニョ選手を見るべきものとして認識していなかった」という意味不明な言及をしておる。
誰の目にも副審の技術不足と映ったはずである。
そこを、南アフリカW杯の誤審を引き合いに出して正当化する姿は、みっともないを通り越して哀れと言えよう。
そして、勝敗を決するミスではないので良いという意見も明らかにおかしい。
勝敗を左右せずとも誤審を無くすよう努力すべきと言い切れぬところにこの男の惨めさが漂う。
このコラムは今回にて最後とのことであるが、審判擁護の姿勢を前面に出してからは納得のいかぬ言い訳ばかりが続き、酷い内容であった。
最終回もやむなしと言えよう。
しかしながら、このコラムの終了で、ジャッジに関する公の記事がなくなることは辛い。
ゲキサカには、別の人物を打ち立ててでも誤審を無くす記事を作っていって欲しいと願う。