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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

コウミスズメ(その2) <em>Aethia pusilla </em>2

2012-01-26 23:46:42 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて コウミスズメ 2011年2月20日 北海道苫小牧沖)


 繁殖期には主に岸から2km以内の沿岸域で採餌する本種だが、非繁殖期には外洋性の傾向が強まる。エトロフウミスズメ同様プランクトン食性で、体サイズが小さい分より小さな餌を食べているようだ。水面採餌と潜水採餌の両方を用いる。餌生物はCalanus属やNeocalanus属のカイアシ類をはじめ、ケンミジンコ類、エビ類幼生等、プランクトン性の微小甲殻類が中心で、ベーリング海ではカイアシ類のバイオマスと分布が、本種の数と営巣分布を調節しているという。
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 1980年代後半に書かれた総説によれば、ベーリング海北部のセントローレンス島地域と、おそらくプリビロフ諸島周辺でも、カイアシ類の個体数変化に対応して繁殖数は増加している。オホーツク海北部のヤムスキー島では1988年に約600万羽が確認され、世界で最も個体数の多いウミスズメ類とされる。一方で、道東ではかつて春先には北帰中と思われる大群が海岸からも観察されたというが、近年そのような観察例は無い。また、日本における通常分布域外の記録としては九州から、福岡の久留米と博多湾、鹿児島、種子島でのものがあるが、年月日不詳の鹿児島以外は1920年代前半の記録で、近年の渡来は無いようであり、母集団の衰退を反映しているかもしれない。


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 「ウミスズメ(その2)」の記事でも言及したように、同サイズの鳥でも水面上に白色部が多く現れていると、より大きく見える。全長15cmとウミスズメ類中最小の本種は、たとえ凪の海面であっても浮いている個体はかなり接近してから気付くことが多く、そのような場合には体を沈めた逃避体勢になっており、鳥をより小さく見せる。


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 水面を走るような逃避体勢を示した後は、たいてい潜水する。このような姿勢では体が沈んでいるため頭部の大きさが強調され、より丸っこい印象を受ける。光線条件が良ければ、虹彩と肩羽の白は多少距離があっても確認可能。嘴は短くて太いAethia属特有のものだが、角度や鳥の姿勢によっては本来より細く見えることがある。


(2012年1月26日   千嶋 淳)


ウミガラスとハシブトウミガラス(その1) <em>Uria aalge</em> & <em>U.lomvia </em>1

2012-01-25 12:18:55 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミガラス(右)とハシブトウミガラス 2012年1月18日 北海道厚岸郡浜中町)


 生態や形態に違いのある2種であるが、特に非繁殖期の海上ではしばしば一緒に観察される。翼開長はともに60cm代後半から70cm前後で、クロガモより少し小さい。白と黒のコントラストが顕著で、順光下では白が、逆光下では黒が際立って見える。ウミガラスは冬羽では頭頂部を除く顔は白く、目後方の黒い線はかなりの距離からでも見える。後頚からの暗色部が線状になって前頚下部まで達し、角度によっては顔を黒っぽく見せる。冬期に見られるハシブトウミガラスは、顔全体が黒っぽく喉から前頚にかけて淡色なもの、目の付近までキャップ状に黒色部があってツートンカラーに見えるもの、両者の中間的なもの等があり個体差が大きいが、いずれの羽衣でも目の後方は黒く、ウミガラスのような白地に黒いラインが出ることはない。

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 両種とも体は流線型の筒型。顔から体の前半にかけて一定の膨らみがあるため、飛翔時は水面に対して水平に見えることが多い。ケイマフリやウミバトでは顔から首にかけて比較的細く、胸の部分で急に膨らみを帯びるため、体の軸は水面に対して斜めに見えることが多い。


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 体上面の黒色は、ハシブトウミガラスでは漆黒なのに対し、ウミガラスではやや褐色みを帯びる。ただし、後者では夏羽のようなチョコレート色に近い感じではなく、本画像でもやや褐色がかって見えるが、一見しただけではわからないことの方が多い。ハシブトウミガラスの上嘴基部の白線は、光線条件が良ければそれなりの距離からでも目視できるが、個体や光線によってはウミガラスでもこの部分が淡色に見えることがある。飛翔時は体の後半部に見える翼は細長く、先端が尖る。


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 両種とも下雨覆は白く、風切部分も淡色なため、翼下面は広範囲にわたって白く見える。ケイマフリやウミバトでは翼下面は基本的に暗色で、ウミガラス類のような広い白色部は存在しないが、陽の当たり方や角度によっては淡色に見えることもあり、注意が必要。両種とも次列風切先端が白く、白いラインを形成するが、近距離でないとあまり目立たない。


(2012年1月25日   千嶋 淳)

*一連の写真は、NPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。


コウミスズメ(その1) <em>Aethia pusilla</em> 1

2012-01-08 22:38:56 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて コウミスズメ 2011年12月29日 北海道十勝郡浦幌町)


 ウミスズメ類中最小の種で、ベーリンジアの固有種。ベーリング海の島々を中心にコマンドル諸島やオホーツク海北部などで繁殖する。中部以北の千島列島では繁殖期に個体は観察されているが、繁殖は確認されていない。個体数は多く、オホーツク海北部のヤムスキー島は600~1000万羽を擁する世界最大のコロニーとされる。道東へは冬鳥として11月以降に渡来し、12月下旬よりその数を増す。エトロフウミスズメと同様、流氷の前縁に多く、流氷の卓越する年、時期に飛来数は多い。一例として2003年2月23日には襟裳岬から5000羽以上の本種が観察されたが、この時は流氷帯が沖合の目視できる距離にあった。あまり南下はせず、本州北部太平洋でも観察されるが、最南下期の3月下旬から4月上旬においても南限は金華山沖付近である。日本海側では、少なくとも冬期の稚内から利尻・礼文島海域では普通であり、南限は不明だが北陸沖で少数を観察したことがある。漁港や海岸で見られることもあり、嵐の後に内陸で保護されることもあるが基本的にはやや外洋性で、ウミスズメやケイマフリと比べ、沖合で数が多い。

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 翼開長は35cm程度で、ウミスズメ(同40cm強)と比べても明らかに小さい。体型は寸胴で、他種より短くまた太く見える。上面と下面の白と黒のコントラストが強く、上面は肩羽の白いラインを除いて黒い。肩羽の白線の程度には個体差があり(先頭の個体で非常に明瞭)、距離や角度、鳥の姿勢によっては見えない場合も少なくない。翼下面は下大雨覆など中央部に白色部がある(右から4番目の個体で顕著)が、距離や光線の条件が良くないと確認できず、遠目には上面同様の暗色に見える場合が多い。近距離で光線も良ければ、Aethia属に特有な厚みのある嘴(特に下嘴)や白い虹彩も確認できる。初冬には虹彩の白色部が暗色な個体もおり、若鳥なのかもしれない。


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 飛翔は数~数十羽の単位で出現することが多い。はばたき速度は大変速く、一生懸命な感じがする。飛翔は無・弱風の条件下では他のウミスズメ類同様直線的だが、風浪があると右に左に大きく振られ、不安定な印象を与える。飛翔高度は低く、多くは海面すれすれで、ウミガラス類やウトウのように海面から一定以上の高さで飛ぶのを見たことがない。波の高い時には、飛翔中の群れが波間に隠れることもしばしばある。


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 総じて船舶への警戒心は強く、海上にいる場合も十分な距離に接近する前に飛び立ちか潜水によって逃避する。また、海上にいる個体はその小ささから、少しでも風浪があれば見えなくなり、光線条件によっては背後の海面と同化する。凪の状態で本種の浮き個体を最も発見しやすいのは、順光よりむしろ逆光下である。そうした発見の困難さもあり、実際にはこのように飛び去る群れを背後から見送ることも多い。その場合、顔や肩羽は確認しづらいので、大きさや飛び方が判定の助けとなる。


(2012年1月8日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。


ウミガラス(その1) <em>Uria aalge </em>1

2012-01-04 18:46:17 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下1点(比較画像のハシブトウミガラス)を除きすべて ウミガラス冬羽 2011年2月3日 北海道根室市)


 種としては北太平洋と北大西洋の広い範囲に分布し、個体数も多い。北海道では天売島をはじめユルリ島、モユルリ島、松前小島等で繁殖していたが、天売島以外の繁殖地は1970、80年代までに消滅した。モユルリ島では1965年には約500羽が繁殖していたが、1981年には約100羽、82年には約30羽、83年には約10羽と激減し、翌年以降繁殖はなくなった。激減に拍車がかかると歯止めが効かなくなることを示す事例といえる。現在でも夏期に島周辺の海上で見られ、時に島や属島を小群で周回飛翔することがあるものの、繁殖の回復には至っていない。ロシアが実効支配する歯舞諸島を除く国内唯一の繁殖地である天売島でも、1950年代の約5万羽から現在の10数羽までその数は極端に減少した。激減の要因は詳しくわかっていないが、流し網や刺網による混獲の影響は大きいと思われ、個体数激減後はカラス類やオオセグロカモメ等による捕食も影響を与えている可能性がある。

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 北海道の繁殖個体群は消滅寸前の状態にあるが、それらとは別に、冬鳥として渡来するものは少なくない。海上の主に沿岸部に分布し、漁港や海岸近くで見られることもある。
 全長40cm以上とウミスズメ類としては大型で、白黒のツートンカラーの体色は光線が良ければ遠くからでもよく目立つ。冬羽では目の後下方に細い黒線が出る以外、顔の下部は白く、体が十分に浮いていれば非常に白っぽい鳥に見える。そのため、遠距離や波浪等の観察条件が悪いと、ケイマフリ冬羽と見間違うことがある。


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 鳥体が沈んでいたり、波間に見え隠れしていると嘴と首の長さが特に強調されて見え、それに逆光等の悪条件が重なるとアビ類や大型カイツブリ類のように見えることがある。


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 顔の白色は後頚にまで及ぶが、後頚の中央部は暗色であるため、背後から見ると後頭部から後頚にかけて2つの白斑があるように見える。本種の黒色は、ハシブトウミガラスの炭のような漆黒とは異なり、チョコレート色みを帯びる。夏羽で特に顕著だが、冬羽でも褐色みが強い。


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 冬の北の海は一見凪いでいるようでも、所々細波が立って鳥を見づらくする。本種のような大型種でもボディが完全に隠れ、頭部のみ見えるということも珍しくない。
 本種の冬羽への移行はかなり早いようで、8月中旬には冬羽の個体が観察されるようになる。8月下旬に同じ海域で、単独個体は冬羽、雛連れの個体は夏羽だったことがあり、非繁殖鳥や若い個体は早く換羽するのかもしれない。


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 ハシブトウミガラスとの比較画像。ハシブトウミガラスの撮影データは画像を参照。このハシブトウミガラスの羽衣は不明。夏羽とも冬羽とも微妙に異なり、やたら磨滅していることから若鳥か?顔の黒色は磨滅・褪色により褐色みを帯び、典型的な本種の色ではないが、嘴その他の形態は本種の特徴をよく表している。ウミガラスに比べて嘴は厚みを帯び、嘴峰は上嘴の前半で顕著なカーブを描く。ウミガラスの上嘴はより直線的。下嘴角の位置はハシブトウミガラスでより前方(半分程度)になるが、個体や角度によってはこの特徴は確認しづらい。ウミガラスの嘴は全体的に直線的で、やや上向きに見える傾向がある。ハシブトウミガラスでは嘴峰の下方への湾曲が大きいため、まっすぐに見える。上嘴基部の白線はハシブトウミガラスのわかりやすい特徴だが、逆光等の条件次第では見えないこともあり、不明瞭な個体、またウミガラスであっても同部分が淡色な個体もいるため注意が必要。


(2012年1月4日   千嶋 淳)


ケイマフリ(その1) <em>Cepphus carbo </em>1

2011-12-30 20:54:28 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ケイマフリ冬羽 2011年3月11日 北海道根室市)


 国内では道東の離島や海岸、知床半島、天売島、下北半島等で繁殖するが、その数は過去数十年で激減している。世界的に見てもオホーツク海と日本海北部、北海道から千島列島だけで繁殖する、極東の固有種といえる。国内でのウミスズメ科鳥類の保全対策は、主にエトピリカとウミガラスに努力が注がれているが、前者は北太平洋全域、後者は北太平洋、北大西洋に広く分布し、日本は分布の辺縁である。国際的な視野に立って日本が保全すべきものは何だろうか?


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 大規模な繁殖地のある歯舞諸島、色丹島から近い根室半島近海で冬に多数観察されること、流氷の辺縁で多く見られること等から長距離の渡りはしない個体が多いと思われるが、南下する個体もおり、冬には道内各地の沿岸で観察され、本州でも稀に記録される。沿岸性が強く、海岸から数kmの範囲で観察されることが多い。
 近距離であれば細長い嘴や和名の語源である赤い脚(アイヌ語の「ケマ・フレ(赤い脚)」に由来するとされる)、英名(Spectacled Guillemot「眼鏡をかけたウミガラス・ウミバト類」)の語源である目の周りの白い縁取り等から他種との識別は容易。ただ、ウミバトの中には雨覆の白斑が不明瞭で、各羽の先端に僅かに白色が出る程度で全体的に黒っぽく、本種と酷似する個体もいる。本種の翼上面は各羽の先端も含めて暗色であり、白色部はない。


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 飛び立ちや飛翔において、ウミバト以外で冬羽の本種と紛らわしいのは、ウミガラス冬羽である。近距離であれば顔のパターンや嘴の形状で識別は容易だが、中距離以上だと意外と似て見える。ウミガラスが顔から体の後半まで一貫して太い筒型で、海面に対して水平に見えるのに対して、本種は顔、首の部分は細く、胸から腹にかけて急速に太くなるため、体の軸が海面に対して斜めに見える。また、ウミガラス類では下雨覆が白色であるが、本種は初列、次列の下大雨覆がやや淡色であるものの、基本的には翼下面は暗色である点が異なる。


(2011年12月30日   千嶋 淳)