風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

氷山理論

2014年04月29日 | 雑感
20代の頃、フロリダ半島の先端にあるキーウエストに行きました。
目的はヘミングウェイが晩年を過ごした住居を訪れるためでした。
それほど豪華な住居でもなく、コロニアル風の心地よさそうな住居でした。
猫がいっぱい住み着いていました。
ヘミングウェイが買っていた猫の末裔なのだそうです。

ヘミングウェイの有名な文学理論に「氷山理論」というのがあります。
氷山の8割は海の中に沈んで隠れています。
表面に現れた2割を表現することで、隠れた8割までも想像させるのが優れたレトリックだということです。
つまりは、日本のドラマでよく見られるような過剰な感情表現などとは正反対な表現方法です。
本当に感情が抉られたとき、人はいかなる感情表現も、行為も封じられます。
それを一行の言葉でいかに表現するか。

特にヘミングウェイは好んで戦場とか、闘牛とか、革命とかに身を投じ続けた人ですから、
悲しいとか、辛いとか、苦しいとか、そんな陳腐に堕しかねない言葉遣いを極度に嫌いました。
リアルはいかなる言葉も凌駕します。

キーウエストで若い日本人女性のバックパッカーと知り合いました。
一緒にカリブ海の海で泳ぎもしました。
そのあと昼食を一緒に取りました。
チップを置く段になって、彼女は小銭入れから一セント玉を残らずかき集めて、15セントほどテーブルに置きました。
食べた食事は一人6ドルほどだったと思います。

そこであれこれったことをあえて書かないのが「氷山理論」です。
その事実がすべてを表します。

空は青の絵の具を塗ったように晴れていた。
裏通りのカフェにはすでに世界各地からの観光客であふれていた。
それほど待たずに通り沿いのベランダにある席にぼくらは案内された。
南国のオレンジ色がかった陽射しが色白の彼女の顔を照らしていた。
ぼくらは好みのジュースとベーコンエッグとパンケーキのセットを頼んだ。
彼女はトマトジュース、ぼくはグレープフルーツジュース。

「水着持ってますか?」僕は言った。
「うん。なんで?」
「泳ぎに行きましょうよ」
彼女は笑って頷いた。
ぼくはエメラルド色のカリブ海で泳ぐことを想像した。
食事をそそくさと終え、会計を頼んだ。
12ドル86セント。
ぼくは8ドル置き、彼女は6ドル58セントをテーブルに置いた。

カリブ海は豊かさが渦を巻いているような海だった。
風は優しく、空は底が抜けていた。
水着になった彼女は思いのほかまぶしかった。
「泳ぐ?」ぼくは聞いた。
「やめとく」と彼女は言った。
波は高かった。
波頭が完璧な青い空を背景に豪快に崩れた。
「帰ろう」とぼくは言った。本当に帰りたくなっていた。
驚いた表情をして見上げる彼女を後にぼくはシャワールームに向けて歩き始めた。

なんか冗長ですがこんな感じで(笑)。















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