tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

悲観論を丁寧に説明しても誰も喜ばない

2023年10月31日 17時44分38秒 | 労働問題
前3回にわたって、「賃上げ圧力の低い社会では生活は良くならない」ことを説明してきたつもりです。

「矢っ張りそうですね」とご理解いただいた方もおられますが、お読みいただいた方も、書いた私自身も、少しも面白くないと思います。

それならどうすればいいのか考えますと、「こうすれば良いでしょう」との提案が、実現可能かどうか別にしても、付け足されるべきだと気付きました。

アメリカやヨーロッパの労働組合は、先ず自分たちの生活を考えて、目いっぱいの要求をします。労使関係は元々敵対的なのです。
経営側と交渉してお互いの徹底的に突っ張って、最後に妥協したところがベストの結論というのが労使交渉の哲学です。

人間中心でコンセンサス社会の日本では、企業は人間集団、我儘より皆の事を考えて一致したところがベストの結論なのです。
労使関係でも当然相手の事も考えます。これは素晴らしい事ですが、相手の方が上手だったり強かったりすると上手く行きません。

日本の高度成長期にはラッカープラン(労使で望ましい労働分配率を決めてそれに従って利益と人件費を配分する方式)なども流行り、利益と人件費は同じ率で伸びるようにする企業もありました。

しかし、不況になって利益は半分に減っても、人件費は半分には出来ないので、不況になると止める企業が多かったようで、今は見られないようです。

日本の労働組合は殆ど企業単位ですから、従業員にも会社が潰れたら元も子もないという意識があります。最後は経営側の意向で妥協といったことも多いでしょう。

連合にしても、日本経済を大事にしなければという気持ちは強いでしょう。ですから経済成長がゼロか僅かの時に大幅賃上げなどとは言いにくいでしょう。

この生真面目さが、かつては労使協調、低インフレで「ジャパンアズナンバーワン」を生みなしたが、残念ながら今は、経済の停滞を生んでいるのです。

この違いを生まれる原因は何でしょうか。
具体的に言えば、「定昇+実質経済成長率」という連合の賃上げ基準が、合理的な賃金決定基準ではないという国際経済環境に、今の日本はあるという事なのです。

今の日本は、恐らく来春闘で10%程度の賃上げをしてもビクともしないでしょう。
「とんでもない、そんな余力はない」といわれる経営者は多いと思います。従来の感覚を前提にすればそうでしょう。

しかし、もし「人件費上昇分は製品・サービス価格を上げて結構です」という産業界全体の雰囲気が出来ればそれは可能でしょう。
政府・日銀の言う「賃金上昇を伴うインフレ目標」では「サプライチェーンの賃上げによる賃金コストの「2%」は、賃金上昇の価格転嫁はその範囲でOKなのです。

2%というのはアメリカのFRBがゼロ金利にした時決めたもので、日本は日本の状況に応じて決めるべきなのです。そして、政・労・使が合意すればいいのです。

今、賃金は(家計調査によれば)殆ど上らず消費者物価の食料品、飲料、外食、宿泊費などは10%前後の上昇です。政府・日銀はそれを注視(放置)しているだけです。

その程度物価が上がってもインバウンドは増えるばかりです。しかもアジアの途上国からです。彼らの購買力は賃上げで上昇、日本の物価は円安で下がっているのです。
一方、日本人の購買力は、この所の円安で、国際的に見れば下がるばかりです。購買力と書きましたが、これは賃金と置き換えてもいいでしょう。

こうした状況の中で、日本の企業の支払う賃金水準の決定基準はどう「あるべきか」というのが、与えられている本当の問題なのです。(長くなるので次回にします)