別れ
2005年10月28日 | 詩
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/08/8bc98f1b830eae6411ef7f30f87bb074.jpg)
明け方、彼女はトンネルを抜けて吹雪の中に消えて行きました。
出発を伸ばすがよかろうと何度言っても、首を振って、彼女は去って行きました。
駅のホームに立つ彼女の横顔は、深い海の底にいました。
雪がそこらじゅうに舞っていました。
音のない白い世界で、彼女は遠い過去に耳を澄ませていました。
茶色い線路にも、枕木にも、ホームの黄色い線にも、雪が降り積もりました。
遠いところで、汽車のボゥッーという音がくぐもって聞こえました。
彼女はぶるっと身を震わせ、はじめて私の顔を見ました。
私を見る彼女の目は、冷たい海の底にいました。
たまらず私は目を逸らせました。
彼女を行かせてはならない気がしましたが、引き止めるすべを知りませんでした。
彼女の細い肩にも雪が降り積もりました。
やがて雪まみれの列車がホームにガタゴトと入ってきました。
肩をすくめて人々が列車を降り、肩をすくめて人々が列車に乗り込みました。
彼女はドアのところで私を振り返り、少しだけ唇を動かしました。
「えっ?」と私は聞き返しました。
彼女はただ少しだけ首を振りました。
私は阿呆みたいに口を空けたまま彼女の顔を見つめていました。
ベルが鳴り、ドアが閉じられました。
列車が動き出すと、曇ったガラス戸の向こうで、彼女の姿が揺れ始めます。
私は取り返しのつかないことをしているのだと悟りました。
列車がトンネルに吸い込まれ、かすかな線路の音も聞こえなくなり、辺りは白い沈黙に覆われました。
私は、私であることに耐え切れなくなっていました。
真っ黒の炭のような私に、次から次と雪が降りかかってきました。
出発を伸ばすがよかろうと何度言っても、首を振って、彼女は去って行きました。
駅のホームに立つ彼女の横顔は、深い海の底にいました。
雪がそこらじゅうに舞っていました。
音のない白い世界で、彼女は遠い過去に耳を澄ませていました。
茶色い線路にも、枕木にも、ホームの黄色い線にも、雪が降り積もりました。
遠いところで、汽車のボゥッーという音がくぐもって聞こえました。
彼女はぶるっと身を震わせ、はじめて私の顔を見ました。
私を見る彼女の目は、冷たい海の底にいました。
たまらず私は目を逸らせました。
彼女を行かせてはならない気がしましたが、引き止めるすべを知りませんでした。
彼女の細い肩にも雪が降り積もりました。
やがて雪まみれの列車がホームにガタゴトと入ってきました。
肩をすくめて人々が列車を降り、肩をすくめて人々が列車に乗り込みました。
彼女はドアのところで私を振り返り、少しだけ唇を動かしました。
「えっ?」と私は聞き返しました。
彼女はただ少しだけ首を振りました。
私は阿呆みたいに口を空けたまま彼女の顔を見つめていました。
ベルが鳴り、ドアが閉じられました。
列車が動き出すと、曇ったガラス戸の向こうで、彼女の姿が揺れ始めます。
私は取り返しのつかないことをしているのだと悟りました。
列車がトンネルに吸い込まれ、かすかな線路の音も聞こえなくなり、辺りは白い沈黙に覆われました。
私は、私であることに耐え切れなくなっていました。
真っ黒の炭のような私に、次から次と雪が降りかかってきました。