Photo by Chishima, J.
(ハクガン 後ろはヒシクイ(亜種オオヒシクイ) 2010年10月 北海道十勝川下流域)
(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年11月3 日放送)
黒い翼先、ピンク色の嘴と足以外の全身が純白で、英名の「Snow Goose(雪のガン)」通りの大型水鳥です。北米と北東アジアの北極海沿岸で繁殖し、かつては日本にも数多く渡来したことは江戸時代の絵画に度々登場し、明治初期の東京湾に舞い降りる群れが残雪のように美しかったとの随筆が残されていることから伺えます。しかし、乱獲や北極海沿岸でのトナカイ放牧による巣・卵の破壊で、20世紀初頭までにアジアへ渡る群れはほぼ消滅しました。
その復活を賭け、日本、ロシア、アメリカの研究者、保護団体らの国際プロジェクトが動き出したのは1990年代前半。北極海に浮かぶ島にある繁殖地で採取した卵をアジアへ渡るマガンの巣に預け入れ、マガンを里親としてのアジアへの渡りに想いが託されました。
開始から数年、日本や韓国でハクガンの記録が少しずつ増えます。十勝でも過去1回の単独記録しかなかったのが1995年に浦幌町で3羽確認されて以降、毎年春と秋に少数が十勝川下流域で見られるようになりました。2007年、25羽と2桁へ突入した渡来数は着実に増加し、一昨年には100羽を超え、この秋はなんと190羽以上が飛来しています。多くの人の情熱と努力が、20年以上の時を経て奇跡的な復活という形で身を結ぼうとしています。
沼が凍る11月後半まで浦幌町三日月沼周辺の十勝川下流域に滞在しますので、麗らかな小春日和の日にでも観察に出かけてみませんか。その際は春にもお伝えした通り、畑や牧草地に立ち入らない、交通量の多い路上に駐車しないなど、地域の方々へ迷惑をかけぬよう、配慮をお願いします。
十勝を立ったハクガンは東北や新潟で冬を越し、3月に再び戻って来ます。そして、たっぷりと栄養を蓄え、4月末までに極北を目指します。長距離を渡るハクガンにとって、十勝川下流域は長旅の途中で羽を休め、体力を付けるためになくてはならない「奇跡の舞台」なのです。
(2015年10月29日 千嶋 淳)