
All Photos by Chishima,J.
(コムクドリのオス 以下コムクドリはすべて 2008年7月 北海道帯広市)
午後二時。北国らしからぬ暑さに包まれた市街地の小さな川では、昼頃まで囀っていたエゾセンニュウやノゴマもすっかり鳴りをひそめ、じっとこの酷暑に耐えているものとみえる。鳥や虫の姿を求めてほっつき歩いていた私もすっかり暑さにやられ、汗を拭おうと堤防の斜面に腰を下ろした。つい先頃巣立ったばかりらしいスズメの幼鳥が、時折付近のヤナギやオオイタドリの中から河原に向かって真直ぐに飛んで来て、水浴びや飲水を手早く済ませるとまた植生の中に戻って行く。
「キュル、キュキュッ!」。倦怠に満ちた静寂を突き破って、一羽の鳥が弾丸のように飛んで来てヤナギの頂に止まった。白色の頭部に赤褐色の頬、それに翼のメタリックが美しいコムクドリのオスだ。口には数匹の昆虫‐ガガンボの類だろうか‐を銜えている。と、今までオオイタドリの葉の上にちょこなんと座していた、まだあどけない顔をした同じくコムクドリの幼鳥が大きな口を開けて、甘ったれた声で給餌をせびり始めた。オスはヤナギを離れてイタドリの裏側から姿を現し、雛の要求に応える。そして息をつく暇も無く、現れた時と同様、弾丸のような飛翔で姿を消した。
給餌(コムクドリ)
餌を持って現れたオス(背後)に、幼鳥が大口を開けてそれをねだる。

ガガンボの仲間(ホソガガンボ属の一種)
2008年6月 北海道帯広市

数分後、今度は全身灰褐色のメスが、やはり口に虫を銜えて飛来した。今度の獲物は黒光りする堅そうな外骨格を持っていることから察すると、甲虫の一種のようである。それを慌ただしく雛の口に放り込むと、また虫探しの旅に出た。
餌くわえ2点(コムクドリ)
メス。餌はガガンボ類?

オス。こちらは甲虫類だろうか?

コウチュウの仲間(ヒメコガネ・藍色型)
2007年7月 北海道帯広市

こちらも暑いものでしばらく腰を下ろして観察していたが、コムクドリの両親は2、3分に一回という高頻度で幼鳥に虫を運び続けていた。周辺に他の幼鳥は見当たらず、巣立ちまでこぎつけたのは1羽だけと思われた。3~7という本種のクラッチ(一腹卵数)を考えるとずいぶん少ない数である。この家族には一体どんな試練が降りかかったのだろうか。それを乗り越え、無事樹洞を出た一羽を慈しむかのように、2羽の親鳥はせっせと餌を運び続けている。
観察を始めてから何回目の給餌だろう。雛への受け渡しを終えたメスが、珍しく背後のイタドリの茎に止まって一休みする素振りを見せた。さすがにこの炎天下で虫を探し、それを雛に運び続けるのは重労働なのだろう。だが、休息と見せかけたのも束の間、鋭く一声発すると川上へ飛び去った。この幼鳥が働き者の両親からの給餌を必要としなくなる頃には、盛夏の中に秋の気配が漂い始めることだろう。そう思うと昼下がりの淀んだ熱気に時々割り込む風が、不思議と涼しく感じられた。
束の間の一休み(コムクドリ・メス)
オオイタドリ群落のすぐ後ろ、堤防の上を車が走る。本州では山地の鳥だが、北海道では市街地近郊でも普通。

コムクドリ・幼鳥

(2008年7月16日 千嶋 淳)