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とつぜんリストラ風雪記 12

とつぜんリストラ風雪記11

第12回
再就職した職場。H屋D堂は、なんとも変わった会社だった。会社といって、いいのかどうかも分からない。でも、ま、株式会社なんだから会社であることに違いはない。とはいいつつも、会社というよりも、伝奇時代劇に出てくる、歴史の闇でうごめく××一族といった感じだった。荒山徹か半村良の世界ともいえる。事実、この会社の人たちは、自分たちのことを「H衆」といっていた。また、ある意味、探偵ナイトスクープの「パラダイス」といったら分かりやすいかも。
そこで、今回はこういうネタで行く。

西宮の苦楽園でパラダイス発見

 さて、今日、最後のご依頼です。姫路市の山本良一さん(43歳)からの依頼です。
「僕は長年の下半身の病気で苦しんでおります。それはさておき、先週の日曜日ヒマだから、関西の高級住宅地として有名な、芦屋の六麓荘と、西宮の苦楽園をドライブしていました。苦楽園に入ったバス道の北側に、見た記憶がある建物が。お寺のような建物です。その建物、僕が下半身の病気の薬を通信販売で買う時についてくるPR雑誌に写真が載っている建物でした。車から降りて建物の前に立つと、やはりPR誌で見たお坊さんがいました。薬の愛用者だというと、そのお坊さんが案内してくれました。そこはパラダイスでした。ぜひ見に来て下さい」
 
 これを桂小雫探偵が取材してくれました。

「はいはい、桂小雫です。しかし、まあ、なんですなあ。まだまだパラダイスがあるのですねえ。しかも、高級住宅地の苦楽園に。どうなんだか。ともかく観てもらいましょう。VTRスタート」

 西宮市の山手、苦楽園。お金持ちばかりの街ですな。大きなお屋敷ばっかり。うわっすごい駐車場があります。停めてあるのはベンツばっかり。ベンツベンツベンツ。いや、ちょっと待ってください。一番奥にロールスロイスが停めてあります。さすが苦楽園。でも、おかしいな、お金持ちなら自宅に駐車場があるはずなんやけど。ええーと、「H屋D堂専用駐車場」なんか会社の駐車場みたいでんな。運転手らしいおじさんがいます。ちょっと聞いてみましょう。
 あの、ここはどっかの会社の駐車場でっか。ふ~ん。ここから坂の上まで社員を送るのにベンツを使うのでっか。すごいでんな。あ、このベンツ、オープンカーでんな。え、ご当主がここから上まで行くの専用のベンツでっか。で、あのロールスロイスは。ご当主の外出用。へー、あの薬だけでよう儲かるんですなあ。
 駐車場の隣のお寺みたいな建物に行ってみようっと。まえに偉そうな顔したお坊さんがおります。あのう探偵の桂小雫ですが。ええ、ご当主。するとあなたが、日々、下半身病気根絶を天地神明に誓い、精進潔斎、全身全霊をこめて、東条湖のほとりで、薬をひとつひとつ手作りしている、H屋D堂第19代ご当主様であらせられますか。へへー。
 今日は東条湖のほとりからここまで、あのロールスで。私を案内するために。それはそれは恐れ入ります。
 では、この中を見せてもらいましょう。おおっと、こんな所に茶室が。額がかかってますな。なになに「茶室D」なんか由緒あるみたいな茶室ですな。
 え、当堂ゆかりの愛知県N市から移築した建物ですか。創薬の祖初代がこの茶室で薬の配合を天から授かった。すごいですね。そのわりには柱が妙に新しいでんな。
 茶室のこっち側の建物。ほんまお寺でんな。うわっと、仏像がいっぱい。これ、社員には毎日お参りさせるんですな。すごいですなあ。そうでんな先祖を供養するのは大切ですな。ところで、これ、みんなご当主の家の先祖でっしゃろ。それを社員が拝むんですか。そうでんな、ここの社員はみんな下半身病気根絶を心から祈らなあきまへん。そのためにはD堂の歴代当主を崇めることが大切でんな。よっくわかりました。
 うわっ、びっくりした。こんなとこにオウムがおるんでんな。さて、では、坂の上の建物に行きまひょか。え、ご当主みずからの運転でベンツのオープンカーで送ってくださる。恐れ入ります。

                          つづく
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