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とつぜんリストラ風雪記 11

とつぜんリストラ風雪記10

第11回
 やっと再就職を果たした。約半年間の浪人生活であった。とりあえずは、ほっとしたが、その再就職先というのが、なんとも異様な世界であった。2003年の6月から2004年の3月まで、小生は伝奇小説の世界にいた。

2003年6月11日(水)
 パソナのI女史に連れられて、MJ社へ行く。外資系の会社らしい。コンサルタント会社とのこと。小生はコンサルタントなるものの存在意義がよくわからない。できれば敬遠したいところだが、そんな選り好みはいっておれない。
 新大阪のきれいなビルのきれいなオフィス。引っ越してきて間なしといった感じ。後で聞けば、大阪に事務所を出してすぐとのこと。
 若いキザなのが面接をしてくれた。仕事は、契約している会社の製造現場に入り込んで、改善すべき点を見つけてレポートを書くこと。条件を聞いてびっくり。最高1000万。ほんまかいな。帰りしなにI女史に聞くと、外資系では、ままあることらしい。イチローが凸凹高校野球部に入るみたいなものとのこと。まあ、たいていの人はイチローではないから、そんなにもらえないらしい。もちろん、小生もイチローではない。

6月12日(木)
 H屋D堂にて面接。場所は大阪は北浜。名前を聞けば、たいていの人が知っている、江戸時代から続く、薬の製造販売の会社。下半身の病気専門の薬で、家伝薬とのこと。職種はコピーライター。薬を購入している人向けのPR誌の記事を書く。
 実は小生、大昔、コピーライター時代にここの仕事をしたことがある。当時、大阪の広告制作プロダクションに所属していて、そこにこのH屋D堂の仕事が来ていた。取材が必要な仕事だった。この仕事は同僚の女性コピーライターの仕事で、小生は主にシャープの仕事をしていた。ところが彼女が別件で大阪を離れられなくなって、小生が一度だけ代打でここの仕事をした。取材先は長野県松本市。下半身の病気の患者から話を聞いて、闘病記を書く。小生とカメラマンとH屋D堂の担当者と3人で行った。
 この担当者の名刺をまだ持っていて、面接で見せ、私は御社の仕事をしたことがあります、とPRする。その人はすで辞めていたが、面接した人はその人を覚えていた。一度、仕事をしたということと、担当者氏の名刺が効いたのか、かなりいい感触を得る。

6月16日(月)
 H屋D堂から試験採用との連絡が来た。18日から来てくれとのこと。

6月17日(火)
 H屋D堂を見に行く。面接は北浜で行ったが、職場は西宮市の苦楽園。JR芦屋駅から阪急バスに乗る。苦楽園。関西では芦屋の六麓荘とならぶ高級住宅地。バスを降りると大きなお屋敷が立ち並んでいる。お屋敷ばかりで、それらしい建物はない。バス通りに面して駐車場があった。看板を見ると、「H屋D堂専用駐車場」とある。そこでベンツを洗車しているおじさんに聞く。坂道を少し上がった所とのこと。
 駐車場の隣の建物は、お屋敷というより、お寺みたい。後で知ったことだが、このお寺みたいな建物もH屋D堂の施設だった。この会社、実はものすごく宗教っぽい会社。ハローワークの求人票にも「先祖を大切にする」と書いてあるぐらい。実にうっとおしい雰囲気で、できたら敬遠したいが、リストラ中高年にそんなことは許されない。採用してやる、といわれただけでも、ありがたく思わなければ。それに、どのような仕事かはともかく、ものすごく久しぶりにコピーの仕事が出来るのが魅力だった。
 駐車場から10分ほど坂道を登る。かなりきつい坂道。ハーハーいいながら、教えられた建物に着く。たいそうな門構えの大きな和風建築。時代劇に出てくるようだ。奉行所か、公儀隠密伊賀者の頭目服部半蔵の忍者屋敷といった風情。とても広告制作をしている事務所には見えない。

6月18日(水)
 H屋D堂へ初出勤。JR芦屋までは歩く。そこからバスに乗る。バスは芦屋の山手へ。高級住宅地六麓荘を通って苦楽園。バス停を降りると、いっしょに降りたおじさんが数人。小生と同じ方へ行く。「あの、H屋D堂の方ですか」と聞くと「そうです。新しいコピーの人?」と聞かれる。「そうです」と答えると、あの駐車場へ連れて行かれた。洗車していたおじさんが、ベンツのドアを開けて待っていてくれた。坂の上までベンツで送ってくれるとのこと。今日だけかと聞くと、この坂はきついのでバス通りから忍者屋敷までベンツで送ってくれることになっている。こりゃ楽でいい。
 ベンツから降り、忍者屋敷の前に立つ。いっしょに来たおじさんたちと、くぐり戸を通って中に入る。
 そこは、まさに異様な世界への入り口であった。


                         つづく

 
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (そのえだ園子)
2008-06-13 18:20:54
毎度プリントアウトしてファイルさせて頂いてますよ♪
取材がある職業は、一般人レベルでは味わえないビックリ体験させてもらうコトがありますね。ワタシも経験あります。

これは続きが楽しみな展開ですね。期待してます♪
 
 
 
園子さん (雫石鉄也)
2008-06-13 20:44:03
毎度ご愛読ありがとうございます。
H屋D堂、まったくけったいな所でした。
ま、あまり長くいる所ではなかったです。
 
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