風に吹かれすぎて

今日はどんな風が吹いているのでしょうか

ペス

2010年08月07日 | 雑感
子供の頃、赤毛の犬というのをよく見かけていました。
太った赤毛の犬というのは見たことがなく、大方は瘠せて貧相で、そして野良犬でした。
野良犬というのが珍しくなく、飼われている犬でも放し飼いが多かった頃の話です。
我が家にも赤毛の犬が出入りするようになりました。
数日に一度くらいの割合でふらりと玄関先に現れます。
残り物のご飯やなんやらを上げていたみたいです。
誰が名付けたのか、我が家のものはその犬をペスと呼んでいました。

餌を与えると寄ってきて食べるのですが、決して身体を触らせたりしません。
食べ終わると、物憂げに立ち上がって、ふらふらとどこかに行ってしまいます。
ある時どこからか鰯かなんかの魚を咥えて我が家にやってきました。
魚屋の軒先から盗んできたのでしょう。
いかにも盗みをしそうな貧相な顔をしていましたから、子供心に妙に納得したことを覚えています。

幼稚園からの帰り道、思わぬところでペスを見かけて、ペス!ペス!と呼んでも、振り向きもせずその瘠せた姿をどこかに消しました。
その決して人慣れない姿に、少し哀しい感情を感じました。

ある日、外から帰ると、家の中の誰かがペスが死んだよと教えてくれました。
どこかの道端で死んでいるのを、誰かが見つけ、それを家のものに知らせてよこしたのだそうです。
家のものも確認しに現場に出向いて、確かにペスだと確認したそうです。
家で正式に飼っていたわけでもありませんから、ペスの死亡確認をうちがすべきもであったのかどうかは知りませんが、
他に主立ってペスの世話をしている家があったわけでもなかったのでしょう。
一応は、うちが飼っているという街の人たちの漠然とした認識だったのでしょう。

ペスが我が家に姿を見せるようになった期間は、記憶が曖昧ですが数ヶ月くらいの短い期間だったと思います。
尻尾を振って喜ぶこともなく、誰かに気を許すこともなく、瘠せた体と貧相な顔でどこからか現れ、どこぞで死にました。
大きな悲しみはやってきませんでしたが、ノソリと立つペスの姿が妙に脳裏に浮かんできては、
なんとなく胸が苦しいような感じになりました。