記憶喪失の男

2009年02月15日 22時43分06秒 | ホラーのかけら

記憶喪失の経験がある人に、
初めて会った。

彼は大学時代にスキーで事故を起こし、
その影響で記憶を失ったという。

記憶喪失といっても、
言葉はわかる。
基本的な生活習慣も失われていない。

だが、たとえば親が来ても誰だかわからない。
母親が来て、
名前を名乗った時も、
「奇遇ですね、同じ苗字なんて。
 同じ苗字の人に初めて会いました」
そう答えて、母親の涙を誘ったそうだ。

しかし、脳にそれだけのダメージを受けながらも、
その他の障害は一切出なかった。

そこで、彼は周囲のサポートのもと、
再び大学に通い始めたのだ。

数ヵ月後。

それは彼がいつものように、
空手部の練習に出ていたときだった。

組み手の最中に先輩に突きを放った途端、
突然、記憶の回路がつながった。

そして、瞬時にすべてを思い出したのだ。
ただし、事故にあう直前までの記憶だが。

記憶が蘇ると同時に、
記憶喪失だった数ヶ月間の記憶は失われたそうだ。

本人から聞いた実話である。