ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

S. シェパード作「心の嘘」

2020-09-16 11:17:42 | 芝居
9月5日俳優座5階稽古場で、サム・シェパード作「心の嘘」を見た(訳:田中壮太郎、演出:真鍋卓嗣)。
ネタバレあります注意!

アメリカ西部。ある夜、フランキーは兄ジェイクから妻ベスを殺したと電話を受ける。妄想にとらわれた嫉妬により、ベスが浮気していると思い込み、激しい怒りで強く
殴りつけたという。フランキーはベスの生死を確かめるべきだと主張するが、ジェイクは彼女の死を疑わず、聞く耳を持たない。
実際は、ベスは家族のもとで脳損傷の治療を受けていた。
しかしベスは、自分の怪我はジェイクではなく家族によるものだと信じ込んでいた。
家庭内暴力が引き起こした事件をきっかけに、歪んだ認識の中で揺れ動く二つの家族の物語(チラシより)。

1985年米国で初演された由。今回が日本初演。
実に半年ぶりの観劇。チラシで知ったのではなく、夕刊の記事で知った。
DVがらみの話なので、気が重かったが。

ジェイク、その弟フランキー、母、妹サリー、そしてベス、その父、母、兄マイク。
この8人の内の何人かが相当な変わり者で、彼らの会話について行くだけでも大変。
ジェイクの母は息子の嫁ベスのことを知らない。「ジェイクの女のことなんていちいち覚えてられないよ」
ベスの母も娘の婿ジェイクのことを知らない(結婚式には出たのに)。こちらはやや認知症気味。
フランキーが一番の犠牲者。兄のためにと行動するのにどんどんひどい目にあわされる。
さらに、元々変な人たちがどんどんおかしくなっていく。会話はかみ合わないまま続いていく。
まともなのはフランキーとサリーとマイクだけだ。
ラストはほとんど不条理劇。
サム・シェパードのイメージがすっかり変わってしまった。

ところで、新聞記事に「ジェイクは虚言癖がある」とあったが、それは違うのではないか。
むしろ彼は「思い込みの異常に強い男」だ。
妻を殺したというのも、決して嘘をついているのではなく(だって何のためにそんな嘘をつく必要がある?)、そう思い込んでいるだけだし、
亡父の死因についても、「あれは事故だった」と故意に嘘をついているのではない。
事実とは違う風に自分で記憶をすり替えてしまっているのだ。自分でもそっちの方を信じ込んでいるのだ。
それは、その方が生きやすいからに違いない。事故だと思いたいのだ。
そういう人はたまにいる。
故意に嘘をつく人の方が少ないのではないだろうか。
うそをつくことは日常にもある、とジェイク役の志村史人は言っているらしいが、そうだろうか。
できることなら死ぬまでうそをつかずに生きていきたい、と思っている人は多いのではないだろうか。
世の中には、嘘のつけない人と、平気で嘘をつける人がいるが、後者はうんと少ないと思う。

暗くて恐ろしくてただもう絶望みたいな話だが、意外なことに、笑えるところもあった。
だが状況が状況だけに、客席では笑っていいのかなあ、みたいな戸惑いが見られた。
初演時の米国ではどのように受け止められたのだろうか。

ジェイクの母も興味深い。
一心に息子の世話を焼くが、彼を部屋に閉じ込めて外界と遮断し、引きこもり状態にしてしまう。
ここで母さんといれば安心だよ、母さんがお前を守ってあげる、という感じ。相手はいい大人なのに。
米国にもこんな母親がいるのか、と驚いた。

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