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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

あどけなき

2007-07-26 16:51:54 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
エナガ(亜種シマエナガ)の幼鳥 2007年7月 北海道広尾郡大樹町)


 凡そ半月間の暗鬱な天気を払拭するかのごとく晴れ渡って気温も上がった2日目、海岸部の湖沼巡りに繰り出した。最初の目的地である生花苗沼に着くと、海岸と湖面は濃霧のベールの中にあった。しかし、じきに晴れそうな気配だったので、湖岸の林道に入って待つことにした。比較的老齢なカシワやミズナラも混じる林では、日中にも関わらずアオバトやイカルの囀りが聞こえていたが、すっかり葉の生い茂った現状では姿を探すのは困難だろう。
 そう判断して囀りはBGMとして楽しむことにすると、手近なギャップに生い茂る草本の中に飛び込んだ。案の定、バッタの類やカメムシの類等、様々な昆虫が姿を現す。学生時代、昆虫学の講義や実習があったのにそれらにろくに出ず、鳥やアザラシばかり見ていた自分が昆虫に興味を抱き始めたのはつい最近で、わからないことだらけだが、初心者の強みで出会うもの皆初めてということで、鳥の見づらいこの時期は野遊びの良き伴侶となってくれている。林縁の草上には思いのほかイトトンボの仲間が多い。水辺から数百m離れたこの場所にいるのは酷暑のせいか、それとももう繁殖という生活史上の一大イベントを終え、余命を全うしているのか。


トゲカメムシ
2007年7月 北海道広尾郡大樹町
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ルリイトトンボ
2007年7月 北海道広尾郡大樹町
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 「チー、ジュルルル…」、エナガの声を耳が捕える。声は徐々に近くなり、間もなく数羽の影が樹幹を貫く数条の光の中で踊った。影は草原の縁にある潅木に移り、こちらへ近付いてくる。私はその場にじっと立ち尽くし、手だけ動かすと双眼鏡で影を追った。エナガははたして幼鳥たちであった。北海道産亜種のシマエナガは、真っ白い顔につぶらな瞳があるのが売りだが、幼鳥は本州産亜種のように黒い過眼線が目の後方を覆っている。本種は元来警戒心が薄く、近くに寄って来る性質があるが、目の前の恐れを知らぬ幼鳥達は持てる好奇心を存分に発揮してすぐ頭上の枝先を闊歩している。


エナガ(亜種シマエナガ)の幼鳥(その2)
2007年7月 北海道広尾郡大樹町
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 思わぬ展開を楽しんでいると、数羽のシジュウカラやセンダイムシクイまでも姿を現し、周囲は俄かに賑やかになった。どうやら繁殖の終わったカラ類の混群に、それ以外の鳥も参加している形のようだ。しばらくは喧騒に包まれていたが、ここに十分な餌の無いことを見極めたのか、10羽以上の鳥たちは波が引くように林の奥に姿を消し、先ほどまでと同じく真夏の太陽が容赦なく照りつける、静かな草原に戻るのに数分とかからなかった。木の葉越しに青々と水を湛えた湖面が見える。霧も晴れてきたようだ。


センダイムシクイ
2007年5月 北海道帯広市
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霧晴れて(生花苗沼)
2007年7月 北海道広尾郡大樹町
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(2007年7月25日   千嶋 淳)


目つき悪ぅ…

2006-08-29 01:45:45 | 鳥・夏
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All photos by Chishima,J.
目つきの悪いキジバト 2006年8月 北海道中川郡豊頃町)


 一大畑作地帯の十勝平野は、これから本格的な収穫の秋を迎えるが、コムギ畑や牧草地など既に刈り取りの行なわれた農耕地も目立つようになってきた。十勝川下流域の湿地近くのそうした畑に特徴的な鳥がタンチョウであるのは、「晩夏の風景」で紹介した通りだが、各地の畑でもっとも普通の鳥は、何と言ってもキジバトであろう。山際から海岸近くまで、ちょっとした刈り取り済みの畑があれば数羽から多い時で数十羽のキジバトが採餌していて、何かの拍子に驚いて飛び立つと、道路脇の電線に鈴なりになることも珍しくない。
刈り取り後のコムギ畑に飛来したキジバト
2006年8月 北海道中川郡豊頃町

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 先日もそんなキジバトたちを観察・撮影した。収穫後間もないコムギ畑は落ち穂や草の種子など魅力的な餌に事欠かないのか、10羽ほどのハトはしきりに地面をつつきながら歩き回っていた。帰宅後、写真をチェックしていると数枚ばかり、ものすごく目つきの悪い表情で写っているものがあることに気が付いた。冒頭の写真はその内の1枚である。普段は丸くて優しげな赤目が、半月状に細めて吊り上げられ、睨みをきかせた凄まじい形相だ。おそらくは周囲を警戒したりする過程で目がいびつな形になったのをたまたま映しこんだもので、ハトの心理的状態等とは無関係なのだろうが、「平和の使者」とされるグループに属するこの鳥の、思いもかけない悪人面に笑いを禁じえなかった。
 キジバトは日本の多くの地域では留鳥で、季節外れの繁殖でも有名であるが、積雪や凍結により冬期に地表で餌を取ることが困難な北海道では、れっきとした夏鳥である。それもヒバリに次ぐ早春の使者である。3月末の麗らかな日中、陽光の眩しさに釣られて開け放った窓から聞こえてくる、周辺の人家の屋根から勢いよく滴り落ちる雪解け水の音と、どこかの木立かアンテナからの「デデーポーポー」の声に胸ときめかすのは、私だけではないはずだ。


雪解けの畑にて(キジバト)
2006年4月 北海道中川郡豊頃町
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 疎林等の樹上に皿型の巣を作って繁殖する。繁殖期には雄によるディスプレイフライトが頻繁に観察される。小刻みな羽ばたきとともに上昇し、尾羽と翼を開いて滑空するその飛び方は、一見ハイタカやツミなど小型の猛禽類のようで、ひやっとさせられることがある。繁殖が終わる頃から群れで農耕地に現れることが多くなるが、秋の深まりとともに数を減らしてゆき、11月頃までにはほぼ姿を消す。


キジバトのディスプレイフライト
2006年6月 北海道帯広市

羽ばたいて上昇
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翼と尾を開いて滑空
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 同じハトの仲間でもドバト(カワラバト)は一年を通して生息しているが、少なくとも十勝では畑や牧草地で見ることは少ないように思う。農村部では、酪農家の牛舎やサイロに住み着いている小群が多く、採餌もその周辺で行なっているようである。都市部では、本州以南と同じくビル街や公園に多い。ドバトは帰化種で野鳥扱いされていないため、鳥見人の中には記録を取らない人も多く、分布や生態に関する情報が集まりづらいのは残念なことといえる。


ドバトカワラバト
2006年3月 北海道帯広市
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給餌(ノビタキ
2006年8月 北海道中川郡豊頃町
収穫後のコムギ畑は植物質のみならず動物質の餌も豊富なようで、ノビタキやオオジュリンなど昆虫食の鳥もよく利用する。

口を開けて餌をねだる巣立ち雛のもとにオスが飛来
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そして給餌
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(2006年8月28日   千嶋 淳)


天空を駆ける鳥

2006-08-23 12:11:39 | 鳥・夏
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All photos by Chishima,J.
アマツバメの乱舞 2006年8月 北海道小樽市)


 雲一つ無い青空の一点から発される賑やかな高音を、夏の午後の停滞した大気が地上にいる私の耳元まで運ぶ。「ジュリィィィ…」。目を凝らすと蚊柱のような黒塊が、高空から徐々に高度を下げながら降下し、地上50メートルほどまで達した地点で、蜘蛛の子を散らしたように一気に散開した。数秒後、破片は何ら目印の無い、中空の一点に集群して再度黒塊を形成した。「ジュリィィィ…」。アマツバメの群れが離合集散を繰り返すのは、夏の海岸や高山ではごくありふれた鳥景である。

鳥柱(アマツバメ
2006年8月 北海道小樽市

高空から塊となって飛来。
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50羽弱が一気に散開した。
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 アマツバメ類は、鳥類の中でももっとも飛翔に適応したグループといえる。流線型に無駄のない体と鎌型の細長い翼から推察されるように、彼らはその生活史の大半を空中で飛びながら過ごす。採食や移動はもちろんのこと、交尾や果ては睡眠まで天空で行なっているらしい。和名から誤解を招きやすいが、イワツバメやツバメなどのツバメ類とは近縁な関係にない。むしろ遠縁で、ツバメ類が旧世界に住む多くの小鳥と同じくスズメ目に属するのに対し、アマツバメ類は、主に中南米に分布するハチドリ類とともにアマツバメ目に分類される。体型や習性の類似は、飛翔に適応したことによる収斂である。


ハリオアマツバメ
2006年6月 北海道河東郡音更町
上面は背の灰白色が目立つ。翼はアマツバメよりやや丸みを帯びる。
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イワツバメ
2006年5月 北海道中川郡池田町
近年では温泉街のホテルの軒先や橋などの人工物での営巣も多い。
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ツバメ
2006年4月 北海道中川郡豊頃町
全国的にはもっとも普通のツバメ科だが、北海道、特に道東では少数派。
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 北海道へは、ハリオアマツバメとアマツバメの2種が夏鳥として渡来する。アマツバメは海岸や高山の崖の隙間で繁殖するため、そうした環境の付近で見ることが多いが、主として樹洞で繁殖するハリオアマツバメは、神社や公園などでも樹洞のある大木があれば良いようで、十勝地方の平野部では目にする機会は圧倒的に多い。ただ、飛翔力のある鳥なので、両種とも意外な場所で観察されることも珍しくない。特に、悪天候の時には本来の生息地で餌が取りづらくなるのか、あるいは餌の昆虫が低空にいるためか市街地上空などに現れることが多いように感じる。


アマツバメ
2006年7月 北海道根室市
白い腰が目立つ。翼は細長く、先端は尖る。
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針尾(ハリオアマツバメ
2006年6月 北海道中川郡豊頃町
尾羽の羽軸が針状に突出することから、このような長い名前がある。
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 何年か前の夏の夕刻、山間のダム湖にいたら、2種のアマツバメが50羽ほどの群れをなして飲水と水浴にやって来た。こちらがじっとしていたせいか、すぐ脇を「シュッ」という軽快な羽音とともに飛び抜けていった直後、水面をかする「チャポッ」の音が聞こえることの連続は何とも豪快で、また普段は比較的高空を飛んでいるのを見ることの多い仲間だけに新鮮なものであった。


ハリオアマツバメの飛翔
2006年6月 北海道河東郡音更町
下面では、喉と下尾筒の白色が特徴。体色は黒色のアマツバメに対して褐色みを帯び、部位によっては緑色光沢をもつ。
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 秋には、大群を作って南へ移動する。もうずいぶん前のことになるが、今は釧路市と合併した音別町の海岸でそのような場面に遭遇した。10月上旬の午後、秋晴れの爽やかな空を、アマツバメが途切れなく、一見普段の離合集散のようだがはるかに大きな規模で、しかも離散した後は南の太平洋に出てゆく様は、筆舌に尽くせぬ感動的な時間であった。ハリオアマツバメも時に大群を形成するらしく、関東地方の低山帯では数千羽規模の渡りが観察されている。私はそこまで大きな群れに出会ったことはないが、タカ類の渡りを観察していると数羽から十数羽がタカと同じように上昇気流を巧みに利用しながら移動してゆくのは何度も見たことがある。


颯爽と、風を切って(ハリオアマツバメ
2006年6月 北海道河東郡音更町
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(2006年8月22日   千嶋 淳)


晩夏の風景

2006-08-22 00:58:42 | 鳥・夏
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All photos by Chishima,J.
刈り取り後のコムギ畑に現れた若いタンチョウ 2006年8月 北海道十勝川下流域)


 8月の北海道は、6・7月の悪天候が嘘のような暑さが続いており、しかも夜になっても蒸し暑い日が多いのが例年にない特徴であることは、「鴨の雛」の文頭で書いた通り。今夜もその限りで、団扇で自らを扇ぎ、奄美の黒糖焼酎のロックという、北国にはおおよそ似つかわしくない酒を煽りながらこの駄文を書いている。もっとも、この蒸し暑さは現在住んでいる家の構造にも問題があるようで、先日、やはり蒸す晩に用事があって外出したところ、いつの間にか空気はずいぶんと涼しさを帯びていることに驚かされた。知らぬ間に夏も終わりかけているらしい。
 そんな晩夏の風物詩は鳥の世界にもいくつかあるが、一つはシギやチドリの渡来だろう。7月中旬には早くも始まった秋の渡りは、8月に一度成鳥を中心としたピークを向かえ、干潟や海岸は多種の渉禽類で賑わう。そのような環境の少ない十勝では、彼らを満喫できないのが残念であるが、だからこそ開け放った窓から夜空を渡ってゆくイソシギやキアシシギの声を聞いた時、あるいは残暑の厳しい川原にタカブシギの姿を認めた時、その貴重な出会いに感動できるのはありがたい。


夏の満月
2006年8月 北海道帯広市
次の満月はもっと青色がかった、秋の月になっているはず。
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タカブシギ
2005年9月 北海道中川郡幕別町
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 秋の渡りが始まっているのは、何もシギ・チドリ類に限ったことではない。たとえばコムクドリ。繁殖の終わる6月末頃から形成される群れは、この時期まだ方々で見ることができるが、よく見ると成鳥の姿はほとんどない。一見メスのようだが、嘴の基部が淡色で、体下面に不明瞭な縦斑のある幼鳥ばかりである。おそらく、成鳥は幼鳥に先がけて南への移動を開始しているのだろう。ショウドウツバメなんかも少なくなってきた。両種とも、私の育った関東地方の平野部では繁殖していないが(コムクドリは稀に繁殖)、8月の上・中旬になるとどこからともなく姿を現したことを思い出す。


コムクドリ(幼鳥)
2006年8月 北海道中川郡豊頃町
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 十勝らしい晩夏の鳥風景といえば、コムギ畑のタンチョウだろうか。コムギは畑作王国十勝の重要な農産物であるが、7月後半に穂が黄金色に熟した後、8月上・中旬に刈り取りが行なわれる。刈り取り後のコムギ畑は地面が露出して餌が豊富なのか、また草丈が低く歩きやすいのか、タンチョウに好まれている。これらの多くは、夏の間見通しの悪い湿地や農耕地周辺の明渠で過ごしていた若鳥だが、雛が天敵から逃れるのに十分な走行力もしくは飛翔力を身に付けた親子もやはり出てくる。9~10月にデントコーンの収穫が終わると、今度はそちらの畑に足繁く出入りするようになるから、刈り取られたコムギ畑の色褪せた黄金色と周囲の林や草地の濃緑色、それにタンチョウの黒白の対比を味わうなら、この時期が良い。


収穫後のコムギ畑で採餌するタンチョウの親子
2006年8月 北海道十勝川下流域
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デントコーン畑
2006年8月 北海道中川郡豊頃町
初夏の曇天続きで生育は悪そうだが、遅れを取り戻せとばかりに陽光が照りつける。
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 海辺では、海霧の季節が終わりを告げ、一年で一番爽やか且つ穏やかな時期を迎えているはずだ。先月あたりまで原生花園を賑わせていた草原性鳥類は、時折思い出したようにシマセンニュウが囀る程度で寂しい限りだが、花はこれから初秋にかけて種数のピークを迎えようとしている。沖に目を転じれば、アジサシやクロトウゾクカモメが移動しているかもしれない。アキアジ(サケ)釣りの竿列が浜に林立する日も近い。


ある日の砂丘
2006年8月 北海道十勝郡浦幌町
花の終わりかけたセリ科植物の奥には、第2次大戦時のトーチカの跡。61回目の終戦の日を数日後に控えた暑い午後だった。
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ツリガネニンジン
2006年8月 北海道十勝郡浦幌町
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去り行く夏を惜しんで…花火大会
2006年8月 北海道帯広市

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色とりどりの華が美しく、されど儚く夜空を彩る。
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(2006年8月21日   千嶋 淳)


炎天下

2006-08-04 13:22:39 | 鳥・夏
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All photos by Chishima,J.
真夏の午後のハシブトガラス 以下すべて 2006年7月 北海道根室市)


 「アッ、アッ、アッ、アッ」。陸揚げされた磯舟の、舳先に止まったハシブトガラスが弱々しく鳴いた。海岸や離島の生態系において上位を占め、海鳥の卵や雛を捕食することも稀ではない、本種のイメージからはかけ離れた情けない姿である。すべてはこの暑さのせいだろう。7月末の午後二時、普段は沖を流れる寒流の影響で冷涼な気候の支配下にある道東の小さな漁港は、稀にみる灼熱の下に晒されていた。

舳先にて(ハシブトガラス
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 午前中は昆布の水揚げに、秋サケ定置網の設置に賑わっていた港は、人っ子一人なく森閑としている。通常であれば、午後になっても網の補修や漁船への燃料補給をする人の姿もあるのだが、暑さ、それも2日連続の暑さに参ってしまっているのであろう。操主のいない漁船だけが、油を流したように穏やかな海面に浮かぶ岸壁は、ゴーストタウンさながらの不気味な静けさを醸し出している。
 防波堤上のオオセグロカモメが時折静寂を破る。「クアーッ、クアッ、クアッ」。それでも、どこか本調子でないのか、すぐに黙りこくる。彼らの背後には、繁殖地である沖の無人島が見えているが、その姿は陽炎の中に揺れている。島影が霧で霞む、もしくは隠されるのは日常茶飯事であるが、陽炎のカーテンが現れるのは、年にせいぜい数日であろう。島では本種やウミウの雛が、産まれて初めて体験する高温に喘いでいるだろうか。それとも最近はびこって来たドブネズミの毒牙にかかってしまっただろうか…。

防波堤のオオセグロカモメ・成鳥(その1)
背後の島は陽炎の中だ。
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防波堤のオオセグロカモメ・成鳥(その2)
何を宣言しているのか…。
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 よく見ると、この時期漁港にいるカモメ類は若鳥が多い。繁殖に関係しない若鳥にとっては、繁殖地の無人島よりも、人間活動による廃棄物が盛んな漁港の方が魅力的なスポットということか。こいつらが親鳥になったら、やはり港に残飯漁りに来るのだろう。私は、かの無人島で親鳥の吐き出したカジカ科やタラ科といった魚類の痕跡を見たことがある。どちらも本来は底魚であり、潜水できないカモメ類が捕獲するのは不可能であり、漁港等の廃棄物由来と考えざるを得ない。

オオセグロカモメ(若鳥)
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 「ミャアミャアミャアミャア…アアアアア!」。静かだった港が突然の大音響にお包まれた。漁港に隣接したテトラポッドと砂浜で休んでいた、数千羽のウミネコが雲霞のように舞い上がったのだ。目を凝らせばオジロワシが1羽、島から陸の方に向かって力強く羽ばたいてゆく。島で獲物にありついて満腹なのか、オジロワシは乱舞するウミネコには目もくれず、一瞬のうちに姿を消した。

ウミネコの乱舞
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ウミネコ(成鳥)
日本広しといえど、針葉樹林を背後に本種が舞うのは、北海道の東部・北部くらいか。
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 徒労に終わったスクランブルの後で、漁港は再び静けさを取り戻し、気怠さのみが優占する空間と化した。巣立って間もないハクセキレイの幼鳥が1羽、岸壁で空を仰いでいたが、通り過ぎる虫には目もくれていない。街路はやはりしんとしている。ただ、入射の角度が和らいだ太陽からの熱気は、幾分の柔和を伴っているように感じた。そして、カモメやカラスたちの倦怠の一時をともに過ごしたことを確信した私は、この港を後にした。

ハクセキレイ(幼鳥)
左斜め上を餌である昆虫が飛んでいるが、それを追う余裕は無さそうな雰囲気。
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青空を背に(オオセグロカモメ・成鳥)
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(2006年8月4日   千嶋 淳)