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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

働き者

2008-07-16 16:18:23 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
コムクドリのオス 以下コムクドリはすべて 2008年7月 北海道帯広市)


 午後二時。北国らしからぬ暑さに包まれた市街地の小さな川では、昼頃まで囀っていたエゾセンニュウやノゴマもすっかり鳴りをひそめ、じっとこの酷暑に耐えているものとみえる。鳥や虫の姿を求めてほっつき歩いていた私もすっかり暑さにやられ、汗を拭おうと堤防の斜面に腰を下ろした。つい先頃巣立ったばかりらしいスズメの幼鳥が、時折付近のヤナギやオオイタドリの中から河原に向かって真直ぐに飛んで来て、水浴びや飲水を手早く済ませるとまた植生の中に戻って行く。
 「キュル、キュキュッ!」。倦怠に満ちた静寂を突き破って、一羽の鳥が弾丸のように飛んで来てヤナギの頂に止まった。白色の頭部に赤褐色の頬、それに翼のメタリックが美しいコムクドリのオスだ。口には数匹の昆虫‐ガガンボの類だろうか‐を銜えている。と、今までオオイタドリの葉の上にちょこなんと座していた、まだあどけない顔をした同じくコムクドリの幼鳥が大きな口を開けて、甘ったれた声で給餌をせびり始めた。オスはヤナギを離れてイタドリの裏側から姿を現し、雛の要求に応える。そして息をつく暇も無く、現れた時と同様、弾丸のような飛翔で姿を消した。


給餌(コムクドリ
餌を持って現れたオス(背後)に、幼鳥が大口を開けてそれをねだる。
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ガガンボの仲間(ホソガガンボ属の一種
2008年6月 北海道帯広市
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 数分後、今度は全身灰褐色のメスが、やはり口に虫を銜えて飛来した。今度の獲物は黒光りする堅そうな外骨格を持っていることから察すると、甲虫の一種のようである。それを慌ただしく雛の口に放り込むと、また虫探しの旅に出た。


餌くわえ2点(コムクドリ

メス。餌はガガンボ類?
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オス。こちらは甲虫類だろうか?
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コウチュウの仲間(ヒメコガネ・藍色型)
2007年7月 北海道帯広市
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 こちらも暑いものでしばらく腰を下ろして観察していたが、コムクドリの両親は2、3分に一回という高頻度で幼鳥に虫を運び続けていた。周辺に他の幼鳥は見当たらず、巣立ちまでこぎつけたのは1羽だけと思われた。3~7という本種のクラッチ(一腹卵数)を考えるとずいぶん少ない数である。この家族には一体どんな試練が降りかかったのだろうか。それを乗り越え、無事樹洞を出た一羽を慈しむかのように、2羽の親鳥はせっせと餌を運び続けている。
 観察を始めてから何回目の給餌だろう。雛への受け渡しを終えたメスが、珍しく背後のイタドリの茎に止まって一休みする素振りを見せた。さすがにこの炎天下で虫を探し、それを雛に運び続けるのは重労働なのだろう。だが、休息と見せかけたのも束の間、鋭く一声発すると川上へ飛び去った。この幼鳥が働き者の両親からの給餌を必要としなくなる頃には、盛夏の中に秋の気配が漂い始めることだろう。そう思うと昼下がりの淀んだ熱気に時々割り込む風が、不思議と涼しく感じられた。


束の間の一休み(コムクドリ・メス)
オオイタドリ群落のすぐ後ろ、堤防の上を車が走る。本州では山地の鳥だが、北海道では市街地近郊でも普通。
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コムクドリ・幼鳥
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(2008年7月16日   千嶋 淳)


舟を彫る神

2008-06-17 23:54:00 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
クマゲラのオス 2008年5月 北海道十勝地方北部)


 芽吹ききった広葉樹の新緑と針葉樹の濃い緑、それにどこまでも澄んだ五月の青空が織り成す爽やかさに惹かれてふらっと入った林道の、入口近くで1羽の黒い鳥が地表近くを飛んで樹幹から樹幹へ移動した。双眼鏡を当てると、全身が真っ黒で頭頂部だけが深紅の、見事なまでのクマゲラのオスだ。若干こちらを気にしていた彼も、気配を殺してじっと待っているとじきに警戒を解除したようで、「キョーン」と普段よりはやや弱めに鳴きながら、何本かの幹を経由してこちらに向かい始めた。
 そして幾度かの移動の後、まさかと思っていた眼前の幹に彼は降り立った。カメラのファインダー越しに黄白色の虹彩と目が合い、幹をつつく音どころか木片がはらりと舞い落ちる音まで聞こえそうな距離だ。緊張と至福が交錯した時間は長いようで、また短いようでもあったが、彼は「キョーン」と再度弱々しく鳴くと飛び立って、森の少し奥に姿を隠した。付近の梢では、渡って来て間もない1羽のサメビタキが、ぐぜりとも練習中の囀りとも取れる複雑な音声を奏でている。


木を穿つクマゲラのオス
2008年5月 北海道十勝地方北部
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クマゲラ(オス)の飛翔
2008年5月 北海道十勝地方北部
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 クマゲラは、アイヌ語ではチプタ・チカプ(舟を彫る鳥)とかチプタ・チカプ・カムイ(舟を彫る鳥神)と呼ばれる地域が多い。他のキツツキ類は木に丸い穴しか開けないが、本種は細長く丸木舟のように彫ることから、その名があるという。この鳥が木に穴を掘るのを見て、丸木舟を作ることを知ったという伝説の残る地方もある。また、クマの居所を教えてくれたり、道に迷った時に道案内をしてくれる神様だとの言い伝えもある。北海道の山野を主な舞台にしていたアイヌの日常生活においては、それだけ馴染みの深い鳥だったのであろう。


クマゲラと思われる採餌痕
2008年6月 北海道日高山系
特に中央やその下方の穴は、通常のキツツキ類のような円形ではなく、長方形である。
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ヒグマの爪痕
2008年6月 北海道日高山系
トドマツの幹に、比較的新しい爪痕が生々しく残っていた。このような物を見つけたら、クマゲラに教えられるまでもなく、自己の存在をアピールしながら、安全な場所に移動した方が良い。
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 先週の十勝地方は、多くの日で最高気温が25度を超え、一段と色濃くなった木々の緑と、青さを増した空に、午後になると現れる積乱雲は、さながら盛夏のようであった。今思えば、クマゲラとの思いがけない出会いに胸ときめかせたあの爽やかな昼こそ、この地方の短い初夏だったのかもしれない。


山中の湖
2008年6月 北海道日高山系
すっかり日の長くなった夕刻、オオルリやツツドリの歌を聴きながら眺める湖面に映える山並みの緑や空の青の濃さ。それらは季節が盛夏に向けて着実に加速しつつあることを物語っている。
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(2008年6月17日   千嶋 淳)


暑かった八月

2007-09-07 01:55:03 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
水浴中のカワラヒワ 2007年8月 北海道十勝郡浦幌町)


 この八月は本当に暑かった。日中野外に出れば汗が噴出し、夜は寝苦しさを少しでも紛らわそうと煽る焼酎のロックのために、毎日氷を買っていた気がする。どれだけ暑かったのだろうと思い、気象庁のホームページで調べてみた。その結果、帯広では最高気温30℃以上の真夏日が10日、最高気温25℃以上の夏日が17日もあった。月の9割が25℃以上で、そのまた3分の1は真夏日だったのだから、暑くない訳がない。当然冷房など無いので非常に過ごしにくかったが、今年12歳になる我が家の老犬は人間以上に辛そうだった。そういえば、野外で出会った鳥たちもこの暑さには閉口しているようだった。

 と書くともっともらしいが、暑い時、鳥は実際には口を閉ざすことなく、むしろ開いている。これは口を開くことによって口中から水分を蒸発させ、体温を下げるためで、汗をかかない鳥にとっては重要な体温調節の手法である。イヌがやはり暑い日に口を開いてハアハアしているのと同じことだ。


暑さに口を開くシマセンニュウ
2007年6月 北海道帯広市
スズメなどでは、北海道の個体は東京の個体よりも、より低い温度で口を開くらしい。暑さに弱いのだろうか?
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 小さな川が海に流れ込む、その浜辺に数百羽のウミネコとオオセグロカモメが屯していた。カモメたちの多くは浜で休息しているが、そのうちの一部は河口部分にやって来て、水面に飛び込んでは威勢よく水浴びをしている。


カモメ類群れる河口・海岸(ウミネコオオセグロカモメ
2007年8月 北海道十勝郡浦幌町
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 鳥類にとっての生命線ともいえる羽毛を清潔に保つための水浴は、真冬の最高気温が-10℃を切るような日にも決して欠かされることは無く、そうした日の水浴びは見ている方が寒くなるものだが、今日の炎天下での、豪快に水飛沫を上げながらの水浴は羨ましさすら覚える。おそらく、羽毛のメンテナンスに止まらず、体温調節の面でも重要な役割を果たしているのではないだろうか。
しばらく見ていると、河口部で水と戯れているのは一部個体のように見えても、実は入れ替わり立ち代り、多くの個体が訪れていることがわかる。(8月13日14時 帯広の最高気温33.9℃)


豪快な水浴び(ウミネコ
2007年8月 北海道十勝郡浦幌町
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 今日も暑くなりそうだ。午前8時前だというのに、アオサギの幼鳥が河原で翼を開いて日光浴をしている事実がそれを物語っている。あと2、3時間したら、暑すぎて日光浴どころではなくなるに違いない。


日光浴(アオサギ
2007年8月 北海道中川郡幕別町
アオサギのほか、カワウやトビ等がこの姿勢での日光浴(と思われる行動)を行うのを見たことがある。
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 川岸の崖にあるショウドウツバメのコロニーを、半月ぶりに訪れた。7月半ばから始まった巣立ちも、いまやかなりの巣で済んで集合住宅は空きが多いが、まだ子育て中の巣では雛が巣の縁に顔を出し、口を開けて喘いでいる。きっと土中の巣は外界以上の暑さなのだろう。


ショウドウツバメのコロニー
2007年6月 北海道十勝管内
崖の上部に開いた多数の穴が彼らのマイホーム。川岸のほか石切り場や土取り場にもコロニーを作ることがある。
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 一足先に巣立った幼鳥たちが、コロニーに面した河原に群れている。乾燥した砂や礫から成る河原とその周囲は、午前9時の今で既に30℃を超えているだろう。灼熱という言葉がこれほど似合う景色も無い。それが証拠に幼鳥たちは皆、大きな口を開けて暑さを凌ごうとしている。


灼熱の中で(ショウドウツバメ
2007年8月 北海道十勝管内
河原で休む一群の上を、別の群れが通り過ぎる。
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 この猛暑をやり過ごしたら、南への旅立ちも近い。その旅路は、幼鳥たちにはあまりに過酷なものとなるだろう。群馬にいた頃、田んぼの畔で1羽のショウドウツバメの幼鳥を拾ったことがある。まだ生きていたが、私が拾い上げても抵抗する力も無く、ものの10分ほどでこと切れた。外傷は無く、胸の竜骨突起が露骨にわかるくらいだったから、今にして思えば餓死だったのだろう。そんな過酷な旅を2回、無事に切り抜けてきたもののみが、来年ここで繁殖することになる。(8月22日 帯広の最高気温32.8℃)


ショウドウツバメの幼鳥
2007年8月 北海道十勝管内
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 9月に入って残暑がしばらく続くのかと思いきや、3日前は最高気温が15℃程度の肌寒い一日で、久しぶりに焼酎の飲み方をロックからお湯割りに変えた。かと思うと翌日は30℃に手が届きそうな猛暑で、シギの姿を求めて出かけた海岸をふらふらになりながら歩いていた。こんなことを繰り返しながら、徐々に秋が深まってゆくのだろう。今日、海岸からヒシクイ初飛来の報が届いた。


トウネンの小群
2007年9月 北海道十勝郡浦幌町
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(2007年9月6日   千嶋 淳)


渡去前の集結

2007-08-29 23:06:51 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
イワツバメ・左側の幼鳥は餌をねだっているのか? 2007年8月 以下すべて 北海道河西郡中札内村)


 イワツバメの集団繁殖地となっている、山間のダム湖を凡そ一月ぶりに訪れると、夥しい数のイワツバメで賑わっていた。3000羽を下らないであろうとことはわかるものの、正確な数はとても把握の仕様が無い。幼鳥が続々巣立つこの時期、数が増えるのは当然なのだが、これまでの繁殖期に見られていた成鳥数やカラスによる繁殖失敗の多さを考えると、このコロニーの幼鳥が全て巣立ったとしても、それを遥かに凌いでいる。範囲は不明だが、近隣のいくつもの繁殖地から集って来たと考えるのが妥当であろう。

巣から顔を覗かせる成鳥(イワツバメ
2007年7月
本種の巣は、ツバメの半椀型とは異なり、壷型をしている。
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 落差100mを超える巨大なコンクリートのダム堤体の溝や斜面にびっしりと群がり、何かの弾みに一斉に飛び立つその様は鳥類というより昆虫のそれに近く、「蠢く」という表現が相応しい。堤体に収まりきらなかった個体は、堤体上を走る道路のすぐ脇にあるコンクリ製の構造物や潅木にも止まっていて、こちらはすぐ間近に観察することができる。


堤体を埋め尽くす大群(イワツバメ
2007年8月
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 口角・口内が黄色の幼鳥が多い。その殆どは地面に座り、暑さに喘いでいる。何しろ残暑が厳しかったこの日は、山地の此処も気温は平地より穏やかだったとはいえ、強い日差しが容赦なく照り付けていた。もっとも、中にはこの日射を無駄にしまいと翼や尾羽を開いて日光浴に励む強者もいた。羽毛は鳥類にとってのライフライン。傷や寄生虫で痛んでしまうことは、空を主たる生活の場とし、長距離の渡りを行う本種にとっては命取りになるのだろう。それでも時と共に痛んでゆくことを、所々に混じっている成鳥の、磨滅しきって褐色になった翼が醸し出す疲弊した雰囲気が物語っている。


残暑に耐えるイワツバメ
2007年8月
左側の幼鳥は、暑さに耐えかねる感じで大口を開けていた。
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日光浴(イワツバメ
2007年8月 
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成鳥(イワツバメ
2007年8月
こちらも座り込んで暑さに喘ぐ。翼や尾羽は磨滅による褪色が顕著。
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 何を考えているのか、幼鳥にマウントを試みる成鳥がいた。少なくとも2回は見た。無論、幼鳥にはすぐ拒否されて失敗に終わるのであるが。もうじき渡去というこの時期に、それも未成熟の個体に対してこのような行動を示すのは何故だろう?繁殖に失敗したオスによる、一種の転位行動みたいなものか。


幼鳥にマウントしようとする成鳥(イワツバメ
2007年8月
この事例では失敗したが、直前には別の幼鳥に対し、完全にマウントしていた。
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 平和で長閑な時間は、長くは続かなかった。午後になると、おそらく繁殖期にもここでイワツバメの卵や雛を襲っていたという噂の、2羽のハシブトガラスが攻撃を掛け始めた。群れは撹乱されて散り散りになり、再び集まることを繰り返した。何度目かの突入の後、1羽のカラスの嘴には、イワツバメ幼鳥の変わり果てた姿があった。動きの鈍い巣立ち雛だったのか、あるいはまだ巣にいた雛だったのか。カラスは堤体上のフェンスに止まって、雛を脚に持ち変えると、慣れた感じで解体しながら一瞬で貪った。後でこの直前に、フェンスに嘴を擦り付けていたカラスの写真を拡大したところ、嘴にはイワツバメのものと思われる大量の羽毛が付着していたから、これが最初の襲撃ではなかったようだ。


イワツバメの幼鳥を捕食するハシブトガラス
2007年8月
写真ではわからないかもしれないが、どちらかの脚とその周辺を嘴にくわえている。
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 それでも、イワツバメたちはカラスの攻撃を交わしながら、9月末の渡去前までこの場所で休息しながら栄養を付け続けるだろう。和名の由来となった崖や岩場から、建物の壁や橋桁等の人工構造物にも生活の場を広げ、都市鳥にも名を連ねるようになった鳥である。そして、10数年前、美しかったであろう(生憎、当時を知らない)山中の渓谷を削って造られたこのダム湖でも逞しく生きてきた鳥である。


潅木で休息中(イワツバメ
2007年8月
枝に止まるというよりは、このように葉の上に乗っている感じ。また、暑さを避ける目的か、木陰になっている部分に多かった。
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(2007年8月29日   千嶋 淳)


晩夏・初秋の鳥暦

2007-08-21 16:41:07 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
チュウシャクシギ 2006年9月 東京都江戸川区)

(日本野鳥の会十勝支部報「十勝野鳥だより」160号より、一部加筆・修正して転載)

 八月に入ってからというもの、北海道とは思えない蒸し暑い日々が続いていますが、暦は既に立秋を過ぎ、季節は着実に移ろおうとしています。鳴禽類の囀りに山野が包まれる新緑の頃や、大型水鳥が大挙して飛来する春秋のような華やかさは無いかもしれませんが、この時期でも野外に赴けば鳥たちとの素敵な出会いが待っています。この季節ならではの、楽しみの一部を簡単に紹介したいと思います。

1.シギ・チドリ遊ぶ汀
 シベリア等極北での繁殖を終え、東南アジアやオーストラリアの越冬地への長旅の途中、シギやチドリの仲間が羽を休めます。十勝には、根室の風蓮湖や東京湾の干潟のような大規模な渡来地はありませんが、こまめに足を運んでいると意外と多くの種類との出会いがあるものです。彼らを多く見ることができるのは、海岸や海に近い湖沼・湿地ですが、内陸部でも川原やちょっとした湿地があれば、それなりに飛来します。また、そうした環境が身近に無くても、夜空を渡る風流な声を聞くこともあります。
 シギやチドリの仲間は種類も多く、最初は皆同じように見えて困惑するかもしれませんが、まずはコチドリ、イソシギ、トウネン、キアシシギといった普通種を見慣れ、それらを「物差し」として大きさや形等の特徴を比べることで、思いのほか見分けがつくようになるでしょう。もっとも、たとえ種類が分からなくても、日の短くなった夕刻の水辺にシギ・チドリの姿や声を求めて彷徨うのは、何とも言えぬ風情のあるものだと思いませんか?


トウネン(幼鳥)
2006年9月 北海道十勝郡浦幌町
小型種の中では最普通。本種を基準にして小型のシギを見てみると、意外と違う種類もいたりする。
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ミユビシギ
2007年5月 北海道中川郡豊頃町
一見、上のトウネンみたいに見えるが、大きくて嘴ががっしりしていること、また、普通種のハマシギとは嘴がまっすぐなこと等で識別できる。砂浜を群れで走っていることが多い。
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2.あどけない幼鳥たち
 つい先頃まであれほど賑やかに囀っていた小鳥たちも、この時期はすっかり目立たなくなってしまいます。葉が茂って鳥が見えづらくなったのにくわえて、換羽の時期を迎えて目立たない所でひっそりと暮らしているためです。ただ、種によっては巣立って間もない雛たちが野山を闊歩しているのを見ることができます。森林ではシジュウカラ等のカラ類やアカゲラ等のキツツキ類、原野ではノビタキ、人家周辺ではスズメやカラス類あたりが出会いやすいでしょうか。あどけない幼鳥たちの顔を眺めているだけでこちらまで穏やかな気分になれますが、幼鳥たちは好奇心旺盛なのか、しばしば目の前まで近寄って来ては至福の時間を提供してくれます。


ハシボソガラスの幼鳥
2006年6月 北海道網走郡大空町
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アカゲラの幼鳥
2007年8月 北海道根室市
頭頂部全体が赤いので、オオアカゲラと見誤ることがある。
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ビンズイの幼鳥
2007年7月 北海道帯広市
巣立ち後間もないようで、飛翔も弱々しかった。
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 また、湖沼や河川にはすっかり成長して親と近い大きさになったタンチョウの子どもや、カモ類やアカエリカイツブリの親子の姿もあることでしょう。海岸には、近くに大きな繁殖地が無いにも関わらず、オオセグロカモメやウミネコの幼鳥が、続々飛来してきます。


オオセグロカモメの幼鳥
2007年8月 北海道中川郡豊頃町
磨滅や換羽の進んだ第1回冬羽ではなく、新鮮な幼羽を見ることができるのは、近くに繁殖地がある場所の強みだ。
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ウミネコの幼鳥
2007年8月 北海道中川郡豊頃町
最高気温が25度を超えた昼下がり、口を大きく開けて喘いでいた。わざわざコンクリの上に座らなくても…。
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(幼鳥については、2005年7月の記事、 「幼鳥ラッシュ」にも何点かの写真があります。)

3.秋の渡りの走り
 8月半ば過ぎには早くもムシクイ類が南への移動を開始するそうです。8月末から9月頭にコガモやヒシクイの第一陣が渡来すると、いよいよ秋の渡り時期だなとの実感が沸きます。その頃から年によりますが、山地から平地へ移動するカケスの小群が目立つようになります。市街地の公園等身近な場所でエゾビタキやマミチャジナイに出会うことがあるのもこの時期です。日々ガンカモ類が数を増やす水辺では、シギ・チドリの渡りが続行中です。台風の前後、海が荒れた時にはおそらく普段は沖を移動中のアジサシやトウゾクカモメ類が海岸に姿を現すこともあります。また、小高い丘の頂上では、人知れずタカの仲間が高度を上げて南を目差しているかもしれません。とにかく秋の渡りはその落日の如く目まぐるしく、日替わりと言っても差し支え無いでしょう。野外へ足を運べば運んだだけの、素敵な出会いがあるはずです。


秋空を渡るハイタカ
2006年10月 北海道帯広市
北海道ではハチクマ(道東にはほとんどいないが)やノスリより遅く、10月半ば頃、大雪や日高の峰が白くなり始める時期に移動中の個体を見ることが多いようだ。
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(2007年8月9日   千嶋 淳)