会計スキル・USCPA

会計はビジネスの共通語。一緒に勉強しましょ。

『メランコリア』 綺麗な終末映画

2012-03-12 00:15:06 | 生活
ちょいとリラックスして,映画なぞ。
ネタばれなので,これから観る予定のある方は観てから読んでください。

『メランコリア』予告編


まあ,私は,最近はこういう映画はよほどのことがない限り観ないんですな。辛気臭い映画は,観ると疲れるし,お金を払ってまで辛気臭くなりたくないんで。

しかし,終末映画,となると話は別で,少々辛気臭くても観る気になりますな。世界の終わりをどう描くのか。

壊れてゆく世界がどう描かれるのか,作家の世界観がどうなっているのかは,興味のあるところでして,見所なんですな。

何年か前,日本沈没が,リメイクされてて,気が進まないながらもこれも終末映画なんで観にいきましたが,渋谷の水没だったり,飲み屋仲間の日常だったり,チープなヒロイズムとロマンスが軸になってるし,ついてゆけない感情表出シーンと,ご都合主義のストーリーで、気恥ずかしいほど凡庸な世界の描かれ方。お決まりシーンを切り貼りしてつないだみたいな,と言えば良いんでしょうか。

感情移入が全くできなくて,これなら沈没しても良いかも、と感じるほどで,

今の日本の凡庸さを表現した,というならまだしも,製作サイドの薄さや低さが現れているようにも見えまして。本当は映画なんぞ作るような人たちじゃなかったのかも知れません。そもそも,そんなに映画を観てないからあんな風な作りになってしまうんでしょう。

ただ,映画的には駄作でも,壊れてゆく世界をどう処理するか,失敗なら失敗で,それはそれで見ものなわけで,終末映画の場合は,それなりに観ていて楽しいわけですね。

さて,メランコリア。

メランコリアという,巨大遊星が地球と衝突する,という設定なんですが,

パニック映画じゃないんで,ニュースキャスターの報道シーンやら,真実を叫ぶサイエンティストやら,事実を隠蔽する政府高官などのお決まりキャラは出てきません。

そういう道具立てなしに,世界の終わりを描いてゆくわけで,舞台は社会から弧絶した豪邸で,テーマはそこに住む小家族の心象風景,って感じなんですな。

冒頭,結婚式のシーンから始まって,豪邸の中ではバーティー,豪邸の外に出るともうじき地球とぶつかる遊星メランコリアが闇夜を照らしていて,バーティのうわべだけの虚飾の世界と,ウマーク対照させて描いてゆきます。

バーティを進行させながら,建物の内と外のシーンを交互に挿入して行くんですね。どんなに綺麗ごとを言ってみても我々は不死ではないし、世界は終末を迎えるのだ,と冷厳な現実を,メランコリアが豪邸を照らして、主人公がうっとり見つめるシーンでバシっと観客にまず刷り込む。死と破壊の魔力の象徴でもあるメランコリアを,美しく描くことで,死や破壊の誘惑,というさらに深いところまで,突っ込んだテーマ設定でもあります。うーん,うまい。

結婚式のスピーチで,父親の次に母親が割り込んで,『結婚なんて無意味だわ,今すぐやめなさい』みたいなムチャ発言で,場内ドン引き。この辺から主人公の新婦の奇行が始まって・・・。

新婦の上司に,あんたは強欲で空っぽだ,と直言して怒らせたり,他の男とやっちゃったり,外のゴルフ場で小便したり,風呂に入ったまま出てこなくなったりとむちゃくちゃやって,新郎も怒って帰ってしまう。

こういう奇行の連続や,式の進行がうまく行かずイライラする姉を追いかけながら,観客の興味をつなぎつつ,我々が日々壊せないと感じているはずの日常の決まりごとや関係性を,暴言や奇行によって次々に崩壊させてみせて,

主人公の新婦は,式が終わる頃には,すっかり綺麗さっぱりしてしまうんですね,てか皆に見捨てられてしまうんですけどね。


こうして綺麗さっぱりした新婦は,映画の後半で,姉家族と一緒にメランコリアとの衝突の日を迎えてゆくことになるんですが,

実は主人公は,何でも真実が見えてしまう異能の人設定で,地球のそばを通過するだけで衝突しないとされていたメランコリアが,実は衝突する,とわかってあわてる姉夫婦をよそに,落ち着きはらって,『我々はこんなに悪なのだから,無くなってもかまわないの』みたいなことを言う。後半は,終わりをどう迎えるか,というハナシになってます。

ある意味,舞台も道具立ても限定して,注意を脇にそらせないようにしつつ,

考え抜かれた登場人物,ストーリー運び,カメラ,でビシッと作った映画,って感じですかね。無垢な子供,馬の野生,という要素もムダなく使ってて,見ごたえを感じさせてくれる映画です。結構長い映画ですが,台詞はそんなに多くない。映像で見せる映画であり、ムダの無い,詩のような映画,と言うこともできるかもですね。

この映画は,難解ではないし,ありがちな独りよがりさもありません。バックはワーグナーだし,監督はニーチェファンの可能性もありますが,映画でそういう哲学・思想的なハナシは一切匂わせていません。その意味では良心的なんですが,なんせハリウッド的な娯楽要素には欠けているしテーマがメランコリー心象と死と破壊なわけで,万人向けとは言えません。

期待が低かった割に映画的な要素満載で,長い割りに密度が濃くて,その意味観てラッキーだったんですが,お勧めはしにくいですな。

ただ,どうしようもなくつらい状態なときに,真夜中に独りでDVDを借りて観る分には,カタルシスになるかもですがね。

衝突を前に,超然と構えている主人公がヒーローに見えてきたりして。