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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

遭遇

2008-01-09 19:26:32 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
コミミズク 以下すべて 2008年1月 北海道十勝管内)


 陽は少し前に沈んだが、残照が仄かな茜色の世界を作り出している。うっすら雪を纏った砂丘の奥には、細波の一つも無く凪いだ海。その海で昼間賑やかだったクロガモの「ヒー、ホー」もすっかり止み、周囲は穏やかさと静寂に包まれている。砂丘で朽ちかけている、いつかの木杭の上に佇むコミミズクが1羽。否、佇んでいるというのは人間の勝手な解釈で、実は全神経を集中させて餌のネズミが移動する音を探ろうとしているのが、頻繁に顔の向きを変えていることからも窺える。
 前方から別のコミミズクが飛んで来た。杭にいた個体の目付きが鋭くなり、「ギャァー」という警戒声が発されると、新参者はあっけなくUターンして去った。しばし後、同じ方向から今度は1頭のキタキツネがとぼとぼと歩いて来る。杭の上のコミミズクは、只でさえ大きく黄色い目を見開き、注目しているが、キツネはそれを知ってか知らずか、相変わらず低速で、ほの暗い砂丘を近付いて来る。コミミズクの背後を通り抜けた直後、強力な視線を感じてか、キツネはその歩を止めた。2つの肉食動物の眼差しが交差した瞬間は、おそらく数秒だったのだろうが、見ていた私にはとても長く感じられた。キツネが何事も無かったように歩き始めると、この空間を支配していた緊張は瓦解し、コミミズクも探餌を再開した。


出会いの一部始終(コミミズクキタキツネ

コミミズクは気にしているが、この時点ではキタキツネはまだ見ていない。
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4つの瞳がじっと見つめ合う、緊張の瞬間。
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キタキツネが歩き出し、緊張が解れた。
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 不思議な出会いから数分、ネズミの気配を察知したのか、あるいは飛翔しながらの探餌に切り替えるのか、コミミズクは杭から飛び立って、灰黒色の夜の帳が降りかけている原野に消えた。先刻のキツネも、今頃雪中のネズミに向かって跳躍しているのかもしれない。


飛び立ち(コミミズク
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(2008年1月9日   千嶋 淳)


小春日和の砂丘で

2007-12-10 22:58:43 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
ハイイロチュウヒのメスまたは幼鳥 以下すべて 2007年11月 北海道中川郡豊頃町)


 晩秋にしては珍しく、海からの風を暖かく感じられた午前だったが、一面の枯野色とその中に点在するハマナスの赤く、萎れた実は、柔和な日差しとあいまって夕方と錯覚させる役割を果たしていた。先週見られたチョウゲンボウやケアシノスリはこの一週間の冷え込みや降雪で南下したのか、姿を現さない。代わって今日はハイイロチュウヒがずいぶん多い。砂丘の一角からふわっと舞い上がっては地面を舐めるような低空を高速で飛翔するので、正確な数はわからないが、少なくとも3羽、おそらく5羽以上がいたものと思われる。これほどの数がいたにも関わらず、すべてメスもしくは幼鳥だったのは、この鳥のオス成鳥に出会うことの難しさを物語っている。

枯野の中の朱(ハマナスの実)
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チョウゲンボウの飛翔
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 それでも普段は単独、しかも短時間の出会いが多い本種の行動をじっくり観察できたのは収穫だった。以前から感じていたが、本種の狩りをする時の飛び方は、ふわふわした翼の拍動や低空の飛び方、ホバリング、獲物を見つけた時の急降下の仕方などはコミミズクに似たところがある。丸い顔の正面に付いた目も、タカ類というよりフクロウ類を髣髴とさせる。この顔盤の発達によって、両目でしっかりと獲物を捕らえ、獲物までの距離とスピードを正確に計算できるそうである。同じような環境、餌資源を利用することによる行動や形態の収斂といえそうである。


低空を探餌飛翔(ハイイロチュウヒのメスまたは幼鳥)
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顔盤の発達した顔(ハイイロチュウヒのメスまたは幼鳥)
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獲物を見つけて降下(ハイイロチュウヒのメスまたは幼鳥)
顔がセリ科植物の陰に隠れてしまっているが、低空から真下に「ストン」という感じで落ちるのもコミミズクに似ている
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 思い思いの場所を飛び回っていた2羽が、ふと出くわして、一瞬空中でぶつかり合うとそのまま旋回しながら上昇を始めた。前述のとおり、本種を見るのは大抵が低空であるため、珍しいこともあるものだと思って眺めていた。2羽は徐々に高度を上げながら水平方向にも移動し始め、海上に出るとなおも高度を稼ぎながら、そのまま沖の方向へ姿を消した。どうやら、これから南下すべく飛び出した瞬間に立ち会えたようだ。


2羽で旋回・上昇(ハイイロチュウヒのメスまたは幼鳥)
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 2羽が飛び去った海上とは反対の湖面に目をやると、いつ来たのか小型の漁船が一隻操業している。捕えているのはワカサギだろうか、それともスジエビだろうか。どちらも佃煮として付近の店で買うことができる。少々甘いが、良い酒の肴になる。漁船の周りには、おこぼれを期待してかカモメやユリカモメが乱舞している。こうした光景もそろそろ終盤だろう。遅くとも半月以内に沼は結氷するはずだから。


穏やかな湖面で(漁船とカモメ類
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 渡って行ったのとはまた別のハイイロチュウヒが、少し出てきた風を利用してホバリングしているのが見える。十勝地方ではハイイロチュウヒは冬鳥として9月末に渡来し、その後11月末くらいまで各地の湖沼や原野に多いが、その数は年によってかなり差がある。また、チュウヒが厳冬期にはほぼ姿を消してしまうのに対し、本種は冬を通じて見ることができる。春の渡りは秋ほど顕著でなく、4月半ば過ぎまで残っている個体もいるが、その頃から増えてくる夏鳥と入れ替わるようにひっそりと姿を消す。


ハイイロチュウヒ(メスまたは幼鳥)
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(2007年12月10日   千嶋 淳)


練習

2007-08-16 17:38:27 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
トビの幼鳥 2007年8月 北海道十勝川下流域)


 「チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、…」、雛の声が湖面を渡る。この小さな沼ではアカエリカイツブリが子育ての真っ最中。雛は先週の3羽から減っておらず、雛間の体格差も縮まってきたところを見ると、なかなか優秀な親鳥のようだ。2羽の親鳥のうち、1羽は雛に寄り添ってその挙動から目を離さないが、もう1羽は沼内を動き回って潜水を繰り返しては小魚を捕え、それを雛の下に運ぶのに大忙しである。絶えず動き回っている方は雄親だろうか、雌親だろうか、とにかく働き者である。


雛に給餌するアカエリカイツブリ
2007年8月 北海道十勝川下流域
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 先ほどから1羽のトビが周囲を飛んでいる。沼面を舐めるように低空で飛ぶ姿は、まるでチュウヒのようだ。体の各部の羽に白っぽい部分があり、黒褐色の体色と対比を成していることから、巣立って間もない幼鳥と思われる。トビはアカエリカイツブリの家族の上まで来ると反転し、高度を下げた。アカエリカイツブリたちには俄かに緊張が走り、雛たちは咄嗟に潜水した。これはどうしたことか?雛を襲うつもりなのか?トビは餌の大部分を生ゴミや死体に依存しており、時折魚を狩ることはあるが、元気な鳥を襲うことは滅多に無い。
 アカエリカイツブリたちに走った緊張とは裏腹に、トビは何事も起こさず飛び去り、変わらず沼面を舐めるように飛翔している。しばし後、別の地点で急降下して水面に掠めた脚に握られていたのは、水草だった。最初は、先日のミサゴのように(→「ミサゴの早とちり」を参照)水面に踊る水草を魚と勘違いしての行動かと思ったが、その後まったく同じ行動を何回か繰り返していたから、どうもそうではないらしい。とすると、これは独り立ちして間もない幼鳥の、狩りの練習なのかもしれない。たとえ死体であっても水面に浮かぶ魚等を、飛びながら捕えるのは簡単なことではないだろう。ましてや生体なら言わずもがなである。そのための練習なのではないだろうか。


水草を掴んだトビの幼鳥
2007年8月 北海道十勝川下流域
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 同じような「練習」風景をオジロワシの幼鳥で見たことがある。巣立って間もない頃でまだ親の給餌を受けていたが、親が餌探しに出かけている間、ダム湖の洲で待っている雛は、ウグイほどの大きさの棒切れを掴んでは離したり、それを持って羽ばたいたりといつか手にするであろう獲物の感触を味わうような行動を示していた。


オジロワシの幼鳥(前年以前の生まれ)
2007年4月 北海道中川郡豊頃町
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 小さな沼では、トビの飛翔が子どもの戯れに過ぎないことを察したのか、アカエリカイツブリの雛たちが賑やかに鳴き始め、親の1羽は育ち盛りの我が子らに魚を与えるべく活発な潜水を再開した。トビは練習に飽きたのか間もなく沼畔の枯れ木に羽を休め、代わってアオサギがやはり水面を舐めるように飛び過ぎて行った。


アオサギの飛翔
2007年8月 北海道十勝川下流域
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夏の風物詩・花火大会
2007年8月 北海道帯広市
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(2007年8月16日   千嶋 淳)


ミサゴの早とちり

2007-07-19 21:58:29 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
ミサゴ 2007年5月 北海道十勝管内)


 七月に入って十勝地方の平野部は、曇や雨のすっきりしない天候が続いている。そんな霧雨混じりの曇天の夕刻、海岸に近い湖沼の上空を1羽のミサゴが旋回していた。停空飛翔で水面を観察しながら魚影を探し、見切りをつけるとまた少し移動しては同じことを繰り返していたが、ある地点で魚の気配を感じ取ったのか体躯を斜め下方に傾けて翼をすぼめると、一気に落下した。

 ザッパーン!豪快な音と同時に水飛沫が高く舞い上がり、ミサゴの姿は水面下に没した。次の瞬間、頑強な足指に細長い獲物を握り締めたミサゴが力強く水面から飛び立った。なかなかの大物だ。ところが、数回の羽ばたきと共に高度を上げてゆく最中、その大事な獲物を落としてしまった。これはどうしたことだろう?車中に身を潜めていたとはいえ、観察していた私たちを警戒したのか?


急降下に転じたミサゴ
2007年7月 北海道十勝管内
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 しかし、その割にはすぐ近くでまた探餌を始めている。次のハンティングまでにはまだ時間がありそうだったので、デジタルカメラの液晶画面で先ほどの出来事を確認した。薄暗い夕方ゆえ殆んどが何だかわからないような代物だったが、かろうじて写っていた数枚の写真を見てすべてを理解した。ミサゴが掴んでいた細長い「獲物」は、魚ではなくただの棒切れだったのだ。
 風や潮の流れに揺られる水面に漂う棒切れは、上空からは恰もヤツメウナギか何かが泳いでいるように見えたのだろう。とんだ早とちりを犯したミサゴはその後しばらく探餌を続けていたが、結局何の収穫も無いまま迫る夕闇に追われるように山の方へ帰って行った。
 つい昨日、ダム湖から下流の河川を眺めていた私は、ダム湖の水が流れ出すあたりに黒く大きな影が蠢くのを認めた。「何だ、あの巨大な魚は?」と慌てて双眼鏡を向けると何のことは無い、一片の棒切れであった。図らずもミサゴが勇み足での狩りに失敗した数日後に、自分も同じ勘違いをする羽目になった。もっとも、高所の苦手な自分はミサゴと違って飛び込みはしなかったが。


「大物」(ミサゴ
2007年7月 北海道十勝管内
豪快なダイヴで水中から掴み取ったのは…棒切れ!
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(2007年7月19日   千嶋 淳)


夏の猛禽

2007-06-22 14:45:28 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
ホバリングして餌を探すチュウヒ 2007年6月 北海道十勝管内)


 十勝地方で記録のあるワシタカ類は約20種であるが、そのうち迷鳥や稀に渡来する種(アカアシチョウゲンボウ、シロハヤブサ等)や生息状況がよくわからない種(イヌワシ等)を除いた15種前後が定期的に観察される種類といえる。そのうち半分弱は数の増減こそあれ一年を通して見られる種(トビ、ノスリ、クマタカ、ハヤブサ等)であり、また半分弱は冬期により北方から渡来する種(オオワシ、ケアシノスリ、コチョウゲンボウ等)である。したがって、その両者がいる晩秋辺りは観察できる種類も多く、十勝川流域や海岸部を回ると、一日で10種以上の猛禽類に出会える日もある。

トビ
2006年5月 北海道中川郡豊頃町
尾羽のM字型の切れ込みが特徴だが、写真では尾羽を開いていてそう見えない。
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クマタカ(成鳥)
2007年5月 北海道十勝管内
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ケアシノスリ
2007年2月 北海道中川郡豊頃町
ノスリに似るがより白く、尾の先端には黒帯が出る。
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 それに対して、夏鳥として十勝に渡来するワシタカ類は思いのほか少なく、チュウヒとチゴハヤブサくらいのものである。ミサゴも夏鳥といえるが十勝での繁殖数は少なく、大部分が春秋に通過する旅鳥であり、また猛禽類のもう一つのグループであるフクロウ類にも夏鳥はいる(トラフズク、コノハズク等)が、ここではチュウヒとチゴハヤブサを「夏の猛禽」とした。
 チュウヒは毎年3月末か4月上旬に渡来する。この時期には通過個体が多いようで、各地で様々な個体が観察されるが、長居はしない。通過個体がいなくなる5月以降になると観察の機会はぐっと少なくなるが、湖沼や原野の周辺を、翼をやや上に持ち上げたV字の独特の格好で飛び回っているのに出会うことがある。道内では石狩川流域やサロベツ原野で繁殖が確認されており、十勝でも繁殖期に滞在していることから可能性があるが、まだ確認されていない。確認に至っていない理由の一つに、本種は湿原等の地上に営巣するため、目視による巣や雛の確認が困難なことがある。また、若鳥を中心に流浪している個体がいるようで、繁殖期の確認が即繁殖に結びつかないことも、繁殖確認を難しくしているだろう。


V字型の飛翔(チュウヒ
2007年6月 北海道十勝管内
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チュウヒ(メス?)
2007年6月 北海道十勝管内
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 先日、管内の某所で偶然チュウヒの雌雄による餌の受け渡しを目撃した。この行動は雌が抱卵や育雛で巣に就いている際に雄が餌を持ってくるもので、これが見られれば繁殖の可能性が高いということになる。その状況を、野帳に書きなぐったメモから起こしてみる。
「7時~:メス?は●●のいつもの止まり木で佇みながら、時折飛び立っては周囲を飛び回る。ホバリングや急降下も行うが、何かを捕えた気配は無い。単独の放浪個体なのか?
7時49分:××方向より別個体現れる。腰や翼上面に白っぽい部分多く、オスかもしれない。脚に何か獲物を持っている。「ピィー、ピィー」と高い声がしたかと思うと、ずっといたメス?が上昇してきた。声はどちらから発せられているかわからない。この後、自分のいた場所からは潅木に阻まれてほとんど見えなくなってしまったが、2羽はかなり近接し、その後オス?は餌を持たない状況で付近に止まっていたので、餌の受け渡しが行われたものと思われる。」 これだけでは繁殖確認とはいえないので、巣立ち雛を観察できればと思っている。


飛び回るチュウヒ・メス?
2007年6月 北海道十勝管内
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餌を持ってきたチュウヒ・オス?
2007年6月 北海道十勝管内
この後餌の受け渡しが行われたが、草木に遮られて撮影できなかった。獲物は、後日写真判定によりイソシギもしくはチドリ類の雛である可能性が高いと判明。
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 9月以降は渡りの個体も加わって、数が多くなる。この時期には幼鳥と考えられる個体が多い。11月頃まではだらだらと見られるが、厳冬期までにはほぼすべての個体が渡去する。冬期の道東では、この10数年の間にただ一度、正月の風蓮湖で観察したことがあるにすぎない。


チュウヒ・幼鳥?
2006年11月 北海道中川郡豊頃町
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 チゴハヤブサはチュウヒより遅く、5月10日前後に初認される。平野部に多く、農耕地内の防風林や孤立林は格好の営巣場所となっている。飛翔しながらのハンティングを得意とし、晩夏から初秋にかけては高空を旋回しながらトンボ類を捕える姿を見ることが多い。また、あるショウドウツバメのコロニーでは、巣立って飛び出した雛を次々と捕えていたという話を聞いたこともある。
 本種は比較的普通の種であるけれど、渡来してから6月くらいまでは何故かあまり目立たない印象がある。営巣地周辺の狭い範囲で行動しているのだろうか?。それとも、私がその時期出歩く環境がチゴハヤブサと被ってないだけなのか?7月になると原野や農耕地で見る機会が増えてくるように思われる。その後8月から9月にかけては巣立った幼鳥が親から給餌を受けながら行動しているのに出会うことが多い。幼鳥は餌を求めて「キーキーキー…」と高い声で頻繁に鳴くので、その存在が遠くからでもわかるからかもしれない。
 10月上旬、秋晴れが続きながらも朝晩の寒さが気になり始める頃、チゴハヤブサは続々と渡ってゆく。旋回しながら昆虫を捕えては食べていたので、通常の採餌と思って観察していたらどんどん高度を上げ、ある時点から滑空と羽ばたきをまじえて一路南方へ飛んで行ったことがあった。
 

チゴハヤブサ(成鳥)
2007年5月 北海道中川郡幕別町
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チゴハヤブサ(幼鳥)
2005年9月 北海道中川郡幕別町
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(2007年6月22日   千嶋 淳)