All photos by Chishima,J.
(アマツバメの乱舞 2006年8月 北海道小樽市)
雲一つ無い青空の一点から発される賑やかな高音を、夏の午後の停滞した大気が地上にいる私の耳元まで運ぶ。「ジュリィィィ…」。目を凝らすと蚊柱のような黒塊が、高空から徐々に高度を下げながら降下し、地上50メートルほどまで達した地点で、蜘蛛の子を散らしたように一気に散開した。数秒後、破片は何ら目印の無い、中空の一点に集群して再度黒塊を形成した。「ジュリィィィ…」。アマツバメの群れが離合集散を繰り返すのは、夏の海岸や高山ではごくありふれた鳥景である。
鳥柱(アマツバメ)
2006年8月 北海道小樽市
高空から塊となって飛来。
50羽弱が一気に散開した。
アマツバメ類は、鳥類の中でももっとも飛翔に適応したグループといえる。流線型に無駄のない体と鎌型の細長い翼から推察されるように、彼らはその生活史の大半を空中で飛びながら過ごす。採食や移動はもちろんのこと、交尾や果ては睡眠まで天空で行なっているらしい。和名から誤解を招きやすいが、イワツバメやツバメなどのツバメ類とは近縁な関係にない。むしろ遠縁で、ツバメ類が旧世界に住む多くの小鳥と同じくスズメ目に属するのに対し、アマツバメ類は、主に中南米に分布するハチドリ類とともにアマツバメ目に分類される。体型や習性の類似は、飛翔に適応したことによる収斂である。
ハリオアマツバメ
2006年6月 北海道河東郡音更町
上面は背の灰白色が目立つ。翼はアマツバメよりやや丸みを帯びる。
イワツバメ
2006年5月 北海道中川郡池田町
近年では温泉街のホテルの軒先や橋などの人工物での営巣も多い。
ツバメ
2006年4月 北海道中川郡豊頃町
全国的にはもっとも普通のツバメ科だが、北海道、特に道東では少数派。
北海道へは、ハリオアマツバメとアマツバメの2種が夏鳥として渡来する。アマツバメは海岸や高山の崖の隙間で繁殖するため、そうした環境の付近で見ることが多いが、主として樹洞で繁殖するハリオアマツバメは、神社や公園などでも樹洞のある大木があれば良いようで、十勝地方の平野部では目にする機会は圧倒的に多い。ただ、飛翔力のある鳥なので、両種とも意外な場所で観察されることも珍しくない。特に、悪天候の時には本来の生息地で餌が取りづらくなるのか、あるいは餌の昆虫が低空にいるためか市街地上空などに現れることが多いように感じる。
アマツバメ
2006年7月 北海道根室市
白い腰が目立つ。翼は細長く、先端は尖る。
針尾(ハリオアマツバメ)
2006年6月 北海道中川郡豊頃町
尾羽の羽軸が針状に突出することから、このような長い名前がある。
何年か前の夏の夕刻、山間のダム湖にいたら、2種のアマツバメが50羽ほどの群れをなして飲水と水浴にやって来た。こちらがじっとしていたせいか、すぐ脇を「シュッ」という軽快な羽音とともに飛び抜けていった直後、水面をかする「チャポッ」の音が聞こえることの連続は何とも豪快で、また普段は比較的高空を飛んでいるのを見ることの多い仲間だけに新鮮なものであった。
ハリオアマツバメの飛翔
2006年6月 北海道河東郡音更町
下面では、喉と下尾筒の白色が特徴。体色は黒色のアマツバメに対して褐色みを帯び、部位によっては緑色光沢をもつ。
秋には、大群を作って南へ移動する。もうずいぶん前のことになるが、今は釧路市と合併した音別町の海岸でそのような場面に遭遇した。10月上旬の午後、秋晴れの爽やかな空を、アマツバメが途切れなく、一見普段の離合集散のようだがはるかに大きな規模で、しかも離散した後は南の太平洋に出てゆく様は、筆舌に尽くせぬ感動的な時間であった。ハリオアマツバメも時に大群を形成するらしく、関東地方の低山帯では数千羽規模の渡りが観察されている。私はそこまで大きな群れに出会ったことはないが、タカ類の渡りを観察していると数羽から十数羽がタカと同じように上昇気流を巧みに利用しながら移動してゆくのは何度も見たことがある。
颯爽と、風を切って(ハリオアマツバメ)
2006年6月 北海道河東郡音更町
(2006年8月22日 千嶋 淳)
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