労使が共に賃金を上げましょうという、世界にも稀な労使交渉をしている今春闘です。その春闘が、3月中旬の集中回答に向けて始まったばかりですが、マスコミでは、連合の要求をかなり上回るような賃上げをする・している企業の例が続々と紹介されえています。
従業員の事を考えてくれる良い企業という事になるわけですが、それだけ収益が出ていたと考えると、この所の企業収益の高さと賃上げ率の低さが、経営者サイドにも解っていたという事にもなります。矢張りここで労使配分の是正が必要なのでしょう。
前回賃金の上げ過ぎかどうかは、国際収支の状況で判断出来ると書きましたが、そのアタリが今の日本ではどうなのかという点を今回は見ておきたいと思います。
財務省の「国際収支統計」で明らかですが、考え方は基本的には、家計も財政も国際収支も同じで、月々、年々の収支、つまり「経常収支」が「赤字に続き」になったら、要注意という事です。
経常収支の項目は、貿易収支、サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支です。貿易収支は「輸出-輸入」、サービス収支は特許、映画や興業などのロイヤルティーの収支、第一次所得収支は、海外進出企業の利子配当などの収支、第二次は海外援助などです。
下の図は、経常収支とその主要な構成要素の貿易収支と第一次所得収支を並べてみたものです。(サービス収支はいつも多少のマイナス、第二次所得収支はマイナスのみです)
経常収支、貿易収支、第一次所得収支の推移(単位:兆円)
資料:財務省「国際収支統計」
先ず、経常収支(青)を見て頂きますと、リーマンショック前の2007年から2022年までずっと黒字です。日本は万年黒字と言われる所以です。2012年~14年は黒字幅が小さくなっていますが、これは貿易収支の赤字が大きかったせいで、その後は年20兆円(GDPの4%程度)ほどで安定です。2022年の黒字が減ったのも貿易収支の赤字のせいで、23年もその傾向は続きそうです。
次に貿易収支(茶色)で、これは日本製品の国際競争力の強さを示しますが、殆どの年は黒字です。2012年~14年と2022~23年は赤字ですが、この2つの時期は原油価格の上昇と急激な円安が重なった時期です。昨年の貿易収支は先日発表になったばかりですが、今年には黒字転換かという解説もついていました。
こうした長期の推移から見れば、日本の貿易収支は黒字基調と言えるでしょう。
3番目の第一次所得収支(緑)は、ほぼ一貫して増加傾向で、この所の増加は急ピッチです。理由ははっきりしていて、アベノミクス以来円安になりましたが、円建ての収益の向上と異次元金融緩和で、資金が豊富になり、成長しない国内より海外投資を指向する企業が増え、海外投資の成功に円安も重なり海外からの利子配当の収入が拡大したことによります。
企業が国内投資より海外投資を進めた結果、国内の事業は伸びず、GDPも伸びず、その分第一次所得収支が増えたという事でしょう。
第一次所得収支は、海外で人件費を支払った後の利益の分配ですから、国内でまた人件費に配分する必要はない、という理解で賃上げの原資にはしないという考え方もあったようです。
利益が増えても賃金は上がらなかったという現実の背後には、そんな考え方もあったのかもしれません。(この考え方の適否は、また別に論じたいと思います)
いずれにしても、万年赤字のアメリカと反対に万年黒字の日本ですから、多少賃金コストが上がったからと言って、みんなが真面目に働けば、国際収支の天井にぶつかるような事は今の段階では心配なさそうです。