日鉄の強い買収意欲とUSスチール側の売却希望で、順調に事が運ぶかと思われていた最初の段階から、全米鉄鋼労組の反対への対応、USスチールという名前にこだわるトランプ大統領(当時は立候補者)の横車などいろいろな難問を解決、最終的に成功に持ち込んだ日鉄の頑張りに敬意を表したいと思います。
トランプさんの発想は単純で、2兆円を超える巨額の投資は咽喉から手が出るほど欲しいのですが、アメリカの発展のシンボルでもあった「USスチール」という名前が消えることは、「アメリカの栄光を再び」を掲げるトランプさんとしては絶対許せないというメンツへの拘り、選挙結果にも影響するという意識も含めて、何が何でも「金とメンツ」の両立だったのでしょう。
結局、「黄金株」という異様な名前の株式1株ですべて解決、まずは目出度し、目出度しというところでしょう。
そして、これからが、日鉄の力と技の見せ所ということになるのではないでしょうか。
ラストベルトでも機械は本当に錆びついているかどうかは別として新鋭機器ではないでしょう。全面的なやり直しは日鉄も十分読んでいる所でしょう。
気になるのは、雇用や賃金水準です。全米鉄鋼労組の賃金はずいぶん高いでしょうし、日鉄は、雇用の確保と賃金水準は約束に入れています。
しかし、アイ・フォーンをアメリカで作ったら値段は2倍といわれていますように賃金水準は高いでしょうし、トランプさんはボーナスも貰えるぞといっています。
かつて、日本の自動車メーカーがアメリカに進出したというコメディー「ガンホー」というアメリカ映画がありましたが、日本的経営を徹底的に茶化したものでした。
現実には、トヨタ自動車はGMと合弁で、労使関係最悪といわれたフリーモント工場を活用、NUMMIを設立、日本的経営を根付かせようと努力し、一時は高い評価を得ましたが、最終的には閉鎖、テスラに売却しています。
東芝は原発の先輩ウェスチングハウスを買収しましたが、結局、アメリカでのコストの増大に抗しきれず撤退しています。
三菱航空機もアメリカでMRJ、MSJといった高性能の中型旅客機の生産を試みましたが、型式取得が出来ず、解散しています。
USスチールの場合は、黄金株を持つトランプ大統領が認可しているので、かえってそれが企業存続の保証になるのかもしれませんが、すべてにコスト高のアメリカでの経営は大変と思われます。
しかし、これが成功すれば、日米関係の大事な紐帯となることも十分考えられます。
アメリカ国内にも競争相手のある難しい仕事ですが、何としてでも成功させなければならない大事な事業ではないでしょうか。日鉄の今後の手腕に期待するところ大です。