鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

ウミスズメ(その2) <em>Synthliboramphus antiquus </em>2

2011-12-28 21:45:17 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミスズメ 2011年11月13日 北海道十勝郡浦幌町)


 海鳥は総じて体サイズや羽色、換羽のタイミング等に個体差が大きいが、そうした実際の差ではなく、距離や光線等による「見え方」によってもまったく違って見える。特に大きさは物差しの無い海上では中距離以上で非常に把握しづらいし、近距離であっても角度や鳥の沈み具合、鳥の周囲の波の立ち方等によって受ける印象がかなり異なってくる。そんな一例を紹介する。上の写真では3羽のウミスズメは、同じ向きで同じような姿勢を取り、著しく浮いたり沈んだりする個体がいないため、大きさはほぼ均一に見える。
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 この写真は、1枚目の左側の2羽で位置関係は一緒。手前の個体が著しく小さく見える。これは鳥の体がかなり沈んでいて、特に白い部分が水面上にあまり見えていないこと、鳥の手前側に細かい波のピークがあり、鳥体がその向こう側にあること、鳥の頭が後部しか見えておらず、質量感を与える広い顔や厚い嘴が見えていないこと等が複合的に作用した結果と思われる。画像で見る形や色は紛れもない通常のウミスズメであるが、逆光や短時間の観察だと他種や幼鳥・雛と誤認される可能性がある。


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 2枚目の少し後の画像で、個体の配置は1枚目と同じ。2枚目で小さく見えた最手前の個体は、ここではさほど小さく見えない。鳥の周囲に波が立っておらず、鳥体の水面上に出ている部分が多く、特に脇から下尾筒にかけての白色部が目立っているためであろう。海上、特に晴れた日の青いそれでは、白色部の多い鳥は大きな、逆に暗色部の多い鳥は小さな印象を受けやすい。そのような「錯覚」にも留意する必要がある。


(2011年12月28日   千嶋 淳)

*一連の写真は、日本財団の助成による十勝沖海鳥調査での撮影。

霧多布沖の海鳥⑤ミナミオナガミズナギドリ(9月20日)

2011-12-28 19:16:15 | 海鳥
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All Photos by Chishima,J.
ミナミオナガミズナギドリ 以下すべて 2011年9月 北海道厚岸郡浜中町)

NPO法人エトピリカ基金会報「うみどり通信」第3号(2011年10月)掲載の「2011年霧多布沖合調査」を分割して掲載、写真を追加)

 台風15号によるうねりが霧多布岬や小島に押し寄せる中での出港でしたが、沖は意外なほど静かで、飛ぶオオミズナギドリやヒレアシシギ類が海面に映るくらいでした。大黒島や阿寒の山並みを北西に望む海域では10頭前後のシャチが、そのうち数頭は舳先に現れ、甲板は歓声に包まれました。すぐ近くにヒゲクジラ類1頭も浮上したことから、もしかしたらシャチは狩りの最中だったのかもしれません。
 この日の調査で特筆すべき海鳥は、ミナミオナガミズナギドリです。ハシボソミズナギドリやハイイロミズナギドリのように、南半球で繁殖して北半球まで渡るミズナギドリ類がいますが、本種もその一種です。ニュージーランドの沖にある島で繁殖し、その後北太平洋に分散します。日本近海の確実な初記録は1976年と新しく、ごく稀に迷って来る鳥と考えられていました。しかし、最近の観察では夏から秋に少数が定期的に、本州北部から北海道の沖合へ来ることがわかってきました。霧多布沖でもそれを裏付けるかのように10羽近く(現在、集計中です)が続々出現し、翼上面に現れる美しいM字模様を披露してくれました。
 南半球からのミズナギドリ類、ミッドウェイや伊豆・小笠原生まれのアホウドリ類、ロシア極東で繁殖するウミスズメ類などが、付近で繁殖するオオセグロカモメなどとともに一同に会する霧多布の海は、さながら「海鳥たちの交差点」といえそうです。


水平線上の船を背に浮上するシャチ
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(完)

(2011年9月24日   千嶋 淳)

*本調査は地球環境基金の助成を得て、NPO法人エトピリカ基金が実施しているもの