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鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイドを行っていた千嶋淳(2018年没)の記録

間一髪

2007-04-13 23:40:43 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
風力発電用風車の近くを旋回するオジロワシの幼鳥 2007年4月 北海道根室市)


 4月とはいえ、まだ冬枯れの根室半島。その中にひときわ高く聳える白いプロペラ。風力発電という目的を遂行すべく、海からの風を受けて高速で回転し続けている。と、その近くの中空の一点に、オジロワシの幼鳥が旋回しているのを見つけた。

 オジロワシは最初、風車より我々に近い側にいたが、徐々に風車に接近し、十分近付くと旋回・上昇を始めた。青空を切って回り続けるプロペラの、間を縫うようにワシは飛翔し、その影がプロペラに映るほどだ。何度目かの旋回の後、ワシは不自然な急上昇を行い、明らかに迫り来るプロペラをかわした。しかし、それで遠ざかることはなく、再び回転の間隙を穿つような飛翔を続けていると、さらに数羽のトビも飛来してその輪の中に加わった。


プロペラ近くを旋回(オジロワシトビ
2007年4月 北海道根室市
左下の2羽がトビ。上はオジロワシ
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 「エコでクリーンな」エネルギーとして、風力発電が一種の流行のようになっている。道内では2年前に既に200基を超えたそうで、海岸線を走っていて白くて巨大な風車を見かけないのが稀なほどである。その一方で、それらへの鳥の衝突(バードストライク)が問題になっていることは、知識としては知っていた、つい先日も、道内7例目とされるオジロワシの風車への衝突死が、新聞で報道されたばかりだ(ちなみに、この風車でも数年前にオジロワシが死んでいる)。
 それでも、この分野に関して不勉強だったこともあり、交通事故や窓ガラスへの衝突のように、そこを通りかかった鳥の一部がたまたまぶつかってしまう程度のものだと思っていた。しかし、今回の観察からは、猛禽類は「たまたま」風車の近くを通りかかるのではなく、むしろ積極的に誘引されているような印象を受けた。あれほど巨大なものが回転することによって、上昇気流みたいなものが発生し、それを利用しようとするのかもしれない。そこまででなくても、風力発電をしようというくらいだから、元来風の強い場所であり、猛禽類はその風目当てで集まってくるのかもしれない。
 世界的に二酸化炭素排出量の削減が求められ、原子力発電の様々な問題点が浮き彫りになる中で、風力のような非資源収奪式のエネルギー生産は大いに活路を見出されるべきであるが、そのやり方や場所を選定するに当たっては、野生生物の声なき声にも耳を傾ける必要があるだろう。


オジロワシ(成鳥)
2007年2月 北海道十勝郡浦幌町
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(2007年4月13日   千嶋 淳)


早春に多い若鷲

2007-04-03 15:13:39 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
針葉樹の頂で休むオオワシの幼鳥 2007年3月 北海道中川郡豊頃町)


 2月末の十勝川下流域にオオワシ・オジロワシが多数飛来したことは、「ワシ集結す」で紹介した。ワシはその後もしばらくは十勝川の周辺を中心に見られていたが、3月後半からは、氷の緩み始めた中小の河川や湖沼にも分散し始めた。氷に閉じ込められた魚の死体でもあるのか、あるいは解氷直後は水面に魚が集まるのか、開き始めたばかりの水域に多いようだ。たとえば、3月31日のある海跡湖は湖面の1~2割が開水域となっていたが、それを取り巻く氷上ではオジロワシ12羽、オオワシ15羽の計27羽ものワシが観察され、カモメやアイサ類など魚食性の水鳥も多かった。
カモメ(成鳥)
2007年3月 北海道中川郡豊頃町
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 少なくとも今シーズンの十勝川中・下流域では12月下旬~1月上旬と、2月末~3月の2回、ワシ類個体数のピークがあった。それだけだと、南下してきたワシが更に南へ行き、また戻ってきたような印象を受けるが、2つのピーク時でのワシの分布や構成はかなり異なっている。
 その一つは、どちらのピークでも下流域に一番多いのであるが、最初の時は中流域へもそれなりの数が飛来している点である。これは、「命を潤す屍」で取り上げたように晩秋の中流域では産卵のために遡上してきたサケが多数死亡し、それを求めてワシがやって来ると考えられるためである。12月後半からのピーク時にはサケの産卵はほぼ収束しているものの、寒さのため腐らないサケの死体がまだ豊富にあり、ワシの腹を満たしている、しかし、1月末くらいまでには流石の死体も食い尽くされてしまい、2回目のピークの頃には中流域の餌は乏しくなっているはずだ。このことは、魚食性の強いオオワシも最初のピーク時では中流域へも下流並みの数が飛来しているが2回目には減少するのに対し、水鳥なども食べるオジロワシは2回目時にもある程度の数が中流域にいる点からも窺える。


オオワシ・幼鳥
2007年3月 北海道十勝郡浦幌町
褐色混じりながら小雨覆の白が顕著である。3年目くらいか?
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 もう1点は齢構成の違いである。これは特にオオワシで顕著なのだが、最初のピーク時は成鳥が大部分で、幼鳥・亜成鳥は1/5~1/4程度と非常に少ない。ところが2回目では若鳥が半分~3/4以上と逆転する。オジロワシでは最初の時ももう少し若鳥が多いが、やはり2回目の方がその比率は高い。理由の一つに、繁殖との関与が挙げられる。オジロワシは、北海道では早いつがいで3月初めには抱卵に入る。オオワシは北海道では繁殖していないが、カムチャツカでは2月末~3月には繁殖行動が見られ始め、早いものでは4月上旬に抱卵を開始するという。したがって、2回目の時には成鳥のある割合はすでに繁殖に入っているものと考えられる。ただ、1回目の時には若鳥の数自体が少ないのだから、繁殖する成鳥の渡去によって若鳥の相対的な割合が増えたということではないようだ。これについてははっきりとわからないのだが、成鳥と幼鳥で渡りの時期やコースなどのパターンが異なるのかもしれない。先に書いたように1回目のピークでは中流域で死亡するサケがかなり重要な餌資源になるので、経験的にそれのあることを知っている成鳥が、いち早く十勝川に飛来するのかもしれない。


オジロワシ・成鳥
2007年3月 北海道中川郡池田町
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オオワシ・成鳥
2007年3月 北海道十勝郡浦幌町
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オジロワシ・幼鳥
2007年2月 北海道十勝郡浦幌町
嘴の黒色部も多い1、2年目。
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オオワシ・幼鳥
2007年3月 北海道中川郡幕別町
おそらく前年生まれ。オジロワシと比べて、後縁に膨らみのある翼とくさび形の尾に注意。
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 ところで、ワシの成鳥が精悍な顔つきをしていることに異議を挟む人は少ないだろうが、幼鳥は見ようによってはずいぶん可愛らしいというか、威厳の無い顔をしている。先日も仲間と鳥見に行った際、オジロワシの幼鳥を見て誰かが「アイツは自分が鷲であることに気付いてないんじゃないか」と言ったが、そう思われても仕方の無い顔をしている。


オジロワシ・幼鳥
2007年3月 北海道中川郡豊頃町
嘴や虹彩に黄色みが強いことから3年目以降か?
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 適度な解氷を求めて彷徨していた若鷲たちも、4月中ごろまでにまずオオワシが、次いでゴールデンウィークくらいまでにオジロワシが一部の越夏個体を残して渡去する。冬の名残の消えた十勝平野は、初夏に向けて一気に加速してゆく。


オオワシ・幼鳥
2007年3月 北海道中川郡豊頃町
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(2007年4月2日   千嶋 淳)


ワシ集結す

2007-03-09 19:17:03 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
幼鳥に蹴りを加えるオオワシの成鳥 以下すべて 2007年2月 北海道十勝川下流域)


 強くはないが中程度の北風が、氷塊とともに1羽のオオワシの成鳥を風下に押し流している。雄大な風景、流氷みたいだ。もっとも、ここはオホーツク海ではなくて十勝川なのだが。否待てよ、流氷も元を正せばアムール川の氷なのだから、規模こそ違えどこれも流氷と言えるかもしれない。別の1羽のオオワシが‐こちらは全身黒っぽい幼鳥である‐下流側から風に逆らって川を上ってきた。成鳥の休む氷塊に降りるつもりと見えて、その巨大な翼の後縁を飛行機のフラップよろしく下に向け、足を出して減速しながら氷塊に近接してゆく。
接近(オオワシ
画面右上から幼鳥が着陸態勢で進入、左の氷上にいる成鳥は様子を窺っている。
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 とその時、先刻までじっと様子を窺っていた成鳥の姿がひらりと宙に舞ったかと思うと、ほぼ着地しかけた幼鳥の体を、斜め上方から激しく一蹴した。一撃だけでは飽き足らず氷上で幼鳥に馬乗りになるような形で組み伏せ、少し後に離れた。幼鳥は咄嗟の出来事に微塵の反撃もできずにいたが、成鳥は無礼な若造に己の力を見せ付けて満足したのか、それ以上の争いには発展せず、続いて飛来した成鳥とともに3羽は氷上で風上を向いて無言で佇み始めた。束の間の緊張に包まれたこの大河の下流は、再び中程度の北風と、時折のホオジロガモのディスプレイの声‐「ギッ、ギイーッ」‐以外は再び静寂の支配する空間と化した。


取っ組み合い(オオワシ
順序的には上の写真から冒頭のものを経ている。絡み合っていて体勢が確認しづらいが、成鳥が幼鳥の上にいるようだ。
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ひと段落(オオワシ
幼鳥が体勢を立て直して羽ばたいている。
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氷上で休息(オオワシ
最右が幼鳥、ほかは成鳥。
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 2月末の一時期、いつもより早く開き始めた氷の状態が良かったのか、オホーツク海に流氷が少ないせいか、はたまたまったく別の要因か十勝川下流域にオオワシ・オジロワシが集中し、多い日には両種で50羽を超えることもあった。例年だと3月末か4月初めに十勝川や開きかけの湖沼でワシを多く見るが、それが今年は時期的に早く、湖沼がまだしっかりと凍っていたため十勝川に集まったのかもしれない。多い場所では一箇所で10羽以上が氷上や河畔林などに見られ、風がある時にはそれらが周辺を悠々と舞い、壮観であった。そうした飛翔個体を適当に写真に撮っておいて、後で拡大したら足に30cmはあろうかという大きな魚(ウグイ属?)が握られていたものもあったので、開水面からの餌資源へのアクセスも要因の一つかもしれない。


氷上に集う(オオワシオジロワシ
左からオオワシ幼鳥・オジロワシ幼鳥・オジロワシ成鳥・オオワシ成鳥と図鑑のように並んでいる。
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魚を掴んで飛翔(オオワシ・成鳥)
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 彼らの姿が見られるのは氷上や樹上など自然物に限らない。橋の上にある街路灯もお気に入りのスポットで、ある場所ではあまりに連日オオワシが止まっているものだから、地元紙のちょっとしたニュースになったくらいだ。おそらく、見通しが良いのでカモメやカラス、あるいはワシの集まっている場所(=魚や水鳥の死体など餌のある場所)を、人間の8倍とも言われる優れた視力でいち早く見つけることができるのだろう。


街路灯の上で1(オオワシ・成鳥)
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 ある風の強い日、街路灯に止まっているオジロワシの成鳥を撮影していた。様子を見ながらじわじわと距離を縮めてゆくと、向こうも気にし始めたが折からの強風で飛び立つのも億劫らしく、やおら尻を持ち上げると一条の白い糞を空中に放った。糞は上手いこと風に乗って私の眼前まで飛んで来て、鳥糞の尿酸臭が鼻を突いた。オジロワシから「これ以上寄るな」と糞攻撃を食らったような気がして、非礼を詫びながらその場を去った。


街路灯の上で2(オジロワシ・成鳥)
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脱糞!(オジロワシ・成鳥)
総排泄孔が赤く見え、そこからの白い糞がこちらに飛んで来る。
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(2007年3月8日   千嶋 淳)


白い狩人

2007-02-01 22:35:11 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
シロハヤブサ 以下すべて2007年1月 北海道十勝管内)


14時25分 北国の陽は既にかなり西に傾いた位置から原野に差し込んでいる。電柱の頂上に止まる1羽のハヤブサ類を発見。その大きさからハヤブサかと思い、双眼鏡を覗くと上面の一部が白黒の縞模様である以外全身白い。シロハヤブサだ!数年ぶりの出会いに胸躍るが、鳥の背後であることにくわえ逆光で、距離は近いのだがよく見えない。もどかしい。
14時29分 その場で方向転換を行うと鳥を警戒させるかもしれないので、「急がば回れ」の格言通り、大きく迂回して順光の位置に辿り着く。飛ばずにいてくれた。蝋膜や脚が青灰色であるところから幼鳥のようだが(成鳥は黄色)、かなり白い個体。体下面は若干の縦斑がある以外はほぼ真っ白。淡色型と考えて良いかもしれない。最初ハヤブサかと思っただけあって小さい。オスだろう。100メートル以内に停車して観察している私たちには目もくれず、周囲を見渡している。


電柱に止まるシロハヤブサ
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14時30分 羽を震わせて前傾姿勢。何か見つけたのか?

14時33分 電柱から飛び立つ。上昇するかと思いきや惰性に任せて下降し、地面すれすれの高度を飛翔。道路を横断して、○○川築堤方向へ飛び去る。


出撃(シロハヤブサ
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14時38分 500メートルあまり北西の雪原で再発見。地上に降りて周囲を警戒しており、予想通りその脚には獲物が掴まれている。同分中に食べ始める。獲物は小鳥であり、シロハヤの前後には飛び散った羽毛が数メートルの黒線を、雪上に描いている。


獲物を捕えた(シロハヤブサ
前後に羽毛が線状に飛散している。
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14時40分 内臓を引きずり出しながら食べ続けている。連れが望遠鏡で獲物はツグミであることを確認する。再発見の直前に数羽のツグミが付近を飛んでいたことを思い出す。


捕食(シロハヤブサ
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14時44分 猛禽類は通常翼や脚といった肉の少ない部分は残しがちだが、この個体は余程飢えていたのか、翼に続いて脚をきれいに平らげた。


脚も平らげる(シロハヤブサ
嘴の上に垂直に突き出しているのが、ツグミの脚。
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14時45分 完食。まずはツグミを握っていた左脚を震わせて、付着している羽毛を取り除く。次いで雪に嘴を擦り付けて清掃。更に雪を食べる(飲水であろう)。上体を起こした姿勢で、しばしまどろむ感じ。


脚震わせ(シロハヤブサ・本文参照)
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顔擦りつけ(同上)
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雪の摂食(同上)
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14時50分 地上から飛び立ち。すぐに近くの潅木に止まり。


飛翔(シロハヤブサ
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潅木への止まり(シロハヤブサ
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14時55分 潅木や電柱に、何度か場所を変えながら止まっていたが、××方向へ飛び去る。

15時20分 ××で再発見。トビと交戦しながら、そのまま林の影に見失い。既に夕陽は雲の中。薄暗くなってきた。

                  *

 以上が1月23日、十勝平野でのシロハヤブサとの出会いの一部始終である。余計な描写や修飾を試みるより、臨場感のある観察記を掲載した。
 シロハヤブサが獲物を探す方法には、大きく分けて①見晴らしの良い場所で獲物を待ち、発見したら低空を地形や木等を利用して隠れ飛んで行き、不意打ちをかける、②低空を流し飛翔しながら探す、③高空を飛翔して探すの3つがあるという。今回は典型的な①と思われる。興奮する我々など目にもくれなかったシロハヤブサは、原野の雪の解けた部分で採餌する、あるいは潅木で休息するツグミを見逃しはしなかったのだろう。そして、低空を飛び、道路脇の潅木等を利用して巧みに接近したのであろう。空中で獲物を捕えることが多いハヤブサに対して、本種は獲物を地上に蹴落としたり追い込んだりすることが多いそうだが、今回は捕獲の瞬間は見ることができなかったので、不明である。
 シロハヤブサはカモメ類等の海鳥やカモメ類、また外国ではライチョウ類等中型以上の鳥を捕えるイメージが強く、私もケイマフリを捕食しているのを観察したことがあるが、今回捕食されたのは比較的小型のツグミであった。体の小さなオスと考えられる個体で、また幼鳥であることが関係していたのかもしれない。
 シロハヤブサは北海道でも数の少ない冬鳥で、十勝地方では数年に一度記録されるが居着くことは少なく、大抵は一瞬で姿を消してしまう。そうした習性も手伝って、北海道で10年以上鳥を見ているが、出会いは数えるほどしかない。その鳥の狩りの前後に立ち会うことができたのは、まったくもって幸運だったというしかない。


食事中のシロハヤブサ
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(2007年2月1日   千嶋 淳)


至福の一時

2007-01-30 23:42:36 | 猛禽類
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All Photos by Chishima,J.
コミミズク 以下すべて 2007年1月 北海道十勝管内)


 フィールドに通っていると、たまに絶望的に巡り合わせの悪い日がある。こちらが何かを探し出そうとあがけばあがくほど何も出ない。先週のある日も、そんな1日かと途中まで思っていた。秋冬は波打ち際で採餌することもあるネズミイルカの姿を求めて、目を皿のようにして海面を見続けるも現れる気配は一向に無く、快晴の眩しい陽光に照らされた海を凝視した目は無駄に疲弊するのみ。
 これは駄目だと見切りをつけ、正月にケアシノスリを見た場所へ移動する。しかし、出てくるのはノスリばかり。風も無く穏やかで暖かいが、それが災いしてか港に海鳥の姿は少なく、僅かにいるのも距離が遠くて観察のモチベーションは上がらない。
 「ガソリン代の無駄遣いだったかな…」。昼過ぎにはテンションは下がりきって、既に帰りたくなっていたが、この付近ながら最近足の遠のいていた海岸のあったことを思い出し、最後に寄ってみることにした。途中、道路端に小鳥の姿を認め、一瞬胸ときめいたがベニマシコの雌であった。本来は夏鳥だが、少数は越冬している。今年は雪が少ないせいか、方々で姿を目にする。少ない積雪は夏鳥をして南に移動させる気を奪うようで、12月にはモズ、正月明けにはヒバリまで見た。真冬のヒバリは滅多に無いことで、珍鳥ではないかとあれこれ詮索したが、どう転んでもヒバリであった。
 そんなことを思い出しながら辿り着いた海岸もまた、鳥の影は薄かった。「もう帰ろう…」。そう決意した時、1キロほど先でカラス大の鳥が舞い上がるのが一瞬見えた。動きが猛禽類ぽいが、今日の不運を考えるとどうせ大したものではあるまい。とは言え、折角来ているのだしと自分を奮い立たせ、半信半疑のまま、海岸線の悪路に車を進めた。
 数分後、先ほどの場所から再び舞い上がった鳥は、久しぶりに見るコミミズクであった。一気にテンションは上がり、距離があるもののカメラを向けていたが、ふと何か「殺気」を感じた。ファインダーから目を離すと、目の前を別のコミミズクが飛んでいる!慌ててカメラを向け直し、追う。時折こちらを見ているような素振りはあるものの、あまり人を恐れる気配は無い。と、その背後からもう1羽、コミミズクが飛んで来るではないか!これはどうしたことだ?緊張と興奮に包まれた自分は錯乱してしまったのか?


海岸を飛ぶコミミズク
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突如目の前に現れたコミミズク
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2羽が隣り合って飛翔(コミミズク
手前の草原の上を飛んでいるもののほか、海を背景に飛んでいるのも本種。
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 事態を理解するのに少々時間を要したが、周辺の中でも風の影響か、とりわけ雪の少ないこの一角には5羽前後のコミミズクがおり、それらが代わる代わる狩りをしていたのである。その後の1時間弱は、私とコミミズクたちだけの至福の一時であり、あっちでふわふわ、こっちでふわふわ、視界の片隅には常にコミミズクという贅沢な時間であった。コミミズクは、独特のふわふわした飛び方で地上すれすれを舐めるように飛び回っては、獲物を見つけると素早く方向転換した後に急降下し、草の中に姿を消した。また、ホバリング(停空飛翔)も頻繁に観察された。もっとも、成功率は決して高いとは言えないようで、大抵は急降下の直後にその場を離れていたが、中にはしばらく出て来なかったり、ネズミ類をその太くて短い足に掴んで飛び立つ幸運かつ優秀な個体もいた。


地表近くを飛翔(コミミズク
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急降下(コミミズク
角度を付けて、一気に飛び込む。
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ホバリング(コミミズク
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成功者(コミミズク
影になってわかりづらいが、足にはネズミ類が握られている。
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 不運の一日は一転し、今までで一番濃厚なコミミズクとの出会いを堪能でき、フィールドに出れば必ず収穫のあることを、再認識させられた午後であった。翌日も同じ場所を訪れたが、風がやや強かったせいか、コミミズクの姿は無かった。どうやら、前日の無風快晴という狩りの飛翔にはもってこいの条件が、まだ陽の高い日中に何羽も飛び回る状況に繋がったようだ。付近で1羽を観察できたが、あまり飛び回らず杭等に止まって周囲を見回している時間が長かった。こちらも風の影響と思われる。


杭の上で(コミミズク
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 本州では、コミミズクは10月か11月に渡って来てそのまま越冬生活に入る印象が強いが、十勝地方ではその時期に見ることは少ない。12月から1月頃にかけて徐々に姿を現し、積雪の少ない原野等では今回のように複数羽が観察されることもある。その後積雪の状況に応じて移動するようだが、1ヶ所に長期滞在することは少ない気がする。
 帯広は週末から断続的な雪が続いている。所々地面が見えていたあの海岸も、いつもの冬どおりの雪原と化したはずだ。そして、コミミズクたちはより快適な越冬地を求めて、更に南を目指していることだろう。


砂丘上を飛翔(コミミズク
フクロウ類の中では昼間にも活動することの多い種類だが、ここまでの青空の下で見ると妙な新鮮みを覚えた。
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(2007年1月30日   千嶋 淳)