雫石鉄也の
とつぜんブログ
12人の優しい日本人
監督 中原俊
出演 相島一之、塩見三省、上田耕一、林美智子、二瓶鮫一、中村まり子、大河内浩、梶原善、山下容莉枝、村松克巳、豊川悦司、加藤善博
シドニー・ルメット監督ヘンリー・フォンダ主演の名作「12人の怒れる男」を本歌として、三谷幸喜がシナリオを書いた。今の日本には陪審員制度はないから架空の裁判の話である。
本歌はデスカッション、ディベートに慣れているアメリカ人の男ばかりの映画であったから論理が先に立っていた。本作は日本人で女性が3人メンバーにいたためか、どうしても感情が先に立ってしまう。日本人は話し合い、会議といった類いのものは苦手らしい。
映画の冒頭は、審理を始めるに当たって、陪審員各自好みの飲み物を注文するところから。まったくまとまらない。ころころオーダーを変えるやつ。なかなか決められないやつ。喫茶店の出前にないモノをオーダーするやつ。前途多難。有罪か無罪は陪審員全員の意見一致が必要。果たしてこんな連中に陪審員ができるのか。
審理が始まった。全員無罪。あっさり決まった。なぜか。被告は若い美人でかわいそうな身の上。被害者は被告の夫で、どうしようもないダメ男。被告がかわいそう。被害者は殺されて当然。よって被告は無罪。
早く終ったな。やれやれ。ところが陪審員2号が有罪を主張。みんなに説得されるが「話し合いましょう」12人の「話し合い」が始まった。
この陪審員2号が本歌の陪審員8号ヘンリー・フォンダの役どころだが、フォンダの8号は初老で謹厳真面目実直。本作の2号は若く生真面目そう。キャラが違う。観ていて最初はこの2号に感情移入するが、映画が進むにつれて、感情移入する対象が違ってくる。この12人は典型的な日本人。キャラの書き分けはさすが三谷。有罪無罪を唱える陪審員は12人の中で増えたり減ったり。ころころ意見を変えるやつ。頑固に変えないやつ。議長ではないのに会議を仕切りたがるやつ。われ関せずのやつ。すねるやつ。鼻血を出して寝るやつ。らくがきしてるやつ。もちろん審理は膠着状態。だれがこの状態を動かすか。その興味で映画の中盤は観させられる。
後半はちょっとしたどんでん返し。もちろん伏線は張ってある。どんなどんでん返しかというと、いえない。映画を観られたし。ヒントを一つ。陪審員2号相島一之は8号ヘンリー・フォンダではなかった。実は陪審員3号リー・J・コップだった。
非常に面白い会話劇だった。本歌が緊迫した会話劇。本作は脱力した会話劇。日本人は感情の生き物だな。その日本人が現実に裁判員をする。だいじょうぶかな。
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