ピアニスラー

ゴールド・フィンガー、ハイパー・ピアニスト矢沢朋子のブログ

個性は真似できません

2007年11月19日 | 音楽
面白いコメントをいただきました。コレは最近、ジャズを主に聴く人たちの会合に行った時にも出た話題だったので、コメント・バックはブログで。



>高瀬アキさんのモンクはすごく良かった!モンクよりずっと

>>私はどうもあの「人差し指1本で叩いたような」タッチに洗脳されているようなんで。
 
↑もしそういうタッチで高瀬さんが弾いたら、「えせモンク」みたいな感じで、全然、ヤザワ的には評価できなかったと思うんです。それこそ「モンクに勝てるワケがない」みたいな。たいていのピアニストのモンクのカバーは、やはり随所に「人差し指1本で叩いたような」タッチを入れたりしてるわけで、それが非常に聞き苦しいと思ってました。瞬間芸みたく入れればパロディだし、全編通してやれば聞き苦しいし。

マイルス・デイヴィスのRound About Mightnightは、「マイルスの」と言ってもいい出来だと思うんですね。やはりピアニストがピアニストの曲をカヴァーするのは「タッチ」まで含めてどうするか、難しいですよね。特にモンクはクセのある1度聴いたら忘れないような独特の間合いも重なって、あの無骨なタッチが完全に「味」に昇華してるから。

と思ったら、「タッチ」は真似しないでしょうね。また、あの「タッチ」を払拭するような表現にこだわるんじゃないかな?という気はします。モンクをリスペクトしているなら、安易なことはかえってやらない気がする。特にピアニストだし。


>>でもあれって昔の録音だから、実際にモンクに弾かせたらどんなモンだったんでしょうか。


それはすごく興味あります。それを知りたいためにカヴァーする、というところもあるんです。

モンクは独特の和声を使っているので、あの間合いは倍音を聴いていたのではないかと思うんです。そうでないとあのいびつなタッチながら進行の具合が洗練されていることの説明がつかない。(←ヤザワ的にね)
ジャズ・クラブのあまりコンディションが良くないピアノで音響楽派のピアノ曲みたいな効果を狙っていたような演奏は、当時は単に「不思議な魅力」だと思ってたと思うんです。

モンクをカヴァーしているピアニストがあまり良くないのは、タッチにこだわりすぎて和声の響きを音楽の進行の中心にしてないからじゃないか?と思うんです。あのクセのあるタッチは倍音を聴いてる間合いでもあるので、タッチだけ真似ても絶対にモンクのようにはならない。意図してることが違うから。

コンディションのいいピアノで、クラシックの音響のいいホールで、倍音がすぐによく聞こえるような環境でモンクが弾いてるのを、録音を聴いてみたかったですね。私の推測の裏付けに(笑)。

まあそれで、「どうしてこのヘンなタッチなのに素晴らしいのか?」という謎にはカヴァーしようと思った誰もが取り組むと思うんです。

私が聞いた高瀬さんのモンクはテンポもずっと早くて、明らかに近代的でした。タッチはいっさい「カヴァー」してないし、和声も工夫があって、モンクのタッチを懐かしまないで聞けました。かなりのブレイン・ワークだと思いました。


>>あの人はどうも「音を塗り重ねる感じ」が得意そうな人だったんで(よってオーネットはメロディアスさが強調されてよかったです)、「?」というのが正直なところです。


モンクはやっぱり巨人ですからね。ピアニストがカヴァーすれば本人と比べられてしまうけれど、もし「モンクっぽいタッチ」でやったら、そんな土俵(「好き」か「嫌い」か)にも上がらないと思うんです。松田聖子の「スイート・メモリー」を女性歌手がカヴァーする、というようなものでしょうか?まだ男性歌手なら気楽という気がする。別に聖子ちゃんが書いた曲でもないけど。


>>あとは正直なところ普段ドイツでオーケストラ形式でやっているそうな図線系譜を使った演奏ももっとやって欲しかったです。

ご本人にリクエストしてみては?そんなこと言われたら嬉しいんじゃないかな?


>>1曲だけやったドルフィーも、ピアノの中に鉄板を入れたりして良かったんです


私はボールので聞きました(笑)。そっちは楽しかったです。シュールな感じで(笑)カラフルなボールが深刻な和音の時に跳ねるという(大笑)

************

ジャズの会合の時にも:「モンクが素晴らしいのは和声だから、その和声を生かしていないアレンジは良くない!」みたいなことをヤザワが言ったら、「・・・聴いてるところが違う・・」とかゆわれたの。

じゃ、何を聴いてるんですか?と聞いたら:「フレーズの吹き方とか、タッチとか」主に演奏の出来を聴いてるらしい。「クラシックって演奏の個性って出るんですか?」と聞かれて「当然、出ますよ!」と言ったら、そりゃそうだ、と納得してたけど、確かに固定された譜面で個性はどこから出るのか?とは思うかも。

極論、演奏家の個性は身体から来るんじゃないかな?と。全く同じに弾こう、吹こうと思っても、身体の都合で同じテンポにならなかったり、握力、背筋力の違いで音色が変わったり、反射神経の違いで音の立ち上がりが変わったり。息継ぎが苦しいので他の場所でしたことでフレーズの感じが変わったり。その身体性をスタイルにまで高めたものが個性なんじゃないかと。まさにモンクのタッチもそうだし。

養老センセの「もし精神に『個性』が宿ったとしたら、それは精神疾患です。個性は肉体にしか宿らない」という論に、演奏の面では1票!かな。



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3 Comments

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PS (おりーぶ)
2007-11-19 22:13:04
彼女がモンクを弾いたのは随分聴いているけど、あのCrepuscule with Nellieのアレンジはすっごく気に入っているの。バリエーションがいい。
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倍音 (おりーぶ)
2007-11-19 22:33:26
ローラン・ド・ウィルド著『セロニアス・モンク』はモンクを理解するにはよい本だった。倍音についてだけではなく・・・
返信する
モンク (ヤザワ)
2007-11-20 03:17:22
>ローラン・ド・ウィルド著『セロニアス・モンク』

読書の秋なんで読んでみます
ヘンタイ本にも飽きたし。
それともやっっぱりソレもヘンタイ本なのかしら
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