
All Photos by Chishima,J.
(エナガ(亜種シマエナガ)の幼鳥 2007年7月 北海道広尾郡大樹町)
凡そ半月間の暗鬱な天気を払拭するかのごとく晴れ渡って気温も上がった2日目、海岸部の湖沼巡りに繰り出した。最初の目的地である生花苗沼に着くと、海岸と湖面は濃霧のベールの中にあった。しかし、じきに晴れそうな気配だったので、湖岸の林道に入って待つことにした。比較的老齢なカシワやミズナラも混じる林では、日中にも関わらずアオバトやイカルの囀りが聞こえていたが、すっかり葉の生い茂った現状では姿を探すのは困難だろう。
そう判断して囀りはBGMとして楽しむことにすると、手近なギャップに生い茂る草本の中に飛び込んだ。案の定、バッタの類やカメムシの類等、様々な昆虫が姿を現す。学生時代、昆虫学の講義や実習があったのにそれらにろくに出ず、鳥やアザラシばかり見ていた自分が昆虫に興味を抱き始めたのはつい最近で、わからないことだらけだが、初心者の強みで出会うもの皆初めてということで、鳥の見づらいこの時期は野遊びの良き伴侶となってくれている。林縁の草上には思いのほかイトトンボの仲間が多い。水辺から数百m離れたこの場所にいるのは酷暑のせいか、それとももう繁殖という生活史上の一大イベントを終え、余命を全うしているのか。
トゲカメムシ
2007年7月 北海道広尾郡大樹町

ルリイトトンボ
2007年7月 北海道広尾郡大樹町

「チー、ジュルルル…」、エナガの声を耳が捕える。声は徐々に近くなり、間もなく数羽の影が樹幹を貫く数条の光の中で踊った。影は草原の縁にある潅木に移り、こちらへ近付いてくる。私はその場にじっと立ち尽くし、手だけ動かすと双眼鏡で影を追った。エナガははたして幼鳥たちであった。北海道産亜種のシマエナガは、真っ白い顔につぶらな瞳があるのが売りだが、幼鳥は本州産亜種のように黒い過眼線が目の後方を覆っている。本種は元来警戒心が薄く、近くに寄って来る性質があるが、目の前の恐れを知らぬ幼鳥達は持てる好奇心を存分に発揮してすぐ頭上の枝先を闊歩している。
エナガ(亜種シマエナガ)の幼鳥(その2)
2007年7月 北海道広尾郡大樹町

思わぬ展開を楽しんでいると、数羽のシジュウカラやセンダイムシクイまでも姿を現し、周囲は俄かに賑やかになった。どうやら繁殖の終わったカラ類の混群に、それ以外の鳥も参加している形のようだ。しばらくは喧騒に包まれていたが、ここに十分な餌の無いことを見極めたのか、10羽以上の鳥たちは波が引くように林の奥に姿を消し、先ほどまでと同じく真夏の太陽が容赦なく照りつける、静かな草原に戻るのに数分とかからなかった。木の葉越しに青々と水を湛えた湖面が見える。霧も晴れてきたようだ。
センダイムシクイ
2007年5月 北海道帯広市

霧晴れて(生花苗沼)
2007年7月 北海道広尾郡大樹町

(2007年7月25日 千嶋 淳)