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細雪


 谷崎潤一郎      新潮社 

 小生は西宮で生まれた。3歳の時に神戸に引っ越してきて、今も神戸市民である。だから、神戸、芦屋、西宮といった阪神間は小生の行動範囲でありテリトリーだ。そういうわけで、こんな所で生息していると、やたら谷崎潤一郎が目につく。小生の散歩ルートの芦屋の臨港線沿いには記念館があるし、毎年梅見に行く岡本梅林の隣りは谷崎の旧宅跡、また、細雪に出てくる医院のモデルとなった医院は現在もある。小生が好きな酒「呉春」は谷崎も好きだったとか。その他、なんやかやと、このへんは、やたら谷崎、特に「細雪」がらみの話題に事欠かない。こりゃいっぺんは細雪を読まなくてはと思っていた。
 で、読んだ。結論としていうと、面白かった。SFもんの小生が読んでも面白かった。
 大阪は船場で大店を営んできた蒔岡家。亡父は派手に金を稼ぎ派手に使う人だった。今は養子が跡を継いでいるが、もはや大店ではない。現当主はサラリーマンである。それでも少なからぬ遺産と、たっぷりのプライドは残っている。
 時代は第2次大戦直前。舞台は芦屋、西宮、神戸。物語を動かす主な登場人物は蒔岡家の四姉妹。長女鶴子、次女幸子、三女雪子、四女妙子。このうちの幸子の視点でお話は進む。本家は大阪の上本町にあったが東京の渋谷に移った。鶴子は当主夫人で東京在住。雪子と妙子は未婚。ストーリーの軸となるのは、雪子の縁談と妙子の恋愛沙汰。
 幸子の分家は芦屋にある。どうも阪急芦屋川の北あたりらしい。雪子は東京の本家の娘だが、関西が良く東京がきらいで、なんやかやと理由を見つけて芦屋の幸子宅に滞在する。妙子は西宮市内にアパートを持っているが、これまたしょっちゅう芦屋に来る。
 雪子は姉妹で一番のべっぴんだが30こしても独身。幸子や本家が色々と縁談を持ってきて、本人も素直にお見合いをするのだが、なんだかんだと難くせをつけてこっちから断る。べっぴんだが、うじうじぐずぐず煮え切らない性格。その上プライドだけは高いというどうしようもない女。
 妙子は手に職を持っている。人形制作や洋裁でけっこう稼いでいる。ところがこの娘、自由奔放(戦前では、現代ではあたりまえ)で、次々男を替えて色恋沙汰で新聞ダネになったことも。ええしのボンと若い写真家を二股にかけたり、バーテンとできて子供を作ったり。
 かような連中が、お見合いをして、断って、恋愛をして、本家の面目をつぶし、本家の面目を立て、お花見をし、歌舞伎を見て、阪神大水害で死にかけ、東京で台風にあい、病気になり、隣りのドイツ人一家と仲良くなり、白系ロシア人の娘が妙子の人形作りの弟子になり、寿司を食い、なんやかんや。と、細雪とはこういう話。これだけ。別にどんでん返しもないし、サスペンスもセンス・オブ・ワンダーもない。それでも最後まで読ませられた。谷崎のワザか。
 いろんな人物が登場するが一番面白いキャラは幸子宅の女中お春。18歳のかわいい娘。人懐っこく社交的で口が上手で誰に聞いても評判が良い。ところが本当はだらしない性質。顔はきれいが風呂嫌いで身体は不潔。意地汚く、しょっちゅうつまみ食い。口が軽くおしゃべり。よそからは、蒔岡さんとこは、良い女中さんをお持ちで、といわれるがなかなか大変。そのくせ、水害の時は決死の冒険をして幸子の娘を救う。妙子が伝染病にかかっても感染を恐れず看病する。
 ラストは奇妙な終り方をする。ええ、こんなんありか。ほんまにこれで終わりかいな。
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