風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

別れ

2005年10月28日 | 
明け方、彼女はトンネルを抜けて吹雪の中に消えて行きました。
出発を伸ばすがよかろうと何度言っても、首を振って、彼女は去って行きました。
駅のホームに立つ彼女の横顔は、深い海の底にいました。
 
雪がそこらじゅうに舞っていました。
音のない白い世界で、彼女は遠い過去に耳を澄ませていました。
茶色い線路にも、枕木にも、ホームの黄色い線にも、雪が降り積もりました。

遠いところで、汽車のボゥッーという音がくぐもって聞こえました。
彼女はぶるっと身を震わせ、はじめて私の顔を見ました。
私を見る彼女の目は、冷たい海の底にいました。

たまらず私は目を逸らせました。
彼女を行かせてはならない気がしましたが、引き止めるすべを知りませんでした。
彼女の細い肩にも雪が降り積もりました。

やがて雪まみれの列車がホームにガタゴトと入ってきました。
肩をすくめて人々が列車を降り、肩をすくめて人々が列車に乗り込みました。
彼女はドアのところで私を振り返り、少しだけ唇を動かしました。

「えっ?」と私は聞き返しました。
彼女はただ少しだけ首を振りました。
私は阿呆みたいに口を空けたまま彼女の顔を見つめていました。

ベルが鳴り、ドアが閉じられました。
列車が動き出すと、曇ったガラス戸の向こうで、彼女の姿が揺れ始めます。
私は取り返しのつかないことをしているのだと悟りました。

列車がトンネルに吸い込まれ、かすかな線路の音も聞こえなくなり、辺りは白い沈黙に覆われました。
私は、私であることに耐え切れなくなっていました。
真っ黒の炭のような私に、次から次と雪が降りかかってきました。





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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ポエマー? (明美)
2005-10-31 19:16:47
この詩は、自作・・ですか・・?
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Unknown (torut21)
2005-10-31 20:06:56
そうです、ぼくは暗いんです
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暗さ (明美)
2005-10-31 23:22:38
暗さなら、私も 負けませんよ(笑)
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Unknown (torut21)
2005-11-01 18:33:49
いいや、根の暗さではぼくの勝ちです。
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