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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

ウミバト(その4) <em>Cepphus columba</em> 4

2012-02-11 22:31:00 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下比較画像のウミガラスを除きすべて ウミバト 2011年11月18日 北海道厚岸郡浜中町)


 全体的に白黒のコントラストが強く、目の周囲の黒が後方へ線状に伸びており、距離が遠かったこともあって最初はウミガラス冬羽のように見えた個体(一連の写真は同一個体)。画像だけ見るとまさかと思われるかもしれないが、絶えず揺れている船上で風や波を受けながら双眼鏡を覗いているとそのような「錯覚」も稀ではない。海上では比較できるものが付近に無いことも多く、大きさの感覚が掴みづらいことも「錯覚」を起こしやすくする要因である。尤も、全長はウミバトが39~43cm、ウミガラスが38~43cmなので、実際にはほぼオーバーラップしている(それでも胴体部分の大きさによって、通常はウミガラス類の方が大きく見える)。


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 画像で見るとシルエットは完全にウミバト属のもの。頭頂部から目より前上方、そして目の後方に及ぶ黒色部以外は白く、 a href="http://nemu.no-blog.jp/torikichinikki/2012/02/2cepphus_columb.html">「ウミバト(その2)」や「ウミバト(その3)」の記事に掲載した個体のような広域に亘るくすんだ灰色は無い。脚の色は海面下にあるため不明で、雨覆の白色部も脇の白い羽毛がちょうど同部分を覆い隠しているため見えない。


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 ウミガラス冬羽との比較。どちらもそれなりに距離がある状態での見え方。ウミガラスの嘴は長く、多くの場合このように上向きに見える。また、頭頂からの黒褐色は途切れることなく胴体部分へ続いているのに対し、ウミバトでは後頚は白い。大型ウミスズメ類は属間、属内とも条件が悪いと紛らわしい場合が多いので、特に4種が混在する冬場は極力撮影して画像判定するのが確実と思われる。


(2012年2月11日   千嶋 淳)

*一連の写真は、NPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。


ウミバト(その3) <em>Cepphus columba </em>3

2012-02-10 22:47:49 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミバト 2011年11月18日 北海道厚岸郡浜中町)


 頭部は頭頂と目の周囲は黒く、それ以外と頸部は喉周辺の白色を除くと全体的にくすんだ灰白色をしている。背や翼上面は黒く、体下面は白い。一連の写真は同一個体。

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 上の画像に比べて陽が当たっているため白っぽく見えるが、それでも目より上の顔と頸部はくすんだ灰色みを帯びる。背の頸側の羽毛は灰色で、それより後ろは黒っぽくなるものの、広い範囲にわたって鱗状の羽縁が存在するようである。雨覆は脇の白色が下から覆い被さっていて確認できない。すべての画像で本種にしてはコンパクトで丸みを帯びた印象を受けるのは頸を縮めているせいかもしれないが、嘴も通常より短めに見える。


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 1枚目同様、顔の広い範囲に灰白色が広がっている。脇の羽毛の被さりではない白色部が雨覆付近にあるように見えるが、画像が不鮮明なため詳細は不明。


(2012年2月10日   千嶋 淳)

*一連の写真は、NPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。


ウミバト(その2) <em>Cepphus columba </em>2

2012-02-09 22:39:45 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミバト 2011年11月18日 北海道厚岸郡浜中町)


 朝の海から1羽のウミバトが飛び立った。激しい逆光の中、軌跡を金色に残しながら穏やかな海面を一目散に駆けて行く。一連の写真は同一個体。


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 顔は頭頂部と目の周囲が黒っぽい以外白っぽいが、全体的にくすんだ色をしている。ケイマフリと比べて額は切り立って見えることが多い(ただし例外も少なくない)。後頚から背の前半にかけては灰黒色、そこより後ろの上面は尾羽まで黒く、体下面は白色。翼上面、肩羽の特徴は後述。脚は逆光であることを差し引いても、本種としてはずいぶん黒く見える。ところで2本の脚の間、ちょうど尾羽の下あたりにオレンジ色のもう一本の「線」がある。


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 最初は何だか分からなかった。拡大してみると、「線」は海面と接して液状に広がり、その一部は飛沫となって後方へ飛び散っている。どうやら糞のようだ。赤みを帯びたオレンジ色は、オキアミ類等の甲殻類由来なのだろうか。


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 翼上面周辺の拡大画像。雨覆の白色部は各羽の白色部が狭いため白斑を形成しない。大雨覆では白色部は内側だけで、それも最内側の数枚を除き外縁が縦線状に白いだけだ。中雨覆と小雨覆2列の白色部は大雨覆よりは顕著なものの全体にくすんだ感じで、不連続なそれは翼前縁に近付くにつれ不明瞭となる。白い羽縁は肩羽を鱗状に見せ、羽縁の内側も灰色みを帯び、黒色の背と翼の間で際立っている。背も上部ではやや淡色の羽縁が鱗状を呈すが、これはおそらく近距離でないと分かりづらい。


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 背面より見た飛翔。下面の白が両側から腰近くまで達するパターンは、ケイマフリやウミガラス類といった大型ウミスズメ類に共通な特徴だが、コオリガモもこのように見える。雨覆の白色部は数本の線状を呈す。それにしても脚が黒っぽい個体である。ケイマフリでは若鳥らしい個体の脚が鈍い赤色のことがあり、それが同属の本種でも当てはまるなら若鳥か。ただし、「シブレーガイド」の本種幼鳥の脚は鮮やかな赤色に描かれている。


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 Johnsgardのモノグラフ「北アメリカの潜水性鳥類」によると幼鳥は、「最初の秋と冬を通じて下面は白くなってゆき、少数の茶色っぽい横縞が存在する」という。本個体も胸から腹にかけて不明瞭な褐色の鱗状模様が存在し、異様に黒っぽい脚や顔、雨覆の白色部がくすんだ印象を受ける点等を合わせて考えると当年生まれなのかもしれない。本種やケイマフリの翼下面は通常暗色に見えるが、光線によっては淡色にも見えうる。


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(2012年2月9日   千嶋 淳)

*一連の写真は、NPO法人エトピリカ基金の調査での撮影。


ウミバト(その1) <em>Cepphus columba </em>1

2012-02-03 21:29:08 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて ウミバト 2011年3月11日 北海道根室市)


 極東にのみ分布するケイマフリと異なり、千島列島からアリューシャン列島、アラスカ西部、カリフォルニア等北太平洋に広く分布する。千島列島ではパラムシル島からウルップ島までの北・中部で多く繁殖し、旧ソ連の文献によると歯舞諸島でも普通に繁殖するというがこれは疑問。道東へは主に冬鳥として11月後半より渡来し、観察される数や頻度は2、3月に最も多く、流氷の南下と関連している可能性がある。納沙布岬や霧多布岬では以前から少数が見られていたが、冬の根室半島海上への遊覧船が就航して以降頻繁に観察され、10羽前後出現することもある。これは渡来数が増加したのではなく、近距離での観察とデジカメによる大量撮影が可能になったためだろう。実際、冬の海上に出て「今日はウミバトが出なかったな」と思っても、画像をチェックすると何羽も出て来ることがよくある。特定の海域に集中して分布するケイマフリと同所的に出現することが多く、個々の鳥の識別に十分な時間を割けないためである。



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 図鑑のイラストにあるような全身白く、雨覆の白斑が大きく目立つ個体はむしろ少なく、本個体のように白斑がほとんど認められない個体も普通。本個体では大雨覆、中雨覆の羽先のみが白く、2本の白線となるが近距離でないとわからず、陸上からの識別を困難にしている。一般的にはこのような個体を亜種ウミバト(旧称チシマウミバト)、白斑の大きな個体を亜種アリューシャンウミバトとするが、白斑の大きさやパターンには個体変異が大きく、中間的な形質を示すのも少なくない。更に、繁殖地では両タイプが混在しているという話もある。


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 このような全体的に黒みの強い個体は2、3月頃よく見るように思うが、夏羽への換羽が始まっているのかはわからない。ケイマフリでは換羽タイミングの個体差が非常に大きく、早い個体では2月下旬から夏羽になる(遅い時期の冬羽は若鳥を含んでいる可能性がある)。目の周囲は淡色だがケイマフリのように純白ではなく、また後方へ伸びない。ケイマフリは嘴基部の2ヵ所に白色部があるが、冬羽では不明瞭な場合もある。脚の赤色はケイマフリ同様、遊泳時にもよく目立つ。


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 背後からの見え方。後頚から背にかけてはケイマフリよりやや灰色がかり、画像では雨覆の2本の白線も確認できるが、遠くの海上に浮き沈みするのを望遠鏡で観察したり、絶えず揺れのある船上からこれらの特徴を見出すのはかなり難しい。


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 全長39~43cmとキンクロハジロと同大の中型ウミスズメ類であるが、波によって体の一部もしくは全体が隠れることも珍しくない。このような条件では近距離でも識別は厄介であり、そうした悪条件が重なって本種の記録を少なくしてきたと思われる。根室海峡を含む道東太平洋側で本種は珍鳥ではないが、もちろんケイマフリに比べるとはるかに少ない。漁港や岸近くから見る機会は少ないものの基本的には沿岸性と思われ、コウミスズメやエトロフウミスズメが卓越するような沖合で見たことはない。4月末から5月上旬までには概ね渡去するが、ユルリ、モユルリ島周辺や霧多布、襟裳岬では夏期にも1、2羽を見たことがある。


(2012年2月3日   千嶋 淳)


エトロフウミスズメ(その1) <em>Aethia cristatella </em>1

2012-01-30 15:59:06 | 海鳥写真・チドリ目
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All Photos by Chishima,J.
(以下すべて エトロフウミスズメ 2011年3月10日 北海道厚岸郡厚岸町)


 和名とは裏腹に、択捉島を含む南部千島では繁殖しておらず、中部以北の千島列島やサハリン、オホーツク海北部、ベーリング海等で繁殖する。江戸時代にはギンザンマシコの異名に「エトロフとり」というのがあり、具体的な地名というよりは「北方の」とかそれに類する意味か。江戸時代後期の1830年頃に堀田正敦によって編まれた「禽譜」には、「コロコロ」というアイヌ語名(意味不明)とともに「蝦夷チリポイ島(中部千島のチルポイ島)産」の本種が描かれている。道東へは冬鳥として11月後半より渡来するが、コウミスズメ同様冬の前半には少なく、2~3月に最多となる。また、その分布は流氷に大きな影響を受け、流氷勢力の強い年には多く、弱い年には少ない。沖合に多いため海岸や漁港で観察する機会は少ないが、流氷が接岸する直前には岸近くに群れが飛来することもあり、2003年3月14日には根室市納沙布岬で800羽以上を観察した。密集した群れを作り、時に数万羽の大群になる。雲のような群れは冬の釧路~東京航路の名物だった。

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 全長は25cmでウミスズメとほぼ同サイズ。全身黒色で下面はやや灰色みを帯びる。嘴は本属特有の厚く、特に下嘴に膨らみのあるもので春にはオレンジ色みが強くなる。北海道では繁殖しないが稀に6月頃まで見られることがあり、その時期には嘴は見違えるほど鮮やかなオレンジ色になっている。白い虹彩とその後方にある白線は、遠くからでもよく目立つ。一連の写真の鳥は目後方の白線が短く、3月中旬という時期の割に嘴の黒みが強いことから若鳥と思われる。ただし、額から前方へカールして伸びる冠羽は十分長く感じられる。


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 斜め後方から見ると本属の嘴はいくぶん細く見える傾向があり、これはコウミスズメやウミオウムにも当てはまる。尾羽をピンと立てた姿勢で泳ぐことが多いのもコウミスズメと共通した特徴。下面の淡色は特に腹の下部から下尾筒にかけて顕著になり、稀に下尾筒が殆ど白く見える個体もいるので、シラヒゲウミスズメとの識別は慎重に行なう必要があろう。本種やコウミスズメの脚は青みを帯びた灰色で、ハヤブサ等に捕食されてパーツだけ発見された際の同定に役立つことがある。冬期における本種の天敵はハヤブサ類や大型カモメ類と思われるが、キタオットセイや魚のマダラの胃から発見されたこともある。


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 右はクロガモのオスで、左で後ろを向いているのが本種。全長44~54cmのクロガモと比べるとおよそ半分のサイズ。良い条件で本種と見誤る種は、シラヒゲウミスズメやウミオウム等近縁種以外には無いと思われるが、距離や光線、時期によっては全身黒っぽく、下面が淡色な点がウトウ(12~2月は道東にはいない)と被って見えるかもしれない。そのような時は近くにクロガモのような「物差し種」を探すと大きさがわかり、識別にも大いに役立つことがある。


(2012年1月30日   千嶋 淳)