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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

2010年6月十勝川下流域の鳥

2010-07-23 14:57:37 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
タンチョウの親子 以下すべて 2010年6月 北海道十勝地方)


日本野鳥の会十勝ブログ2010年7月15日より転載・加筆)

 6月の前半は曇りや霧のすっきりしない天気が続き、後半は一転して真夏のような暑さと快晴の日々で、最高気温が30℃を超えたことも一度ならずありました。
 6月になるとカモ科、シギ科、カモメ科など冬鳥、旅鳥を多く含むグループは、北海道より北の繁殖地に渡ってしまい、観察される種類数は前月までと比べて寂しくなります。それでも、ここで繁殖する鳥たちにとっては繁殖の最盛期に当たり、5月末から6月頭に到着した夏鳥の最終便であるセンニュウ類も加わった小鳥たちの、夜明けや夕方のコーラスは圧倒的な迫力を持っています。このコーラスも7月半ばには一段落し、引き続き囀り続けるシマセンニュウやコヨシキリ(写真下)などを除くとかなり静かなものになります。いち早く鳴き止んだオオジシギやエゾムシクイは、8月前半には早くも南への渡りを開始します。
 沼や川でタンチョウ(写真上)やカモ類、カイツブリ類などの愛らしい親子連れに出会えるのも、繁殖の時期ならではでしょう。ただ、ヒナを連れた親鳥は大変神経質なので、そっと観察したら長居することなく、その場を離れてあげるのが良いでしょう。
 7月下旬には早くも、キアシシギやトウネンなど戻りのシギ・チドリたちが秋の気配を引き連れてやって来ます。景色は夏の盛りそのものですが、繁殖を終えた鳥たちは種によっては換羽で飛翔力が低下することもあり、あまり姿を見せなくなります。鳥たちの中では、既に次の季節へのカウントダウンが始まっているのです。
 この6月に、主に野鳥の会十勝会員によって、周辺の海上や丘陵も含めた十勝川下流域で観察された鳥は、以下の81種でした。

アビ シロエリオオハム カイツブリ アカエリカイツブリ ウミウ ダイサギ アオサギ オシドリ マガモ カルガモ ヨシガモ ホシハジロ キンクロハジロ スズガモ クロガモ カワアイサ トビ オジロワシ チュウヒ チゴハヤブサ タンチョウ ミヤコドリ コチドリ キョウジョシギ アオアシシギ キアシシギ オオジシギ トウゾクカモメ科の一種 ユリカモメ オオセグロカモメ ウミネコ ウトウ ドバト(カワラバト) キジバト アオバト ツツドリ カッコウ アオバズク ハリオアマツバメ カワセミ アリスイ アカゲラ コゲラ ヒバリ ショウドウツバメ イワツバメ ツバメ ハクセキレイ ヒヨドリ モズ ノゴマ ノビタキ アカハラ ウグイス エゾセンニュウ シマセンニュウ マキノセンニュウ コヨシキリ エゾムシクイ センダイムシクイ キビタキ コサメビタキ エナガ ハシブトガラ ヒガラ ヤマガラ シジュウカラ ゴジュウカラ ホオアカ シマアオジ アオジ オオジュリン カワラヒワ ベニマシコ シメ ニュウナイスズメ スズメ コムクドリ ムクドリ ハシボソガラス ハシブトガラス


朝日を受けて囀るコヨシキリ
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(2010年7月15日   千嶋 淳)


異種間攻撃

2009-09-09 12:37:22 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
ハクセキレイを攻撃するイソヒヨドリの幼鳥 2009年8月 北海道中川郡豊頃町)


 余りにも脆くて頻繁に土砂が流失してしまうためか草も生えない海岸の砂崖に、1羽のイソヒヨドリが止まっていた。全身が褐色のメスみたいに見えるが、雨覆等各羽の先端は淡色なことから、今年生まれの幼鳥と思われる。付近で繁殖したのだろうか?道南や本州以南の海岸線では普通なこの鳥も、襟裳岬を回って道東に入るとぐっと少なくなる。それでも、渡りの時期に稀にしか記録されない釧路や根室の太平洋側とは異なり、十勝では少数が夏期に生息し、広尾町や浦幌町では繁殖も確認されている。

イソヒヨドリ(幼鳥)
2009年8月 北海道中川郡豊頃町
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 イソヒヨドリは崖を跳躍しながら、餌となる昆虫等の無脊椎動物を探しているようだ。時折嘴を地面に打ち付けているが、それが成功しているかどうかは、双眼鏡越しではよくわからない。観察していてふとハクセキレイが1羽、1~2mの微妙な距離を保ちながらイソヒヨドリに付きまとうかのように行動しているのに気が付いた。イソヒヨドリは気になるようで、しきりに微移動を繰り返すが、ハクセキレイはやはり付いて来る。何度目かの移動の後、すぐにまたやって来たハクセキレイに向かって、イソヒヨドリは身をかがめ、両翼と尾羽を開いて、威嚇・攻撃の姿勢を示した。大きく開かれた嘴の中では、口角の黄色と港内の赤色が鮮やかだ。ハクセキレイは独特の身軽さでひらりと飛び上がってこれを交わした。これでこの寸劇もお開きかと思われたが、ハクセキレイはやはりイソヒヨドリの後方を付いて歩き、じきにイソヒヨドリは飛び去ってしまい、そこで初めて終了となった。


近接するイソヒヨドリ(右)とハクセキレイ
2009年8月 北海道中川郡豊頃町
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 イソヒヨドリによる他種の鳥への攻撃的な行動は、ヒヨドリ、モズ、ホオジロ、スズメ等に対して知られており、ハクセキレイへの攻撃例もある。ただ、そうした敵対的な攻撃の多くは巣や縄張り、或いは餌場の付近等で成鳥が示すことが多い。今回の観察は幼鳥であり、また執着する必要の特に無い場所に思われる。人間の目にはしつこく付きまとうハクセキレイを嫌がってのように見えた。そもそもハクセキレイは何故付きまとったのだろう?イソヒヨドリが地面をつつくと多くの虫等が撹乱されて出て来る、幼鳥ゆえ餌の取り方が下手で虫は出て来るものの逃がすのでそれを掠め取るなど色々考えられるが、いずれも想像の域を出ない。


イソヒヨドリ(オス)
2009年1月 沖縄県沖縄市
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ハクセキレイ(オス夏羽)
2008年4月 北海道中川郡幕別町
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 崖とは反対側の海上に目を向けると、所々で間もなく始める秋サケ定置網の船が作業をしている。網や漁具の最終調整といったところだろうか。その更に沖、望遠鏡の視野の中に10頭強のカマイルカが、その名の通り鎌状の背びれを見せながら泳いでいるのを捕捉した。


カマイルカ
2008年7月 北海道目梨郡羅臼町
海中に飛び込んだ個体の左から、別の個体が浮上しかけている。道東海域では初夏から秋に多い。
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(2009年9月9日   千嶋 淳 ;観察は8月31日)


囀るメス

2009-08-13 15:04:56 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
ノビタキのメス 2008年5月 北海道十勝郡浦幌町)


 ムシクイ類やメジロの、渡りの走りと思われる行動を観察した海岸の高台では、ノビタキも賑やかだった。こちらは付近の草原で繁殖したようで、オスとメス、それに2羽の幼鳥が草から草へ駆け廻っている。幼鳥は巣立ち後日が浅いと見えて、親鳥から活発な給餌を受けている。日が高くなり灼熱が周囲を支配するようになると給餌も一段落したのか、親鳥も休息や羽づくろいなどリラックスした行動を示し始めた。
 ちょうどその頃、ノビタキの囀りを数回聞いた。春の渡来当初、高らかに縄張りを主張する歌に比べると聊か弱々しいが、「ヒーヒョロヒー」の澄んだ声は紛れもなくノビタキのものだ。ホオジロやコヨシキリなどは繁殖期を過ぎて初秋になっても囀ることがあり、初めは大して気にも留めていなかった。しかし、その歌がオスとはどうも別の方角から聞こえてくるらしいことに、じきに気が付いた。声の発信源近くを注目すると、メスが草本の中から突き出した枯木の枝上で羽づくろいしているだけである。双眼鏡を望遠鏡に切り替え、更に注視する。すると羽づくろいの合間に、確かに嘴を開ける短い瞬間があり、その時に例の弱々しい歌が聞こえてくることがわかった。どうやら、この歌はメスによって発せられたものと考えて良さそうだ。ルリビタキなどオス成鳥の羽衣を獲得するのに数年を要する種では、メスのような羽衣の若いオスもいるが、ノビタキではそのような話は聞いたことが無く、また幼鳥やオスとの関係からメス成鳥と思われる。


ノビタキ(オス夏羽)
2009年6月 北海道上川郡下川町
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ノビタキ(幼鳥)
2009年6月 北海道河西郡更別村
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 縄張りの確立や配偶者の獲得を主な目的とした囀りは、オスから発せられるのが通常であるが、一部の種ではメスも囀りを行い、オオルリはメスもよく囀ることで知られている。それ以外にもコルリ、コマドリ、イソヒヨドリ、マミジロ、サンコウチョウ、イカル、カヤクグリ、ミソサザイなど、また北米産鳥類ではアメリカコガラやショウジョウコウカンチョウなどでメスの囀りが記録されている。メスが囀ることの意義については、つがいの絆を深める、周囲のライバルのメスに対する威嚇などの説がある。また、外敵が縄張り内に侵入したり、巣に近付いた時にもメスが囀ることがあると言われており、今回のケースも、私とノビタキ一家との距離が比較的近かったため、警戒・威嚇の意味もあったかもしれない。


オオルリ(メス)
2005年5月 北海道十勝郡浦幌町
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コルリ(メス)
2009年6月 北海道広尾郡大樹町
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イソヒヨドリ(メス)
2007年1月 福岡県福岡市
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ノビタキ
2009年8月 北海道十勝郡浦幌町
秋の気配が漂い始めた原生花園で、1羽のノビタキに出会った。一見メスかと思ったが、喉まで黒いことなどから磨滅したオスかもしれない。
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追記:この後ゼニガタアザラシの調査で訪れた道東の草原でも、やはりメスのノビタキが一声ではあるが囀るのを観察した。

(2009年8月13日   千嶋 淳)


始まる

2009-08-07 00:42:46 | 鳥・夏
Photo
All Photos by Chishima,J.
センダイムシクイ 2009年6月 北海道河西郡更別村)


 海岸を一気にせり上がった高台から見下ろす湿原は、何処までも緑だ。振り返り仰ぎ見る海は先程までの乳白色のベールを脱ぎ、水平線まで青い海原が姿を現しつつある。爽やかな朝。六、七月の長雨の憂さを晴らすかのように、大地は盛夏を謳歌しているように思える。高台への上り口では50羽ほどのコムクドリに出会った。その大部分は嘴の基部の黄色い、今年生まれの幼鳥だった。成鳥は既に南への渡りを開始しているのだろう。そういえば関東に住んでいた頃、コムクドリはオオジシギと並んで七月下旬には姿を現す、最も気の早い通過者の一人だったっけ。

コムクドリ(幼鳥)
2009年8月 北海道十勝郡浦幌町
Photo_2


 「ヒーツーキー」、高台から陸側に続く林で、エゾムシクイの囀りが聞こえる。えっ!エゾムシクイがまだ囀っている!?エゾムシクイは囀り止むのが早い鳥の一種で、山地の針葉樹林帯でも七月中旬くらいには囀らなくなってしまう。七月の最終週、本来ならもっと早く実施する予定だったが長雨のため順延していた山岳地帯での鳥類調査の際も、地鳴きでしか記録できなくて泣かされたものだ。そのエゾムシクイが、複数箇所で囀っている。5羽前後はいるようだ。本来こんなにエゾムシクイのいる環境ではない。よくよく耳を澄ますと一応囀りではあるがどこか力弱く、縄張りの主張や配偶者獲得のための歌とは思えない。秋の暖かい日にコヨシキリやアオジがぐぜった感じで歌う、そんな俄かなテンションの高まりを感じさせる。そうか、これは繁殖のための歌ではないのだ。渡りで複数羽が集まり海へ飛び出す直前に、自らを奮い立たすための歌なのだ。気が付けばセンダイムシクイの囀りも、そこかしこから聞こえる。センダイムシクイはこの辺りでも多い鳥だが、普段の囀りとはやはり雰囲気が違う。海岸線から大洋へ飛び出すタイミングを窺っているのか。


エゾムシクイ
2006年5月 北海道帯広市
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 メジロもまたあちこちで鳴いている。近年分布を拡大して、十勝でも比較的普通の夏鳥になったとはいえ、そう多い場所ではない。しかも時折、数羽が林から飛び出して海岸線を南へ飛翔してゆく。メジロは十月中旬まで普通に見られるので、渡りの時期が遅い印象があったが、一部の個体はムシクイ類のように夏の盛りから渡りを開始しているのかもしれない。
 「ピュイピュイ」、海岸線からキアシシギの声が聞こえる。この、春の渡りは他のシギよりも遅いシギは、秋の渡りは対照的にどの種類にも先駆けて戻って来る。今年は7月25日、なかなか寝付けない夜を持て余していたところ、未明の二時半に自宅上空を通過してゆく声を聞いたのが秋の初認だった。霧が晴れて容赦無い真夏の太陽が照りつける湿原を改めて見下ろすと、緑一色に見えたそこの成分の三分の一ほどは褐色みを帯びて来ていることにハッとした。明日は立秋である。


メジロ
2007年5月 北海道河西郡芽室町
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キアシシギ(夏羽)
2008年5月 北海道中川郡豊頃町
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(2009年8月6日   千嶋 淳)


ホオジロの擬傷

2009-07-01 12:40:49 | 鳥・夏
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All Photos by Chishima,J.
ホオジロのメス 以下すべて 2009年6月 北海道)


 先日、猛禽類の調査であてがわれた定点に赴いた時のこと。山間の僅かな平地に造成された採草地に隣接した定点は、ノビタキやヒバリ、ホオアカなど草原性鳥類の豊富な場所だった。その中でスコープや三脚を展開し、調査を始めようとした矢先、雌雄2羽のホオジロが尋常でない騒ぎ方をしているのに気が付いた。
ホオジロ(オス)
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 最初は草本の上で警戒気味に鳴いているだけだったが、じきに2羽は私のいる未舗装道路の地上を駆け回り始めた。両翼を垂らし気味に、時に高く持ち上げて蛇行しながら走るその姿は、擬傷そのものであった。近くに巣があるのだろうか?程無くして付近の草の中に巣立って間もない、まだ尾羽も伸び切っていない2羽の幼鳥の姿を認めた。やはり擬傷だったのだ。私は車とともに30m余り後退し、定点を変更することにした。後退と同時に親子は合流し、翌日以降は親鳥が付近の叢中に出入りしていたから、影響は最小限に留められたものと思われる。


ホオジロの擬傷行動


翼を落として走るメス
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同じくオス
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威嚇気味のオス
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 擬傷は主に地上営巣性の鳥類が巣や幼い雛の近くに外敵が近付いた時に、親鳥が恰も自身が傷付いたかのように振る舞い、巣や雛から自身に関心を向けさせることによって、危機を回避しようとする行動である。コチドリ、シロチドリなどのチドリ科やイソシギ、オオジシギなどシギ科の鳥類で有名で、ほかにカモ科やエゾライチョウ(本種についてはこちらの記事も参照)、タンチョウなどでも知られている。スズメ目の鳥類では、サンショウクイ、マミジロタヒバリ、ヤブサメ、ノジコ、クロジなどで擬傷行動の報告があり、ホオジロに関しては少なくとも2件の日本語文献による記載がある。1例は抱卵期に巣の近くでメスが行ったものであり、もう1例は巣立ち間近の雛がいる巣でオスが演じたものである。今回のケースは後者の例に類似するが、雛が巣立っていた点、また雌雄両方が擬傷行動を示した点で異なっている。巣立ち直後で雛の飛翔力が弱く、遠くに誘導することが困難だったことが、親鳥の擬傷行動を誘発したと考えられる。


ホオジロの幼鳥
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 今回の事象は、本来あってはならないヒトと鳥の異常接近であり、それをウェブ上に出すのは如何なものかとも思ったが、ホオジロの擬傷行動は図鑑類にも記載が少ないので、写真と共に公開することにした。もしこのような事態に偶然遭遇したら、写真を撮るなとは言わないが(何しろ私自身も撮っている)、なるべく速やかにその場を離れ、繁殖への影響を最小限に抑えるようお願いしたい。また、巣や雛を見付けて故意にこうした状況を作り出すことだけは絶対しないよう、重ねてお願い申し上げたい。


ホオジロ(幼鳥)
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(2009年7月1日   千嶋 淳)