tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

円安の進行と「成長と分配の好循環」

2022年06月18日 14時22分23秒 | 経済
この表題の意味がピンと来るかどうかですが、あまりピンと来ないのが一般的な状況ではないかと感じています。

なぜこんな事を考えたのかと言いますと昨日、日銀の政策決定会合の後、黒田総裁が、「円安で利益が出るところは(賃金などへの)分配を考えてくれるといいのではないか」といった趣旨の発言を歩きながらされたように聞き取れたからです。

瞬間的なテレビの画面の中の発言ですから、正確性は保証できませんが、そう受け取った時、これが問題の本質だなといった感じを受けたので、今日はその点の深堀りです。

円レートが変わりますと、日本経済の中で損するところと得するところが出ます。黒田さんは就任以来一途に円安が日本経済の為と考えておられるようで、現状でも「まだその方が日本経済にとって良いはずだ」と考えての緩和継続でしょう。

黒田さん以前は、プラザ合意とリーマンショックで30年近く円高で苦しんできた日本経済ですから黒田さんの気持ちもよく解ります。

ところで、円高になりますと輸入部門は利益が出て、輸出部門は損が出ます。円安の場合は、輸出部門は利益が出て、輸入部門は損が出るので、丁度反対です。

国際経済関係が安定していれば、為替レートの変動はあってもそれほど大幅には動かず、円高、円安があっても年間平均すれば損得無しといったことで済むのかもしれませんが、現実は為替戦略などもあってそうではありません。

ですから、ずっと円高だとか、当面円安で行くとかいったことが起きます。そうすると日本経済の内部で、損する部門と得する部門という明暗が起きます。

現状、黒田さん(日銀)の判断は、金融緩和継続の方が、金融緩和をやめて円高になるより日本経済全体でいえばプラスという判断でしょう。国際投機筋に、急に何円も円高にされるより現状維持がいいという判断でしょう。(多分そうでしょうね)

黒田さんにしてみれば、そうやって、日本経済が活動しやすいように考えて努力しているのに、加えて、岸田総理は「成長と分配の好循環」と言っているのに、政府も企業も、何をやるべきかが解っていないという憤懣が、冒頭の発言になったのではないかと勝手な推測をしたわけです。

考えてみれば、日本経済全体ではプラスと日銀が判断した結果の円安で、日本の輸出部門は付加価値を得、輸入部門は付加価値を失ったことになります。円安の幅が大きければ、産業別の付加価値配分が大きく変わります。同時に、労使間の配分(労働分配率)も変わります。

円安で利益が増えても、それは従業員の貢献による生産性の向上ではないので、労働分配に回す必要はないという理論も有り得るでしょう。(せいぜいボーナス増額?)
(因みにこのブログでは、労使の分配は貢献度によるものではなく、将来の成長が最適、長期的には最速になるように分配すべきという立場です)

「円安差益は黒田さんお蔭だから日銀に収めたら」などと言う悪い冗談もあるようですが、産業別や労使間で生じた円安による付加価値配分の突然の歪みを日本経済の中で、いかに調整するかという事は、まずアカデミアが、そして国会が十分に「理論的に」検討すべき問題でしょう。

そして結論が出たら、国民に周知し、そのための適切な政策を取ることが必要です。

これは、「プラザ合意」「リーマンショック」による円高、「2発の黒田バズーカ」「今回の異次元緩和継続」による円安、といった問題に共通する理論的課題でしょう。

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